Memories Off SS
「Present for・・・」
Witten by 雅輝
<6> Present for Ayaka
「めでたい日に何を話してるんだろうな、俺は・・・」
そう言った智也は、鞄をごそごそと漁りだす。
出てきた智也の手に握られていたのは、プレゼント用にラッピングされたネックレス。
澄空商店街で買った、あのネックレスだ。
「彩花・・・誕生日おめでとう」
そう。今日12月7日は、生きていれば彩花の17歳の誕生日だった。
ラッピングをほどいて取り出したネックレスは、天使の羽とハートをモチーフとしたモノで、ハートの中心には宝石が組み込まれている。
「去年、一昨年と来れなかったからな・・・ちょっと奮発したんだ。ありがたく受け取れよ」
智也はそう言って持っていたネックレスをそっと、墓石の前に飾った。
「そうか・・・今日って、私の誕生日だったんだ」
智也に会えると舞い上がっていて、すっかり失念していた。
「彼女にプレゼント、じゃなかったんだ・・・」
安堵すると同時に、そんな風に考えていた自分を恥ずかしく思う。
智也の横に立って、そのプレゼントをしげしげと眺める。
組み込まれている宝石が、淡い光を放っていた。
「智也・・・」
『こんな素敵なものをもらったのに・・・私は何もしてあげられないの?・・・』
お礼を言いたいのに・・・この声は智也には聞こえない・・・。
抱きしめたいのに・・・この腕は智也をすり抜けて、捉えることはできない・・・。
『このまま・・・智也に何も出来ないまま、天界に帰ってしまうの?』
この世界には・・・今日までしかいられない。
『そんなの・・・そんなの、絶対いや!』
彩花は何かに怯えるように、かぶりを振った。
プレゼントを置いた智也は真剣な顔をしていた。
「彩花・・・俺、お前に伝えなくちゃいけないことがあるんだ・・・」
いよいよこのときが来た。
彩花の誕生日だからということもあったが、今日ここに来た最大の理由はこの話をする為だった。
死後初めて訪れた墓参りで、こんな話をするのは彼女に残酷かも知れないが・・・これだけはどうしても彼女に・・・彩花だけには聞いてほしい事だった。
『ふう・・・』
一呼吸置く。
こんな話、本当は彩花にしたくない。
でも、しなければいつまで経っても前に進めないから。
こうすることで、本当の意味で“彩花の死”を乗り越えることができるのだと思うから・・・。
「俺・・・」
智也は意を決して話しだした。
「俺・・・今、気になる娘がいるんだ・・・。
いや、気になるっていうより、もう好きになってしまってるんだと思う。
彼女の傍にいると心が安らいで、幸せな気分になれるんだ。まるで彩花と一緒の時を過ごした、あの頃みたいに・・・。
でも俺は、今まで彼女に自分の気持ちを伝えることが出来なかった。
その行為は、彩花への裏切りのような気がしたから・・・。
なあ、彩花・・・俺は彼女に告白してもいいのかな?
自分でも馬鹿なことを言ってるのは分かっている。でもこれだけは、どうしてもお前に聞きたかったんだ・・・。
そうしないと・・・彩花の口から聞かないと・・・俺自身、納得して前に進めないから。
教えてくれ・・・彩花・・・」
最後の方は、こみ上げてくる涙で声が震えていた。
「私・・・ずっと智也のことを縛り続けていたんだ・・・」
智也の話を聞き終えた彩花の、最初の言葉はこれだった。
「智也は・・・ずっと私のことを想ってくれていたんだ・・・」
止まったはずの涙が溢れてくる。
智也を信じ切れなかった自分が恥ずかしくて・・・でもどうしようもないくらい嬉しくて・・・。
「・・・智也に・・・伝えなくちゃ・・・」
私の答えを・・・。
私の意志を・・・。
そして・・・私の願いを・・・。
智也は何をするでもなく、誰もいない墓地の中、私の答えを待っている。
『お願い・・・智也に・・・届いて!!』
彩花は祈りながら、力一杯叫んだ。
「智也ぁぁぁ!!!」
そして・・・奇跡は起こった。
「!!、彩花!?」
智也は立ち上がり、辺りを見渡した。
しかし、彩花どころか人影一つ見えない。
『空耳・・・?』
いや、確かに聞こえた。
幼い頃から聞いていたその声を・・・この三年間、聞きたくても聞けなかった愛しい人の声を・・・聞き違えるはずがない。
「彩花!!いるんだな!?返事をしてくれ、彩花!!!」
「智也!?私の声が聞こえるの!?」
智也が反応を示したことに驚いた彩花は聞き返した。
「ああ、聞こえる!でも姿が見えない・・・」
智也が悔しそうに漏らす。
どうやら声は聞こえても、姿は見えてないようだ。
「智也・・・。私はいつだって、智也の傍(ここ)にいるよ?」
そう言って、智也の体を後ろから包み込むように抱きしめた。
「彩花・・・」
とてつもなく優しい何かが、自分の体を包んでいる。
彩花は確かに・・・ここにいる。
「ああ、そうだな・・・。『ずっと一緒にいよう』って、約束したもんな」
智也はその心地よい暖かさに、身を委ねた。
「うん・・・だから智也はもう前に進んでいいんだよ?」
「彩花・・・聞いてたのか、さっきの話」
少し体をずらして、彩花と向かい合うように立つ。
「・・・確かに『ずっと一緒にいようね』とは言ったけど、“私”という存在に縛られてはいけないの・・・。私との事は“想い出”に変えて、智也は前に進んでいかなくてはいけないの・・・。今の彼女のこと、好きなんでしょ?」
「あ、ああ・・まあな」
智也が少し照れたように頬を掻く。
「その気持ちさえあれば大丈夫・・・。私も智也の好きな人なんて、ちょっと嫉妬しちゃうけど・・・智也が幸せに、なれるん、だったら・・・私・・・私・・・」
最後の方は嗚咽交じりの声になってしまった。
泣いちゃ、いけないのに・・・。
ここで泣いてしまったら、智也に余計な心配をかけてしまうだけなのに・・・。
でも・・・。
自分はまだ智也のことをどうしようも無く愛していて・・・。
その智也の為に何も出来ない自分が歯がゆくて・・・。
智也のことを幸せにできる人が、別にいるということが悔しくて・・・。
涙腺が壊れてしまったかのように、涙が次々と溢れてくる。
「彩花・・・」
彩花が泣いている。
姿が見えなくても、俺にはわかる。
だから・・・、
「彩花・・・」
目で捉えられない彩花を“心”で捉えて、力いっぱい抱きしめた。
「あっ・・・」
智也が私を抱きしめてくれている。
見えていないはずなのに・・・。
「ありがとう、彩花。俺・・・幸せになるから。彩花の分まで、幸せになってみせるから・・・。彩花に、前に進む勇気をもらったから・・・。だから・・・これからもずっと・・・見守っていてくれないか?」
智也は幸せになると言ってくれた・・・。
なら今度は、私が答える番。
「・・・当たり前じゃない。ずっと一緒だって約束したんだから!」
彩花は泣き顔を無理に歪ませて、笑ってみせた。
「・・・もうそろそろ、時間みたい・・・」
そう言った彩花の温もりが、どんどん消えていく。
「・・・そうか・・・」
二人の時間がもう長くないと悟った智也は、低くそう呟いた。
「今度・・・彼女をここに連れてくるよ。彩花には、紹介しておきたいから」
「うん・・・待ってる」
もう彩花の温もりはほとんど無くなっていた。
「今までありがとう、彩花・・・愛してる」
「私もよ・・・智也・・・」
その言葉を最後に、彩花の温もりは完全に無くなった。
「大丈夫・・・」
天界に帰っている途中、彩花は自分に言い聞かせるように呟いた。
「これさえあれば、私は大丈夫だから・・・」
そう言って胸元のソレを、強く握りしめた。
「行っちまったな・・・」
智也は星空を見上げてそう漏らした。
「元気でな・・・彩花」
そう言って踵を返した智也は、彩花の墓から自分が買ったネックレスが無くなっていることに気づかなかった・・・。
end
あとがき
どうも、管理人の雅輝です!
この度は私のSSを読んでいただき、誠にありがとうございます。
SSを書くのは初めてなんで、分かりにくい部分もあるかと思いますが・・・(汗)
結局智也が好きになったのは誰なのか?・・・それは皆様のご想像にお任せします。
実はこのSS、サイトを立ち上げる3週間ぐらい前から書き始めたもので、結局書きあがるのに丸々2週間程掛かってしまいました。
書くスピード遅いですねぇ〜。(更新大丈夫かな?)
これからも頑張って書いていこうと思いますので、どうかよろしくお願いします!
ご意見ご感想などがありましたら、掲示板かメールでお願いします。
雅輝