Memories Base Combination Production
Back Grounds Memories
<征side>
「中塚先輩?」
「え?」
「どうしたんですか、ぼんやりして。あっ、そのサンドイッチ、3番テーブルにお願いします」
「あ、ああ。悪い。すぐに行く」
どうやら知らず知らずの内に、考え込んでいたらしい。柊木さんに謝りつつ、気持ちを切り替えて体を動かす。
今はバイト中だ。考え事なら後でも出来る。
出来るが……その考え事の中心である人が客として居る。どうしても思考が、意識が、そちらに向いてしまうのは仕方の無いことだろう。
「…………」
チラッと、視線をそちらに向ける。
その視界に映ったのは、成長した「彼女」の横顔。今村さんと談笑する彼女の表情は、見ていて楽しいくらいにコロコロと変わる。
「(感情表現が豊かなところは、あの頃と変わっていないんだな……)」
あの頃、とはつまり8年前の記憶に他ならない。
「彼女」も、よく笑い、よく泣く子供だった。その面影と、今の彼女の横顔が、頭の中でゴチャゴチャになる。
「(……って、だから仕事中だって)」
「ふぅ……いらっしゃいませー!」
また思考が逸れていきそうになった自分自身を戒め、考えを振り払うように、入ってきたお客様に声を張り上げる。
とはいえ……このままにしておくわけにもいかないよな。
The 4th anniversary Special Project
presented by雅輝
第二話 再会 〜あの場所で〜
<真琴side>
それはもう、驚いたなんてものではなかった。
突然の再会。あまりにも驚きすぎて、数秒の間放心状態になってしまったほどだ。
「(征ちゃん……だよね?)」
席に案内されてからも、意識はついウェイターをしている「彼」に向いてしまう。
……間違いない。もちろん8年も経ったのだから、背も高くなっているし顔の作りも若干変化しているけど、私には分かる。幼少時代、ずっと一緒に遊んでいた、私には。
「―――真琴さん?」
「……へ? は、はい!」
対面に座った冴霞さんの呼び掛けに、思わず間抜けな声が出てしまった。しかし彼女はそんな私を笑うことなく。
「どうかしましたか? どこか、具合でも……」
「い、いえ! 大丈夫です!」
「……?」
冴霞さんが小首を傾げる。美人はそんな所作でも絵になるのだからずるい。
ともあれ、向こうは―――征ちゃんの方は、どうなのだろう?
何もアクションが無いだけに、不安になってしまう。先ほど出会い頭に再会したときは私の方が動揺してしまっていたので、彼の表情などを確認することは出来なかった。
「(私に気付いていないのかもしれない……)」
そんな考えが鎌首をもたげようとするのを、必死に心の中で否定する。私が彼に気付いたように、きっと向こうも私に気付いてくれていると、そう信じているから。
――――信じたいから。
「……彼が、気になりますか?」
「え?」
「ずっと、中塚さんのことを見ているようでしたから」
感付かれてしまったそれに、内心で冷や汗を一つ。冴霞さんの観察眼が鋭いのもあるのだろうけど、それ以上に私が分かり易すぎたのだろう。
「えっと、その……実は、幼馴染なんです」
「え、そうなんですか?」
「はい。とはいっても、こうして会ったのは8年振りなんですけどね」
「それは……素敵な偶然ですね」
素敵な偶然―――冴霞さんの言うように、彼女がこの店を紹介してくれなければ、私は店を見つけることすら出来なかっただろう。
そう思えば、彼女と偶々出会って、意気投合したのも運命的なのかもしれない。
「―――お待たせしました。カルボナーラとクラブサンドでございます」
「あ………」
私たちが注文した料理を運んできたのは、まさしく今しがた噂をしていた彼だった。
流石に、声だけでは分からなかった。変声期を終えた今となっては、彼の声はあの頃とは違いすぎる。
「クラブサンドのお客様」
「あっ、私です」
軽く手を上げた冴霞さんの前に、丁寧に料理が置かれる。
すると当然、残ったカルボナーラは私が注文したものになる。話しかけるなら、今しかない。
「―――こちら、カルボナーラになります」
「あっ、はい。……あの、征ちゃ―――」
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
「あ………」
―――挨拶もなし、かぁ。
もしかしてとは思ってはいたけれど。彼は私のことを忘れているのかもしれない。
8年も前の幼馴染。忘れていても無理はない。そう、自分自身に言い聞かす。
でも―――少し、泣いてしまいそうだ。
「真琴さん」
「――っ、は、はい」
「何となく気持ちは察しますが……落ち込むのは、その手紙を見てからでも遅くないと思いますよ?」
「……手紙?」
冴霞さんのその言葉に、料理へと視線を落とす。軽く湯気を立てているカルボナーラ。その大皿の下に、小さく折りたたまれた紙が挟み込んであった。
どうやら、注文を聞く際に用いるメモ用紙のようだ。私はそれを手に取り、おずおずと中身を確認する。
“今日の19時に、あの場所で待ってる。”
「あ……」
たった一文で、用件を簡潔に伝える手紙。なんとも、彼らしい。
と同時に、確信も持てた。やっぱり、彼は私のことを覚えてくれていた。そうでなければ、「あの場所」なんて言葉が出てくるわけないし、私に手紙を残すわけがない。
「中塚さんは、きっちりとしている人ですからね。仕事に、プライベートな話を持ち込みたくなかったんでしょう」
「え?」
「違いましたか?」
見抜かれてる。流石は最強の生徒会長様、とても鋭い。
そして、彼女の言うことは的を射ている。彼は昔から几帳面な性格をしていて、物事を冷静に見る人だった。その反面、私をからかっていた男子たちを一喝したこともあったりと、熱い部分もあったけど。
「そういえば、冴霞さんは征ちゃんとは知り合いだったんですか?」
「征ちゃん? ……あぁ、中塚さんのことですか。顔見知り程度ですよ、私はここの常連なので」
「あっ、そうですか……」
「……気になります?」
「へ!? い、いえそんなことはございません〜!」
何となく図星を指されて、言語能力まで怪しくなる。冴霞さんはそんな私を見て、またコロコロと笑った。
<征side>
―――18時42分。もうそろそろ秋の終わりも見えてきた季節柄、流石にこの時間帯は辺りも暗くなる。
俺は一度携帯を開いて時間を確認した後、星の瞬く夜空を見上げた。
「(あいつ、この場所覚えてるかな?)」
俺の実家と当時彼女が住んでいた家。そこから徒歩で10分ほど歩いた河川敷の一角に、俺が手紙に書いた「あの場所」はある。
結構覚えのある人も居るであろう、子供だけの秘密基地。少し奥まった場所にあり、人気も少ないこの場所は、偶然見つけた俺たちにとってまさに格好の立地条件だった。
それからは、俺たちが会うときはだいたいここで待ち合わせをした。家が近いのだから、一方が呼びに行けばいいだけの話なのだが、そうせずに「待ち合わせ」という行為をすることが、当時の俺たちにとっては「特別」であり、どこか誇らしげな気分にさせていたのだろう。
「(でも、我ながら難儀な性格をしてるよな……)」
内心で苦笑する。周りからすれば「堅い」のであろう俺の性格は、どうにも直りそうにない。
結局彼女―――千葉真琴とコンタクトを取れたのは、料理を運んだ一度きりだった。あの後すぐに、休憩に入っていた高平君が帰ってきて、その入れ替わりで俺が休憩に入ったからだ。
再びフロアに戻ってきた頃には、流石に彼女たちの姿は無かった。まあテーブルに俺が残した手紙は無くなっていたようだし、あいつに伝わっていないことはないだろう。
―――と、噂をすれば、だ。
「来たか……」
呟きながら、体を起こす。背を預けていたケヤキの大樹は、この秘密基地の目印だった。
草を踏みしめる―――いや、駆けてくる音に荒い息遣い。どうやら、相当急いで来たらしい。
そういう慌ただしいところは、やはり変わらないな―――そう思いながら、星空から視線を転じる。
「マコ……」
「征ちゃん……」
満月が照らす秘密基地。まだ幼かった二人の、思い出の場所で。
「……おかえり」
「っ―――うん! ただいま、征ちゃん!!」
――――俺たちは、実に8年振りとなる再会の言葉を交わした。
第三話へ続く
後書き
ふう、ようやく更新できました、合作第二話。あっ、どうも雅輝です。
まず平に謝罪を。お待たせして、申し訳ございませんでしたm(__)m
いやぁ、やっぱりオリジナルは難しいですね。忙しさもあり、筆が進まない進まない^^;
結局三カ月掛かってしまいましたし。うん、遅筆にも程があるぞ☆(←黙れ)
内容は、これまたベッタベタな王道になってしまいましたが。だがそれがいい!(ぇ
秘密基地かぁ。皆さんはどうでしょう?
ちなみに私は、友達の家のガレージに作ったことがあります。二日で撤去する羽目になりましたが(←当たり前だ)
それでは、また次のお話で会いましょう!