Memories Base 三周年記念寄贈作品

 

 

 陽ヶ崎高等学校・校舎二号棟、三階。第二資料室。

 誰もいない第二資料室で、今村冴霞は書類の整理を終えて一息ついていた。三年生は特別にステージイベントなどに参加する以外は、文化祭に積極的に

関わることはなく、基本的に自由に見て回るか、あるいは受験勉強に勤しむかのどちらかだ。それに本来ならば土、日は高校生は週休二日制により休み

である。文化祭に参加せずに家にいても、それはそれで受験生としては間違いではない。しかし今年は三年生のほぼ全員が文化祭に参加しており、昨年度に

続く改革として有志によっていくつかの展示が催され、また学校側も受験前の最後の息抜きとして承認している。

 そして冴霞にも役割があった。自分が作り上げた文化祭の体制が、二年目になっても乱れることなく維持できているか。そしてこれから先もこの方向で

執り仕切っていけるか。その行く末を見届けるという最後の責任が。

 だからこそ、龍也の頼みも引き受けた。九月の頭に行われた生徒総会で正式に生徒会長を辞し、副会長であった龍也を生徒会長に任命し、もうなにも

後腐れなく終わった中で、たった一つ残った気がかり。その開始の号令を告げ、そして最終日には幕を下ろすという役目まで委ねられている。

『僕がやるよりも、会長がやったほうが皆の気持ちも盛り上がりますから。これは僕の、生徒会長としての最初で最後のお願いです』

 龍也の言葉を思い出しながら、冴霞はまとめた書類の表題に視線を落とす。今年度の文化祭における予算、イベント内容、各委員会の設置、有事の際の

避難経路、教職員の意見、逐次の中間報告。どれもこれも、昨年度は自分が率先してやってきたものだ。

 龍也の手並みは見事だった。昨年度の実績から培った予算を余裕を持って分配し、また来年に繋げられるようにもしている。去年の自分もこんな感じ

だったなと思うと、懐かしさから自然と笑みがこぼれた。

「……なに一人で、ニヤニヤしてるんだ」

「きゃぁっ!?」

 唐突に背後から声を掛けられ、悲鳴にも近い驚きの声を上げる。振り向いて見ると、そこには少々息を切らせた新崎謙悟が立っていた。

「け、謙悟くん!? いつからここに?」

「今さっき、来たばっかり……走ってきたから、ちょっと、疲れた……」

 がたがたと冴霞の隣の椅子を引きずり出し、腰を下ろす。走ってきたというのはどうやら本当らしく、うっすらと汗をかいている。冴霞はスカートの

ポケットからハンカチを取り出し、額と首もとの汗を優しく拭き取った。

「走らなくても良かったのに……謙悟くんが来るまで、ちゃんと待ってるって言ったじゃないですか」

「待たせてる方の身にも、なってください……はぁ」

 疲労を吐き出すように大きな溜め息をつく謙悟。冴霞はハンカチを仕舞うと、自分用に買っておいた飲みかけの紅茶を差し出す。

「こんなものしかないですけど、どうぞ」

「ありがとう。……冴霞、そういえば昼飯って食べた?」

「まだ、食べてないです。それにお昼食べるなら、謙悟くんたちのレストランにしようと思ってましたから。それに」

 じっと謙悟を見つめる冴霞。その紺青色の瞳を見つめ返して、謙悟はそっと冴霞の頬に触れる。

「それに……?」

「……謙悟くんのウェイター姿を見られるのが、楽しみで仕方ないんですから」

 ふんわりと微笑みを浮かべられ、謙悟の心臓がどくんと大きく跳ねる。いつも以上に可愛らしく、そして綺麗な笑みは、言葉通りに自分の接客姿を楽しみ

にしているのだろう。だとすると謙悟の『ワガママ』も無理矢理に通すわけにはいかないか、とも謙悟には思えた。謙悟の『ワガママ』は冴霞を文化祭に

参加させることを目的としていたが、一般と同じく観客として楽しむこともまた参加している、と言えるのではないだろうか。

 その時、ガチャリとドアが開く音がした。謙悟はすかさず冴霞の頬から手を離し、冴霞もさっと居住まいを正す。

「今村センパイ!! 生徒会室に資料、届けてきました!! ……って、あれ? 新崎センパイもご一緒だったんですか?」

「まぁ、な」

 やって来たのは一年生の女子だった。活発な印象を与えるショートポニーに、健康的に日に焼けた肌。制服は少々着崩しているが、左腕に巻かれた

『文化祭実行委員会・生徒会出向委員』という腕章が彼女の役職を雄弁に物語っている。

「橘さん、ありがとうございます」

「えへへ〜。他に何か、お手伝いすることってありますか? 不肖、橘鈴音(すずね)。センパイの為ならなんでもしますよ〜!」

「いいえ、あとはもうありません。私はこれから新崎くんのクラスのお店に、お昼に行きますから。その後はあちこち見て回るつもりですし」

 ぽん、と謙悟の肩を叩く冴霞。何も知らない鈴音がいる前では、これ以上のスキンシップは難しいのだ。けれど鈴音さえ引き離せば、もう少しくらいは

謙悟と距離を詰めても大丈夫――――だったのだが。

「じゃあ、あたしもご一緒していいですか? お姉ちゃんの様子も見ておきたいし」

「えっ……ええ、いいですよ。新崎くんは大丈夫ですか?」

 さすがに予想だにしなかった鈴音の切り返しに、若干言葉に詰まりかけた冴霞だが、なんとか取り繕う。謙悟はそれを察しながらもそ知らぬふりを装って、

冴霞から渡された紅茶を一口飲む。

「こっちは大丈夫っすよ。しかしつくづく姉とは似てないな、橘妹は」

「お姉ちゃんはしっかりしすぎてガチガチなんですよぉ。その点あたしはじゆーほんぽーですから!」

 ぶいっとXサイン。姉が見たら叱りつけそうだな、などと考えながら。

 謙悟は生徒会の後輩であり、冴霞の中学時代には陸上部の後輩でもあった橘鈴音――――クラスメイトである橘美音の妹の後に続いて、席を立った。

 

 

High School Memorial 〜Autumn School Festival

 

STAGE-B

 

 

 陽ヶ崎高校・校門前。

「まったく……久し振りに会ったかと思えば、文化祭に連れて行けとは……」

「いーじゃんいーじゃん、久し振りに会った親友の頼みくらい聞きなさいよ、彩乃」

 来栖彩乃は親友・間宮巴の物言いに溜め息をつきながら彼女を見上げた。冴霞と同じく幼稚園の頃からの親友であり、また高校に入ってからは別々に

なってしまった彼女は、今は私服だ。少々短めのスカートに、長袖の上からニットのカーディガンを羽織っている。靴はヒールの浅いショートブーツ。

制服姿の彩乃と比べれば、比較相手である彩乃の外見も相俟って随分大人びて見える。

「それで、われらがお姫様は今どこに? この学校では随分人気者らしいじゃない、冴霞ってば」

「まぁな。少なくともこの学校の歴史に名を残したのは確かだ。今頃どこかの馬鹿と一緒にあちこち見て回ってるんじゃないのか?」

「例の彼氏? 冴霞から写メ送ってもらったけど、いい男じゃない。ほら」

 携帯を操作し、冴霞から送られて来た謙悟の写真を表示する。冴霞のペットである猫のシルビアを抱っこしての微妙な笑顔だが、無愛想にしているよりは

愛嬌もあるし、なにより見ていて飽きない。だが彩乃はふいっと視線を逸らしてそっぽを向いた。巴はそんな彩乃を見て、やれやれといった感じで溜め息を

つき、携帯を仕舞ってから彩乃の方におぶさった。

「あーやーのっ」

「うわっ!? な、なんだ、トモ……驚かせるなっ」

 振り払おうと肩を揺するも、巴はそのまま両手をつないで、後ろから彩乃を抱っこする形に変化する。単純な腕力や運動能力で言えば彩乃のほうが

はるかに優位ではあるが、巴は彩乃が無理矢理には自分を引き剥がさないことを知っていた。

「彩乃……あんたが冴霞のこと好きだってのは知ってたよ。でも冴霞が好きなら、冴霞の幸せを応援してあげなきゃ。冴霞はあたしのせいで病気に

なっちゃったけど……だからこそあたし、久し振りに会って、冴霞があんな顔で笑うのを見られて、嬉しかった。新崎謙悟くんがどんな男かは知らないけど

さ、少なくとも冴霞をあんな風に笑わせるってことは、悪い男じゃないんでしょ?」

「分かってる。あたしだって、新崎のことはちゃんと認めてる。ただ、その……あたしの方の気持ちの整理が、追いついてないんだ」

 ゆったりと歩きながら、しかしそのままの体勢で進む巴と彩乃。

「あたしは、冴霞のことをずっと守ってるつもりだった。だけど冴霞にしてみればそれは押し付けだったんじゃないかって、最近思うようになった。

あたしが冴霞にしてきたことは間違いで、冴霞のことを一番理解していたっていうのも、あたしの一方的な勘違いだったんじゃないかって……それを

新崎に思い知らされてからは、新崎のことを認めてる自分と、心のどこかでそれを否定したい自分がいるんだ……」

 今まで築き上げてきた自己の意思を根底から覆された。普通ならそれで二度と立ち上がれなくなるのだが、なまじ彩乃の心が強かったばかりに葛藤が

起こっているのだろう。巴は彩乃を抱っこしている腕を少し狭め、拘束を強めた。

「彩乃、一つ言っていい?」

「……なんだ?」

バッカみたいよ、今のあんた

「んなっ……!?」

 耳元での罵倒、しかも大声での罵り。彩乃は耳を押さえ、キッと巴を睨みつける。

「巴、なにを――――!!」

「バカもバカバカ、大バカよ。なぁ〜にが『否定したい自分がいるんだ』よ、カッコつけちゃって。とっくの昔に答えなんか出てるくせに、いつまでイジけ

てんだか。あたしの知ってる来栖彩乃はそんなイジけ娘でもないし、弱気でもない。それに即断即決出来る強い女よ」

 さらに腕の力を強め、彩乃の小さな身体を抱きすくめる。ほのかに香るのは巴がつけている香水の香りだ。

「あんたは間違ってない。あんたは冴霞の一番の理解者よ。どんだけ好きな相手でも男と女じゃ理解できないところがあるの。だけど彩乃と冴霞は女の子

同士。親友で、幼馴染で、一番の理解者。それ以外の何物でもない。もっとも、新崎謙悟くんがそこまでの域に達してるっていうんだったら潔く諦めろって

言ってやるけどさ。……それに、辛いときや悲しいときに側にいる人間が、一人くらい多くてもいいじゃない?」

 ちゅっ、と巴の口唇が彩乃の頬に触れる。彩乃は頬を赤らめて巴を見るが、巴も少し顔を赤くしていた。

「あんたの本音、言ってみなさい? 巴さんがちゃ〜んと聞いてあげるから」

 辛いときや悲しいときに、側にいる人間。

 それは冴霞にとっての謙悟であり。冴霞にとっての彩乃であり。そして……彩乃にとっての、巴でもあるのだ。

「……新崎のことは認めてる。でも、冴霞のことで負けたつもりはない。あいつは恋人で、あたしは――――いや、あたしと巴も、冴霞の親友だ」

 悩みが晴れた、朗らかな笑顔。その笑顔に、巴は自分の頬をぺたっとくっつける。

「いっとくけど、彩乃との付き合いは冴霞よりもあたしの方が長いんだからね?」

「ははっ、分かってるよ。ト・モ・ちゃん」

 いちゃいちゃとくっつきながら、歩きづらそうにゆったりと歩を進める幼馴染。二人はいつの間にか校舎の正面入り口にたどり着き、そこに設置されて

いる見取り図を見ながらどこに行こうかを話し合い始めた。

 

 

 

「おにいちゃ〜ん! おねえちゃ〜ん!」

「麻那? って、うぉっと」

 どしーん、と体当たりしてくる麻那を抱き上げ、頭の高さにまで抱き上げる。麻那はきゃっきゃと笑いながら冴霞に向かって手を伸ばし、冴霞もその

小さな手をぺたぺたと握り返し、にっこりと微笑みを向けた。ちなみに鈴音は姉である美音に会いに行ったところ『暇人確保!!』などと言われて捕縛

されてしまい、今は厨房を手伝わされている。

「麻那ちゃん、こんにちは。お母さんは一緒じゃないんですか?」

「おかーさん、おクルマとめにいっちゃった。まなね、ひとりできたんだよ?」

「危なっかしいな……ったく。……ん?」

 ふと視線を感じ、後ろを振り向く。するとそこには再びメイド服を身にまとった愛が好奇の目で麻那を見つめていた。そしてその後ろの席には、愛の

恋人である総志の姿もある。

「新崎くん新崎くん、その子なに? 新崎くんの妹ちゃん? かわいーねー、ちょうだい?」

「やらん。欲しかったら総志さんとの間に作ればいいだろ」

「いや、一応嫁が高校中退っていうのは遠慮願いたいな、俺としては。それに子どもが子どもを産むのは……ねぇ、今村さん?」

「あ、あはは……横振りしないで下さい、先輩」

 総志が高校に在学していた頃、三年生と一年生ということで。しかもかつての学年委員三年生委員長だった総志と、同じく一年生委員長だった冴霞は

面識がある。世間とは広いようで狭いということを改めて思い知らされた二人だったが、そこはまた別の話。

「まぁ、一応紹介しとくよ。ほら麻那、挨拶して」

 地面に降ろされ、総志→愛の順に顔をめぐらせ、麻那はぴしっと気をつけの姿勢を取る。

「んと、はじめまして、しんざきまなです」

 ぺこっと頭を下げる。と同時に愛が『がばっ!!』と抱きつき、有無を言わさず頬ずりを敢行した。

「あぁ〜ん、新崎くん、麻那ちゃんちょ〜かわい〜よぉ〜! 本気でちょうだい? さもなくばお持ち帰りしていい!? 麻那ちゃん、お姉ちゃんの

妹か娘になる気ない!!?」

「え、ぇ、ふぇ??」

 混乱する麻那を他所にヒートアップどころかオーバーヒートして暴走する愛。「そういえば愛って漢字、『まな』ともよむんだよね〜」などとわけの

分からない事まで言い始めた。それを理由に持ち帰りしようと言うのだろうか。恐ろしいことこの上ない。

「愛ちゃん、なにサボって……って、新崎妹の麻那ちゃんじゃねーか」

「どうしたの? あれ、麻那ちゃん?」

 愛が騒いでいるのを聞きつけた継と要がウェイターとウェイトレスの格好でやってくる。麻那も名前を呼ばれて挨拶しようと身をよじるが、愛の身体が

それを邪魔していた。いい加減に事態を収拾しようと謙悟と総志が身を乗り出した時――――謙悟にとっては予想の範疇だったことが起きてしまった。

「っく、ぅぇ、うあぁ〜〜んっ!! ゃぁ、っ、ぁ、はなしてぇ〜〜っ!」

「ま、麻那ちゃん!?」

 絹を裂くような泣き声。子どもにとって一番不快な、思い通りにならない状況に我慢がならなかったのだろう、麻那は大声を上げて泣き出した。

「愛、いいから早く放せ!」

「う、うん……麻那ちゃん、ごめんね……」

「っぁっ!」

 差し伸べた愛の手を払い除けて、なおも泣き喚く麻那。実際のところ、本気で泣かれると謙悟でも手を焼くというのが麻那の悪いところだった。赤ん坊

のころからそれだけは変わらず、唯一なんとかなだめる事が出来るのは、やはり母親である新崎陽子だけだ。だがこの場では謙悟以外になんとか出来る

人間などいるはずもない。

「麻那、おいで」

「っぐ、あぅっ、えぅ……うあぁ〜……」

 優しく抱っこをして、とんとんと背中を叩いてやる。少し落ち着きを取り戻してはいるが、まだ泣き声も涙も止まってはいない。そこへ。

「謙悟くん、麻那ちゃんをこっちに」

「あ……ああ、分かった」

 両手を広げた冴霞に麻那を抱かせ、冴霞はそのまま椅子に腰を下ろす。そして隣にセッティングしておいたもう一脚の椅子には謙悟が腰掛けて、麻那の

顔が見える場所にすこしずらす。

「麻那ちゃん、泣かないで。愛おねえさんも、麻那ちゃんと仲良くしたかっただけなんですから」

「麻那、ほら。いつまでも泣いてると、俺も冴霞も、みんなも悲しいんだ。麻那が笑ってくれなきゃ楽しくないぞ?」

 ハンカチで涙と鼻水を拭う謙悟と、やんわりとリズムを取りながら麻那を揺らす冴霞。二人の共同作業は完璧に息が合っており、麻那もいつの間にか

自分でハンカチを持って、ぐしぐしと涙を拭いている。

「おー……」

「すごい、ちゃんと泣き止んだ……」

 感嘆の声を漏らしたのは愛と要だった。継と総志は二人の言葉に頷いて同意するばかりで、文字通り言葉もないといった感じである。

「麻那ちゃん、降りてもらえます?」

「……ゃだ」

 ぎゅっと冴霞にしがみつく麻那。その一方で、片手はしっかりと謙悟の手を掴んで放さない。謙悟も冴霞も互いに見つめ合うと、仕方がないといった

感じで溜め息をつき、そのままの状態で少し遅めの昼食を取ることにした。

 

 

 

「それにしても、すごい服ですね」

 軽めの昼食を終えた冴霞が愛に向かってそんなことを言った。愛はその場でくるりと一回転し、ぴしっとポーズを取る。

「かわいーでしょ? 服飾部の子が作ってくれたんですよ、このメイド服♪」

「おー……」

 すっかり泣き止んで冴霞の隣の席に座っている麻那も、愛の格好に見入っている。フリルの付いた華やかさと、白と黒のみという落ち着いたツートン

カラー。今までこういった類のメイド服と言えば、少々特殊な嗜好の持ち主目当てに改竄された特異な衣装だと思っていた冴霞だが、実物をこうして

目にすると、そういった人々の気持ちも分からなくはない。特に愛や要を始めとして、三組と五組の……もとい、『めいどれすとらんすりーふぁいぶ』の

女子たちは誰もがとても可愛らしい子ばかりだ。

「聞きたかったんですけど、どうして三組と五組は合同の出し物にしたんですか?」

「さぁ? 詳しい話は新崎くんと高平くんが知ってますよー。合同にしようって言ったの、あの二人ですから。」

 そう言って愛は厨房に使っている家庭科室へと戻り、アイスティーとオレンジジュースのおかわりを取りにいく。そこへ入れ違いで謙悟と継、さらに

要までやって来た。隣のテーブルでコーヒーを飲んでいる総志と席を外している愛も加えれば、夏休みに遊んだ面子の揃い踏みだ。

「謙悟くん、高平くん。どうしてこのレストランを合同でやろうと思ったんですか? 確かに合同で出し物をすること自体は禁止していませんし、二クラス

分の予算が出るからやりやすくなるとは思いますけど……」

「えー、実はですね、先輩……ほら、新崎!」

「ああ。……実はこれ、他の皆には内緒だけど。冴霞も文化祭に参加してもらうための、企画なんだ」

「え……?」

 文化祭に参加する。

三年生である冴霞が。

それはもちろん一部の三年生は展示やステージで参加しているが、冴霞自身は今回、あくまで号令係でしかない。もちろん観客の一人としてこの文化祭に

参加してはいるが、謙悟の目的はそれだけではなかった。

「聞いたんだ。冴霞、二年の時は文化祭実行委員も兼任して、生徒会長だったから展示にもステージにも参加してない。一年生の時は、展示で参加してた

けど、結局、学年委員会のスケジュールでほとんど参加してなかった。これは総志さんに教えてもらった。……冴霞、ちゃんと文化祭に参加してないんだ」

「あ……そう、ですけど……」

 謙悟の言うとおりだった。冴霞はこの陽ヶ崎高等学校の文化祭、全て運営側に回ってばかりで一度も参加したことがない。冴霞にも少なからず参加したい

という気持ちはあったが、役職に就いている以上諦めざるを得ないと割り切っていた。

「最後までそんなの、つまらないと思ってさ。それで、少しでも冴霞がやりやすい環境をって考えたら」

「三組と五組のやる展示が、喫茶店と軽食レストランで。同じ学年で競うのもいいけど、どうせならでかい規模でやろうって話になったんスよ」

「それに、あたしや継くん、愛ちゃんもいれば、新崎くんも活動しやすかったから。冴霞先輩のために新崎くん、頑張ったんですよ?」

「だから今村先輩も、ほらっ!」

 戻ってきた愛が抱えていたのは飲み物だけではなく、紙袋もだった。中身は当然、愛や要が着ているものと同じ。

「……服飾部の福田くんに、無理言って作ってもらいました。本当なら存在しない、今村センパイ専用の十七着目」

「今村さん、やってもいいんじゃないかな」

 総志の後押しを受けて、紙袋を謙悟に渡す愛。そして謙悟はまだ戸惑っている冴霞の手を優しく握った。

「これが本当に、最後。でも、だからこそ……一緒に文化祭、しよう。冴霞」

「――――はいっ」

 今日一番の笑顔。本当に、心の底からの喜びを表した歓喜の笑み。

 この後、二年三組・五組の合同出店『めいどれすとらんすりーふぁいぶ』に降り立った、長い黒髪のメイドは伝説になったという。

 

 

 

 

 

 後日(というよりちょっと後の時間)談。むしろ伝説の内容。

陽子「みてみて、謙悟〜」

謙悟「いつ帰ってきた、この不良保護者……って、何写真撮ってんだアンタは!?」

陽子「ほらほら、冴霞ちゃんの写真もあるわよ〜?」

冴霞「ちょ、お、お母様!?」

陽子「悠香さんにもメールで送ってあげなきゃ♪」

冴霞「ま、やめてください〜!!」

巴「あれ……冴霞?」

彩乃「サエ? …………ぶほぉっ(鼻血噴出)」

冴霞「きゃぁーっ!? あ、あやちゃん!? それに巴ちゃんまで!?」

智子「ほほぅ、これはまた……(携帯のカメラを取り出す)」

さくら「今村さん、かわい〜(上に同じ)」

冴霞「せ、先生方も、止めて下さいってばぁっ!!」

鈴音「今村センパイがメイドっ!? ……はぶぅっ(鼻血爆発)」

謙悟「やめろお前ら、撮るなぁっ!!」

総志「……これもまた、新しい伝説か」

継「大革命生徒会長・今村冴霞は」

愛「ちょ〜萌え萌えメイドさんだった! と」

要「萌えとか言わないの、愛ちゃん……でも、ほんとかわい〜」

由紀乃「ただいま〜……って、なんですか継さん、あの美人なメイドさんはっ!?」

継「おお、由紀乃ちゃん。あれが新崎の彼女だよ」

美音「ちゃんと働きなさいよ、リーダー……まったく、馬鹿ばっかりなんだから」

麻那「えっと……おしまい♪」

 

 

 

冴霞「うぁ〜ん、謙悟く〜んっ!!」

謙悟「俺の冴霞を触るな撮るなぁっ!!!!」

継・要・総志・愛・陽子・由紀乃・彩乃・巴「あ゛」

その他大勢「…………ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!??

 

 

Fin.


あとがき:

あらためまして、MemoriesBase、三周年おめでとうございます!!
三周年記念作品と相成ります。完全なごちゃまぜ作品であり、お祭り騒ぎ。
既出・未出のキャラもオリジナルも合わせての登場でした。
最後の最後にとんでもない爆弾を落としていきましたが、この後彼らがどうなったかは
皆様のご想像にお任せをいたします。会話だけなのでおまけと割り切っていただくのが
一番かも知れませんケド。


管理人の感想

いいいやっほぉぉぉぉぉぉぉいっ!!!!(嬉)
・・・はっ、いかんいかん。つい嬉しすぎてキャラが崩壊してしまった(ぇ
さて、三周年記念ということで、鷹さんよりまたまた頂きましたのは、これまでの作品のオールスターともいえる人物でお送りする、ドタバタ学園祭!
心底楽しませていただきました。女性陣は可愛いし、男性陣はかっこいいし、麻耶はお持ち帰りしたいし(何
本当に感無量です。3周年という今日を、最高の形で飾れたと思います。
この作品で他の作品にも興味が出てきた人は、是非「秋の夜長の恋人たち」や、「BGM」をご覧ください^^
それでは、短いですが最大限の感謝を込めて、私からの挨拶とさせていただきます。
最後に。三周年、ありがとうございます!!



2008.10.5