「ふう・・・ついに明日か」

俺は今回のイベントの企画書の最終チェックを終えて、一息つくように椅子の背もたれに体を預けた。

イベント開催日はいよいよ明日。一応、出来る限りの準備はしてきたつもりだ。

学校中の掲示板にポスターを貼ったり、現地に赴いて管理者と折衝したり。副会長と一緒に、先生たちとの話し合いにも参加したりした。

それらの結果は、すべて明日の当日に帰結するはずだ。たとえ失敗だったとしても、改善点はあるだろうが悔いは無い。

もちろん、企画者であり責任者でもある俺は成功を信じているし、手を抜いたつもりもまったく無いのだが。

「・・・ま、明日のお楽しみってところか」

俺はそう一言呟き椅子から立ち上がると、まだ日付が変わっていないにも関わらずベッドに潜り込む。

――さて、明日は忙しくなりそうだし、今の内に体力を温存しておくとしようか。





FORTUNE ARTERIAL SS

            「胸を張りなさい」

                       Written by 雅輝






<後編>





土曜日は半日授業なので、昼前に最後のチャイムがなる。それが終われば晴れて放課後だ。

しかし今日に限っては、俺にのんびりとしている暇は無い。すぐさま鞄を片手に、心持ち早足で監督生室へと向かう。

軽く挨拶をしながら扉を開けると、そこにはいつも通り副会長が優雅にお茶を飲んでいる姿が。

っていうか、俺だって授業が終わってすぐにここに来たのに、何でこの人は既にお茶を飲んでるんだろう。

・・・結論。会長を含めた彼ら相手に人間の常識は通用しないので、気にしない方向で。

「あら、支倉くん。早いじゃない。そんなに急がなくても良かったのに」

「いや、なんだか落ち着かなくてな。もう一度副会長と打ち合わせもしときたかったし」

俺はそう言いながら、彼女の真向かいの席に腰を下ろした。

「もう、昨日あれだけやったのにまだ不安なの?」

副会長に半ば呆れ顔で、じとっと睨まれる。

そう言われても俺にとっては初めての試み。体育祭はなんだかんだで形式ばっていた部分が多かったが、今回は全て手探りの作業なのだ。

「そりゃな。大丈夫だって分かってても、どこかに穴があるんじゃないかって不安になるよ」

俺は自分で制作した企画書をトントンと指で叩いて、彼女に苦笑の表情を向けた。

今まで穴が開くほど目を通してきた冊子だ。もう中の内容すらほぼ丸暗記状態である。

「努力は認めるけど、そんなに気を張ってたら上手くいくものもいかなくなるわよ」

副会長はしょうがないなぁとでも言いたげな表情でカップをソーサーの上に置くと、立ち上がり俺の背後へと回ってきた。

「副会長?」

「いいから、じっとしてて」

「あ、ああ」

そっと、彼女の手が俺の両肩に置かれる。白く、柔らかい手。それはどうしようもなく、俺に「女性」を意識させる。

そしてその指に、徐々に力が込められていく。徐々に・・・ん?・・・徐々・・・に・・・・・・。

「って痛い痛い痛いっ!!」

「え?ご、ごめんなさい!」

少ししてから肩もみをしてくれるのだと分かったが、それにしては肩に掛かる握力が尋常ではなかった。

彼女の爪がそれほど伸びていなかったのが、不幸中の幸いか。伸びていたら、それこそ今頃肩を血で染めているかもしれない。

「本当にごめんなさい。肩もみってほとんどしたことなかったから、加減が分からなくて・・・」

「・・・ああ、なるほどね」

彼女たち吸血鬼は、人間のそれとはケタ違いの運動能力を持っている。そのため、日々の生活では力をかなりセーブしているらしい。

でもその力加減は、何度か試してある程度慣れてくるもの。今でも初めてすることでは、手加減が上手くいかないケースがあるのだという。

「今度こそちゃんとするから」

リベンジとばかりに再び俺の肩もみを再開する副会長。その手つきは先ほどよりずっと慎重だ。

「どう?」

「ああ・・・気持ちいいよ・・・」

今度は絶妙な力加減だ。どうやらコツを掴んだらしい。

「あら、本当にガチガチね。仕事ばっかりじゃなくて、たまには運動もした方がいいわよ?」

確かに。最近は体育の授業以外でまともに運動なんかしていない。特にイベントを任されてからは、半ば引きこもりのような生活を送っていた。

「・・・はい、おしまい!」

そのまま数分にも渡ってもみ続けてくれた彼女は、終了の言葉と共に離れ際に俺の肩をポンッと叩く。

「ふ〜・・・ありがとう、副会長。おかげでだいぶ楽になったよ」

肩を回してみる。先ほどより遥かに軽い。どうやら彼女の言葉通り、相当こっていたようだ。

「それで?気持ちの方は?」

「ああ、大丈夫。だいぶリラックスさせてもらったから、ちょっとは余裕も出てきた。副会長のおかげだな」

もちろん、緊張が無いわけではない。だが今はこれくらいの緊張感はあった方がいい。

本当に、副会長には感謝だ。

「いいわよ、別に。それより・・・そろそろよ」

「ん、もうそんな時間か」

趣のある大きな柱時計は、生徒たちの集合時間の約20分前を指していた。

「ちょっと早めに行って、点呼を取っておきましょう」

「そうだな。それじゃあ、行きますか」









「う!」

「み!」

「だーーーーーーーーっ!!!」

片手を空に突き上げた会長がそう叫ぶと、それに呼応するかのように「ワアアァァァァァァッ!」という歓声が大多数の生徒から上がった。

流石は学院のカリスマ代表。その絶大な人気に、会長の横にいた俺は関心半分呆れ半分といったところか。

会長を挟んだ向こう側にいる副会長に視線を送ると、生徒たちの熱気の高さに彼女も苦笑の表情を返してきた。



ここは島内にある唯一の海水浴場。今日のイベントの舞台であり、俺が陽菜のヒントを基に思いついたレジャースポットだ。

基本的に今の時間は放課後に当たるため、今回のイベントは自由参加だった。さらに時間割の都合上、参加できるのは後期課程の生徒のみ。

にも関わらず、予定の無いほとんどの生徒が参加を希望したため、バスによる移動費だけで結構予算を使ってしまった。

副会長が多めに取って来ていなかったらと思うと、正直ゾッとする。



「さて、それではここで、本日のイベントの企画者兼責任者の支倉君にイベントの説明をしてもらいます」

いつの間にか、会長からの指名が入っていた。もちろん、あらかじめの予定通りなのだけど。

会長からマイクを受取り、即席の台の上に立つ。水着の上に体操着を纏った生徒たち全員の目が、一斉に俺を注目する。

まるで体育祭の選手宣誓の時のようだった。でもあの時と違うのは、今の俺は自分自身に対して幾分か余裕を感じている点だ。

まばらな拍手が起こり、それが鳴り止むのと同時に口を開く。

「皆さん、こんにちは。生徒会の支倉です」

挨拶などの前口上を一通り済ませ、そしていよいよ本題。今日のイベントの「ルール説明」へと入った。

「さて、今日のイベントの内容ですが、事前に張ったポスターには「海に行く」ということ以外詳しいことは記していませんでした」

サプライズ的な意味も込めてそのようにしたのだが、それでも多くの生徒が集ったのだから、本当に生徒会の人気は厚い。

「実はこの海水浴場、まだ今年は海開きをしていないのです」

そう、つまり周りに一般客がまったくいないのはそういうことだ。この海水浴場は、来週から営業を始める。

俺の言葉に対して、ザワザワと困惑の声が生徒たちに広がり始めた。けど、もちろん想定内だ。

「ですが・・・ここの海岸沿いの砂浜の掃除をすることで、今日一日、この海水浴場を貸切にさせてもらえることになりました!」

続いての俺の言葉に、ざわめきが少しずつ消えていく。どうやら納得し始めたようだ。

「ただ、何も海に入る前にしなくてはいけないというわけでもありません。要は今日中に掃除を終わらせればいいのですから」

「制限時間は夕方の5時まで。それまでに、どんなに小さなものでもいいですから、ゴミを10個拾ってください」

「拾い終わったら、生徒会役員の方まで。名前をチェックします。もし5時を過ぎた時点でもチェックが付いてない人は・・・」

そこで一度言葉を切って、後ろに待機してもらっていたかなでさんにマイクを渡す。

「もれなくっ、風紀シ〜ルを5枚プレゼントしちゃうから、覚悟しててね〜〜〜♪」

貼られると激しく鬱な気分になれる風紀シ〜ル。これでサボろうなんて考えるやつも減るだろう。

かなでさんは大声を出して満足したのか、「はい」と俺にマイクを返すとそのまま生徒の列の中へと戻っていった。

「・・・というわけです。そしてさらにもう一点、レクリエーション要素を入れてみました」

俺はポケットから一枚のコインを取り出し、生徒たちに見れるように大きく手を掲げる。

「いわゆる宝探しです。探すのはこのコイン。大きさは500円玉くらいで、分かりやすいようにマジックで「生徒会」と書いてあります」

「これを合計10枚、この海水浴場のどこかに隠しました。振り分けはビーチに6枚。浅瀬に2枚。沖に2枚です」

「見事探し当てた人には、商品として・・・学食の一日フリーパス券を進呈致します!」

「おおっ!!」と、今度は歓喜ともやる気とも取れる声が上がる。狙い通り、結構な人数が食いついたようだ。

「海で遊ぶもよし!宝探しに従事するのもよし!ボランティア精神豊富な人は、海岸の掃除を続けてくれても構いません!」

「皆さん、思い思いの方法で、今日のイベントを楽しんでください!以上!」

最後に一礼して、台から下りる。上ったときはまばらだった拍手も、今度は多くの人が叩いてくれ、ちょっとした歓声も付いていた。

そのことに安堵の息をつきつつ、横目で副会長を見てみる。

彼女は満足そうな顔で、俺にピースサインを送っていた。







その後の副会長からの諸注意も終わり、イベントの開始時刻になると、皆我先にと体操着を脱ぎ捨て海へと飛び込んでいった。

6月に入ってますます暑さが増したせいか、準備運動も無しに海へとダイブする生徒も多い。

これがだいたい4割。残りの6割は、ゴミを拾い始める人とコインを探し始める人とで半々くらいか。

しかしこれだけの生徒数だ。一人が10のゴミを拾ったら、すぐに目ぼしいゴミは無くなってしまうだろう。

つまりここで一番にゴミを拾い始める人は、それが分かっているのだ。後になればなるほど、ゴミを探すのは困難になる。

・・・まあどんなに小さなゴミでも構わないのだし、ゴミの判断基準だって生徒の独断なので見つからないことはないと思うけど。

「さてと、どこから行こうかな」

今日の俺の役割はというと、生徒たちの監視と、数枚のゴミ袋持参でのチェック要員である。もちろん、遊ぶわけにはいかない。

それはそれで寂しい気もするが。仕事だと割り切れば気にならないし、こうして別視点からの学院生活も慣れれば面白い。

皆が楽しそうに遊んでいる姿を見ると、羨むより先に不思議な達成感が生まれてくる。副会長も、こういう気分を味わっていたのだろうか。





「よっ」

「おう、司。・・・なに持ってんだ?」

とりあえず海岸沿いを歩き始めた俺に、司が声を掛けてきた。その腕には・・・何故かビーチパラソルが抱えられている。

「なに、その辺の砂浜に立てて一眠りしようと思ってな」

「・・・いや、まあその辺は自由だから別にいいんだけどな。ゴミ拾いはいいのか?」

「もう終わった」

司は俺の言葉にニヤリと口を歪めると、握っていたもう片方の手を開いてみせた。

そこには・・・一番大きなので短い煙草の吸殻という、何とも細かいゴミが10個、確かに鎮座している。

要領のいい司らしい、なかなか賢い選択だ。

「流石に俺も風紀シ〜ルは貰いたくない」

「だよなぁ。よし、チェックしとくから、とりあえずこのゴミ袋に入れてくれ」

「おう、サンキュー」

チェックが終わると、司は手を後ろ手に振りながらゆっくりと歩いて行った。おそらく生徒の喧騒が届かない場所まで移動するつもりだろう。





「よう、陽菜」

「あっ、孝平くん」

そのまま海岸線を歩いていると、今度は陽菜に出くわした。

「生徒会の仕事、お疲れ様」

「サンキュ。陽菜はゴミ拾いか?」

生徒たち全員にはゴミ袋は配られず、希望した人だけに小さな袋を配るようにしている。司のように不要な人もいるからだ。

陽菜はどうやら希望した模様。流石は美化委員というべきか、手に持つ袋には既に20を超えるゴミが入れられてるように見える。

「陽菜もゴミ拾いばかりしてないで、もっと海とかで楽しんでいいんだぞ?」

「うん、でもこういうのも結構楽しいから。やっぱり掃除は性に合ってるみたい。・・・あれ?」

砂浜を手で馴らしていた――おそらく割れた貝殻のチェックでもしていたのだろう――陽菜が、何かを見つけたように声を上げる。

「これって・・・」

「・・・速攻で見つけられたか」

彼女が砂から掬い上げたのは、「宝探し」の目的物である生徒会印のコインだった。

「おめでとう」

「・・・良いのかな?私、掃除してただけなのに」

すぐに遠慮する優しい心は彼女の美点であり、また悪い点だ。見つけたのは間違いなく彼女なのに、良いも悪いもないと思うのだが。

「いいんだよ、陽菜が見つけたんだから。チェックしとくな」

悠木陽菜の欄の横に、ゴミ拾いを終えたことを表すチェックと、その更に横にカタカナでコインの「コ」と記しておく。

「それじゃあ、またゴミが溜まったら言ってくれ」

「うん、孝平くんも頑張ってね」

陽菜はまたゴミ拾いを再開し、俺はさらに奥の岩場の方まで足を運ぶことにした。





「あれ、こんなところで何してるんだ?」

岩場を超えると、それにもたれるようにして久瀬さんが座っていた。ぼんやりと水平線を眺めているようだ。

声を掛けるとこちらを向き、「なんだ、あなたか・・・」という声が聞こえてきそうなどうでもよさげな表情で口を開く。

「見て分からない?ひなたぼっこよ」

まあ確かに見たまんまなんだけど。とりあえずふと気になったことを訊ねてみる。

「そういえば、ゴミ拾いの方はいいのか?」

「終わったわ」

かなり意外だった。

「これで文句ないでしょ?」

そう言って彼女が開いた手の中には、直径2mm程度の白色の玉が丁度10個。これってやっぱり・・・。

「BB弾か?エアガンとかで使う・・・」

「丁度座った場所に落ちてただけよ」

なるほど、この辺りは岩による障害物も多く、そういう遊びもなかなか面白いかもしれない。その時に使われたのがたまたま残ってた。

何というか、彼女も司と一緒で要領がいい。結構二人は似てるのかもしれないな。

「もういいかしら?」

「あ、ああ。邪魔して悪かったな」

ただ、司はここまで無愛想ではないけれど。





海岸線を皆のいる方へと戻って行きながら、今度は海の方へと視線を向けてみる。

すると浅瀬で、白ちゃんがクラスの女の子たちと仲良く談笑しているのを発見。

声を掛けようと近づいたその時、砂浜で行なっていたビーチバレーのボールが白ちゃんの方へと向かっているのが視界に移った。

「危ないっ」

ビーチボールなのだから当たっても痛くないと思うが、それでも反射的に言葉が出ていた。

”ヒュッ”

しかし、突如どこからか飛んできた木の棒がビーチボールを弾き、結果的に白ちゃんは気付くことなく談笑を続ける。

木の棒が飛んできた方向を見てみると、そこには・・・やはりというか、東儀先輩がスイカ割り用のスイカを前に立っていた。

もちろん、その手にはスイカを叩くための木の棒が無い。というか、目隠しをしたままなのにどうやって当てたんだ?

・・・時々、東儀先輩って会長たちよりもスペックが高いと思う時がある。





沖の方はどうだろうかと、目を凝らしてみる。幸い、視力は良い方だ。

そこでは、こちらまで聞こえてきそうなほど大はしゃぎな声で、会長とかなでさんが遊んでいた。

かなでさんは会長の首・・・つまり肩車の姿勢で、「いけーーーっ!」と拳を前方に掲げ。

会長は満面の笑みを張りつかせたまま、水をかきわけて――いや、見間違いじゃなければ水の「上」を走っていた。

要は水面上。吸血鬼の運動能力に限界は無いのだろうか。余りに堂々とやっているので、周りには疑問に思っている人もいないようだし。

・・・ていうか一応、普段は人を引っ張る立場の会長と風紀委員長が、あそこまではっちゃけていていいのだろうか。

いやまあ、確かに今回の企画は俺に一任されていて、会長に仕事を押し付けるなんてとても出来ないのだけど。

「・・・副会長に言ったら、どんな反応するかな?」

何となく俺には、会長がぶっ飛ぶ、そんな未来予想図が見えた。









”ザザーンッ・・・ザザーンッ・・・”

寄せては返す波の音を聞きながら、俺と副会長は並んで茜色の海を眺めていた。

時刻は5時を少々過ぎたところ。今頃、生徒の皆はバスの中で体操着に着替えているはずだ。もちろん、バスは男女別で。

やはりというか、結局ゴミ拾いのチェックを受けなかった人はいなかった。それだけ風紀シ〜ルは恐怖の対象になっているということか。

俺と副会長は元々海には入れないと分かっていたので、ずっと体操着姿だった。なので今はこうして皆の準備が終わるのを待っているところだ。

「・・・あっという間だったな」

「ええ」

波の音と音の間に、ポツリポツリと会話を交わす。何となく、とても優しい時間だった。

「副会長から見てどうだった?今日のイベントは」

「そうね・・・大成功って言ってもいいんじゃないかしら。みんな楽しそうだったし」

「・・・そっか」

彼女の言う様に、俺から見てもみんな楽しそうにしてくれていた。皆の笑顔は不安だった心にとって、最適な特効薬だった。

「それに学校側の反応も良かったし。また来年もやることになるかもしれないわね」

「その時は、また手伝ってくれるか?」

「ええ、もちろん」

彼女が当然だとばかりに笑顔で頷く。その笑顔は、夕陽に映えて堪らなく美しいものだった。

「どうしたの?」

「いや・・・副会長も遊びたかったんじゃないかなぁって思ってさ」

思わず言葉に詰まってしまったのを誤魔化すように、話題を振ってみる。気になっていたのは本当のことだし。

「それを言うなら支倉くんもでしょう?」

「いや、俺はほら、発案者だし。でも副会長には付き合わせちゃった形になるじゃないか」

今更ながら思うのは、もっと良いイベントがあったのではないかという意味もない仮定。

少なくとも、彼女は他の生徒たちと一緒に楽しんで、俺だけで仕事を賄えるような・・・。

「ていっ」

「あいたっ」

いつの間にか近くに寄っていた副会長から、軽いデコピンを食らう。

「もう、どうせまたくだらないことでも考えてたでしょ?顔に出てたわよ」

「くだらないって・・・まあ今更だとは思うけどさ」

俺が拗ねたように呟くと、彼女は「はぁ・・・」と呆れたようなため息をついた。

「今回のイベント、兄さんや征一郎さんからも凄く好評だったのよ?二人だけじゃない。今日参加した生徒全員が、納得のいく内容だったと思うわ」

「支倉くんは本当によく頑張ってくれたわ。だからあなたは、胸を張って自分の成したことに堂々としていればいいの」

彼女のまっすぐな言葉はいつも、不思議なほどに俺の心へ浸透していく。

「胸を張って、か・・・」

何度も彼女に言われた言葉。それは俺にとって、とても優しい言葉だった。

「・・・ありがとう、副会長。これからもパートナーとして、よろしくな」

今はまだ形容しがたい想いのまま、無意識に彼女の手を握って自分の気持ちをそのまま伝える。

「え、ええ・・・」

彼女は恥ずかしそうに目線を逸らして、しかし握られた手はそのままだった。

そして、やっぱり思いっきり照れていた。



end


後書き

後編だけ長っ!(笑)

ということでどうにか完結致しました。正直、ここまで長くなるとは思ってもみなかったり^^;

今回はイベント当日の話でした。イベントはご覧のとおり海水浴。プラスでレクリエーション要素を入れた形に。

ちなみにコイン取得者は、まず陽菜。それと本編では語られてませんが、伊織の超人的視力で彼とかなでにもそれぞれ1枚。

後は一般生徒が手にしました。開始1時間ほどで全て発見されてしまったようです(笑)

そしてやはり微妙に入れる「孝平×瑛里華」テイスト。一応瑛里華SSですしね。

まるで甘くはありませんが、まあ序盤なのでこれくらいで限度でしょ。っていうか手を繋ぐだけで大進歩だと思いませんか。

それでは!・・・次は陽菜SSを執筆予定です。



瑛里華 「感想は、こちらにお願いね?」



2008.3.27  雅輝