Memories Base 5th Anniversary

          BGM  Parallel World Story

 

 

 

 世に、偶然はあれど運命はなし。

 それが今村冴霞の座右の銘であり、信念であった。全ての出来事に必然性はなく、人の想いと行動一つで如何様にも移り変わる千変万化の未来を、運命と

いう曖昧なもので縛りつける事は愚の骨頂であるとさえ考えている。年頃の女の子なのだから多少なりともロマンチックな感性を覗かせても良いようなもの

だが、現実主義という言葉がこれほど似合う学生もそうそういないだろう。

 しかし、そんな彼女にも心の内では『運命』という言葉でしか説明のつかないものがある。もちろんその言葉を使った事はないが、この高校三年生という

大事な一年の間に起きた二つの出会いは正しく冴霞が嫌う運命的な出来事であり、またその出会いが彼女と、そして出会った二人の未来を大きく変化させて

いくものである事は、そう遠くない未来で自身たちが知るものとなっていく。

 

 

 最初の出会いは、春。

 桜香る季節の四月、実家である天桜町の花見に参加すべく、幼馴染にして大親友の来栖彩乃と間宮巴の二人と待ち合わせをしていた冴霞が、その待ち合わ

せ場所である天桜通りという並木道を歩いていた時の出来事。

「遅くなっちゃった……彩ちゃんも巴ちゃんも、もう来てるかな」

 普段なら遅れるのは二人の方であり、冴霞が遅刻した事はこの数年でも数えるほどしかない。待ち合わせは午後十二時とキリの良い時間で、またそこから

すぐに昼食に移れるようにというプランに基づいた指定だが、既に時刻は午前十一時五十分。花見用の弁当に気合いを入れ過ぎたというのが遅刻の理由だと

しても、遅れてしまう事は芳しくない。しかし急いで走ろうものなら折角綺麗に飾り付けた弁当が、蓋を開ければ見るも無残な姿に変貌する事は想像に難く

無く、やるせない気持ちを抱えながら冴霞は歩調を速める事もせず、それでも心持ち足取りは早めに目的地へと向かいながら天桜通りを彩る桜並木を眺めた。

 かつて「その桜は天を彩る」との言葉から由来したこの天桜町は、町の至る所に桜の木が植えられている。空を見上げれば昔語りのその言葉通りに彩られ

た白桜の光景はまるで天蓋のようで、また舞い落ちる花弁は地を覆う絨毯のようだ。前後左右、上下に至るまで敷き詰められた桜景色はまるで物語の一ペー

ジのようだ、と思った冴霞はくすりと笑みを漏らし、仰ぎ見ていた視線を正面に向け直した。

 すると、同じように桜景色を見上げている女の子がふらふらと危なっかしい足取りでこちらに歩いて来ていた。着ている衣服は普段着とは異なり学生服で、

県内の高校の制服はおおよそ把握しているというとんでもない記憶力を誇る冴霞には、その制服がすぐに桃桜女子高等学校の物である事が分かる。

 私立桃桜女子高等学校。冴霞の親友である間宮巴が通う、私立天望桜女子高等学校と双璧を成す有名女子高で、また同じ『桜』の名を冠する学校同士とい

うこともあってか、二校は姉妹校の関係にある。偏差値という基準に置いては天望桜が一歩勝るが、どちらもこの陽乃海市内に存在する女子高としては名が

知られており、ブレザーデザインの天望桜とは真逆のオーソドックスなセーラー服は憶えも良く、一度見ればそうそう忘れる事はないだろう。

 さておき、女生徒である。彼女は冴霞に気付いた様子もなく、相変わらず桜に見惚れてバランスの悪い歩みを続けている。車が通らない遊歩道なので重大

な事故に見舞われる危険は低いだろうが、それを差し引いても放置できるほど冴霞は不親切な女の子ではない。

「……ちゃんと前を見て歩かないと、危ないですよ?」

 柔らかく、諭すような優しい声で注意を促す。すると女の子はハッと我に返り、慌てて冴霞を見上げる。大きな瞳と肩よりも少し長い、どこか赤みを帯び

た茶髪の少女。わたわたと手を振りながら「あ、あの、えと、ご、ごめんなさいっ」と告げたその声は愛らしく、同性である冴霞も可愛らしいと感じていた。

 だが、その時。

「ふぇ!? あ、わ、わぁっ!?」

 女の子が一歩下がろうとした瞬間、敷き詰められた花弁の絨毯がローファーを滑らせる。バランスを崩した女の子は後方に倒れるように体勢を崩し、思い

がけない事態に鞄を取り落とす。しかしそれでは何の解決にもならず、かくんと膝が折れて上体が倒れそうになる。

「――――掴まって!!」

「は、はいっ!!」

 投げかけたのは冴霞、そして女の子もその呼び声に有無を言わさず反応する。刹那、冴霞の腕が女の子を引き寄せたかと思うと、そのまま腰に手を回して

腕の中に女の子を抱き寄せた。

「わ、わわ、ぁぅ……///

「ごめんなさい、こうでもしないと咄嗟には無理でしたから。……それと、声を掛けて申し訳ありません」

 冴霞が声を掛けなければ、女の子が体勢を崩す事もなかった。その点を言えば非は冴霞にあると言えなくもない。しかし女の子はぶんぶんと首を横に振り、

真剣な表情で冴霞を見上げる。

「そんなことないですっ! もし注意してくれなかったら、誰かとぶつかってたかも知れないですから……だから、ありがとうございます!!」

 柔らかな笑顔。そして力を込めた話し方だった為か女の子の身体に力が入り、冴霞との距離がぐっとさらに近付く。その時の感触で分かったのだが、この

女の子は冴霞よりもかなり胸が大きいようだ。加えてふんわりと甘く香る彼女の匂いに、冴霞は何故か胸の鼓動が高鳴るのを感じてしまっていた。それを振

り払うようにそっと女の子の身体を解放しようと腰から手を離すと、ようやく重大な事に気づく。

「…………私、お弁当を持ってない、ですよね……?」

「? おべんとうって……もしかして、アレの事ですか?」

 女の子が指差した先には、しっかりと倒れた直方体の包みが転がっている。今日の花見の為に朝から起きて念入りに作り込んだ重箱弁当三段重ねは、巴と

彩乃と冴霞の三人で食べるために一生懸命こしらえたものだ。それが先ほどの一瞬で駄目になったという事実を突きつけられれば、流石の冴霞もがっくりと

落ち込まずにはいられず、思わず地面に手をつきそうになってしまった。

「だ、大丈夫ですか!? ごめんなさい、あたしの事助けたから……」

「……いいえ、大丈夫ですよ。お弁当と人助けのどっちが大事かなんて、そんなの決まりきっていますから。お花見の待ち合わせをしている友達には、連絡

を入れておきますし。どの道、遅刻は免れませんからね」

 携帯電話を見れば、既に予定時刻まであと数分に迫っている。今から弁当を作り直す余裕もなければ、どこかに買いにいくのも不可能。けれど親友として

長年付き添っている二人ならば、事情を話せばきっと理解してくれると冴霞は信じている。

「とにかく、私はこれで失礼します。くれぐれも怪我には気をつけてくださいねっ」

 弁当箱を回収し、ぽんぽんと軽く叩いて汚れを落とす。もう走ったところで間に合わないだろうが、それでもベストを尽くすべく冴霞はゆっくりと深呼吸

して、目的地である並木道に隣接する天桜公園までの道を頭の中に思い描く。

「ま、待ってくださいっ!!」

 そのイメージを遮ったのは、先ほどと同様の愛らしい声。冴霞が振り向くと、女の子は申し訳なさそうな表情を浮かべてはいるものの、その目は真っ直ぐ

に冴霞を見上げている。そこに込められた意志を汲み取って冴霞もまた正面から女の子と向き合うべく、回れ右をする。

「……どうかしましたか?」

「あ、あたしのせいでお弁当ダメにしちゃったわけだから、その……お友達の人にもちゃんとあたしから、謝らせて下さいっ」

 真剣そのものの態度には一切の迷いもなく、冴霞が感じたままに強い意志を言葉に込めていた。ここで女の子の申し出を断るような無粋かつ無礼を冴霞が

選ぶはずもなく、優しくも美しい笑顔でこくりと頷いた。

「それじゃあ、行きましょうか。でも心配しなくても、二人ともあっさり許してくれると思いますよ?」

「は、はいっ!! あ、そうだ……だったら、ちゃんと自己紹介させて下さい。あたし、南條くららっていいます!!」

 ぺこりと頭を下げる女の子改め、南條くらら。日本人らしからぬ名前には少々驚かされた冴霞だが、それをわざわざ指摘するような事はしない。

「ご丁寧にありがとうございます。私は、今村冴霞。冴えるに霞、と書いて『さえか』です。よろしくお願いしますね、南條さん」

 互いに微笑み合い、きゅっと握手を交わす。するとくららの表情がわずかに考え込むような物に変わったかと思うと。

「い、いまむらさえかさんって、ええ!!? それって、ウワサに聞く陽ヶ崎高校のすーぱー生徒会長さん!!?」

「……そういう評価があるんですか、私は」

 辟易したように溜め息をつかざるを得ないその名称にうんざりしている冴霞を尻目に、くららは「ふぇ〜、凄い人だったんだぁ〜」と何故かいきなりタメ

口になって冴霞の手をにぎにぎと握り返してきている。

 今村冴霞は県内でも上位ランクに入る進学校・県立陽ヶ崎高等学校の生徒会長を務めている。その成績は常に県の一位を独占し、またかつて中学生時代に

は全国区の短距離走者として名を馳せてもいた。頭脳明晰にして運動神経も抜群、さらに容姿も高校生離れした端麗さを誇り、市内・県内の学生総会会議で

議長を務めた事さえあるという卓越した政治手腕まで兼ね備えた、くららの言うとおりに「すーぱー生徒会長」である。しかし本人はそうした評価を受ける

がために周囲からは天上人のようにさえ思われるという現状を、正直煩わしく感じてもいた。それはこうして、今日初めて知り合ったばかりのくららからも

同じように扱われるという孤独を――――

「でも、全然普通の人だねっ。あ、美人さんっていうのは普通じゃないのかな……けど、うん。そんな『凄い人〜』っていう感じはないもん」

 その思いがけない評価に呆気にとられたのは、他ならぬ冴霞自身だった。初対面であっても冴霞の経歴を知っていれば自然と委縮する人は多いと言わざる

をえない中で、くららは遠慮するどころか冴霞を「普通」と評した。小学生の頃の友人でさえ今では冴霞の事を一歩退いて見ており、古くからの親友である

彩乃と巴を除けば、この数年でこんな反応は初めてと言っても良いだろう。

「そ、そうですか? ところで、どうしていきなり言葉遣いが……?」

「ん? だって、あたしと今村さん同い年だから。一学期からは三年生でしょ? あ、ちなみにあたし、補習帰りでなのですっ」

 「えへへ〜」と照れ笑いしながら頭を掻くくらら。その子どものような仕草をする同年齢の少女を見ながら、冴霞は思わず笑みをこぼした。

「南條さんて、面白い人ですね。よかったらこれからも、友達になってくれませんか?」

「うんっ、よろこんで!! でも名字で呼ばれるのはちょっとイヤかなぁ……名前で呼んで欲しいな。あたしも今村さんじゃなくて、冴霞さん……いやいや、

これだと何か他人行儀っぽいから――――冴霞ちゃんとか、サエちゃんって呼んでもいい?」

「はい、私もその方が嬉しいです。じゃあ私はこれからは、くららちゃんって呼ばせて下さいねっ」

 まだ握ったままの互いの手を再びきゅっと力を込めて確かめ合う。柔らかく、また暖かな感触にどちらもが微笑み合い、そのまま待ち合わせ場所まで連れ

立って歩き始める。

 

 これが、最初の運命。そして二度目の運命は約二ヶ月後の五月末に起きた、ある事件。

 進学校である県立陽ヶ崎高等学校において、他人の風評から『不良』というカテゴリーに位置していた男子学生が起こしてしまった、傷害事件である。

 

 

 

 Boy & Girls Memories

         〜The future drawn by Destiny”〜

 

 

 

 その事件は、陽ヶ崎高校の二年生男子・新崎謙悟と、同校の体育科教諭兼剣道部顧問を務める朝岡哲史との間で起きた。指導として呼び出した朝岡に対し

て、新崎謙悟が暴力を振るい階段から転落させ、脚の骨を折るという重傷を負わせたというものだ。被害者である朝岡は教育指導部の顧問を務める村上功に

進言し、また新崎謙悟の風評を耳にしていた村上も朝岡の誘いに乗り、停学という処罰を科そうとしていた。

 しかし、そこに思いも寄らない相手から停学への反対の声が上がった。声の主は教頭を務める都築元治と、そして最高責任者である校長・間辰郎の二人で

ある。そしてその隣には全校生徒のみならず教職員からも厚い信頼を受けている生徒会長・今村冴霞の姿もあった。

 校長と冴霞の提案により新崎謙悟の停学は白紙となると同時に、彼を監督するという理由で今村冴霞は謙悟を生徒会の一員として迎え入れ、また事件の折

に事の顛末を見ていた生徒から匿名での証言を得ているという校長の言葉により、今度は逆に朝岡の方が追い詰められる側になった。

 事実を言えば、暴力を振るおうとしていたのは謙悟の方ではなく朝岡の方だった。昔ながらにスパルタ気質な部分があり、また自身の剣道の腕前に慢心し

ている朝岡は剣道の授業の際に謙悟を指名し、皆が見ている前で不良とされる彼を打ちのめそうと企んでいた。しかし結果こそ朝岡の勝利に終わったものの、

一本目は謙悟に見事な面で勝利され、二本目、三本目も実力者であれば分かるほどに手を抜いた謙悟に勝ちを譲ってもらいなんとかメンツを保ったという、

気に入らないどころかプライドを傷つけられた朝岡は、その報復にと謙悟を体育教員室に呼び出した。

 そして階段の踊り場で掴みかかったところ、謙悟から思いもかけないほどに素早い振り解きを繰り出され、バランスを崩した朝岡は階段を転落。自業自得

と言う他無いその事実が知られているというのであれば、瞬間的にその生徒を締め上げようと考えたがしかし、生徒の申し出が匿名の証言であるという事と、

既に教頭や校長も知っているという現状では、朝岡に逆転の手は一つたりとも残されていない。

「朝岡先生。貴方も大人だから、あまり多くの事は言わんよ。……分かっているね?」

 間校長からの重い一言。醜態をひた隠しにしたまま居座るか、それとも心を改めて依願退職か転勤を選ぶか。まだ三十二歳の朝岡には未来もあり、ここで

職を失うのは得策ではない。そう判断した朝岡自身の決定により、一学期終了と同時に転勤という形で事件は終着。

 

 そうして新崎謙悟は、生徒会の一員として迎えられる事になった。

 

 

「はぁ……先輩、まだ来てないのか」

 六月一日、土曜日。

待ち合わせの時間よりも三十分以上早く来ておいて言う台詞ではないのだが、新崎謙悟は携帯電話で時間を確認するとため息をついた。今日は謙悟が生徒

会に参加する最初の日なのだが、生憎と言うべきか幸いと言うべきか土曜日のため、学校での紹介は月曜日に持ち越されることになり、しかしそれを生かす

べきとする生徒会長・今村冴霞の提案によって謙悟は急遽、陽乃海市天崎町の駅前広場に集合するようにという指令を受けた。

 その理由は、月曜日に謙悟の歓迎会を催すための準備品を買い出しと、また生徒会でいくつか不足している備品も合わせて購入するというものだ。自分の

歓迎会の準備に自分が参加するのは正直どうなんだろうと思わずにはいられなかったが、冴霞曰く「これからよろしくお願いします、という新崎くんからの

挨拶も兼ねる訳ですから、新崎くんが準備に参加することは何もおかしくはないんですよ」との事で、聡明なる生徒会長様にそう言われては謙悟としても納

得せざるを得なかった。

 普段はラフな格好を好む……というよりも服装にそれほど頓着する訳でもない謙悟だが、流石に相手が相手だけに今日はしっかりと恥ずかしくない程度の

服を選んできたつもりだ。六月になったばかりだが既に初夏と言うには暑い日差しが降り注ぎ、上着を着ていない人の姿も少なくない街中で、半袖の上着を

軽く羽織り、そしてその下にはノースリーブのタンクトップ。下は着古した色落ちのジーンズと、ブーツデザインスニーカーを身に着けている。身長も百八

十三センチとかなりの高さを誇り、また子どもの頃から剣道、空手などの武術を習っている影響も相俟ってがっしりと鍛え、絞り込まれた筋肉はさながらネ

コ科の大型肉食獣を思わせるしなやかさがあり、見栄えだけを優先し膨れ上がったものとは一線を画している。

 加えて、本人は気づいていないのだが、整った精悍な顔立ちは実は同年代の少女たちに受けも良く、進学校である陽ヶ崎高校に不似合いな『不良』という

風評も絶妙なアクセントとなって、ワイルドかつ物静かな、しかしそれほど多くは無いものの友人と共に行動するときは思いがけず柔らかな表情を見せる男

として、密かに人気があったりしている。現に今も、道行く女性のうち何人かは謙悟に視線を向けたりしている。

「――――新崎くんっ」

 ぽん、と背中を叩かれると同時に声が掛かる。耳に心地良い清涼なそれは学校でも何度となく聞いたものであり、またここ数日は近くで聞く機会の方が多

かった。そこに至るまでの経緯は好ましいものではなかったけれど、と思いながら謙悟がくるりと振り返ると。

「待ち合わせまではまだかなりあるのに、随分早く来ていたんですね」

 全校生徒の憧れと言っても過言ではない生徒会長にして先輩である今村冴霞が、文字通り目の前に立っていた。

「そりゃ、先輩を待たせるような無礼な後輩にはなりたくないから。……ていうか、先輩だって十分早いし」

「私は待つのは全然平気ですよ。それに相手が来るのを待つのも、楽しみの一つでしょう?」

 小首を傾げて優しく笑う冴霞。長い黒髪がその動作に合わせてふわりと揺れ、照りつける太陽の光を受けて輝いている。嫌味にならないその所作はまるで

一つ一つが洗練されたもののようにさえ感じられ、陽ヶ崎高校に通う生徒の一人として、また年頃の男として、謙悟も思わず見惚れてしまう。

「ところで新崎くん。実は今日は、私の友達も一緒に来てくれる事になっているんですけど、良いですか?」

「え? あ、はぁ……それは全然構わないんですけど……どういう人なんです?」

 唐突に降って湧いた三人目の存在に疑問を覚えながら、しかしその一方で三人目が加わる事を謙悟は密かに安堵していた。見目麗しいと言う事に一つの違

和感も覚えさせない冴霞と並び立つという事は、それだけで特別な光景である。ましてやそれが異性である自分なのだから、周りからどう受け取られるかな

どという考えはどうしても抱いてしまう。そこに別の人間が一人追加されれば、あらぬ誤解を生む事も無くなるだろう。

「四月に知り合った、桃桜女子の女の子です。私と同い年だから、新崎くんからは先輩になりますね」

「へぇ……そうなんだ」

 他校の事にはあまり詳しくない謙悟だが、桃桜女子とその姉妹校である天望桜女子は陽乃海市の「二本桜」と謳われる女子高である事くらいは知っている。

友人の話ではどちらの女子も総じてレベルが高く、中には学生ながら雑誌のモデルを勤める者までいるらしい。

「あ、噂をすれば――――来ましたよ」

 冴霞の視線を追うと、淡いペールピンクののシャーリングカットソーとかなり丈の短いオフホワイトカラーのミニスカート、そして膝上まであるオーバー

ニーソックスとスニーカーを履いた女の子がきょろきょろとあたりを見渡していた。そして彼女の視界は冴霞の存在に気づいたらしく、小走りでこちらに近

づいて来る。

「そんなに急いだら、また転んじゃいますよ〜!」

「そんなに何度も転んだりなんかしないもんっ、って、ととっ!?」

 舗装用のタイルが欠けていたところに運悪く脚を引っ掛けてしまい、女の子がバランスを崩す。咄嗟に冴霞が一歩踏み出そうとしたが、それよりも早く謙

悟の方が反応していた。平均的な身長の女の子は謙悟からすれば二十センチ以上の身長差があり、肩どころか胸に抱き止めるような形になってしまい、顔を

上げた女の子と思わず目があった時にはどちらも思わず赤面してしまった。

「あ、あぅ……ご、ゴメンね?」

「いや、怪我が無くって良かったです……っと」

 女の子の身体を解放し、自分の手と身体に残る柔らかな感触に鼓動を高鳴らせつつも、緊張を表情には出さないように努める謙悟。冴霞は女の子に「大丈

夫でした?」と問い掛けており、女の子も「うん、平気だよ〜」と言いながら謙悟を見て柔らかい笑顔を向けてくる。

「え、えっと……失礼しました。改めて自己紹介するね。あたし、南條くららっていいます。よろしくね!!」

 ぴっと手を差し伸べるくらら。謙悟もそれに乗るように手を差し出し、くららの小さな手を優しく握る。

「ども、はじめまして。新崎謙悟といいます……南條先輩って、呼んだ方が良いんですか?」

「ん〜、先輩はあっても無くても全然構わないけど、名字で呼ばれるのは嫌いなんだよね〜。あたしは謙悟くんって呼ぶから、謙悟くんもあたしの事は名前

で呼ぼうよ。ね?」

 出会い頭から一分も経たないうちに名前で呼べと言い出してくるのは遠慮が無いにも程があるだろう、と謙悟は心の中でツッコミを入れつつ、にぎにぎと

手を握り返して遊んでいるくららを見た。

 赤みがかった明るめの茶髪は肩よりも少し長く、また頭には白のヘアバンドを身に着けている。年上のはずなのにどことなく幼い雰囲気を感じさせるのは

性格だけでは無いのかも知れないと感じ、思わず頬を緩めながら一度頷く。

「じゃあ、くらら先輩って呼ぶのはなんか語呂が悪いから、呼び捨てにさせてもらってもいいですか?」

「うん、全然おっけー! 丁寧語も要らないから普通でいいよ、謙悟くんっ!」

 太陽のような心地良い笑顔と共に、空いている左手で隣にいた冴霞の腕を掴み引き寄せるくらら。突然の事に冴霞も面食らったのか驚きの表情を浮かべて

おり、これまでそんな表情を見た事が無かった謙悟は妙に新鮮な気持ちになった。

「ちょ、く、くららちゃん!?」

「サエちゃんは、謙悟くんのこと何て呼んでるの? やっぱり名字?」

 くららの純真な瞳に見つめられて、冴霞は「う、うん……」と頼りなさげな返事と共に頷く。くららはその反応にうんうんと納得したかと思うと、今度は

ぱぁっと明るい笑みを浮かべた。

「だったら、サエちゃんも謙悟くんって呼ぶようにしようよ。んで、謙悟くんはサエちゃんのことを名前で呼ぶことっ!」

「なんでいきなりそうなるんだ!?」

「そうですよっ! くららちゃん、唐突過ぎます!!」

 駅前という事も忘れて声を張り上げてくららに抗議する二人。しかしくららはむしろ二人から抗議が上がった事に驚き、頭の上に「??」と疑問符を浮か

べて首を捻っている。

「だって、謙悟くんもサエちゃんもあたしの事は名前で呼んでくれるでしょ? なのに、その二人がお互いに遠慮してたらおかしいもん。学校での二人の事

は分かんないからあんまり言えないけど、少なくとも今ここではあたし達はもう友達だよ? 友達だったら、名前で呼び合うくらいしないと!」

 言っている事はどこもおかしくはないくららの言葉に、謙悟も冴霞も思わず納得する。人と人の関係には様々なものがあるが、くららの中では「友達=名

前で呼び合う」という定義があるのだろう。その自分ルールとでも言うべきものを無理矢理に押し付けるのは本来あまりよろしく無い事だが、謙悟と冴霞は

互いに顔を見合わせ、小さな笑みを浮かべ合う。

「じゃあ、そうしますか……謙悟くん?」

「です……じゃなくて、そうだな。冴霞…………これでいいのか? くらら」

「うんっ! バッチリ!!」

 未だに繋いだままの手を握ってくるくららの手を握り返す謙悟。

 くららが掴んでいた手を引き寄せて、自分の手で包み込む冴霞。

 二人と手を繋いだ事で、より眩しい笑顔で素直に悦ぶくらら。

 そして三人は連れ立って、駅前に立ち並ぶデパート巡りをするべく歩き出した。

 

 

 

「あっ、見て見て二人ともっ! この子かわい〜♪」

「ホントですね。謙悟くんも触ってみます? ふわふわで気持ち良いですよ」

「……なんか、本来の目的見失ってないか?」

 ぼそりと呟いた謙悟のその一言に冴霞は思わず苦笑いを浮かべ、くららは腕に抱いたミニチュア・ダックスフントの子どもをふにふにと撫でながら謙悟の

顔を下からのぞきこむ。

「生徒会入りの前祝い、でしょ? ちゃんと覚えてるよ〜。でもまだお昼には早いから、こうやって空いた時間を遊びに費やしてるのですよっ」

 ぐいっと謙悟に子犬を押し付け、強制的に抱かせる。子犬は謙悟の手に収まるとふんふんと手の匂いを嗅ぎ、小さな舌でその手を舐めた。謙悟も謙悟で動

物は嫌いではないし、むしろある程度の犬猫には好かれやすいという性質も実は持ち合わせている。そうした所もあってか無垢な動物を抱けば不満というほ

どではなかった疑問も、子犬の愛らしさとくららの言葉も相俟って解消され、自然な笑みを浮かべる。

「だったら、もう少しくらいは遊んでみるか」

「そうですね。あ、謙悟くん、今度は私に抱かせて下さい」

 謙悟の手から冴霞に移る子犬。警戒心など皆無のままに小さな尻尾をぱたぱたと嬉しそうに振り回す姿に冴霞の表情も綻び、謙悟も変わらず柔らかな表情

で子犬を見ている。

 

 

 しかしその一方で、くららは自分の胸の内に芽生えていた気持ちを落ちつけるべく、ゆっくりと深呼吸していた。

「(どうしよう……あたし……)」

 今日の事は前々から冴霞から話を受けていた。冴霞と同じように周囲の評価から誤解され、冷遇されている男の子が危機に立たされている。その男の子を

窮地から救う事は出来たけれど、やはり周りから色眼鏡で見られているという現状はすぐには解決しない。だから、くららのようにそうした点を気にせず、

また本質を自然なままに見極めてくれる人と一緒に、彼と話がしたい――――それが、冴霞からの相談だった。

 優秀と名高い冴霞がそんな事を依頼してくるのだから、よほど切羽詰まった状況なのだろうという事は容易に察しが付いたし、またたった一人の男の子を

相手に相談を必要とするからには、きっと冴霞はその男の子に特別な気持ちを抱いているのかもしれないと、くららは何となく想像していた。冴霞と友達に

なって早二ヶ月、付き合った期間はまだまだ短いけれど、期間の長さなどした問題ではないと考えているくららは冴霞の相談に乗る事にし、今日の待ち合わ

せも冴霞の提案した通りかなり早い時間にやってきた。

 その男の子も既に待ち合わせ場所には来ており、遠目にも冴霞より身長が高く、正直なところ最初は大きな男の人は身長差もあってか怖いという先入観も

少なからず持っていたくららだが、その緊張もあって彼の目の前で転びそうになってしまった。普段は自然体に振る舞えるくららであっても、やはりそこは

一人の女の子。見ず知らずの相手に緊張しないほどに能天気では無い。それでも何とか踏み止まろうと力を込めたところでくららを受け止めてくれたのは、

他ならぬ男の子――――新崎謙悟だった。

 間近で見た謙悟は逞しい体つきと共に、精悍で整った顔立ちをしていた。髪は短く、しかし自然なままに崩したヘアースタイルには不潔さは微塵もなく、

とても彼に似合っていた。そしてくららを案じる瞳には優しさと不安が同居しており、そこまで感じ取ったくららの心は一つの感情を手に入れた。

 それはきっと、誰もが一度は異性に感じる想い。相手の事を知らないながら、ただ魂の赴くままに寄り掛かる純粋な思慕。

「(あたし…………謙悟くんのこと、好きになっちゃった……)」

 即ち、世に言う一目惚れである。

 

 

 冴霞がいる手前、くららは普段通りに振る舞おうと努めているが、その所作は実はどことなくぎこちないものを含んでいる。今こうしてペットショップに

立ち寄っているのも実はその一つで、本当ならば先ほど謙悟が言うように昼食を取りながら乾杯音頭の一つでも奏でて、謙悟の生徒会入りを祝うというのが

本来の流れだった。しかしせっかく出会った謙悟との時間を、冴霞も交えて楽しく過ごしたいという気持ちが先行し、あちらこちらをフラフラと遊び歩きな

がら時間を潰しているというのが実情だ。それに何より、くらら自身が自分の気持ちにまだ戸惑っているというのも理由の一つである。

 謙悟に一目惚れした事は間違いない。だがそれと同じくらい、冴霞の事も大切に思っている。好きになった相手とならば二人きりになりたいと思うのが誰

にでも芽生えそうな当然の欲だが、それ以上にくららは謙悟だけではなく、冴霞とも一緒にいたいと思ってしまっているのだ。

「――――へえ。じゃあ冴霞の家って、猫飼ってるんだ」

「はい。バーマンっていう種類の子が二匹。年上の子が私の飼い猫で、一歳下の子が母の猫なんですよ」

 そんなくららの懊悩を他所に、謙悟と冴霞の間では少しばかり親しい会話が展開されつつあった。二人の関係が良好かつ親しく発展していく事には何の異

論もないくららだが、その光景にはごく僅かではあるものの疎外感を感じてしまう。

「俺の家はペットなんて飼った事無いからな。くららはどうなんだ?」

「ふぇ? あ、あたしも、ペット飼った事無いよ。犬も猫も普通に好きだけど、やっぱり飼ったりすると大変だと思うし、それにあたしのマンション……確

かペットダメだったから」

「だったら、二人とも今度遊びに来て下さい。まだくららちゃんにも紹介しただけで、顔を合わせた事はないですからね」

 冴霞が笑顔でそう言うと、謙悟は少々神妙な顔つきになる。それに気付いたくららは冴霞の腕の中に大人しく納まっていた子犬を受け取ると、その小さな

前足を拝借して謙悟の頬をちょんちょんと小突く。

「謙悟くん謙悟くん、いったいどうしたワン?」

「…………いや、あんまりにも急に話が進むから、冴霞には悪いけど冗談かと思って」

「冗談って……あ、あぁ、そ、そうですよねっ!?」

 にわかに慌てふためいた冴霞がわたわたと両手を振り、ほのかに頬を朱色に染める。謙悟も「やっと気づいてくれたか」とばかりに溜め息をつき、くらら

もくららで冴霞の言葉を反芻する。

「んと、サエちゃんはさっき、今度遊びに来て下さいって――――――――わぁお、大胆発言だねっ!!」

「わ、わざわざ口に出さないで下さいっ!!?」

 くららから言われた自身の発言に取り乱してしまう冴霞。確かに、出会いはともかくまともに話すようになってからまだ日が浅い謙悟を、いくらくららを

交えているからと言って異性を家に誘うなど、大胆にも程がある。

「さっきのはナシ! 忘れて下さい!!」

「そうは言ってもねぇ〜、どうしますかな? 謙悟くん」

「そうだな。今日のところは忘れる事にしますか」

「今日のところはって何なんですか〜〜〜〜!!!!」

 周囲の客に迷惑になりかねないくらいの声を上げて抗議する冴霞を、くららが「冗談だよぉ」と言って宥める間、謙悟はくららから再度受け取った子犬を

店員に返してから携帯電話を開いて時間を確認すると、既に正午を過ぎていた。この後の予定はまだ何も聞いていない本日の主賓であるはずの謙悟だが、別

に無理に形式張ったお祝いをされるよりも、こうして楽しい時間を過ごせる方が嬉しいし、正直誰から見ても可愛いと言えるくららと、そして美人の冴霞と

いう文句なしの美少女二人に囲まれている事など、謙悟のこれまでの人生で一度たりとも無かった貴重な出来事だ。これで無理に時間だ時間だと急かすよう

な無粋は、控えておいた方が良いだろう。それに正直な気持ちを言えば、二人が笑っている姿を見ている方が謙悟も幸せな気持ちになれる。

 そう考えた謙悟だったが、その後さらに二時間以上二人に連れ回され、気が付いた時には午後三時近くになっていた。

 

 

 

「「謙悟くん、ごめんなさいっっ!!!!」」

 冴霞とくららからの謝罪を受けながら、謙悟は緩い歩調を止めて二人に振り返った。デパートでのウィンドウショッピングに時間を費やしすぎ、当初の予

定だった三人揃って最上階のレストランで食事をするというプランは見事に中止となるのみならず、予約していたレストラン側からも「他のお客様のご都合

もありますので……」という事もあって、キャンセルせざるを得なかったのだ。しかもその間、楽しんでいたのはくららと冴霞ばかりで、謙悟はそれにただ

付き合わされるだけだった。しかし、当の謙悟本人はというと。

「別に、謝るようなことじゃないだろ。二人とも楽しんでたんだから」

「だって、今日の主役は謙悟くんなのに……私とくららちゃんばっかり遊んでいて」

「だから、謙悟くんがしたいことあるなら何でも言って! あたし、頑張るから!」

 むん、とガッツポーズをして身構えるくらら。その頬が微妙に朱く染まっているのは自分が言った言葉に対する若干の照れと、謙悟のためならば頑張りた

いという純粋な好意の表れである。しかし謙悟はその可愛らしい覚悟に優しく微笑むと、くららと冴霞を交互に見た。

「じゃあ、パーティーの仕切り直しっていうわけじゃないんだけど……日ヶ峰商店街に、俺の友達の家がやってる喫茶店があるから、そこでケーキでも食べ

ようか。ついでに、遅くなったけど昼飯も食べたいし」

「うんっ!」

「は、はいっ」

 謙悟からの誘いにくららのみならず冴霞も頷く。誘う側と誘われる側の立場は逆転してしまったが、祝う事自体をまだ諦めたわけではない二人は密かに気

合を入れ直し、しかしそれぞれの内に抱える気持ちにも向き合っていた。それはくららだけではなく、冴霞にも当て嵌まる。

 実は冴霞もまた、謙悟のことは少なからず好意を抱いていた。その理由は謙悟もくららと同様に、冴霞のことを天上の存在として見ることなく一人の先輩

として接してくれるからだった。そしてやはり自身と同じく周囲の評価によって己の立ち位置を規定されている謙悟にどこか同じものを感じ、今では両方の

意味で得難い存在だと感じるようになっている。

 くららの言葉があったとはいえ、謙悟は今誰よりも冴霞に近い男の子になっていた。それは単純に、謙悟が冴霞のことを家族を除いて唯一名前で呼ぶ異性

であり、自分に対する遠慮も少しずつ無くなってきている事からだが、それ以上に冴霞自身が謙悟に対する目線が変わってきていた。今日のことも待ち合わ

せの時間に遅れるどころか自分よりも早く来るという律儀な点や、くららと一緒に時間を忘れて遊んでいたことを責めもせずにあっさりと許容し、その上で

仕切り直すチャンスまで用意してくれた。そこまで謙悟が意図していたかは分からないが、少なくとも冴霞にとっては絶好の機会だ。

「(…………でも、くららちゃんも、多分……謙悟くんのこと)」

 ふと視線を向けると、くららも冴霞のことを見上げていた。お互いに顔を見合わせて思わず微笑み合うが、冴霞は先程のくららの言葉を思い返す。

「(『謙悟くんがしたいことがあるなら、あたし頑張るから』――――なんて、普通言わないですよね)」

 くららの事は大切な友人だ。彼女が謙悟のことを好きだというのなら、身を引いてあげるのが正しい反応なのかもしれない。しかしもし自分が身を引いた

と知れば、くららは絶対に怒るだろうし、そんな事をする自分を許してはくれないだろう。そしてその怒りは冴霞がくららに遠慮したことよりも、冴霞自身

の望みを手放した事を理由に怒るであろうということも、二ヶ月という短い期間での付き合いながら冴霞は理解している。

 くららは本当に、天真爛漫で可愛く、そして何よりも優しい女の子だ。己の心にどこまでも真っ直ぐで、純真という言葉がこれほど似合う人はそういない。

自分が傷つくことよりも他人の痛みを心配し、慈愛の輝きに満ちた聖女のような存在。そんな彼女のことは心から大切に思っているし、友人以上の存在かと

問われたとしても、何の異論もなく頷ける。だからこそ、謙悟のような真摯な姿勢を見せる男性ならば、くららを大切にしてくれるとも思える。

「(私は、謙悟くんも、くららちゃんも……どっちも、好きだから)」

「(あたしは、謙悟くんにもサエちゃんにも、幸せになって欲しい)」

 お互いの想いは等しく相手の幸福を願う。それは以前に冴霞とくららが交わした、二人だけの約束に起因している。

 

 

 一ヶ月ほど前の五月初旬。世の中はゴールデンウィークという大型連休に浮き足立つ中で、冴霞はくららと一緒に陽乃海市市立図書館を訪れていた。勿論

図書館という場所に来る以上、本来の目的は勉学に励むことなのだが、その目的に費やした時間はわずか二時間程度に過ぎず、あとは図書館一階に設けられ

ているオープンカフェスタイルの休憩所で、二人はのんびりとお茶を楽しむことを選んだ。

「ねぇサエちゃん、前から聞こうと思ってたんだけど……サエちゃんって、彼氏とかいないの?」

「ぶっ……!? な、なにをいきなり!?」

 前置きなしの質問に思わず紅茶を吹き出しそうになりながら、冴霞は居住まいを正してくららを見る。どことなく太陽を思わせる赤みがかった茶色の髪は、

今日はいつも身に付けているヘアバンドを外しており、その代わりに肩よりも長いその髪を純白のリボンで結ぶというスタイルに変更している。

「だって、サエちゃん凄い美人さんなのに、今までそういう話題になったことないから。それでどうなのっ?」

 ミルクたっぷりのアイスコーヒーに刺さっているストローをマイク替わりに突き出して尋ねるくらら。冴霞はそのストローを手でずらすと、ゆったりと頬

杖をついて小さなため息をひとつ落とした。

「……まあ、全く興味がないわけではないですよ。ただ、幼馴染の女の子にも「彼氏くらい作れ」って言われていたんですけど、ずっと委員会活動や生徒会

活動を続けていて、そういう機会は全部自分から手放してきましたから、今更どうこうって言うのもちょっと……っていうのはありますね」

 冴霞の言うことに嘘はないが、それ以上に彼女自身のスペックが人並み外れているというのも要因ではある。男女問わず尊敬を集めている冴霞の事を好き

だという男子は陽ヶ崎高校でもかなり多いがしかし、冴霞の美貌、成績、立場という「外側」に囚われて気後れしてしまい、手も足も伸ばすことがかなわず、

結局進んで言い寄る程に勇気のある男は一人もいなかった。もちろん聡明な冴霞ならばそこにも気づきそうなものではあるが、男女の恋愛にはかなり疎いと

いう意外といえば意外、しかし経験がないために当然といえば当然な事もあり、少々鈍いところもあったりしている。

「ふぅん……そうなんだぁ」

「そうなんです。ところで、そう言うくららちゃんは彼氏はいないんですか?」

 仕返しとばかりに冴霞が質問を返すと、くららは「うっ」とうめき声を上げて苦笑いを浮かべる。その反応だけでおおよその予想は着いた冴霞だが、だか

らと言って追求をやめるような半端はしないあたり、意外と根に持つタイプなのだろう。

「なるほど。つまり、くららちゃんも彼氏はいないわけですね。そんなに可愛いのに、もったいないじゃないですか?」

「だ、だってあたし女子高だし、周りは女の子ばっかりだもん。それに、サエちゃんが言うほどあたし可愛くないよ?」

 世の女の子のみならず男性陣にも正面から喧嘩を売るようなくららの発言。くららほどに「可愛い女の子」という言葉がぴったり当てはまる女の子は、世

の中を探してもそうそう見つかるものではないというのに、その当人が否定するのなら一体誰をして「可愛い」と言えば良いのだろう。

「とりあえず、くららちゃんは一度じっくり鏡と向きあってよくその可愛い顔を見るべきですね。ちなみに誰か気になる人とかは?」

「何気に酷いこと言われた気がするけど……気になる人なんていないよぉ。それにあたし、男の子ってちょっと苦手だし……」

 くららの言葉に冴霞は頬杖を解いて、紅茶のカップに両手を添える。その表情はこれまでくららをからかっていた柔らかくも意地悪なものとは異なり、真

剣な感情をそのままに表している。

「苦手、ですか?」

「うん……あたし、自分で言うのもあれなんだけど、胸結構大きいの。小学生の頃からそれでからかわれて、中学生になったら……その……」

 ああ、と思わず納得する冴霞。一般的に、中学生になれば二次性徴期ということもあり保健体育の授業が行われる。それでこれまで女子の身体的な成長に

それほど頓着していなかった男子も、少なからず意識するようになる。その中でくららのように可愛いだけでなく、肉体的な面でも魅力的な女の子がいると

なれば、否が応にも目を引くというものだ。

「まあ、特に何かされたってわけじゃないんだけどね。男の子と普通に話したりするのは全然平気だし、胸が大きいのもそんなに気にはしてないんだけど、

ジロジロ見られたりするのはやっぱりイヤだから。そういう意味で、苦手なの」

 話し終えて、くららはアイスコーヒーを飲み込む。その表情に暗いものはそれほどないが、冴霞はくららにとって辛いことを、そして大切な事を聞いたと

いう事を理解し、そっと彼女の手を握った。

「サエちゃん……?」

「だったら、私は約束します。くららちゃんが素敵な男性と巡り合えて、本当にその人の事を好きになることがあったら、心の底から応援するって」

 その言葉に偽りがないと証明するように優しく、そして誠実ささえ感じさせる冴霞の笑顔。くららはただその言葉と表情だけで、冴霞の事を信じられた。

 くららは確かに冴霞が感じるように純粋だが、だからといって人を疑わないというほど愚かではない。時には相手を不審に思うこともあるし、同世代か、

それ以上の年齢の男性には特にそれが顕著だ。そしてそれに次ぐのが、実は同世代の女の子である。

 くららの容姿をすれば、例え本人が意識せずとも異性を惹きつけてしまう事は避けられない。それは時に不必要なまでの親切を受けることもあり、精神年

齢も肉体年齢相応に幼かった中学生の頃には一部の女子から軽度のいじめを受けていた。幸いにして実害はなく、多くの女子はくららの味方であったために

それほど大事にもならず事態は沈静化され、いじめを行っていた子達も最後にはちゃんと謝罪してくれた。

 しかし、過ぎ去った事だとしても当事者であるくららにとっては、そうそう簡単に忘れられる問題ではない。男性に対する苦手意識は根付き、普通に接す

る事は出来ても、とても恋愛感情にまでは発展しない。桃桜女子高の同級生から「彼氏いないの?」という話題を振られる度に否定を口にするのにも疲れ、

かといって自分から男性に積極的にはなれないくららを相手に、冴霞の言葉は余計なお世話――――だと、いうのに。

「うん……っ!! ありがとう、サエちゃん……」

 冴霞の手を握り返し、花咲くように綻ぶ笑顔。これまでごく普通に友人として接してきた冴霞を、くららは今日初めてそれ以上の存在だと感じられた。経

歴や聡明さといった上辺だけに形作られた優しさではなく、文字通りに心底からの誓いの言葉。そう感じられたからこそ、信じることが出来る。

 そして、友人以上に大切に思えるようになったのならば、くららからも。

「あたしも約束するね。サエちゃんが誰かを好きになって、その人が本当にサエちゃんのことを大切にしてくれるなら、あたしも精一杯応援するよっ!」

 互いを想い合い、互いの幸せを願う約束。いつか訪れたときの為に二人が交わした盟約。

 それが、二人にとって最も複雑な関係を生んでしまう事になるなど、誰にも想像し得なかった。

 

 

 

 日ヶ峰町商店街。時には『町』を省略して日ヶ峰商店街とも呼ばれるこの町は古くから栄え、子供から大人まで満遍なく浸透している古き良き商店街だ。

食料品や雑貨、服飾に書店、さらには料理店も多く立ち並び、少し入り組んだところには居酒屋や雀荘なども存在する。そんな日ヶ峰商店街の一角に居を構

えているのが、西洋風のレトロな外観で作られた『欧風喫茶レストラン ひいらぎ』だった。

「ここが、謙悟くんのお友達がされているお店ですか?」

「あんまり大きくないけど、可愛い感じのお店だね」

 くららの言う通り、見る人によっては可愛いと感じられる事もある外見は、それ故にあまり大きな店舗ではない。既に昼食時を過ぎている事もあってか、

通りに面している窓からは客の姿は見られず、閑散としているようだ。

「普通の日なら、ケーキ目当てで結構客も来るんだけどな。まあ丁度いいか……」

 謙悟がドアを開けると、上部に付いているベルがカランと音を立てる。聞いたことが無いはずなのにどこか懐かしく、また今時自動ドアでさえ無い構造に

冴霞は感心しながら、そしてくららは素直に感動しながら店内に足を踏み入れた。

 テーブル席は四人掛けの席が四つと、二人掛けの席が二つで合計六つ。カウンター席は六人分のスタンドチェアが設置されており、収容人数はかなり限ら

れているが、席と席の間は広く作られているためにゆとりもあり、貸し切りの立食パーティーなどを催せば相応の人数を収容できる造りにもなっている店内

の床は、全てが板張りで構成されている。そしてカウンター席の端にはケーキ用のショーケースが設けられ、色鮮やかなケーキは目にするだけで食欲を掻き

立てられるというものである。

「いらっしゃいませー……って、なんだ。新崎か」

「せっかく来てやった『お客様』にむかってあんまりな応対だな、ウェイターさん?」

 軽い感じのやや高い男性の声に振り返り、謙悟も低めの声で言い返す。向かい合う声の主は謙悟よりも十センチほど背が低く、しかしその顔は謙悟とは別

ベクトルで整った顔立ちをしており、テレビに出ているアイドルと比較しても何ら遜色の無いレベルの少年だった。

「…………冗談だってッッ!! いや、ホント何でか知らないけど今日全然客来なくてさぁ、ぶっちゃけ暇だったんだよ〜〜!!」

 ややもすれば緊迫した雰囲気だった場を一瞬に崩壊させる少年。冴霞もくららも思わず肩の力どころか膝が砕けそうになり、謙悟も謙悟で「やれやれ」と

言いたげな顔をしている。しかしウェイターの少年はさらに遠慮がないことに謙悟の肩に手を回すと、どすっと体重を乗せてきた。

「重い、熱い、離れろ」

「鍛えてんだから平気だろ〜? って、……………………はぁっっ!!?」

 視線の先にいた冴霞とくららを認めると、少年はたっぷり時間を空けて素っ頓狂な声を上げた。当然被害を一番受けたのは、耳元で大声を上げられた謙悟。

「……うるさいって、高平(たかひら)」

「お、おお、お前こそうるせー!! 今村先輩と一緒ってだけでも驚きだってのに、何でこんな可愛い子まで侍らせてやがるんですかお前様は!!?」

 珍妙な丁寧語を叫び散らし、謙悟の肩に手を回したまま逆の手でくららを指差す。不意打ちの行為と大声に驚いたくららはそそくさと冴霞の後ろに隠れ、

それを見ていた謙悟の表情も険しさを滲ませる真剣なものに変わる。

「そんな可愛い子をびびらせるな。ていうか、俺が相手ならいざ知らず、冴霞とくららはれっきとしたお客様だ。ちゃんと仕事しろ」

「そうだよ継(けい)くん。他に誰もお客様がいないからって、失礼だよ。そんな事してるとまたアルバイト代カットするからね?」

 介入してきた声にびくんと少年――――改め高平継が反応し、ぎりぎりと錆びたギアのような音を立てながら振り返る。そこにいたのは真っ白な調理服に

身を包んだ女の子であり、にこやかに微笑んではいるものの継に対する威圧感は生半可な物ではないらしく、当の継は小刻みに震えている。

「か、かな、め……サマ……」

「都合の悪いときだけ様付けしない。いいから継くんはさっさと厨房に下がって玉葱剥きしてなさい」

 皮剥きではなく玉葱そのものを剥けという無茶を申し付けられるが、継はすごすごと指示に従って厨房に引き下がっていく。その姿を見送ったくららが、

冴霞の後ろから出てくると、調理服の女の子は深々と頭を下げた。

「失礼しました。当店のスタッフが無礼なことをしたようで……誠に申し訳ありません」

「い、いえいえ、そんな……気にしてませんからっ」

 くららがそう言うと、女の子がゆっくりと頭を上げる。くららよりも若干背が高い女の子は肩よりも少し上で整えた髪と、十分に可愛いと呼んで差し支え

ない顔立ちをしていた。今は申し訳なさそうな表情を浮かべているが、きっと笑えば素敵な笑顔になるだろう。

「では、自己紹介させてください。欧風喫茶レストラン『ひいらぎ』アルバイト兼見習いパティシエールの、柊木要(ひいらぎかなめ)です。でも新崎くん?

継くんじゃないけど、今村先輩と一緒なんて凄いことだと思うけどな? しかも呼び捨てしてたし……いつの間に? それにそちらの人も」

「質問攻めするなよ。そういう関係じゃないって……それより、いい加減客を席に案内してほしいんですけど?」

 呆れたようでいながらも優しい口調の謙悟に、要もくすりと微笑んで一番奥の四人席を提供する。カウンターにも近く、またケーキのショーケースもすぐ

傍にある。丁寧な作りで色とりどりに飾られたケーキは見るだけでも楽しく、くららも冴霞も思わず足を止めてしまう。

「わぁ〜、すっごく綺麗で、ちっちゃくてかわい〜♪ ねえねえ謙悟くん、おススメのケーキってあるの?」

「私は、ティラミスが一番好きなんですけど……あ、ありました。へぇ、中にチョコレートソースを使ってるんですね」

 それぞれのケーキの横に書いてある一口メモに注視しながら好みのティラミスに目を輝かせる冴霞と、どれにしようかと目移りしているくらら。その様子

を見ながら謙悟は座席に一度荷物を置くと、二人の間に入ってショーケースを眺める。

「あんまり食べたりはしないんだけど、どれが好きかって言われたら……ガトーショコラかな。そんなに甘すぎるほどじゃなかったし。ていうか、俺あんま

りケーキ詳しくないんだ」

「そうなんだ。じゃあ、あたしはザッハトルテにしよっ! これもね、同じチョコレートケーキだよ。サエちゃんは?」

「一番好みの、ティラミスで行かせてもらいます。ちなみに、ティラミスはチーズケーキの部類ですからね、謙悟くん♪」

 謙悟を挟んで微笑み合う美少女二人。その頬はどちらもほんのり桜色に染まっており、それに気づいてか気づかずにか、謙悟の声も表情も柔らかなものに

変わっている。

 やっと迎えられた祝いの席。しかしその席以上に、冴霞とくららは互いの気持ちと謙悟への想いを確信し。

 そして、三人目の当事者である謙悟もまた、自分の気持ちを理解し始めていた――――。

 

 

 

「お待たせしました〜……追加のブレンドコーヒー、こちら無料サービスです」

 少々疲弊した様子の継がトレイに三人分のカップを乗せ、謙悟たち三人が座っているテーブル席にやって来る。相変わらず客足の途絶えた『ひいらぎ』は

貸切状態と言って差し支えなく、普段の混雑ぶりが嘘のようである。

 そんな中で謙悟は対面に冴霞、斜め向かいにくららという美少女二人に囲まれて、共にケーキを食していた。乾杯はケーキセットの紅茶という何とも言え

ない選択しかなかったが、それを不満に思うような三人でもない。むしろくららに至っては「乾杯したら一気飲みが礼儀だよねっ!」と言って実際にそれを

敢行し、熱さに悶えるという自爆技まで披露してしまっている。

「くららちゃん、やっぱり無理そうですか?」

「はぅ……うん。舌が痛くて、熱いの飲めないよぅ……」

「無茶するからだ、まったく……高平、くららの分は俺がもらうから。アイスティー追加な」

「へいへい、っと。……あ、一応俺も自己紹介。陽ヶ崎高校二年五組、欧風喫茶レストラン『ひいらぎ』アルバイト、高平継です。よろしく」

 腰から折れる丁寧な礼。くららはそれに対して慌てながら姿勢を正し、冴霞も背筋を伸ばして頭を下げる。

「お会いしたことは何処かで有るかも知れませんが、改めまして。はじめまして、今村冴霞です。よろしく、高平くん」

「あたしは、桃桜女子高三年二組、南條くららです。こちらこそよろしくね!!」

 くららの自己紹介を聞いて、継の笑顔が氷結する。謙悟に向いた首は言葉もなく「マジ?」と問い掛けているようで、謙悟はそれに対して溜め息混じりに

「ああ」と頷いて肯定する。そして継の首は再びくららに向き、頭の上に「?」と疑問符を浮かべて首を傾げる彼女を認めて。

「…………新崎くんは年上キラー!!!!」

「誰がキラーだ。それより高平、お前今くららの事を年下だと思ってたな?」

 謙悟が指摘すると、継はあからさまに視線を外す。しかしいつもならばそれを咎める事も無く溜め息一つを落とす謙悟だったが、今日この時ばかりは例え

相手が継であっても――――否、友人である継だからこそ許しておくわけにはいかない。

「……高平。前に言ってたよな。『自分はどんな理由があっても、女の子を傷つけるような事はしないし、傷つけるような奴は許さない』って。けど、今の

お前の態度で、くららが傷つくとは少しも思わなかったのか?」

 少々込み入った事情ではあるが、謙悟の言うように継は女性に対して無礼を働く者には容赦がない。しかしだからと言って自分がその規律を侵害して良い

という理由はどこにもない。自身の信念を自ら歪めている事を指摘された継は苦虫を噛み潰したような表情になり、謙悟では無くくららの方に振り返ると、

何も言わずに頭を下げた。

「済みませんでした!!」

「べ、別に気にしてないよっ!? だって初対面だし、年上って言っても高平くんとあたしは一歳しか違わないんだし……謙悟くんも、あたしなんかの事で

友達いじめちゃダメだよ。ね?」

 くららの優しい言葉に継の表情も晴れ、「んじゃ、アイスティーお持ちします」と去って行ったが、その一方で謙悟は自分の態度に正直驚いていた。

 継の言動が軽いのは今に始まった事ではない。時に幼馴染であり、今は恋人である要をして「空気読めてない」とまで言われてしまう継だが、場を和ませ

る為に敢えて道化を演じる事もある。折角の美形なのにもったいないとは謙悟も思うが、しかしそうした持ち前の明るさと、なによりも友人関係を大切にす

る継の事は、得難い友人だとも思っている。そんな彼が何気なく漏らした、いつもの場を和ませる目的の冗談だとしても。

 一瞬とはいえ、くららに対して無礼とも思える態度を取った継に対する怒りを抱いた事は、謙悟にとって一つの感情を自覚させていた。そしてそれは、同

時に今まで謙悟が冴霞に対して抱いていた気持ちと同じものでもある。

「……ごめん、二人とも。俺ちょっと……トイレ」

「あ、はい。気にしなくても大丈夫ですよ」

「うんっ。いってらっしゃい♪」

 冴霞とくららに見送られて席を発ち、店の奥へと足を運ぶ。座っている席とは逆の奥に『ひいらぎ』のお客様用手洗いは設置されており、カウンターの従

業員用通用口からもすぐ近くになる。謙悟が手洗いに辿り着くと、そこには謙悟の予想通りに継が待っていた。

「……空気読めないとか言われてるくせに、こんな時だけ気が回るんだよな。高平は」

「そりゃなぁ。普段から仏頂面でクールな新崎クンが、あんな態度取るなんて普通じゃねーし。でもいいのかよ? あんな美人二人ほったらかして」

 曲がり角になっている上に背の高い観葉植物が置かれているおかげで、継が覗き見てもそれとは分からない位置。その壁に謙悟は背中を預け、小さくない

溜め息を落とした。

「悪いとは思ってるって。けど、本人たちに言えるような事でもないんだぞ?」

「ふぅん……つか贅沢な悩みだよな、お前の場合。新崎が――――ていうか、陽ヶ崎の生徒で今村先輩のこと嫌いな男子なんてまずいねぇのに、そんな中で

新崎は今、一番今村先輩と普通に話せる関係だろ? それにお前自身、先輩の事気になってるんだし」

「…………まぁ、そうだけど」

 反論しようとしたが言葉が見つからず、謙悟は渋々といった感じで継の言葉を肯定する。すると継はニヤリと笑い、謙悟の横に同じようにして壁に寄り掛

かり、腕を組んで謙悟を見ずに口を開く。

「今村先輩も今村先輩で、自分が新崎を生徒会に入れたからって、わざわざ歓迎会開くなんて普通やらねぇよ。それに男と一緒にいるところなんて学校でさ

え見ないのに、プライベートでわざわざ会おうとするなんて……間違いなく、向こうもお前に気があるなっ!!」

 うんうんと自分が納得するように首を縦に振る継を横目で見下ろしながらしかし、謙悟もその言葉には同意せざるを得なかった。今村冴霞が例え同校の男

子が相手であっても休日に一緒に外出しているとなれば、デパートという目撃される可能性が少なくない場所である以上噂の流布は懸念される。その程度の

事が冴霞に分からないはずは無いというのに、にも関わらずそういう場所をわざわざ選んだ以上、継の言う事にも一理ある。

 そして、もう一人の当事者であるくららはと言えば。

「で、あの……南條先輩だっけ? あっちもあっちで、新崎は意識してるよなぁ。それに俺も初対面だけど、すっげー可愛いし。セクハラになっちまうけど、

胸デカいし――――いてっ」

「そういう事言うな。分かってるんなら自重しろ」

 謙悟の左手が継の脇腹を突き、その微妙なくすぐったさに継も思わず身を捩る。しかし懲りた様子は微塵も無く、むしろ今の謙悟の反応で確信したのか、

継はどことなく意地の悪い笑顔を謙悟に向けてくる。

「なんか随分大事にしてるみたいだけど、やっぱり意識してんな。二股なんて漫画やドラマじゃねぇんだから、止めとけよ? でも、俺の見たところじゃあ

南條先輩も新崎の事かなり意識してるっぽいぜ? お前だって素材は悪くない――――つか、人並み以上のモノ持ってんだから、ちゃんとどっちかに決めて

付き合うのが一番だと俺は思うけどな。欲を言っちまえば、どっちも欲しいって気持ちはあるのかも知れねぇけどさ」

 どちらとも欲しい。どちらとも付き合う。

 確かに、そう出来れば一番良いのかも知れない。

 しかしそれがどれだけ愚かな事で、どれだけ非常識で。

 そして、どれだけ相手の心を傷つけるかを理解出来ない新崎謙悟ではない。

 二兎を追うものは一兎をも得ず。欲を掻き過ぎれば待っているのは破滅だけだ。それが自分のみにならばいざ知らず、冴霞もくららも傷つけると言うのな

ら、謙悟がその選択をする事は決してない。

「付き合うとか、そういう話じゃないんだけどな……ただ、どっちも気になってる――――っ?」

「それを、好きだって言っても良いんだっての。俺だってそんな恋愛経験豊富じゃねぇ……つか、一回しかないから偉そうなことは言えねぇけど」

 仕返しとばかりに謙悟の左脇腹を突いた右手でVサインを作り。

「あんなに可愛い二人ならどっちを好きになったって文句はねぇし、あの二人だって、好きな相手が決めてくれた事なら、きっと納得すると思うぜ?」

 粗野な言葉遣いとは真逆の優しい笑顔を向ける継。その言葉に少し心が軽くなるのを感じながら、謙悟は親友に感謝の気持ちを抱いて席に戻った。

 

 

 

 『ひいらぎ』での歓談を過ごし、携帯電話の番号とメールアドレスも交換した三人は、バスを使わずに歩いて帰る事にした。冴霞とくららが住む天桜町は

天崎駅からほど近く、日ヶ峰町からもそれほど遠くは無い。しかし謙悟が住む暁月町は歩いて帰るには遠過ぎるため、先に二人を送っていく形になった。

「まさか、お土産にケーキを頂くとは思いませんでした……」

「すっごく美味しかったけど、なんだか悪いことしちゃったね」

 冴霞が言うように、彼女とくららの手にはそれぞれ『ひいらぎ』のケーキが持たされている。継からの謝罪と要からの好意という名目であり、どちらの品

も要自らが手がけた逸品だ。まだ見習い扱いながらもその技量はプロのパティシエールである要の母から直伝されたもので、プロを目指すに足る実力という

周囲の評価に偽りなく、味の保証は十分過ぎるほどである。

「高平と柊木がいいって言うんだからいいんだよ。ちなみにあの店、普段の休みなら並ぶこともあるからな」

「ちょ、け、謙悟くん、ヘンなプレッシャーかけないでよぉ!? また今度、行こうかと思ってたのに〜……」

 抗議の目線を向けるくららは名残惜しげに『ひいらぎ』のケーキボックスを掲げてにらめっこをする。中に収まっているのはモンブランとザッハトルテ、

そして三人で選んだフランス風のショートケーキ・フレジェだ。冴霞のボックスにも同様の物が収まっており、その冴霞も謙悟の言葉を聞いて心なしか持ち

方を変える辺り、くららと同じくまた行きたいと思っていたのだろう。

「じゃあ、今度はまた三人で。予約してから行きましょうね」

「そうだね。謙悟くんも、ちゃんと予定空けておいてね?」

 振り返り、笑顔を向けてくる冴霞とくらら。美しく愛らしいその表情に謙悟の胸は高鳴り、継の言葉を思い出す。

「――――――――冴霞、くらら」

 歩みを止めて、二人を見る。振り返っていた冴霞とくららはそのまま足を止めて謙悟を見上げ、その思い掛けない真剣な表情にどちらも仄かに頬を染める。

「は、はい……」

「どうしたの、謙悟くん……?」

 精悍さに加えて凛々しささえ感じさせる表情のまま、謙悟がそっと二人の手を取る。それだけで彼に恋している二人は心臓が飛び出しそうなほど緊張して

しまうが、同時に自分達の手を握っている謙悟の手が微かに震えている事にも気づいた。

「その……いきなり、こんな事言うのはおかしいって自分でも思ってる。それに、くららとは今日初めて会ったばかりだから、変な奴だって思われても仕方

ないと思うけど…………やっぱり、はっきり言葉にしておきたいんだ」

 見せかけだけの格好や態度で、相手を傷つけたくは無い。それはかつて、謙悟が中学生時代に体験した苦い失恋から得た教訓。

 自分を利用しようとして、偽りの自分を演じていた古谷美優という女子と、それに気づかないまま交際してきた謙悟は、結局美優の願いに応える事をしな

かった。そんな謙悟に嘘をついている事を告げた彼女を謙悟は赦したが、以来彼女と接触する事は避けていた。そのままなし崩しに中学を卒業し、関係は途

絶。互いの連絡先こそ知っているものの、もう触れ合う事も言葉を交わす事も無い。しかし美優との関係によって得た物は何もマイナスばかりではない。

 大切なものを手放さないために、嘘をつかない。時間の流れるままに任せて、居心地の良い嘘の関係を続けない。

 自分の気持ちに正直に。それが今、誰よりも大切だと感じ始めている二人の女の子に対して謙悟が出来る、精一杯の誠意。

「今の俺は…………冴霞も、くららも、どっちも好きだ。これから二人の事を知って行けばきっと、もっと好きになる自信がある。二人にこんな事言うなん

て、非常識だっていうのは分かってるけど……これが俺の、正直な気持ちだから」

 言葉を紡いだ唇が小刻みに震え、倒れそうになる脚をぐっと踏ん張って堪えながら、謙悟の視線はただ冴霞とくららだけを見ている。

「「謙悟くんっっ!!!!」」

 刹那のズレも無く、全く同じタイミングで重なる感極まった二つの声。そして謙悟の腕と胸にそれぞれが飛び込んでくる。二人合わせれば謙悟の体重を優

に超えるだけの質量と、それに乗じた衝撃ながらも謙悟は踏み止まり、目線の高さは異なりながらも見つめてくる冴霞とくららを受け止めた。

「私は……ううん。私も、謙悟くんの事が好きです。今はまだぼんやりとしているけど、きっと……謙悟くんが感じているのと同じように、もっともっと好

きになって行くと思います。……くららちゃんは?」

「あたしは正直に言っちゃうと、そのぉ…………は、初めて会った時から謙悟くんの事、好きになっちゃた。……でも、サエちゃんが謙悟くんの事、好きな

のも何となく、分かってたから……どうしたらいいのか、分かんなくて……」

 尻すぼみに小さくなるくららの声。冴霞のように迷う事のない強さはなく、むしろ冴霞の為に己を犠牲にしようとさえ考えていた弱さはしかし、己の痛み

を顧みないという点においては、ある意味で強さでもある。しかし結局はそれも、痛みの強さに耐えられなければただの虚勢でしかない。

「だったら、答えは簡単じゃないですか?」

 そこへ上がったの声は冴霞のもの。落ち込むくららの肩に手を当てた彼女は優しく微笑み、そして謙悟を見上げる。

「私たち、三人でお付き合いしましょう♪」

「……………………」

「……………………」

 思考が止まる。言葉の意味が分からないし理解も出来ない。いや、理解は出来るものの、それはおよそ一切聞いた事のない解決策。

「? どうかしましたか、二人とも?」

 首を傾げて二人を見る冴霞。その表情はただ疑問しか浮かべておらず、くららも謙悟もそれでようやく我に返る事が出来た。

「いやいやいやいや、サエちゃん! それ、絶対おかしいし!?」

「非常識過ぎるだろ、流石に……」

 反論する二人。しかし冴霞はさらに謙悟の手も掴むと。

「だって、私は謙悟くんが好きだし、くららちゃんも謙悟くんが好き。そして謙悟くんは私たち二人とも好きなんだから、解決策はこれくらいしか無いじゃ

ないですか。それに私はくららちゃんの事も大好きですし……くららちゃんはどうですか?」

「あ、あたしは……うん。サエちゃんの事、大好きだよ。謙悟くんの事も、もちろん……好き」

 確かに三人で付き合うという発想自体が飛躍し過ぎているし、まともな関係ではない。しかし謙悟の気持ちである「どちらも好き」という考えに則るのな

らば、冴霞の意見ほど相応しいものは無いのもまた事実だ。そして冴霞もくららも同じ気持ちであるのなら、関係を否定する要素は最早、「常識」という観

念のみしか残されていない。

「謙悟くん……」

 困ったような、それでいて照れたように頬を染めるくらら。きっと彼女は冴霞の考えに賛成したい気持ちの方が強いのだろう。

「どうですか、謙悟くん?」

 自信さえ感じさせる笑顔の冴霞。それでもその頬はくららと同様朱に染まっており、彼女が二人の事を好きだという気持ちを雄弁に表している。

 最後の決定は謙悟に委ねられている。そんな中で謙悟が考えていたのは、継との会話だった。

 

 ――――欲を言えば、どっちも欲しい――――

 

 ああ、そうだ。冴霞もくららもどちらも欲しい。それは自分だけの我儘だと思っていた。だけど目の前にいる、そして俺の腕の中にいる二人はどっちも、

俺の事を好きだと言ってくれている。さっき決めたばかりじゃないか、自分の気持ちに正直になるって。見せかけだけの格好や態度に捕らわれないって言う

なら、それは当たり前の常識にも捕らわれていたら、大切なものを壊すっていう事でもあるんだ――――。

 

 

「ありがとう……冴霞、くらら」

 一筋、涙が落ちる。しかし声は籠らず、表情も崩れてはいない。謙悟は変わらず精悍なままに、だが唯一異なるのは。

「俺の事を好きだって言ってくれて、ありがとう。こんな俺で良ければ、二人とも――――付き合って下さい」

 謙悟の笑顔と言葉に顔を見合わせ、見惚れるほどに愛らしい笑顔を浮かべて返す二人。そしてその口から奏でる答えは、すでに決まっている。

「「喜んで、よろしくお願いします!!!!」」

 

 

 運命が紡がれる。それは二つの旋律ではなく、更に織り込まれた三重奏。

 奏でる未来に不安はあれど、三人で立ち向かい、協力し合い、そして愛を育んでいく。

 三人で作り上げたばかりのBGMは、これから始まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 Epilogue

 

 六月二十二日、土曜日。

 三人で付き合い始めてから三週間が経った今日、謙悟は以前アルバイトをした写真スタジオを訪れていた。何でもオーナー曰く、若い女の子をモデルにし

た写真を数点撮りたいらしく、アルバイト経験者の中で一番若い謙悟に白羽の矢が立ったというのが、今回の経緯らしい。

「にしても、たった一度日雇いで入っただけなのに、良く俺のこと覚えてましたね」

「ははは、キミもなかなか良い素材だったからねぇ。モデルやってくれるなら、新崎くんのアルバイト代も出すよ?」

 初老のオーナーは人の良い笑顔を浮かべながら、既に用意していたスーツを謙悟に手渡す。嵌められた、と思ったが既に遅い。謙悟は溜め息を吐きながら

更衣室を借り、手早く着替えを済ませる。

「……なんで俺までこんな服を」

 謙悟が着たのは結婚式用の正礼装であるフロックコート。背の高い謙悟には良く似合うが、いくらエアコンを効かせているスタジオ内であっても、流石に

長時間着続けるには暑い服装である。

「ていうか、女の子だけじゃなかったんですか?」

「まあまあ、相手がいる方が気分も盛り上がるだろう? それに今回は急な話だったのに、二人も連れて来てくれたんだし。なんだったらペアで撮ろうか?」

 二人で撮ってもらえる――しかも無料――というのは心揺らぐ誘いだ。値段は当然スタジオによって異なるが、大体一ポーズ一万円前後というのが相場。

さらに人数が増えれば料金も上乗せされる上に、プリントの場合はその代金もかかる。それら丸々無料というのならば。

「だったら三人で撮って、それプリントして下さい。あとは女の子だけの分もプリントで。その代わり、俺の分のバイト代は要りませんから」

「むむ……分かった分かった。それで手を打たせてもらうよ」

 と、二人の会話が終わったところで、同伴する女性スタッフと一緒に女の子二人が現れる。もちろんそれは冴霞とくららであり――――どちらともに、美

しい純白のウェディングドレスに身を包んでいた。

「ほぉ……いや、これほどとは……これは、撮り甲斐がありそうだ」

 何やらやる気を出したらしく、オーナーはいそいそと機材の調整にかかる。他のスタッフも忙しなく準備をする中で、同じデザインのドレスを身に纏った

二人を謙悟は撮影ブースまでエスコートする。

「二人とも同じの選んだんだな。変えてくるかと思ってた」

「だって、レンタルだもん。そんなに種類なかったし」

「それに二人完全にお揃いってわけじゃないんですよ?」

 言われてみれば、冴霞の方はヴェールを身に着けているがくららにはそれが無く、逆にくららの方は普段身に着けているヘアバンドの代わりにティアラを

頭に着けている。さらに二人の身長差は普段なら十三センチもあるのだが、どうやらくららの方がややヒールの高いウェディングシューズを履いている上に、

冴霞の方は逆に低めの物を選んでいるらしく、いつもより二人の頭の位置が近い。些細な違いだが元々の素材が極上の美少女という事もあり、同一のAライ

ンドレスであっても気にならず、むしろくららと冴霞の高さが縮まった事により、謙悟との距離もより近くなったことは正しく僥倖だろう。

「それより、撮影が始まる前にやっておきたい事があるんです。ね、くららちゃん♪」

「うん♪ 見て見て、このブーケ可愛いでしょ。 二人で作ったんだよ?」

 ありふれた造花で作ったウェディングブーケは手に収まる程度の物ではあるが、通常のサイズよりもやや大きい。それを二人の距離を詰めるように冴霞が

くららの肩を抱き寄せて二人で一緒に手に持ち、スーツ姿の謙悟に差し出した。

「……男が受け取っても良いんだっけ、ブーケって」

「受け取った人は、次に結婚するっていうジンクスはありますけど」

「それが女の人じゃなくちゃいけない! っていう決まりは無いのですっ!!」

 麗しい花嫁二人からブーケを渡される。それは本来ならば有り得ない光景。

 しかし、いつの日にか。このままの関係を続けていけると信じて疑わない三人ならば。

 きっと、同じような未来になる事は疑う余地のない、彼らの未来予想図。

「「私たちと、結婚して下さいっ」」

「謹んで――――お受けします」

 衆人環視の中では口づけを交わす事は叶わない。けれど確かな誓いはここに残る。その誓いを証明するために謙悟は、二人の六月(ジューン)()花嫁(ブライド)が紡ぎ上げた花束

を受け取った。



 

                                                                   End.






あとがき:

これまでの連載作であるBGMを中心に置きつつ、01で書いた『人と人の出会いが新しい自分を作る』に基づいた作品。
一つの出会いは偶然ではなく、これからの自分を変えて行く大きな転機。それを『運命』と定義し、冴霞、謙悟、そして
くららちゃんの三人が巡り合い、惹かれ合う関係を描きました。最終的に謙悟が告白した内容については現実的には否定されるべき
物である事は周知の事実ですが、それを『悪』と定める事はしません。誰にだって、大切なものを選べない時はあるのだから。
前二作によってようやく、くららちゃんのキャラクターが固定された記念作でもあります。明るく朗らかながらも、芯の部分は人並みの
女の子。それを支えられるのは謙悟と冴霞という、大切な二人の恋人。一番非常識なのは一番常識的であるハズの冴霞だったのかも?


管理人の感想

三話目は、謙悟と冴霞、そしてくららによる一風変わった恋模様をお送りしていただきました〜^^
こちらもまた、本編であるBGMとは少し異なる世界。謙悟と冴霞はまだ付き合っておらず、しかし互いに意識はしているという状態。
そんな中で一石を投じたのが、天真爛漫っ娘のくらら。
先に冴霞と知り合い、親友同士となるわけですが、紹介してもらった謙悟に一目惚れ。
純粋で真っ直ぐな二つの――――いや、三つの想い。重なり合っても反発することなく溶け合ったそれらは、彼らに新しい答えを示したわけですね。
互いの想いに気付きながらも、諦めることも諦めさせることもしなかった冴霞とくららだからこそ、この苦難に溢れた―――しかし何事にも替え難い幸せを手に入れられたのでしょう。

次でラストです。四話目はこの話のアフター。あっまあまにしてやんよ、なので皆様コーヒーの用意を(笑)



2010.10.6