Memories Base 5th Anniversary
BGM Parallel World Story
七月末。
梅雨も明けきり本格的に夏というイメージが強くなるこの時期、神崎勇悟はテラスに寄りかかってようやく一息をついた。
目の前に広がるのは白い砂浜と、太陽の光を反射して輝く海。別荘風の邸宅から望む景色はまさに夏そのものといった感じで、同時にうだるような暑さも
海から吹く潮風とその景色もあってか、幾分かは和らいでいる……と思えたのはこの邸宅に来るまでの話であり、作業を途中で切り上げて休憩を取っている
今となっては、景観による精神的な清涼感など微塵も感じられなくなってしまった。
「あっつ……」
太陽の位置はちょうど真上に達し、時刻はそろそろ正午に差し掛かろうとしている。片付けのほうもある程度の目処が立ってきたので、一度切り上げて食
事にしようかと勇悟が考えていると。
「ユウく〜んっ、ごはん出来たよぉ〜っ♪」
ぺたぺたとスリッパも履かずに素足のまま現れたのは、エプロン姿の女の子。手には何故か菜箸を持ったままで、エプロンから伸びるすらりとした細い脚
線が眩しく映える。トレードマークのヘアバンドは外しており、代わりに着けているのはメイド風のヘッドドレス。
「何つけてんの、キミは……」
「衣装の中にあったから、着てみましたっ!! どうどう、似合う〜?」
くるんと一回転して菜箸をビシッと突き出しポーズを取る。エプロンを揺らす大きな胸がたゆんと弾み、また回転した事でエプロン下の衣服を勇悟もしっ
かりと見えてしまい、微妙に頭が痛くなってしまう。
「いくら暑いからって……水着の上からエプロンとか、やりすぎだろ」
「あたし暑いのキラいだも〜ん。だから、お昼はおそうめんだよっ」
そう言われるだけで暑さがほんの少し和らいだ気がするのは、やはりそうめん特有の清涼感を連想するからだろう。彼女の料理はこれまでにも何度か御馳
走になった事もあるが、意外な事に割とまともなものばかりだった。それを言うと、彼女はいつも不満げに頬をぷぅっと膨らませて可愛い抗議をしてくるが、
正直それも楽しみといえば楽しみでもある。もっとも、もしこれを本人に言えば、きっと同じような顔で怒ってくるだろう。
「ほらほら、はやくしないとおそうめん伸びちゃうよぉ。急いで急いで〜」
ぐいぐいと手を引っ張られ、よたよたと歩き出す。相変わらず華奢で小さな手は今まで料理をしていたせいかひんやりと冷たく、汗をかいて体温も上昇し
ている身体には心地良い。それでなくても、彼女と手を繋いでいるという事は勇悟にとってこの上なく嬉しい出来事であり、また心安らげる時間なのだ。
「分かったから、自分で歩くって。ところでそっちの片付けは終わった? 夏休みの宿題」
「う゛…………――――――――い、いいのっ! 夏休みはまだ一カ月あるんだから、旅行中くらい忘れますっ!!」
悔しそうな、それでいて怒っているようで泣きそうな、微妙過ぎる表情。成績は悪く無いとの事だが、だからと言って勉強が得意というわけでもない彼女
が今回の旅行に同行する際、勇悟から出したちょっと意地悪な条件が『夏休みの課題を持ってきて、少しでも進める』だった。仮にも来年の一月には受験す
るのだから、他の同級生を差し置いて遊ぶなど、馬鹿にしすぎも良いところである。
「まぁ、おれもあんまり成績良く無かったけど。それでも、推薦入試通るためにちゃんと勉強したんだから。くららも、ちゃ〜んと頑張らないとな?」
ぽむ、と柔らかく細い髪を撫で、優しく頭を撫でてなだめる。それが心地いいのか、くららこと南城くららは「むぅ〜」と奇声を発しながら目を細めて勇
悟の手を抵抗なく受け入れたかと思うと、不意に目を開いて彼を見上げた。
「じゃあ、ユウくんも手伝ってくれる? ユウくんは早く片付けて、あたしはあたしで出来るところやるから。ね? それでちゃんとノルマ終わったら、海
で遊ぼうよっ!!」
言いながら勇悟に抱きつき、ぎゅぅ〜っと身体を押し付けてくるくらら。エプロンと水着という薄過ぎる格好では、彼女の『豊か』という言葉でさえ不足
してしまう豊潤な胸が否応なく密着し、色々と大変な事になってしまう。
「ぜ、善処します……」
「やったぁ! ユウくん大好きっ!!」
首に飛びかかられ、勇悟が思わずバランスを崩しかける。しかし倒れる事はせずにくららを受け止めると、いつものように優しく笑う。
「じゃあ、まずはくららちゃんお手製そうめんから食べるか」
「うんっ!!」
付き合い始めてようやく二カ月。初めての夏休みは、くららの高校生活最後の夏休み。そして勇悟にとっては初めて、夏休みと呼べる休みのない夏。
海にほど近いこの邸宅で、二人は初めての小旅行を楽しむ事になっていた。
Boy meets Girl ~es ist wie ein glanzender Sonnenschein~
After Short Episode Sea Side Summer - vacation !!
事の発端は、勇悟がアルバイトを勤めるレンタルスタジオ『平木スタジオ』がこの夏にかけて貸し出す予定で新規建造した施設の設備点検と、荷物の搬入・
設置を行うという話がきっかけだった。本来ならば古参のスタッフも立ち会って行うべき大仕事になるはずだったのだが、貸出先に予定していた契約が急遽
キャンセルという事態になり、大幅なスケジュール調整がかけられる事になった。また、設備点検は建造元の会社の方で保険会社立会の元に事前に済ませて
いるという話も後になって入って来たため、さらに人員を割く必要が無くなったのである。これにより、大口の契約は無くなり件数も減った事で、新人育成
という名目も叶えられる状況になったので、アルバイトである勇悟に白羽の矢が立った――――というのが、勇悟がこの邸宅にやって来た理由である。
自動車の免許は高校卒業前に自動車学校へ通って取得していたために平木スタジオの手配でワンボックスのレンタカーを用意してもらった。荷物はほとん
どが撮影用の機材と、スタジオ側から用意できるいくつかの小道具。機材の重量はかなりのものだが、元々体格の良い勇悟ならば大丈夫だろうという判断も
あり一任されている。また、施設点検は済んでいるが清掃までは完全ではないだろうとのことで、邸宅の清掃と周囲の掃除も命じられた。目の前には海が広
がっているため、一通りの準備が済めば日帰りせずに少しばかり羽を伸ばしても良いという好待遇に勇悟も納得。意気揚々と準備したのだ――――が。
「おっはよーございまぁ〜すっ!!!!」
出発当日の朝になって勇悟を起こしたのは、目覚まし時計でも妹・神崎真那佳のフライングボディプレスでもなく、くららの天まで抜けそうな挨拶だった。
「…………今、何時だっけ」
もぞもぞと携帯電話を取り出し時刻を確認すると、驚いた事にまだ朝六時にもなっていない。かろうじて勇悟の義母である夕子が起きているかどうかとい
う時間帯であり、妹の真那佳などはきっと夢の中だろう。勇悟も、高校生の頃は朝錬で早起きする習慣が身についていたのだが、剣道に打ち込まなくなって
以降は徐々に起きる時間も遅くなり、今ではせいぜい六時半くらいに起きるのが日常となっていた。
「っていうか、なんで……――――ふぁ。くららが朝から俺の部屋に?」
大きな欠伸を一つ落としてから疑問をぶつける。夏らしく薄手のキャミソールとミニスカートを身に着けたくららは、やや不満げに腰に手を当てると。
「今日からユウくん、お出かけでしょ? しかも結構大変っぽいから、くららちゃんが助太刀に名乗りを上げるのですっ」
びしっとサムズアップして親指を突き出し、ウインクまで飛ばしてくるくらら。起きぬけの頭では満足に思考も働かないが、勇悟は上半身を起こしてポリ
ポリと頭を掻いてからまた出そうになった欠伸を噛み殺し、寝ぼけ眼でくららを見る。
「うん、確かに猫の手も借りたいくらいだとは思うけど」
「だからぁ、無料レンタルおっけーだってばっ。猫の手貸しますにゃん♪」
招き猫のように手をくるんと捏ねて、くららがとすっとベッドに体重を預ける。前屈みの姿勢のまま、それこそまるで猫のようにしなやかな動きで勇悟の
顔の前まで来ると、もう一度「にゃ?」と猫語で問い掛けてくる。その仕草もどこか小動物的なところがあるくららには異常なまでに様になっており、しか
し小動物にはほど遠い豊満なバストが重力に負けず、ふるふると形を維持しながらも揺れて、色んな意味で勇悟は悩殺寸前だった。
「手伝ってくれるのは嬉しいけどさ……くらら、勉強は良いのか? 一応受験生だし、課題とかもあるんだろ?」
そう言うと、くららの表情があからさまに曇る。分かりやすいなーと思いながら勇悟は苦笑し、すぐ側まで伸びていたくららの手をそっと握った。
「ついて来るのは良いけど、その代わり条件。くららはちゃんと勉強道具を持ってきて、課題をする事、な?」
「うぅ…………はぁ〜い」
渋々ながらも了承の返事をして、くららも勇悟の手を握り返す。朝の支度はこれから始めなければいけないので、くららには少し待ってもらわなければい
けなくなるが、結果的には早起きした事と一度くららの家に寄る用事が出来た為、予定よりもかなり早い出発になった。
その後、くららの家から課題一式と筆記用具を調達し、さらに何かしらの荷物を詰め込んだトートバッグをぶら下げたくららを連れてレンタカーを受け取
り、そのまま一時間ほど車を走らせて辿り着いたのが別荘を思わせる大きな邸宅だった。一階建てながら横に広く、撮影用に使える部屋もいくつも用意され
ている。また仮眠用としては贅沢過ぎるほど立派なベッドも用意されており、至れり尽くせりといった感が随所に盛り込まれている。
「わぁ〜♪ すごいすごい、ホントに別荘みたいっ!! 目の前なんか海だし、サイコーだねっ!!」
「遊びに来たんならな。荷物は適当な部屋に置いておいていいから、あとは台所、ちゃんとガスも電気も通ってるから……これ、冷やしておこうか」
まず最初に取り出したのはクーラーボックス二つ。中にはぎっしりとジュースや飲料水、さらにはアルコール系飲料まで入っている。
「びーる入ってる……ユウくん飲むの?」
「運転してて飲んだら逮捕だっつうの。打ち上げとかで使うんだってさ。でもジュースくらいなら飲んでも良いって、OK貰ってるから」
炭酸とアイスティーを取り出して、ワックスを掛けたばかりの床にことんと並べる。そこに勇悟が腰を下ろすと、くららも真似して彼の対面に座った。
「じゃあ、まずは一本だけ」
「はぁい。運転お疲れ様と、お仕事がんばってねっ! でも、あたしも手伝っても良いんだけどなぁ」
アイスティーのペットボトルを開けたくららが、やや不満そうな視線を向ける。元々の参加理由は勇悟のお助け用猫の手になるつもりだったのだから、そ
の本懐が叶えられないのはくららとしてはかなり不本意なのだろう。確かに一人でするには少々重労働と言えなくもない今回の作業だが、だからこそ勇悟に
は遣り甲斐のあるものだと感じられていた。
「一応、俺がちゃんと認められて来たっていう事の証明みたいな機会だったから、俺一人で出来るだけやってみたいんだ。もちろん、くららからの申し出は
凄く嬉しいし、もし手伝って欲しくなったら言うよ」
なだめるような言い方だが、それは間違いなく勇悟自身の嘘偽りない本心だ。そもそも重労働といって差し支えない撮影機材の取り扱いを、女の子である
くららに手伝ってもらう事自体がおかしいと言えばおかしいのだが、それでなくても今回のこれは文字通り『勇悟に与えられた仕事』だ。アルバイトとして
認められ、またある程度重要な仕事を任せても良いと思われている。それは間違いなく勇悟にとっては大きな一歩であり、出来る限り自分だけの力でやり遂
げたいという気持ちがあるのだろう。
くららも、既に勇悟の過去は知っている。自身の油断で起こしてしまった失敗から、一生懸命打ち込んできた剣道を辞めてしまった勇悟は、きっと本気で
打ち込める何かを欲していたのだろうという事を、くららは何となく理解している。だから勇悟がそう言うのなら。
「うん。じゃあその間、あたしはちゃんと勉強しておくねっ。あと、お昼も用意したげるから!!」
「ありがとう。楽しみに待ってる」
蓋を開けたペットボトルを打ち鳴らせて、乾杯する。これから始まる大仕事と、苦労しかない課題への取りかかり。二人それぞれに課せられた責務を果た
すべく、午前九時丁度から戦いの火ぶたは切って落とされた。
二人前には少々多めに作られた素麺を食した後には再び勇悟も作業を再開し、くららはくららでサボる事無く課題に取り掛かる。水着の上からエプロンな
どという扇情的すぎる格好は勇悟からダメ出しを食らったのでお蔵入りになったが、代わりに用意した格好もそれはそれで非常に危険と言わざるを得ない。
「ふぁ……んっ」
欠伸をして、大きく腕を上に伸ばす。その動作に合わせてくららの大きな胸が上に引っ張られ、脱力と同時に下へと落ちる。波打つように揺れるそれを抑
えているのは水着のブラと、その上から着ているやや伸び気味の白のTシャツのみという軽装。しかしこれで更にクーラーを入れているにも関わらず、くら
らは手団扇でぱたぱたと自身を扇いでいた。
「あちゅぅい〜〜〜〜……はむっ」
溶けかけたアイスクリームを一掬いしてぱくりと口に運ぶ。この邸宅に来る途中のコンビニで購入し、設置されていた冷蔵庫で冷やしていたものだ。だが
既にアイス特有の冷感は得られず、甘さと微かな涼しさを得るのみでは満足感もない。そして嗜好品が途切れてしまえば集中力を維持するのもなかなかに厳
しい事になり、課題の消化に投じられていたやる気は、この溶けたアイスのように萎え始めていた。
「むぅ〜……ユウくんはまだお仕事だし、宿題は飽きたし、アイスは溶けておいしくないし〜……」
がじがじとはしたなく木のスプーンを齧りながら頬杖を突く。シャープペンは既に課題のプリントの中に埋もれ、おそらく余程の事がなければ再開される
ことがないが、それでもノルマとしていた分はきっちり終わらせているあたり、くららもそれなりに受験生としての自覚が出て来たというべきか。
「んしょっと」
取り敢えず添えられていたクッションから腰を上げて、背の低いテーブルに足をぶつけないように注意しながら移動する。これ以上課題にかじりついてい
ても進展は無いだろうし、なにより暑くて集中も出来ない。暑いのが苦手という言葉に嘘は無く、夏場のくららは家ではかなり大胆な格好になることも珍し
くない。といっても、流石にこれ以上脱ぐのは勇悟がいる手前出来ない。モデルをしていた頃は水着姿になる事は当たり前だったが、やはり好きな人の前で
ポンポン脱げるほどにくららも羞恥心が無いわけではないのだ。
「ま、ダメ元で誘ってみよっかな〜」
ひょいっとスリッパを引っ掛けて、シャツの袖をまくり上げてから更に裾を持ち上げて脇腹の上で結び止める。シャツに覆われて隠れていたお腹とくびれ
た腰、そして可愛らしいおへそが丸見えになり、また丈を詰めた事でくららの胸がより強調される形になったその姿は世の健康的な男子諸君ならば反り返っ
て悶絶しそうな艶姿であるが、しかしそれを無自覚に行ってしまうくららを一体誰が責められるだろうか。
そしてそれは、恋人である勇悟が相手でも例外はないらしく。
「ユウくん、海に行こっ♪」
「――――う、うん、行きます」
一通りの搬入とセッティングを終えているとはいえ、ほぼ即決に近い返事が発せられる。その返事にくららの表情もぱあっと明るくなり、眩しいほどの笑
顔で勇悟の手を握り、ぐいぐいと腕ごと引っ張っていく。
「ちょ、そんなに引っ張ったら危ないってっ! ていうか俺、水着とか持ってきてないんだけど!?」
「そんなの気にしないのっ! 海で一緒に遊ぶって言っても、泳がなきゃいけないなんて決まりは無いのですよん?」
確かにその通りだが、水着を着ているくららがそれを言っても説得力無いよなぁと勇悟は心の中で突っ込みつつ、意外と強い力で引っ張ってくるくららの
歩みに歩調を合わせて、玄関でスニーカーに履き替える。くららも一度勇悟の手を離してスリッパを脱いでサンダルに履き替えて、今度は勇悟の横にぴたっ
とくっついての移動に切り替えた。
邸宅からわずか一分弱の移動をすれば、そこはほぼ貸し切り状態の夏の海。海開きはすでに済ませているものの海水浴客は一人もおらず、遠くの浜辺で数
名が遊んでいる程度しか確認は出来ない。しかしくららはそんな事など気にも留めずにサンダルを脱ぎ捨てると、素足を白い砂に埋めた。
「あつっ! でも、気持ちいいよ〜〜っ! ほら、ユウくんも靴脱いでっ!!」
「はいはい、ちょっと待って……よっと」
くららにせがまれて勇悟も履いたばかりのスニーカーを脱ぎ、砂浜の熱を素肌に感じる。海で遊ぶ事自体が数年ぶりの勇悟にはその感触が懐かしく、思わ
ず頬を緩めてしまいそうになる。そんな勇悟の心境を知ってか知らずか、くららは寄せる波をばしゃっと両手で作った器に掬い取って――――
「えぇいっ!!!!」
豪快に勇悟に向かって海水を投げつける。完全な不意打ちには流石に勇悟も対応どころか反応さえ出来ず、顔面直撃を見舞われてしまった。
「…………げほっ」
「ふふ〜ん、油断大敵なのだよユウくんっ」
得意満面の笑顔を向けるくらら。悪意の欠片もない無邪気極まる表情だが、だからといって全てを許せるわけでもない勇悟はサクサクと砂浜を歩き、くら
らを通り過ぎて海に足を突っ込むほどに歩みを進めたかと思うと。
「お返し、だーーーー!!」
「え、ちょ、ユウく――――にゃぁっ!!?」
ざばぁっ!! と波を立てるほどの勢いでくららに向かって海水をぶつける。勢い良くぶつけられたそれは正しく小規模ながらも津波の如く、くららはぺ
たんと砂浜に腰を落として半ば茫然と勇悟を見ていた。しかし放心状態と化しているのはくららだけではなく、被害者でありまた加害者でもある勇悟も同様
だった。
濡れたシャツはぴったりとくららの身体に張り付き、また白色のシャツは水濡れによりこれ以上ないほどに透けてしまっている。その下に見えるのは、彼
女の豊かなバストを苦しげに何とか納めている水着のブラジャー。
「…………や、やったなぁ〜〜〜〜!!」
「先にやったのは、くららだろっ!!」
我に返り、言葉こそ怒ったものではあるがくららの表情は明るく朗らかで、勇悟もまたそれに応えるように笑顔で彼女を迎え撃つ。二人はそのまま海に膝
まで浸り、それこそ童心に返ったかのように水遊びに興じ、互いの服も身体もぐしょ濡れになるまで戯れた。
「ユウくん、喉乾いたからジュースもらってもいい〜〜?」
「ああ、好きなの飲んでいいぞー」
海遊びを終えて、陽が沈みかける夕方。シャワーを浴びて潮を落とした勇悟は最後の仕上げに機材の動作確認をしながら、冷蔵庫のあるキッチンスペース
から飛んできたくららの声に答えた。ジュースというからにはまさか酒を選ぶような事はしないだろうとも思ったが、同時に一つだけ注意しなければいけな
い事を思い出し、一端作業を中断して勇悟もキッチンに戻る。
「でも、確か何本かカクテルがあったから、間違えてそれ飲まないようにな。アルコールはビールより強いんだ」
「ふぇ?」
ボトル缶を傾けているくららの動きがピタリと止まる。黒いボトルに色鮮やかな果物のパッケージは、詳細を見なければ一見して誰もがジュースのそれと
見紛う代物であり、まさしく勇悟が指摘したカクテルだった。
「えっと……もしかして、コレ?」
「……うん。それ」
何とも言えない微妙な空気。くららが手に持っているボトル缶は既に空であり、喉が渇いた彼女が一気飲みに近い形で飲み干した事は想像できる。その為、
アルコールが入っているそれを「ちょっと炭酸きつめなのかな?」程度にしか考えていなかったのだろう。
「ど、どうしようユウくん!! あたし、お酒飲んじゃったよぉ!?」
「まあ、別に死ぬわけじゃないから。飲み過ぎれば毒だけど、くららももう十八なんだし、少しくらい飲んだって平気だろ?」
「ぁぅ……確かに美味しかったけどぉ……」
しゅん、と身体を小さくして俯きながら答えるくらら。恥ずかしさのせいか、それともアルコールのせいか、その頬はほんのり色づいており、また微妙に
涙目にもなっているという相乗効果で勇悟の胸は思わず高鳴り、浮かんだ涙を指で優しく拭う。
「これ以上飲まなきゃいいんだし、大人しくしてなさい」
「はぁ〜い……」
ぺとぺとと素足のままフローリングを歩き、セッティング済みのソファーにぽすんと腰を下ろすくらら。手持ち無沙汰になっている彼女には悪いが、あと
少しで作業も終わる。もうしばらくだけ我慢してもらおうと勇悟は心の中で謝罪する――――が、既に異変が起きていた事に勇悟が気づく由もなかった。
およそ一時間後、もう陽も落ちた午後七時半。勇悟が再びソファーに戻ってくると、そこには。
「…………ぉぃ」
「……くぅ…………すぅ……んにゅ…………っ」
そのふくよかな胸にカクテルのボトル缶を一つ埋めて、そして床にはさらに三本ほどおかわりとしか思えない同ラベルのボトル缶を転がして。
南城くららは、頬を真っ赤に染めたまま眠りについていた。
「この、アル中っ娘め……無理に起こすのは、やめた方が良いな」
深々と溜め息をつき、そっとくららの頭を撫でてやる。その感触が心地いいのかくららは寝たままにも関わらず表情を緩め、にやにやと笑っている。その
姿に勇悟も思わず吹き出してしまい、しかしこれからの事を考えずにいられるほど楽天的でもない。
このままくららを抱き上げて車に押し込み、家まで送る事は難しくない。家の鍵は彼女のバッグに入っているだろうし、また彼女に招かれて家に上がった
事も既に何度かある。だが万が一、車に酔ったくららが最悪の事態を車内で引き起こしたとしたらと考えると、この策は推奨される策とは言い難いだろう。
「だったら……仕方ないな」
そっとくららの背中と膝に腕を通し、起こさないように抱き上げる。比較的軽い部類に入るくららの体重はやはり軽く、休憩用に用意されているベッドま
で運ぶ事は苦ではない。むしろ苦しいのは、最愛の恋人を目の前にして一切の手出しが出来ないという生殺しにも程があるこの状況の方だが、二人の関係は
今日限りというわけではないし、ましてや寝込みを襲ってしまうほど勇悟も理性が無い男ではない。確かにくららの身体はその理性を希薄にしてしまうほど
の魅力を存分に秘めているが、勇悟はそれに惹かれてくららと交際している訳ではないのだから。
「明日はお説教、だからな?」
「…………んぇへへ……ユウ、くん……」
だらしのない、そして悪意の欠片もない純真無垢な天使の笑顔。その口唇にそっと触れるだけのキスを落とし、勇悟は部屋を出て行く。
初めてのお泊まりと言うには、あまりにも酷いシチュエーション。けれど誰と比較するでもない、自分達のペースで歩んでいければそれでいい。
海辺の夏休みは、まだ終わらない。くららの高校生活最後の夏休みも、まだまだ終わらない。
二人の未来は、これからもずっと続いていくのだから――――。
あとがき:
管理人の感想
二話目。勇悟とくららのアフターストーリーをお送りしていただきました〜。
舞台は青い海!白い砂浜! 薄着のくららは、それはもう破壊力満点なのでしょうね。
一話目に比べると、若干糖度は下がっているのでしょうか。その分、ほのぼのとした「日常」の風景って感じがしました。
それも、二ヶ月経って慣れてきたということでしょうか。隣に居ることが当たり前の存在、そう考えると素敵ですよね。
それでは、続いて三話目をどーぞ♪