B&G High School Memorial
「アイルランド」
「ドイツ」
「ツバル」
「ルクセンブルク」
紡がれていく国の名前。リビングの明かりはやや落とされ、仄かな白とテレビの光だけが室内を照らしている。
お風呂上りにやや季節外れな感はあったものの、要お手製のアイスシューを堪能した六人は、今はまったりとした時間を過ごしていた。麻那はまた愛との
ゲームに没頭し、それを観戦しながらパジャマ姿の四人は、暇つぶしにしりとりなどしていた。
といっても、ただ単に適当なものを言っていくのでは面白くないし、芸もない。それに四人とももう高校生で、内三人は受験生だ。なにか身になるお題を、
と考えたところ、世界の国の名前を述べていくことになった。
「クウェート」一番手は要。
「トルコ」続いて彩乃。
「コスタリカ」そして冴霞。
「カナダ」締めは巴。それが終われば、順番は要に戻る。
「だ……大韓民国っ」
要の回答。苦し紛れではあるが正式名称だ。
「クロアチア」
「アメリカ」
「カンボジア」
再び一巡する。
「アルジェリア」要。
「アンゴラ」彩乃。
「ラオス」冴霞。
「スイス」巴。
「スロベニア」要。
「アイスランド」彩乃。
「ドミニカ」冴霞。
「カタール」巴。
「ルーマニア」要。
「アルメニア」彩乃。
「アンティグア・バーブーダ」冴霞。だがそこで、次の順番である巴がストップをかけた。
「って、ちょっと待って。冴霞、それって本当に国の名前?」
「当たり前でしょう? アンティグア・バーブーダはカリブ海東部にある諸島国家。イギリス連邦の加盟国だよ?」
何を言っているんだ、と言わんばかりの物言い。だが、冴霞のチョイスする国名はアメリカ以外は、どれも微妙にマニアックなものばかりだった。そこへ
さらにマニアック……どころか、普通に地理を学んでいても一度くらいしか出てこないであろう国の名前など、分かるはずもない。
「ああもう、止めだ止め。記憶問題でサエに勝てる奴なんかいるわけないだろ」
年頃の女の子が着るにはどうかと思える作務衣型の寝間着を着た彩乃がクッションから立ち上がり、むん、と身体を捻る。それに便乗するように、普段着
にも見えるデザインのパジャマを身に纏った要と、野暮ったいジャージ姿の巴が立ち上がる。普段はとてもオシャレなのだが、自分の家のようにごくごく
プライベートな空間ではラフな格好を好むというのが、巴の『らしさ』だ。
「そろそろ布団を敷こっか。冴霞、ここで良いのよね?」
「うん。私も手伝うよ……麻那ちゃん、そろそろお布団敷きますから、お手伝いしてくれませんか?」
十月末に謙悟と一緒に選んだ白の七分袖シャツに、同一色のズボンで揃えた新しいパジャマ姿の冴霞に促され、麻那は愛とのゲームを切り上げてとことこ
歩いてきた。中断されたことによりゲームの電源を切ろうとしている愛は、膝下まであるワンピースパジャマだ。ボトムはない。
そして、麻那のパジャマは淡いピンクの上下であり、また上着にはネコ耳付きのフードがオプションとしてあしらわれている。可愛らしいピンクの子猫は、
真っ白なお姉さん猫に寄り添うと、その横につき従って寝床の準備をし始めるのだった。
そんな中で、本物の猫であるシルビアとフレデリカはというと。
「…………Zzz」
「…………むぁぅ……」
どこまでもマイペースに、そして誰よりも早くソファーの上に敷かれたマットの上で、就寝タイムに突入していた。
Another Episode
冴霞と麻那の姉妹な一日。
第十話(最終話) Goodbye my Little Girl
昼寝をしてはいたが、布団に入れば六人ともすぐに眠ってしまった。敷かれた布団は五組で、麻那は冴霞と要の間に枕を置いて安らかな寝息を立てている。
冴霞と一緒に麻那と眠るのは誰でも良かったのだが、冴霞に次いで麻那との付き合いが長い人間の方がいいだろう、という全会一致の判断から要が任命され、
冴霞とは逆隣に愛。冴霞から逆隣には彩乃、そしてさらに奥には巴が寝ている。敷布団の隙間はピッタリとくっ付けられており、見ようによっては横に広い
一枚の布団で六人が寝ているようにも見える。
まるで合宿か修学旅行のようだ、というのは巴の弁だが、年齢も学年も通う学校さえも違う六人が、今後こうして過ごす機会はおそらく二度とは巡って
こないと考えれば、間違いなくそれ以上に貴重な一夜だった。
朝になり、早目に眠ったものの楽しく過ごしたことで皆疲れていたためか、一同は午前八時過ぎに起床していた。要が用意してくれたバイキング形式で
作るサンドイッチ――――数種類の具材をダイニングテーブルに並べ、薄切りのパンに挟んで食べるというものだ。余ったパンの耳はオーブンで焼いて、
オニオンスープに浮かせて消化する。無駄のない献立であり、また野菜も必要な分は確保できる。
そしてそんな楽しい朝食が、六人で過ごせる最後の団欒となった。
「じゃあ、あたしと愛ちゃんは『ひいらぎ』のバイトがあるから、帰りますね」
「ごめんね、まなちゃ〜ん……抱きっ!!」
むぎゅ、と麻那を抱きしめる愛。要と愛は、やはり休日という事もあって欠勤することは出来ず、午後からに時間を調整してもらっていた。愛だけなら
休んでも良かったのだが、厨房を任せられる人間が減ってしまうというのはやはり痛いらしく、やむなしの事情である。
「ばいばい、またねっ」
「うん。センパイ、麻那ちゃん、またねぇ〜」
「今度はお店にも遊びに来てねっ」
二人と手を振って、マンションのエントランスで別れる。それに続いて巴は冴霞を見て、彩乃は膝を落として麻那との目線を合わせた。
「あたしはちょっと、執行部の方からお呼ばれしちゃってるからね。断っても良かったんだけど……十二月までだから、義理は通したいし。ゴメンね」
「あたしも今日は道場に行かなくちゃいけないからな。名残惜しいけど、これでお別れだ。またな、麻那ちゃん」
「うん、ばいばい。あやのちゃん、ともえさん」
巴が言う執行部とは、天望桜女子の運動部会執行部というものだ。生徒会の直轄組織であり、学生の身でありながら巴はそこの名誉顧問のポストを与え
られており、一応の任期は十二月までとされている。しかし、卒業後も同窓会幹事としての仕事が待っているため、まだまだ天望桜女子にとって、間宮巴は
必要不可欠な人材なのだろう。
彩乃もまた、彼女が通う空手道場の、こどもの部を受け持つ師範の代理を任されている。段位も低く、本来ならば教えられる立場ではないのだが、年齢の
近い彩乃は子供たちから人気があり、道場としても助かっている。そして彩乃自身も、それを不満に思っていないのだから断る理由もない。
二人が去っていくと、残されたのは冴霞と麻那だけになった。そして麻那も、既に着替えを済ませてリュックを背負っており、冴霞も昨日とは色違いの
ニットセーターの上から秋物の上着を羽織っている。あとは二人で目的地であるバス停まで歩いて行くだけだ。そう時間はかからない。
時刻は間もなく午前十一時半になる。ゆっくりと時間をかけて歩いてきたために、普段なら五分と掛からず到着できるバス停も、十五分近くを費やしての
到着となった。麻那との別れを名残惜しく思う気持ちがそうさせるのだが、そんな冴霞のワガママに応えるように、麻那はニコニコと嬉しそうに笑いながら
小さな手でずっと冴霞の手を握っていた。
「麻那ちゃん着きましたよ。ほら、お迎えも来てるみたい」
「おむかえ? …………おにいちゃん!!」
冴霞の手を離すことなく、視界に認めた男性の元へ一直線に走り出す。冴霞はそれに引っ張られながら、麻那の兄にして冴霞自身の最愛の男性である、
新崎謙悟と合流した。
「おにいちゃん!!」
どすっ、と飛びついて左手で抱きつく。右手はずっと冴霞の左手を握っており、謙悟もそれを見て優しく微笑むと、麻那の頭をぐりぐりと撫でた。
「おかえり、麻那。冴霞の家は楽しかったか?」
「うん! あのね、しるびあとふれでりかもだっこしたし、おねえちゃんたちといっぱいいっぱいあそんだんだよ!!」
「おねえちゃん……たち?」
疑問に思って冴霞を見る。冴霞は実は、今回の麻那のお泊りに巴たちが参加することを謙悟にも内緒にしていた。謙悟はてっきり冴霞以外には悠香と稔臣、
それに二匹の猫たちだけだと思っていたので、何も知らないのは麻那だけでは無かったという事だ。
「はい。ちょっとしたサプライズです。でもみんな、麻那ちゃんの事はすごく可愛がってくれましたよ」
「そっか……良かったな、麻那」
「うん!!」
輝かしいばかりの笑顔。そんな笑顔を見せられれば、兄としても嬉しくなる。すると唐突に、麻那がぎゅっと謙悟の手を握ってきた。
麻那を通して、手をつなぐ冴霞と謙悟。形としてはそんな風になり、謙悟も冴霞も麻那を見下ろした後で顔を見合せ、思わず笑ってしまった。
「冴霞、本当にありがとう。麻那のワガママに付き合ってくれて」
「いいえ、お礼を言いたいのはこっちです。麻那ちゃんの事、今まで以上に大好きになっちゃいました。麻那ちゃん、またいつでも遊びに来て下さいねっ」
「うんっ! ……おねえちゃん、おにーちゃん、おすわりして?」
「「?」」
麻那に言われるまま、二人は地面にしゃがみ込む。すると――――
「ちゅっ」
小さな口唇が冴霞の頬と謙悟の頬に口付けられる。驚いた二人が麻那を見ると、麻那は握っていた二人の手を互いの手に重ねさせた。
「えへへっ、おにーちゃん、おねえちゃん、ありがとぉっ!!」
その言葉で、謙悟も冴霞も理解することが出来た。
麻那にも分かっていたのだ。自分の思い付きにも等しいワガママに、兄と冴霞が尽力してくれたこと。冴霞が自分のことを本当の妹のように愛してくれた
こと、心配のあまり迎えに来てくれた兄のこと。その全てに、感謝をしていること。それを言い表せたのは……間違いなく、冴霞のおかげだ。
これから、もっともっと多くの事を学んでいく麻那。その手助けになりたいという冴霞の願いは正しく伝わり。
そして、いつの日か二人が本当の『姉妹』と呼べる間柄になった時には、冴霞の方から感謝の言葉を言うだろう。
――――Goodbye my Little Girl,and hello my Sister
!!
Fin
管理人の感想
S&M、堂々の完結ですっ!!^^
40日の短期集中連載。皆さま、お楽しみ頂けたことと思います。
冴霞の想いは麻那に。そして麻那の想いは冴霞にしっかりと伝わり、「姉妹」としての距離をグッと縮めた二人。
一日という時間こそ短かったものの、話数にして十話に匹敵するほど濃密な時を過ごし、麻那は様々なことを経験しました。
それは家にいるだけでは決して出来なかったもの。優しい姉達がいたからこその、大事な思い出。
それはきっと、いつまでも彼女の胸の中に残ることでしょう。
それでは、この場でですが完結おめでとうございました!