武満徹
たけみつ とおる
1930-1996
日本音楽史上最も重要な作曲家。
1930年東京に産まれる。1948年より清瀬保二に師事。50年、清瀬保二、松平頼則らの<新作曲派グループ>に入会、
処女作「2つのレント」を発表するが、音楽評論家に「音楽以前」と酷評され、ショックを受ける。
翌51年、滝口修造、秋山邦晴、湯浅譲二らと<実験工房>を結成、注目すべき新作を次々と発表する。
57年、東京交響楽団の委嘱による「弦楽のためのレクイエム」が、ストラヴィンスキーの、
「あの男がこんな曲を書くとは」という絶賛を受け、武満の名前は一躍有名になり、
欧米各国で演奏され、現代音楽の古典的地位を占めるにいたる。
その後も次々と傑作を発表、作品が入賞を重ねる。特に67年、
ニューヨーク・フィルハーモニー創立125周年記念委嘱作「ノーヴェンバー・ステップス」では邦楽器を取り入れた新しい展開をみせ、
武満の一番の代表作となる。72年高橋悠治らとグループ<トランソニック>を組織。
他にも、イェール大学客員教授、サンフォード大賞、2回の尾高賞受賞など、活躍を重ね、
日本の現代音楽界で国際的に最も有名になる。晩年も作風を変えつつも作曲も活発で、
コンクール審査員や音楽ディレクターをつとめ、著書も発表して話題の中心になっていたが、96年、66歳の若さで亡くなった。
風の馬/武満徹 作品集
指揮:岩城宏之 演奏:東京混声合唱団 録音:1988、1984 (★★★)
武満の残した数少ない合唱曲。
僕は実を言うと日本の合唱曲が大嫌いだ。胡散臭いし、歌詞はベタだし、
北朝鮮みたいで気持ち悪いし、ダサいし。
正直、日本の合唱曲を聴いているくらいならポップスでも聴いていたほうがマシとさえ思う。
でも、武満のなら違うんじゃないかって思って、勇気を振り絞って買ってみた。そしたら、意外と悪くなかった。
「風の馬」と「混声合唱のためのうた」が収録されているが、従来の合唱についてまわった、
思わず失笑しそうな臭さが、あまりないのだ。それどころか合唱とは思えないほどの美しいハーモニーに感動してしまう。
合唱というより、和製ゴスペルみたい。
従来の合唱界に多々見られる臭い表現を絶対に真似ず、斜に構えたスタンスの歌詞が素晴らしい。
だが、それでも、日本語の歌曲、合唱曲は限界が見えるような気がする。
日本合唱音楽界の程度が知れるというものだ。
日本語の表現自体がクラシックとは徹底的に合っていないのだ、まだJ−POPのほうがマシだ。
何故そのことに日本人の作曲家達は気付かなかったのだろう。
日本の合唱曲を、僕は「雑唱曲」と呼んで侮蔑しようかと試みている。
武満徹:秋/ア・ウェイ・ア・ローンII、他
指揮:沼尻竜典 演奏:東京都交響楽団、他 録音:1996 DENON (★★★★★)
収録曲は4つ。
琵琶、尺八、オーケストラのための「秋」、弦楽オーケストラのための「ア・ウェイ・ア・ローンII」、
フルートとオーケストラのための「ウォーター・ドリーミング」、オーケストラのための「ドゥイル・バイ・トワイライト」。
70年代以降、耽美性を強めていった武満の代表作が収められている。どの曲も素晴らしい。
誰か武満のオーケストラ曲や室内楽曲の、演奏も良くて安い全集を出してくれる人はいないのか。
武満徹:雅楽<秋庭歌>、三面の琵琶のための<旅> 他 ポリドール (★★)(売却済)
これは買う必要ない。他のCDと曲かぶりすぎ。
武満徹:カシオペア
指揮:小澤征爾 演奏:日本フィルハーモニー交響楽団 録音:1971 EMI (★★★★★)
収録曲は武満の「カシオペア」と、日本を代表する作曲家、石井眞木の「遭遇II番」。
カシオペアが打楽器を用いる作品なら遭遇II番は雅楽とオケの融合だ。
この石井という作曲家、名前はあまり知られていないが、素晴らしい作曲家だ。
小澤の指揮も、現代音楽をやらせたらまず安心。もっとこういう現代曲をやってくれればいいのに。
というか、小澤はもう現代音楽だけ指揮してろよ。
武満徹:カトレーン、鳥は星型の庭に降りる、他
指揮:小澤征爾、若杉弘 演奏:ボストン交響楽団、他 録音:1977、78、69 DG (★★★★★)
「カトレーン」「鳥は星型の庭に降りる」を小澤征爾、
「スタンザI」「サクリファイス」「環〔リング〕」「ヴァレリア」を若杉弘が指揮している。
「カトレーン」
演奏団タッシの音は柔らかく、小澤の指揮とマッチしている。耽美的な曲。
「鳥は星型の庭に降りる」
題名からして神秘的なオーケストラ作品。小澤は、この作品の鋭さよりも、
優しさを重視して料理した。
「スタンザI」
女声、ギター、ハープ、ヴァイブラフォン、チェレスタ、ピアノを用いる作品。
若杉の指揮は小澤と対極の位置にある。
チェレスタとピアノは高橋悠治が演奏している。
「サクリファイス」
アルト・フルート、リュート、ヴァイブラフォンを用いる作品。
「環〔リング〕」
アルト・フルート、ギター、リュートを用いる作品。
「ヴァレリア」
ピッコロ2、ヴァイオリン、チェロ、ギター、ハモンド・オルガンを用いる作品。
ハモンド・オルガンは高橋悠治が演奏。
武満徹:環礁、他
指揮:外山雄三 演奏:東京都交響楽団 録音:1997 DENON (★★★★★)
収録曲「地平線のドーリア」「環礁」「鳥は星型の庭に降りる」「群島S.」「弦楽器のためのコロナII」
外山は響きを重視する指揮をしている。だから低音が鳴ると、ずぅんと響く。
ここにも指揮の違いが表れて面白い。小澤がどれだけ滑らかな指揮をしていたかがわかる。
彼は印象派・後期ロマン派の延長で武満をとらえていたのだ。
武満徹 鍵盤作品集成 1950〜1992
演奏:藤井一興(ピアノ、ハープシコード) 録音:1990、1995 fontec (★★★★★)
世界的現代音楽ピアニスト藤井が、武満の残した全ての鍵盤作品を録音した。
わざとらしさは一切感じさせず、深い洞察力と音感のみによって聴き手に訴えてくる。
武満が意図したであろう音が完全に再現されている。みんな武満を弾きたがるが、
なかなか主観が邪魔してこれができない。下手に自己主張しなくていいのだ、武満のピアノ曲を弾くときは。
何よりも透明感を大事にしたんだから。「夢みる雨」のハープシコードがなんとも美しい。
武満徹 作品集:ノヴェンバー・ステップス、ヴィジョンズ、他
指揮:若杉弘 演奏:東京都交響楽団 録音:1991 DENON (★★★★★)
「弦楽のためのレクイエム」「ノヴェンバー・ステップス」
「遠い呼び声の彼方へ!」「ヴィジョンズ」収録。
小澤の流れるような指揮と違って、若杉は曲を解析するように、ゆっくりと歩を進めていく。
そのため同じ曲でも全く違う曲に聴こえる。
小澤が優しい指揮なら、こちらは厳しい指揮である。特にノヴェンバー・ステップスでその違いは顕著になる。
どちらも名盤なので聴き比べてみるとよい。
武満徹:ジェモー、他
指揮:若杉弘 演奏:東京都交響楽団 録音:1994 DENON (★★★★★)
収録作品「ジェモー」「夢窓」「精霊の庭」
いずれも世界初録音となる重要な作品群だ。
ここでも若杉は、作曲家本人に監修させてまで、武満の意図した音を忠実に再現しようとする。
あくまで作曲家ありきの指揮者なのだ。そのため、人によっては退屈な部分もあるかもしれないが、
これは武満が意図した音なんだし、こういう指揮者がいてもいいだろう。
武満ワールドにより深く潜り込むのに必須のアルバムだ。
武満徹:秋庭歌一具
演奏:伶楽舎 ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル (★★★★★)
武満の現代雅楽の古典の録音。武満の曲も凄いけれど、演奏家も凄い。
伶楽舎はこの即興的な難曲を指揮なしの29人合奏でこなしている。ほとんど神業だ。
雅楽が好きなら買っても損しないアルバムです。現代音楽と雅楽の合体……素晴らしい。
武満徹:そして、それが風であることを知った 他
演奏:エイトケン(フルート)、他 録音:2001 NAXOS (★★★★★)
武満の室内楽の代表作を、武満の教えを直接受けた人たちが演奏。
やはりめちゃくちゃ上手い。他のNAXOSシリーズとは段違い。
それに表現が素直で好感が持てる。武満の作品はどこまでも儚く、美しい。
武満徹:ノヴェンバー・ステップス、弦楽のためのレクイエム 他
指揮:小澤征爾 演奏:トロント交響楽団 鶴田錦史(琵琶) 横山勝也(尺八) 高橋悠治(ピアノ)
録音:1967、69 RCA (★★★★★)
収録曲は「ノヴェンバー・ステップス」「アステリズム〜ピアノと管弦楽のための」「グリーン」
「弦楽のためのレクイエム」「地平線のドーリア」
どれも不朽の名演。この頃の小澤は、今の姿からは信じられないほどの切れ味を持ち、
現代音楽を紹介するなど、活動も活発だった。
ちなみにこのアルバムが小澤の武満初録音。
武満徹:ノヴェンバー・ステップス ア・ストリング・アラウンド・オータム 弦楽のためのレクイエム
他
指揮:小澤征爾 演奏:サイトウ・キネン・オーケストラ 鶴田錦史(琵琶) 横山勝也(尺八)
録音:1989、90、91、92、96 PHILIPS (★★★★★)
小澤の近年の武満作品録音。昔に比べるとキレがなくなったかわりに、
音の芳醇さ、柔らかさが増しているような気がする。
それにこのアルバムには、武満の近年の作品も収録してある。買って損はないはず。
収録曲は「ノヴェンバー・ステップス」「ア・ストリング・アラウンド・オータム」「弦楽のためのレクイエム」
「セレモニアル」「マイ・ウェイ・オブ・ライフ」。
なお、こちらのアルバムのほうが聴きやすく、初心者にオススメできる。
武満徹:ピアノ作品集
ピーター・ゼルキン(ピアノ) 録音:1978、81、94、96 RCA (★★★)(売却済)
アンサンブル「タッシ」の一員でもあるゼルキンが武満のピアノ作品を演奏。
だがタッシのときはほとんど気付かないが、この人のピアノは硬い。
響きの美しさも少なく、素っ気ない演奏で、イマイチ好きになれない。
武満には向いていないんじゃないだろうか。
武満徹:「乱」、「波の盆」ほか邦人作品集 Chandos (★★)(売却済)
武満の曲は良いのだが、その前後に収録されている尾高なんたらという作曲家と、
これもネット上で極めて評判の悪い、細川俊夫という作曲家の曲が収録されており、
そしてこれが、全然良くない。まさに駄作、ごみ。
武満の「乱」や「波の盆」が聴きたいなら、(入手困難ではあるが)サントラ版を聴けばいいのであり、
わざわざこのアルバムのように前後に駄作が収録されているバージョンを聴く必要はない。
武満の曲が聴きたいのに、他の作曲家の嫌な曲を聴かされるようなアルバムは、名盤などではない。
武満徹:レクイエム
指揮:小澤征爾 演奏:サイトウ・キネン・オーケストラ 録音:1996、95、90、89、91 PHILIPS (★★★★★)
武満の急死を追悼するため作られたアルバム。
武満の遺作となったフルート曲「エア」、
この世のものとは思えない美しいメロディと透明感ある語りが印象的な「系図―若い人たちのための音楽詩」、
琵琶と尺八を用いる「エクリプス〔蝕〕」、
あとはいつもの「ノヴェンバー・ステップス」「弦楽のためのレクイエム」が収録される。
なお後半2曲はすでに出ている小澤の武満アルバムと音源が被る。だが、それを差し引いても
武満入門に相応しい一枚。系図サイコー。
オリジナル・サウンドトラックによる 武満徹 映画音楽 ビクターエンタテインメント (★★★★★)
ディスク7枚組み。映画音楽のほとんどが収録されてる。
紛れもなく世界でもトップクラスの、映画音楽である。これを聴かない人は武満ファンモグリ。
ARC 武満徹 1960s-80s
指揮:沼尻竜典、小泉和裕 演奏:東京都交響楽団 録音:2000、1997LIVE fontec (★★★★★)
「クロッシング」「弧<アーク>」「オリオンとプレアデス」という、
武満の作品の中でも重要なのに、何故かほとんど演奏されない作品を集めたアルバム。
この曲たちの響きを聴くがいい。なかでも「テクスチュアズ」が含まれている「弧<アーク>」は、
武満作品のなかで最も好きな曲だ。無調音楽なのに美しい。これって物凄いことだと思わないかい?