オットリーノ・レスピーギ
Ottorino Respighi
1879-1936

 イタリアのボローニャ生まれの20世紀音楽史上非常に重要な作曲家。
 父親からピアノやヴァイオリンの教えを受け、音楽学校にて作曲・演奏を勉強、
 1908年あたりまでは、演奏家、特にヴァイオリン奏者として名をはせたが、
 その後、リムスキー・コルサコフの指導を受けて大いに感銘し、後に作曲家に転向。
 全く独自の新しい作曲法によって、「ローマ三部作」をはじめとする斬新な器楽曲を創作、
 音楽界に衝撃を与え、瞬く間に作品はクラシック音楽界の古典となった。
 古楽研究に熱心で、古楽に基づく佳作も残している。
 また大量の声楽曲やオペラを発表しているが、こちらは全く評価されておらず、今日演奏されるのは器楽曲のみである。
 晩年はムッソリーニのファシズムと深く関係を持ち、大きく評判を落とした。
 そのせいで、レスピーギの作品を「ファシズムの作品」として嫌い、演奏したがらない指揮者もいる。
 また、演奏したとしても、ファシズムに大きく傾倒したローマ三部作最後の作品、
 「ローマの祭り」だけを演奏しない指揮者もいる。カラヤンもそのひとり。



 レスピーギ「ローマ三部作」(XRCD)
  指揮:アルトゥーロ・トスカニーニ 演奏:NBC交響楽団 録音:1953,1951,1949 日本ビクター ★★★★★
 トスカニーニは、すでにこのアルバムで史上最高の名演を残してしまった。
 後はどれを聴いても、このクオリティに近づく者こそあれ、超える者は決していない。
 モノラルであるハンデを吹き飛ばすほどの超絶演奏である。
 激しく、叙情豊かであり、そして全くミスがないアンサンブルの完成度。
 「ローマの松」「ローマの噴水」などの色彩感、「ローマの祭り」のなだれるような狂気じみた爆発。
 何も文句をつけることができない。唯一文句を言ってやるとすれば、
 こんな完璧な演奏をしてしまって、後世の指揮者たちは一体どうすればいいのだ、ということくらいか。
 今回XRCD化されて音質も大変良くなった、ということなので、値段は3000円以上と少し張るが、
 是非とも購入して欲しい。

 レスピーギ「ローマ三部作」
  指揮:ユージン・オーマンディ 演奏:フィラデルフィア管弦楽団 録音:1973-1974 ★★★★☆
 遅めのテンポの名演。同じフィラデルフィアでも、ムーティとはこうも違うかと感じる。
 ムーティがややもすれば味濃くてムナヤケしそうなのに対し、
 こちらはスマートで後味もすっきりさわやか。なのにサウンドが芳醇なところは変わらない。
 いやはや参った、このころのフィラデルフィア管は敵なしだ。

 レスピーギ「ローマ三部作」
  指揮:小澤征爾 演奏:ボストン交響楽団 録音:1977 DG ★★★★
 小澤にしてはよく頑張った。偉いと言ってやりたい。
 久しぶりに小澤の良演に出合った。テクニックも相変わらずだ。
 残念なのは、決定的なパワー不足、決め手に欠けるところ、没個性なところも相変わらずなことだ。
 しかしこの曲では、そんな小澤の悪いところが、逆に良く働いた稀有な例だ。
 つまり、繊細で優しいローマ三部作が出来たのだ。彼の優しい感受性がなせる業だ。

 レスピーギ:交響詩「ローマの噴水」「ローマの松」他
  指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン 演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1977,78,69 DG ★★★★☆
 「ローマの噴水」…ゆったりとしたテンポで豪華なオーケストレーションによって、
 曲の隅々まで聴かせてくれる。相変わらずド派手だ。
 「ローマの松」…これも遅めのテンポでじっくりと聴かせてくれる。
 トスカニーニと正反対。カラヤンは丁寧さも持ち合わせている。
 ちなみに挿入される鳥の鳴き声は、後からわかったことだがナイチンゲールではなく、つぐみらしい。
 そのため、インパクトが弱い(笑)。
 オマケとして「リュートのための古風な舞曲とアリア−第3組曲」と、
 ボッケリーニの小五重奏曲「マドリードの夜警隊の行進」、アルビノーニの「アダージョ」を収録。
 さすがの名演で、カラヤンはバロック音楽の演奏も非常に得意であることがわかる。本当に短所の少ない男だ。

 レスピーギ:「ローマの松」「ローマの噴水」「ローマの祭り」
  指揮:エフゲニー・スヴェトラーノフ 演奏:ソビエト国立交響楽団 録音:1980LIVE SCRIBENDUM ★★★★
 今では数少なくなった、非常に個性的な指揮者、スヴェトラーノフ。
 ありえない指揮をするので、時々楽団のミスを誘うが、それでも彼の演奏は面白くてしょうがない。
 一部のマニアから熱狂的な支持を受けるのも頷ける。
 「ローマの噴水」
 ゆっくりとしたテンポでありながら、所々とてつもない爆発をやってのけるのは流石。
 詩情にも長けていて、「メディチ〜」では実に7分というスローペースで和やかに歌い上げる。
 「ローマの松」
 基本的に重戦車のようなテンポで進む。低音がよく響く。スヴェトラらしいミスもいくつか。
 「ローマの祭り」
 実はこのアルバム一番のネタはこの曲で起こる。
 初っ端からめちゃめちゃなテンポでありえないミスばかり犯す金管。
 なんかこの曲を吹きたくてウズウズしすぎたようだ。お前らウォッカでも飲んでいるのかと言いたくなるようなクラクラ感。
 そして、ラストでついに自重を知らない奴らが「祭りの」名の通り、はじけたように大騒ぎ。
 トランペットは音を間違えまくり、その間抜けで「事故」とまで呼ばれる音で、聴いている側は大爆笑。

 レスピーギ「ローマ三部作」
  指揮:シャルル・デュトワ 演奏:モントリオール交響楽団 録音:1982 DECCA ★★★★
 イタリアの音楽をあっという間にフランス風にしてしまうあたりが、さすがデュトワといったところ。
 ローマ三部作じゃなくてパリ三部作になっている。アッピア街道の松で、変わった仕掛けも施すが、
 基本的に圧倒的な透明感を持つ驚異的なオーケストレーションで勝負する。
 難点は完成度が高すぎるのと、良くも悪くも温度が低いこと。でもここまでやられたら文句は言えない。

 レスピーギ「ローマ三部作」
  指揮:リッカルド・ムーティ 演奏:フィラデルフィア管弦楽団 録音:1984 EMI ★★★★★
 トスカニーニより迫力は劣るが、音の美しさならこちらも負けていない。
 トスカニーニが鋼鉄のアンサンブルなら、ムーティは濃密なロマンティシズムの鋭い刃といったところか。
 とにかく素晴らしい。ムーティにこういう曲を演奏させると凄まじい。

 レスピーギ「ローマ三部作」
  指揮:エンリケ・バティス 演奏:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1991 NAXOS ★★★★
 伝説の爆演系指揮者ということで期待していたのだが、予想外に落ち着いた解釈の、重厚な演奏をしている。
 しかし、意外と悪くなく、むしろその中途半端な方向性が独特でなかなか興味深い個性を出している。
 濃厚演奏といえるだろう。録音はいかにもデジタル初期といった感じで、ちょっとキンキンしすぎだ。
 それでもローマの松のラストはかなり爆演気味。

 レスピーギ「ローマ三部作」
  指揮:ロリン・マゼール 演奏:ピッツバーグ交響楽団 録音:1994 Sony ★★★★☆
 音質、透明感共に素晴らしい。計算されつくした粘っこい演奏もまた素晴らしい。
 マゼールは、整っていながら濃厚でどろどろした変態的な演奏をする指揮者だ。
 合わない人はとことん合わないだろうが、こんなに面白い指揮者は少ない。

 Respighi: Roman Trilogy
  指揮:Yan Pascal Tortelier 演奏:Philharmonia orchestra 録音:1994 Chandos ★★★★
 噂によると、シノーポリは当初シャンドスでローマ三部作を出そうとしていたのに、
 突如それを裏切り勝手にDGと契約し、ローマ三部作は結局DGから出版。
 その背信行為に激怒したシャンドスが、「絶対にシノーポリより良い出来のローマ三部作を作ってやる!」と意気込み、
 急遽制作されたのがこのアルバムらしい。そして抜擢された指揮者が、マイナーながら評判の高いトゥルトゥリエだった。
 噂どおり安いのに気合の入った出来で、迫力と美しさを兼ね備えた熱演が聴ける。
 反面、所々やや大味な解釈の部分もあり、音質もモヤモヤしてはっきりしないのが気になる。
 それを差し引いても、このトゥルトゥリエというマイナーな指揮者が、
 メジャーにも勝るとも劣らない腕前を持っているのがわかる。

 レスピーギ「ローマ三部作」
  指揮:ダニエレ・ガッティ 演奏:サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団 録音:1996 RCA ★★★★
 無名のところから、意外な好演の登場だ。
 野蛮な音が大嫌いな有望若手指揮者ガッティは、絶対に演出過剰にならないように、
 注意深くこの曲を指揮した。つまりこの作品の何かと注目されがちなショーピース的側面ではなく、
 その中に潜む純音楽的な面を重視したのである。その結果、静かな落ち着いたローマ三部作が出来た。
 大変な異色演奏として名を残すだろう。




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