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健康な子ども 養老孟司 夏になると、あちこちを飛び回って、子どもと虫採りです。べつに虫を採るのが目的ではありません。子どもを外に連れ出したいのです。 私が子どもの頃は、日が暮れるまで家に帰れませんでした。「子どもは風の子」なんて適当なことを大人に言われて、外で遊んでいたのです。家が狭いし、なんと言っても近所の子が寄り集まって大勢いましたから、うるさいんです。いまではほとんど考えられない状態でしょうね。 そうやって外で遊んでいる子を集めて、教室に座らせて、勉強させるというのにも、だから意味があったと思います。そうでなけりゃ、走り回って一日終わり、ですからね。 でも今は違うでしょう。一日中、うっかりすると家の中です。だから外に連れ出す。学校も外でいいんじゃないですかね。学校に行ったら、外で遊ぶ。 コンピュータが人を置き換える。やがて「なくなる」職業のリスト、なんてものが雑誌に載っています。なぜそれでいいのか、老人には分かりませんね。コンピュータは人が使う道具です。それが人を「置き換える」というのは、どういうことでしょうか。世の中を作っているのは、コンピュータではありません。「あなた」なんです。 子どもたちは、そういう変テコな世間にこれから入って行きます。そこで大切なことは 「主人公は自分だ」という感覚です。コンピュータが自分を置き換える。自分には何の力もないし、それが未来だから仕方がない。そう思うような大人を育てたくありませんからね、私は。そのためにも子どもを外に連れ出し、自分で行動させたいのです。 現代人はほとんど病気です。OECDの調査で「自分はまったく健康だ」と答えたのは日本人では三割でした。アメリカ人は九割を超えています。どちらも「ほとんどビョーキ」でしょうね。いわゆる病気だけが病気ではありません。バランスが取れた人を育てる。それが真の意味での健康法だと思います。 (平成30年度 ふじ88号所載) |
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