タミフルやリレンザ等の抗インフルエンザ薬で早期から積極的に治療すべきです

 2009年の新型インフルエンザ(S-OIV)による海外の重症化例や死亡例の多くに基礎疾患のない若年者が多く含まれていますが、妊婦の例を含めて受診の遅れがあることに加え、肺炎合併の時点まではいずれも抗インフルエンザ薬の投与を受けておらず、これが重症化の最大要因と考えられます。
 同8月にWHOから発表されたS-OIVの治療ガイドラインで最も重要な点は、オセルタミビルの投与により、肺炎のリスクが有意に減少し、入院の必要性が減ると明確に述べられている事です。S-OIVの大流行におけるノイラミニダーゼ阻害薬の役割は、季節性インフルエンザで周知のように発熱期間の短縮ではなく、重症化、入院、死亡を防止することにあり、治療の重要性は大きいのです。

 しかし、同ガイドラインには、軽症の若年者や健常成人ではオセルタミビル(製品名:タミフル)やザナミビル(同:リレンザ)等の抗インフルエンザ薬の投与は必ずしも必要ではない、とも記載されています。主要な理由はコストです。世界の多くの国では、健康小児、成人までも治療するだけのノイラミニダーゼ阻害薬の備蓄がないので、この勧告は、ある意味で現状を追認したものです。
 これに倣って、わが国でも「抗インフルエンザ薬の投与は必ずしも必要ではない」とする意見が散見されます。しかし、これは危険です。死亡者が多く出たメキシコやニューヨークの事例を直視する必要があるのです。わが国の被害が少ないのは、神戸からの報告にも見られるように患者の早期受診と早期治療開始によるものと考えられ、今後の蔓延期においても可能な限り全例に対する発病早期からの抗インフルエンザ薬による治療開始が最も重要であると言えます。

 わが国の医療保険ではこれらの抗インフルエンザ薬の使用が可能です。しかし、抗インフルエンザ薬の内のタミフルに関しては、10歳代の患者の異常行動等に対する厚生労働省からの使用注意制限がまだ解除されていません。ただし、厚生労働省自身の見解として、副作用を説明し保護者が投与後最低2日間監視できるなら新型インフルエンザに対してタミフルを投与することは可能である、としています。わが国の最初の流行を経験した神戸においても10歳代の患者への投与が行われています。したがいまして本委員会は、妊婦、乳幼児及び10歳代の小児を含むS-OIV感染症患者へ早期から抗インフルエンザ薬を投与することを勧奨いたします。
 わが国のタミフルの備蓄率は世界では第4位であり、既に5000万人分以上が確保されています。人口の40%以上です。一方、わが国における第1波では人口の20%が感染・発症すると見込まれているので、投与可能な量は既に十分確保されているのです。基礎疾患のない若年健常成人でも重症化して死亡する例が報告されている今回のS-OIVでは、S-OIV感染が少しでも疑われたら可能な限り早期から抗インフルエンザ薬を投与すべきです。

 前回の緊急提言で紹介した「仙台方式」は開業医師を中心とする一般医家が新型インフルエンザの1次対応を全面的に行うとするものですが、この方式への参加を表明している300名以上の開業医師(仙台市医師会員の内科医・小児科医の8割以上)へは、既に同5月下旬までに仙台市から従業員の予防用の抗インフルエンザ薬とマスクがそれぞれ30日分支給されています。大規模な流行が始まってから配布するのでは間に合わないからです。(東京は同9月23日時点で配布なし。)

 日本感染症学会緊急提言「一般医療機関における新型インフルエンザへの対応について」(第2版)http://www.kansensho.or.jp/news/090914soiv_teigen2.htmlよりコピー
2009年9月更新



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