9月1日(金) 信濃毎日新聞
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社説=村井新知事 「有言実行」が試される
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長野県の新しい知事にきょう、村井仁氏が就任する。戦後、知事が民選になって5人目になる。郵政民営化法案への反対を貫き、政界を退いた1年前には、自ら予想もできなかった展開だろう。
19歳若い現職の3選を阻んでの登板である。県立高校の再編をはじめ、待ったなしの政策課題がめじろ押しだ。新知事の判断力と実行力が問われる局面が、いきなり始まることになる。
村井氏は当選後、県民との対話を重視し、県民に開かれた県政を目指す決意を鮮明にしている。個々の仕事に取り組んでいく際、前提となる大切な姿勢だ。
<透明性が問われる>
田中康夫氏の登場で身近になった県政が再び遠のきはしないか、県民は心配している。県政課題への判断や政策決定の過程は、だれにも見えるものでなければならない。
知事の権限は強大だ。その意向や決断が事態を動かす。さまざまな問題に対して知事がどう判断し、いかに進めようとしているか、それはなぜか、といった説明が重要になるのもそのためだ。
県庁組織の改編、人事も例外でない。知事の権限とはいえ、そのつど狙いや理由を示すべきだ。浮上した副知事候補にしても、旧自治省出身者や今知事選で選対本部長を務めた市長経験者を起用するのはなぜか、村井氏自身の言葉が聞きたい。
行政の透明化をどう進め、説明責任を果たしていくか、知事としての基本姿勢をあらためて県民に示す必要がある。そのことが、古い体質のかつての県政に後戻りさせない決意の表明にもなる。
知事会見の開き方、審議会など諮問機関の公開の仕方、「車座集会」や「どこでも知事室」を、村井県政にどう位置づけ、どう運営していくか、も早く提示すべきだ。
<時代の流れを読み>
政策課題は山積みである。知事が交代しても、厳しい財政状況が変わるわけではない。施策の選択と優先順位のつけ方が、引き続きのポイントとなる。
全体を通して注文しておきたいのは、時代の流れを読んだ県政運営である。ひとことで言うなら、暮らし重視の行政だ。田中県政で評価の高かった高齢者支援、子育て支援といったソフト事業は続けるとともに、拡充も考えてほしい。
財政再建と公共投資との兼ね合いも、村井県政を占う試金石となる。自治体の財政健全度を示す新しい指標として総務省が導入した「実質公債費比率」は、長野県は全国で最悪の20・2%。多くは吉村県政時代の借金とはいえ、フリーハンドで使える財源は乏しい。
この状況下で、村井氏が言う「必要な公共事業」は何を指すのか、借金(起債)はどこまで可能なのか。長野県経済の活性化策と併せ、たたき台を速やかに示すべきだ。
個別の課題では、選挙公約がよりどころとなる。とりわけ村井氏が分権の時代の主役と位置づける県内81の市町村に、元気になってもらう施策が柱になる。
少子高齢化で福祉や医療の負担が増す一方、国が配分する地方交付税の削減などで、市町村の切り盛りは一段と苦しくなっている。県の支援もカギを握る。
村井氏は、住民に近い基礎自治体である市町村こそ、力をつけていくことが肝心だと強調した。そのために権限や財源を市町村に移していくと約束した。どんなメニューが用意できるかを分かりやすく示すとともに、市町村と柔軟に話を進める場づくりも急がれる。
ウオーミングアップのいとまもないというのが新知事の実感だろう。すっきり答えが出そうにない難題も待ち受ける。
一つは県立高校の再編だ。県教育委員会が来春実施を前提に進めてきただけに、もう判断を引き延ばせない。高校の統合・廃止にかかわる議案が、近く招集される臨時県会に提案される予定だ。
<県民の方を向いて>
地域によっては根強い反対が解消されないままだ。村井氏は地域の合意を尊重するとしつつ、教育の中立性、独立性にも配慮する姿勢を示した。議案提案者である新知事の判断と責任が問われる。
前県政が積み残した脱ダム後の浅川の治水対策も難しい。地域住民の声をよく聞くのは当然として、解決に向け期限を区切っての段取りを示せるかどうか、がカギになる。
前知事についてこの欄で、手を携えるべき相手との信頼関係が築けなかったことが惜しまれると書いた。同じ轍(てつ)は踏まぬよう、新知事に望みたい。
県職員が知事でなく県民の側を向くようにしたい、と村井氏は述べている。同じことを氏も銘記すべきである。選挙で支持を受けた政党や県議、市町村長ら“応援団”の側に顔を向けるようでは、一般県民の信頼は得られない。
村井氏は、民意の一方を代表する県議会との関係について「仲良くするつもりはない」と述べている。是々非々で臨む姿勢はうなずける。
言ったことは実現させる、できないことは言わない。「有言実行」が衆院議員時代の政治信条だったという。再び試される4年間になる。
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