阿修羅

インド神話における鬼神の一種で,闘争をこととする。サンスクリットのアスラ asura の写音。アーリヤ人のインド・イラン共通の時代にはアスラとデーバ deva はともに神を意味したが,彼らが分かれて定住してからは,インドではアスラが悪神を,デーバが善神を意味するようになり,イランではアスラはゾロアスター教の主神アフラ・マズダとなった。インドでは a を否定辞とみなし,〈非天〉〈非酒〉などの語源解釈をおこなった。神 deva と阿修羅の闘争はインド文学のよきテーマとなった。仏教では阿修羅が日月をさえぎって食をおこすとされ,六道説では三善道(天,人,阿修羅)に入れられるが,五趣説では餓鬼・畜生に入れられることが多く,住所は海底や地下とされる。 定方 晟

阿修羅の形像について,漢訳経典には種々述べられている。胎蔵界曼荼羅外金剛部院には二臂像があり,その形像を記す〈諸説不同記〉には,赤色身で右手に剣,左手は拳の像が説かれる。また,〈摂無礙経〉や〈補陀落海会軌〉には三面六臂で青黒色の肉身の像を説く。その六臂は,第一手は合掌,第2手は火頗胝(かはてい)と水頗胝をそれぞれ持ち,左第3手は刀杖を,右第3手は鎰(かぎ)を持つと説かれる。ところが現存作品は,必ずしもこれらの記述に一致してはいない。中国の敦煌莫高窟の第249窟(西魏時代,6世紀)には,大海の中に足を開いて立つ四臂像が描かれる。後方の2手は頭上にのばし,掌の上に日月をのせ,他の2手は左手を胸前に,右手を腹の前に置き,上半身裸の像で,もとは赤色の肉身であったと考えられる。日本で現存する作品の中では,法隆寺五重塔初層の塑像のうち六臂の阿修羅座像が最も古く,興福寺の八部衆像中の六臂像(天平時代)が著名である。その他,仏涅槃図のうち釈梼をとり巻く諸尊の中に赤色の六臂像が描かれることが多い。単独に造像された例はない。 関口 正之

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