0歳教育関係へ


すばらしい生命力
いのちの発生には、極めて精巧な、美しくてすてきなドラマが展開している

1 カニムシ

● 「ワァッ! すっごいなぁーっ!」
富草小学校の理科室では、あちらこちらのすきな場所で、先生方が顕微鏡を熱心にのぞきこんでいました。私はこのとき初めてカニムシを見たのです。

●昭和56年、阿南支会小中学校の行事として、松本の教育センターの先生をまねいての講習会がいくつか開かれていました。富草小学校では「土中生物観察」の講座がもたれていました。土中生物をシャーレーにあつめるまでの方法をことこまかく教えてくださり、やっと顕微鏡をのぞくことになったんです。対物レンズの下のまるい明るい円のなかに、いくつもの小さい虫・微生物がうごめいていました。そのなかに美しい鼈甲色のカニムシがいたのです。「わぁーっ、すごいなぁー!」小さい声だったが、私は呻いた。完全に私を驚嘆させるにたる微生物だった。その生きものの名前は『カニムシ』でした。たしかに蟹のようにはさみがあり体は虫になっています。美しい鼈甲色のつやつやした甲羅、関節と関節のあいだには美しい長めの体毛が数本生えていました。

●土の中にこんなに美しい虫がいるなんて、全くの驚きでした。百年前もこんな姿をしていたのかなぁ、千年前もこんな姿をしていたのかなぁ、こんな小さい虫も生殖細胞があって、寸分変わらず世代交番してきたのかと思うと、生命の不可思議さに驚くばかりでした。

●考えてみますと、これはカニムシだけのことではなかった。私のすきな月見草にしてみても、みんなそうです。動物も植物も、大小にかかわらずその種の生命力というのは、驚嘆に値するすばらしい力をもっています。

2 筑波博のトマト

●1985年の筑波科学技術博覧会で人々をもっとも驚かせたものの1つは、なんと1万3千個も実をつけた1本のトマトだったといわれています。特別の種類のトマトではなく、ごく普通のトマトの種を発芽させて育てたものだったそうです。これは兵庫県篠山の野沢重雄さんが23年間研究されたハイポニカ(水気耕栽培)という栽培法によって、いままで想像もできなかった植物の潜在能力をひきだした1つの成果でした。ハイポニカの特徴は、まず土から離れたということだそうです。土の上で育てずに、水槽で育てる、水は普通の水で、普通と同じ肥料を適当な濃度に溶かし、それを栄養分とし、水温や水流の管理をして酸素の供給を充分にする、ただそれだけだといいます。もちろん、充分な太陽光線は必須条件ですが、特別なことはしなかったそうです。

●トマトの小さな一粒の種のなかに、1万3千個のトマトの実をつける可能性をもった生命力が秘められているのですね。

3 吹けば飛ぶよなセコイアの種

●セコイア(sequoia) はカリフォルニア州とオレゴン州に自生する巨木で知られています。セコイア国立公園(Sequoia National Park) はカリフォルニア州の南東寄りにあって、セコイアの群生地、公園の代表的な巨木にはニックネームがつけられていて、the General Sherman (南北戦争当時の北軍の将軍)は最も有名だといわれています。目方は2000トン、高さ83メートル、樹齢3700年と推定されています。ところが、このセコイアの種は「吹けば飛ぶよな種」だといいます。

4 受精から赤ちゃんへ <その神秘なドラマ>

●さまざまに進化してきた動物たちはそれぞれ自分たちのからだや生活環境にあった生殖のシステムをつくりあげてきました。海にすむ魚たちなどは、一度にたくさんの卵を産みます。自然は、そのなかのほんの一部だけを成長させます。

●人間の子育ては、もっと確率の高いものです。進化の過程で、私たちの祖先は、実に綿密で巧妙なシステムをつくりあげました。けれどそのぶん、人間にとって妊娠するというのは、複雑な仕事になりました。女性は、生まれたときからずっと抱えてきた100万個前後といわれる原始卵細胞のなかから、毎月1つを選んで成熟させ、排卵します。これが卵子です。卵子は、排卵された卵巣から、精子との出会いのために、卵管のなかへとり込まれていきます。一方男性は、3〜5ミリリットルの精液をいつでも放出できる準備をしています。精液には数億の活発な精子と、その旅をたすけるために精子と子宮を刺激する物質、精子の燃料となる糖分を含んだ物質までが含まれています。たった1つの卵子の相手としては、数億という精子の数は、ちょっと多いように思われるかもしれません。確かに、たった50ミクロンという小さな精子が、射精された膣から子宮へ、さらに卵子の待っている卵管へと長い旅を続けていく間に、弱いものが落伍していくことはあるでしょう。でも、体外受精の研究が進められるうちに、精子の数が多いのは、そうした最も強いものを選ぶためだけではないことがわかってきました。つまり何千万という精子は、単にライバルでなく、受精を成功させるために協力しあっていることがわかってきたのです。つまり1個だけでは受精できないのです。卵子は成熟するために何百という瀘胞細胞に包まれ、さらに卵膜という強い膜をもっています。これを突破するには、たくさんの精子がいっせいにとりついて、突入の道をひらかなければならないようです。とはいっても、たった1つの卵子にたくさんの精子が一度に入り込んだら大変なことになってしまいます。そこで、最初の精子が突入したとたん、受精膜とよばれる固い膜ができて、大混乱を防ぐ仕組みになっています。

●精子と卵子が神業のような受精を成功させると、まず第1に、精子と卵子の遺伝子を組み合わせることを始めます。つまりそれぞれの遺伝子を半分ずつもらって、新しい遺伝子の組み合わせをします。人間の遺伝子は、役割のわかっているものだけで、約5万といわれていますが、それはほんの一部に過ぎず、研究者たちは50万〜100万個はあるだろうといっています。とくかくたくさんの遺伝子があるのです。また、精子と卵子は親からもらった遺伝子をもった23組の染色体の半数をくじ引きのような方式でえらんでいきます。この染色体の組み合わせはなんと70兆通りともいわれます。こうして、赤ちゃんの誰もが人間として体を作るためのさまざまな情報を遺伝子のなかにもつことになります。受精卵から胎児、そして赤ちゃん、大人になるまでの成長のブログラムは、すべてこの遺伝子によって進められるのです。

●卵管のなかにできた受精卵は、遺伝子の指令によってただちに分裂を始めます。分裂しながら、これからの発育に必要な栄養をとるために、お母さんの子宮に入り込み、自分で蛋白質を分解する酵素をだして、子宮の内壁を溶かして着床を始めるのです。分裂を繰り返して細胞の数が150個ほどになると、遺伝子の指令によりそれぞれの細胞が分化を起こし、違う役割をもって仕事を進めていくようになります。時間とともに、あるものは羊水をためる袋となり、あるものは発育に必要な栄養をためる袋となります。胎盤も臍帯も、こうしてつくられていきます。つまりこれらは、1個の受精卵から赤ちゃんが自分でつくったものなんです。こうして、手も足もみたことのないはずの赤ちゃんの細胞が、手をつくり、足をつくり、次第に人間として必要なあらゆる機能をつくりあげていきます。

●このように、おなかの赤ちゃんは、すばらしい能力、すばらしい生命力をもっています。それは長い間、神秘のベールに包まれた領分でした。いまは、医学と科学技術の進歩によって、赤ちゃんがどう育ちどんな行動をしいつどんな能力を身につけるのか、だんだん明らかになってきました。

●お父さん、お母さんは、この赤ちゃんのすばらしい能力を信頼して、これからの育児を考えていくことが必要でしょう。赤ちゃんは、お母さんが産むのではなく、自分で大きくなって生まれてくるのです。

※すばらしい生命力 

・1ミリにみたない、普段知らない土中の美しいカニムシが、子々孫々生きている事実 (体験)
・小さなトマトの種が15000個の実をつける事実 (筑波博)
・「吹けば飛ぶよな種」その種子から芽をだし根が伸びて重さ2000トン樹齢3700年にもなるセコイア(sequoia)が生きている事実 (「ニューホライズン一年教科書」解説)
・赤ちゃんが自分で生れてくる事実(「二八〇日の胎教」夏山英一著) 

●0歳教育にとりかかるその気持ちを固めたとき、まず第一に「どんな赤ちゃんにも備わる、神秘的なすばらしい生命力」を直視し、この事実を頭にしっかりインプットしておくことがとても大事であります。参考になる本を何冊か読んで、自分で理解していただきたいと思います。

●こうしたすばらしい生命力は、一体なにを意味するものでしょうか。カニムシはどうしてあんなに小さくて、鼈甲色をして、きれいな体毛が生えているんだろうか。トマトは条件さえ整えば、どうしてあんなにたくさんのトマトを、同じ色をした、同じ味わいをもったトマトを、その枝につけることができるんだろうか。そしてまた 0.2ミリの卵子と、体長50ミクロンの精子が出会い、それぞれの遺伝子が組みあわさり、どうして人間が成長してくるんだろうか。ともかく生命体というものは、神秘的で、不可思議で、想像を絶する現象をそれ自体のなかにもっているといわざるをえません。生命力というものは一体なんでしょうか、超コンピューターがいくつあっても、生命力がもっている不思議な能力には、とても対応することはできそうもないと思われます。

5 ピアスの主張

●ジョセフ・チルトン・ピアスは『マジカル・チャイルド育児法』のなかで、次のようにいっています。

人間の<心/脳=mind-brain>システムは、現在知られている使われ方とは根本的に異なった、より広範な機能を果たすべく設計されている。人間の遺伝子のなかには、創造力に満ちた驚くべき可能性が組み込まれ開花の時を待っている。心のうちに眠る可能性は、奇蹟的としかいいようがない。そしてわれわれは、この可能性を表現したいという原衝動をもってこの世に生を享けるのである。

さらに、
身体の成長が<心/脳=mind-brain>の発達に伴う要請に完璧に対応していることはわかっている。知能を充分に発達させるためには、この生物プランの存在を認め、これと強調していかねばならない。そうすれば現在われわれの抱えている子どもにまつわる諸問題の大半は現実のものとはなるまい。というのも、問題の多くは人為的なものであり、自然のはからいの無視に起因しているからである。自然そのものは、永劫の昔にあらゆる問題を解いてしまっているからである。

さらに、
自然は成功のみをプログラムする。だからこそ、われわれの遺伝子には成功のためのかくも壮大なプログラムが組み込まれているのである。自然はまた、親の側にも正しい養育活動がとれるようなプログラムを組み込んでいる。自然がプログラムできないのは、子どもを育てる上での親の側の失敗の矯正である。

自然は、新しく生を享けるどの脳システムにも、最大限の可能性をプログラムしている。どんな子どもも潜在的な天才だといえば、バカバしく 聞こえたり、かえって残酷に響くかもしれない。だが、今日の統計的基準を、その子にとっての標準だとか自然な状態だと考えるほうが、よほどバカげているし、明らかに残酷である。

といっています。それでもなお、「われわれの遺伝子には成功のためのかくも壮大なプログラムが組み込まれている」そのわけはなんだろう、という疑問が残るんです。

●いろいろの人の考えを読んでいるうちに、生物には、その細胞自体、想像を絶する願い、祈りが込められている、としかいいようがないと思いました。そしてそれはまた、細胞それ自体は宇宙全体の姿であるとしかいいようがないと思いました。生物は宇宙の化身である、そう結論しなければならないのかもしれません。問題はそういう生命体の不思議な可能性を、親が育ててやるか否か、別の言葉で言えば、生命体がもっている不思議な可能性が、伸びるような環境がセットされるか否か、にかかっているということであります。

●これについては、ピアスの次の文を読んでもらうとよいと思います。

大脳研究の専門家たちは今、脳をホログラムという形でとらえ始めている。ホログラムとは一種の写真であるが、そのどの部分や断片のなかにも全体の像が含まれている(これを信ずるにはまずご覧になることである)。ホログラム写真には他にも多くの不可思議な特質があるが、部分のなかに全体があるというこの現象は、とくに脳に似ている。例えば、花瓶を写したホログラム・プレートを半分に割ってみる。それを結像させても、花瓶が半分ずつ映るわけではない。二つに割ったどちらからも全体像が得られる。そのプレートを4つに割ったとしても、4つの全体像が得られる。さらに小さく断片化していっても同じことが起こる。問題は、細かくなるたびに像がぼけていくことだ。ちっぽけな断片にも全体像が映ってはいるが、鮮明度は落ちる。

脳を1つのホログラムとみることは、脳のどの部分も、たとえ1つの思考細胞であっても、脳全体の働きを反映もしくは包含しているとみることである。さらに想像をめぐらせるならば、ひょっとしたら脳はこの地球という惑星全体のホログラムかもしれないのだ。つまり、ホログラムのプレートを分割するとどの断片にも全体像があったように、脳にも、そのなかに全生態系の像や働きを反映している地球の一断片、と考えることができる。

誕生と同時に、脳は、ホログラム断片としてその鮮明度を高め、いわば脳の像の焦点を合わせるため、地球ホログラムに身をさらし、それと相互作用しなければならない。生まれたばかりの脳を隔離し、地球との相互作用を拒むと、鮮明化はおこらない。その生きものの成長は妨げられ身動きがとれなくなる。たとえば、子ネコを生後2〜3週間の、発育上最も大切な時期に、縦縞模様の壁の部屋だけで過ごさせると、そのネコは成長してからも、縦縞的性質の物体しか目にはいらなくなるといいます。椅子の脚を完璧によけることはできても、水平のはしご段には正面衝突してしまうといいます。

●ピアスのいう「生まれたばかりの脳を隔離し、地球との相互作用を拒むと、鮮明化はおこらない」というのは、一般の育児書で大事にしている臨界期のことであり、「親はわが子に、いつ、なにを、どのように、してやったらいいか」という全体課題の「いつ」に当たる極めて重要な課題であります。

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