ヨーロッパは軍事力への関心を失った。すこし違う表現を使うなら、力の世界を越えて、法律と規則、国際交渉と国際協力という独自の世界へと移行している。歴史の終わりの後に訪れる平和と繁栄の楽園、十八世紀の哲学者、イマヌエル・カントが『永遠の平和のために』に描いた理想の実現に向かっているのだ。これに対してアメリカは、歴史が終わらない世界で苦闘しており、十七世紀の哲学者、トマス・ホップズが『リバイアサン』で論じた万人に対する万人の戦いの世界、国際法や国際規則があてにならず、安全を保障し、自由な秩序を守り拡大するにはいまだに軍事力の維持と行使が不可欠な世界で、力を行使している。主要に戦略問題と国際問題で現在、アメリカ人が闘いの神、火星から、ヨーロッパ人が美と愛の神、金星からきたとされているのは、そのめだ。両者が合意できる点は極めて少なくなり、相互の理解も希薄になってきた。そして、この状態は一時的なものではないし、アメリカの政権交代や悲劇的な事件の結果でもない。欧米の違いをもたらした原因は根深く、長年にわたって形づくられてきたものであり、今後も長く続く可能性が高い。国益の優先順位を設定し、脅威を確認し、課題を明確にし、外交政策と国防政策を策定し実行するにあたって、アメリカとヨーロッパは別の道を歩むようになった。 |