東京杉並・反戦落書き事件
おっとー(落書き反戦救援会)
4月17日、米英軍によるイラク攻撃が続く中、東京都杉並区の区立西荻わかば公園のトイレ外壁に、同区内在住のKさん(24歳)がスプレー塗料で「戦争反対」、「反戦」、「スペクタクル社会」※1と書きつけた。その後Kさんを近隣住民が追跡し、警ら中の警官に通報した。その警官は杉並区の意思を確認することもなく、「器物損壊」※2の現行犯でKさんを路上で逮捕した。翌18日、杉並区公園緑地課長が現場を確認することもなく、また区施設の名義人たる区長にも相談せずに、自分の名義でKさんを「器物損壊」で告訴した。この時課長は警察の用意した告訴状にサインしただけであることが、後に杉並区議会における野党議員の追及で明らかになった。4月28日、検察が罪名を「建造物損壊」※3に格上げして起訴した。これを受けて、この間共に反戦を闘ってきて、この件も3月20日の開戦以来続く反戦運動への逮捕弾圧の一環と考える仲間たちと、Kさんの友人たちとが共同で「落書き反戦救援会」を結成した。5月30日、逮捕から44日目、ようやくKさんは保釈された。6月16日、第1回公判が東京地裁で開かれ、10月2日まで計3回の公判が行われた。第4回公判は10月29日に予定されている。
※1)スペクタクル社会 1950年代、フランスの思想家、ギー・ドゥボールが唱えた概念。多くの人々が受動的な観客の位置に押し込められた世界、映画の観客のようにただ眺めることしか残されていない、資本主義の究極の統治形態をいう。ギー・ドゥボール著『スペクタクルの社会』参照。
※2)器物損壊 「3年以下の懲役、30万円以下の罰金若しくは科料」。親告罪のため被害者の告訴が必要。
※3)建造物損壊 「5年以下の懲役」。親告罪ではない。器物損壊の程度が甚だしい場合、建造物に限って適用される。
以下に争点を挙げる。
●「建造物損壊」が成り立つか
落書きに適用される罪名は通常「軽犯罪法違反」ないし「器物損壊」である。トイレを使用不能にしたわけでもない、単なる外壁の落書きに「建造物損壊」を適用するのは極めて異例であり、明らかに過重である。また、反戦落書きがなされたトイレには、それより以前に別の落書きが(他の多くの公衆トイレと同様)書かれており、区も警察もこれを放置していた。落書きで「損壊」が成り立つのだとすれば、同トイレは既に損壊済みであったことになる。割れた風船を割ったというのであろうか?
検察による重罪化の背後には、たとえ自治体が挫けたとしても、独自に逆賊を誅し、反政府的な運動を押えこんで行こうとする国家権力の強い意思が窺える。
●現行犯逮捕手続の違法性
警官は落書き現場を確認することもなく、また杉並区の意思について問い合わせることもなく、住民の通報のみを根拠にして現行犯逮捕に及んだ。(ただしこの警官は第二回公判に証人として出廷し、相棒の警官が逮捕直前に落書きを確認したと主張した。)
●起訴の政治性
Kさんによれば、逮捕2日目以降は専ら公安刑事と公安担当検事による取り調べが行われ、誰に指示されたのか、なんらかの政治団体に所属していないのかなど、政治的背景を探ろうとする質問や、「こんな政治的なことに関わっていたら人生が駄目になるぞ」といった、思想の自由に介入する内容の発言が執拗に繰り返されたという。
しかし公開裁判の場では検察は一転して、落書きの内容は全く問題にせず、落書きの規模の大きさや消去にかかる費用などのみを云々し、あたかもこの件が只の落書き事件で、公安事件でなどないかのように装っている。
この件の起訴の政治性について考える上で興味深い記事がある。10月12日付毎日新聞東京版の「落書きにNO!」によると、アルファベットを崩したような自らのマークを書きつける「タギング」と呼ばれる行為を1万回ほど重ねた青年が警察で聴取され、およそ100通の被害届の束をたたきつけられたが起訴はされず、署員の指導で自分の落書きをシンナーで消しに行ったとある。1回の反戦落書きが1通の被害届け(しかも警察が用意した)によって即起訴されたことに比べると、扱い方に天と地ほどの差がある。これは「法の下の平等」に明らかに反する。
●表現の自由の問題
道路、公園、広場などのパブリック・ フォーラムが表現の場所として用いられるときには表現の自由の保障を可能な限り配慮する必要があるとの旨、1974年最高裁で裁判官の補足意見として述べられており、被告人の行為は高度に保護されるべき表現行為であるから違法性が阻却されねばならないと弁護人は主張している。
ましてこの件が国家権力による、憲法19条「思想及び良心の自由」や21条「表現の自由」をなみする政治的弾圧であることは明白であるから、護憲の立場からも、憲法に依拠して闘われねばならない。
広範な支援をお願いします。
落書き反戦救援会 (http://mypage.naver.co.jp/antiwar/graffiti417/)
以上は『愛知憲法通信』 2003年10月 No. 380(発行=憲法改悪阻止愛知県各界連絡会議)に掲載された記事の全文です。
|