この物語は、It’s a Sword of Starlights 本編とは現段階で直接リンクしない、番外編です。

そのため既存のキャラクターは一切出て来ません。しかし、設定等については共通のものである為、予めご理解下さい。

 

 

 

『――――TCジェネレーター、正常稼動を確認』

『腕部マニピュレータ、パイロットとのニューラルリンクを……認識』

『視野角、運動野調整。±0.2から0.7へ』

『パイロット、視界を開いて下さい』

 オペレーターの声に従い、パイロットは重苦しいヘルメットの中で閉じていた目蓋をゆっくりと開く。

 差し込んで来る緑色の光。ヘルメットを通して伝わってくる、『自分』を取り巻く周囲の風景。

「――――後方視界、クリア。全天周領域、オールグリーン」

 前方、左右のみならず後方更には下方にも視界を確保するシステム・全周囲モニタリング。

 その技術は既存の物であり、仮想領域や現実世界における実用兵器、大衆向けの遊具にさえ普及している。

 だが、今彼らが行っているのは更に1段階上の技術。

『ではパイロット、これより第2次接続へ移行します』

「了解……」

 ここまではいつも通りだ。問題はいつもここから始まる。

「……頼むよ、相棒」

 声には出さず、口の中で呟く。

 マニピュレータを操作する球体操縦桿(コントローラ)から手を退け、ゆっくりと。

 パイロットはゆっくりと、両腕を組んだ。

 ――――光が広がる。

 機体を満たす水が揺れる。

 今度こそ上手く行く、成功させる。

 そう思った瞬間。

 

 

 

It’s a Sword of Starlights

 

Another EpisodeStar of shadow that shines at dark night

 

 

 

 『光国』リステンボルグ、国立特別技術開発局。

 真期成立以来1000年の歴史を持つ、ゼンポゥラ最古にして最高の研究所。かの大英雄ゼン・セイバーが創設し、今ではこの研究所の一員になれると

いうだけで名誉とさえ言われる、知識の泉であり集大成ともいうべき場所である。

 総局員1514人。どこの国からも喉から手が出るほどに優れた研究者ばかりであり、そして誰もが一度は形容されたことのある呼び名。

 間違いなく、彼らは現在のこの星に名だたる『天才』。

 だが――――それは一般人から見た場合の称号に過ぎない。この特別技術開発局でその名を持つ者は、『天才』というスタートラインを前提にしていない。

言い換えれば、天才であることが一般人であることと同義。1514人の天才たちの中で更に『天才』と呼ばれるのは。一般人からは認識することすら出来ない

はるかなる高みの存在であり、手の届かない存在。

 彼女は今、その領域へと足を踏み入れようと懸命に努力し。

 しかし、今なおその努力は報われることがない。

「…………」

「やらかしたらしいな、ルーゼリア?」

 白衣を引っ掛けた眼鏡の女性が声をかけてくる。身長はかなり低めで、おそらく150cmにも満たないだろう。一見すると20代にも見えなくもないが、身長も

相俟ってかなり年若く見える。

「リミア……また嫌味ですか?」

「いや? 何しろあれは人間の脳の容量を大きく上回る処理を必要とするシステムだ。MC2でも導入してればものの数分でカタがつく代物だが、それをお前」

「人間程度の領域認識能力とあのシステムでは無茶、と言いたいんでしょう。そんなこと、私だってわかっています」

 ぷい、とそっぽを向く女性ことルーゼリア。それと同時に、緩いウェーブのかかった薄桃色の髪がふわりと揺れる。

 彼女の名はルーゼリア・ライジェン。

 S.M.A.S.の次世代機・TYPE-Y[ハールゲイン]の開発スタッフの一人であり同時にテストパイロットも兼任している、若干17歳の少女である。

 

 

 S.M.A.S.。正式名称はStrategy Mobility Armor System(戦略機動装甲システム)

それは1000年前から運用されてきた人型戦闘兵器の後継であり、高い機動性と優れた汎用性を持つ機体。

 長きに渡る戦乱期を乗り越え、ゼン・セイバーという大英雄の存在があっても、やはり荒んだ治安は容易には回復しない。

 そこで当時設立されたばかりの開発局に求められたのは、他を圧倒する絶対的な力の象徴であった。

 幸い、機動兵器の類は戦乱期にも多く生産されており、その多くが多脚式の自由移動型戦車であったため、開発はさほど苦ではなかった。

 後にTYPE-0と呼ばれる機体の完成。現在とは違い、4脚式ということと3人乗りという事を除けば、すでに機動兵器としては十分な性能を発揮しており、往々に事態は

解決の方向へと進んでいった。

 しかし一方で、この機体を新しい方向へと進化させようという動きも見られるようになった。

 技術者というのは貪欲なものであり、またそれ以上に兵器の有用性を評価する政治家や軍もまた同じく貪欲な集団である。

 彼らは双方の利害の一致を得て、この機動兵器は4脚式から2脚式へと変遷し、同時にこれまでは飾り程度につけられていた頭部(と呼ぶにはお粗末なものだったが)

正式に搭載させ、人間と同様に『眼』を取り付けることにした。

 だが自立式の二足歩行機は既にロボット技術により完成していたため、技術者たちは更なる作業性の拡大のために人間・ロボットと同様の形態を取らせることを試み、

5本指のマニピュレータを取り付け、その為に胴体を組み、有人機であるためのコクピットを新設。

 そこに頭部を乗せ――――完成したのがTYPE-T、アリスト。

 超出力の融合炉を心臓とし、その過剰なまでの出力で飛行用のフライトユニットを駆動させることにより、単機で空戦さえもこなせるという最高の機体が完成された。

 そして多くの後継機を生み出し、時代とともに装備は複雑化し、またパイロットに対する負担も軽減され、当初は操縦と火器管制を100%こなす為に2人乗りを推奨

していたがそれも簡易人工頭脳を搭載した半自立AIの導入により、1人でも十分に操縦可能となった。

 現行機はTYPE-X[ナディリータ]。心臓部は既に無用の長物となった融合炉から簡易換装式のジェネレーターへと変更されるも、単独機動で最大100分の作戦行動を

可能としており、現在の世界情勢を考えれば100分という時間はむしろ長すぎるくらいでもあった。

 世は押しなべてこともなし。平穏無事な世界は緩やかに過ぎていく――――はずだった。

 

 真期1065年、燈の月27日までは。

 

 第2衛星、ケルタ軌道上に突如出現した所属不明の超大型艦、通称「アンノウン」。

 確認できただけでも400以上の火器を装備し、全長2760mという度し難いまでの規模。いかに沈黙を保とうとも、この未曾有の脅威を前にしては世界は平静ではいられない。

 技術開発局はただちに国際会議の正式決議に則り、新たな機動兵器の開発を依頼される。その為には融合炉を復活させることも厭わないとまで言っていた。

 だが一番の課題はそこではない。肝心なのは出力よりもむしろ……扱う人間にこそ問題があったのだ。

 

 

「大体、馬鹿げてるとは思いません? いくら非公開の事件とはいえ、操縦経験ゼロの人間をパイロットにするだなんて……」

「その為の新システム。しかし、開発自体は可能でも運用できる人間がいないんじゃあ話にならんな」

 カフェテリアで少し遅めの昼食をとりながら、ルーゼリアは不満もあらわにサンドイッチを口に放り込む。薄桃色の髪の奥、ダークグレーの美しい目の周りには、

疲労の証拠のようにうっすらとクマが出来ている。それを見つけて、リミアはふぅとため息をついた。

「だいぶ参ってるようだな。脳波コントロールというのは理屈だけは聞いていたが、あたしでもMC2なしだと少々キツイ」

MC2は運用数が限られてますから……それにあったところで、今度はパイロットの必要性がなくなります」

 MC2というのは人工脳髄・多層構成人格システム(Multilayer Composition Character System)のことである。頭文字を略称として用いており、これはS.M.A.S.も同様だ。

 MC2は簡単に言えば機械製の脳であり、また同時に12のことを思考・計算・演算・実行することが出来るという、もはや人間のそれを遥かに上回る性能を備えている。

ただし開発費用は破格もいいところで、量産すれば国が1つ傾くとまで言われておりまた事実でもある。

 またルーゼリアの言葉通り、それだけの性能を持つMC2が採用できるのならば、今回の件に対してわざわざ操縦経験ゼロのパイロットを待つこともない。

しかし秘匿すべき事件と対処である以上、ある程度の我慢は必要と割り切ってルーゼリアも開発に当たっていたが。

「度台無理なんですよ……私みたいに集中できない人間に、テストパイロットだなんて」

「仕方がないだろう。ハールゲインの操縦経験ゼロという条件を満たしているのはお前くらいなんだ。運が悪かったと思って諦めろ」

「リミア……クールすぎです……」

 確かにリミアの言葉通り、ハールゲインの開発スタッフの面々は少なからずS.M.A.S.への搭乗・操縦経験がある。もちろんそれは一般的なパイロットの基準に

照らし合わせれば微々たる回数だが、それでもスタッフ一同が求めたのは『完全な素人』であり。

 残念ながらそれに見合うのは、新人スタッフであるルーゼリア以外に居なかった為、彼女に白羽の矢が立ったのだ。

「基礎理論も見せてもらったが、急ごしらえにしては良く出来ているよ。脳波による相互情報伝達システム……MITシステムだったか? ちゃんと運用できるのなら大した物だ」

 S.M.A.S.の作戦行動は基本的に鎮圧と抑止を主としているが、アンノウンの出現に伴いその方向性は大きく変わり――――むしろ本来の在り方である対機動兵器・艦船用の

機動兵器としての地位へと返りつつある。そういった有事の際に、本来ならばあってはならないことなのだが事態が事態である。数ヵ月後に控えている第一次接触調査にむけて、

S.M.A.S.TYPE-Y・ハールゲインは急ピッチで開発を進められ、対艦船戦闘において搭乗・操縦経験ゼロのパイロットの生存率を高め、なおかつ機体の帰還率を高めるために

MITシステムという新たなシステムが開発・採用されるに至った。

 人間の活動は脳から送られてくる電気信号(パルス)や脊髄の反射で行動を起こすことは常識的に知られている。だがしかし、眼球で認識した情報を脳が確認し、

それに対する反応(レスポンス)は被験者の反応速度にもよるが、どれだけ早くてもコンマ1秒以上の時差を要する。

 それを解決するために用いられたのが、先に述べたMIT(Mutual Information Transmission)システム。直訳するならば相互情報伝達システムであり、それは

MITを搭載しているハールゲインと、操縦しているパイロット間での脳波による情報伝達であり、従来の球体操縦桿(スフィアドライブ・インターフェイス)を使用しない

全く新しい操縦方法といえる。

 これは人間の限界であるコンマ1秒の誤差、反応の遅れを解決すると同時にパイロットが被るヘルメット状のインターフェイスへリアルタイムで送られてくる情報と

敵機の行動予測、飛来するミサイルの攻撃範囲・到達予想速度等を瞬時に伝えることを可能とするものであり、これによって戦況は大幅に有利になる。

 しかしながら当然問題もある。それはパイロットの脳波を随時検出して動作するシステムである以上、わずかな精神の乱れ・心理的変化が起こった場合システムが混乱を

起こすのだ。その結果として予測不能な――――言い方は悪いが、まるで錯乱した人間のように意味不明の行動を取ることも懸念されており、実験段階ではそうした『異常』

が検出された場合は直ちに機能を停止する処置が取られている。

ルーゼリアが先ほど機動に失敗したのも、その為だった。

リミアの言葉通りにMC2を導入していれば、心理や精神といった不安定な要素は全て解決されるのだが……それではそもそもパイロットの必要性がなくなる上に、実動時の

正確なデータ検証にならない。あくまでもMITは有人機専用のシステムなのだから、無人機では意味がないのだ。

「ちゃんと運用できなくて、すみませんですねー……」

 ぶーと唇を尖らせるルーゼリア。一般人と比すれば優れた才能を持っていてもやはりまだ17歳の少女。何度も何度も失敗続きでは、流石に落ち込むなと言う方が

無理というものだろう。

「腐るな腐るな。……そうだな、気晴らし程度だがあたしのラボに招待してやるよ」

「え? でも……」

 リミアの誘いにルーゼリアは驚きを隠せない。いくら先輩後輩でそれなりに親しい間柄であるとはいえ、そんな誘いはこれまで一度たりとも受けたことがなかった。

「なに、たまには違う分野の研究成果を見るのも面白いものさ。どうだ?」

 にんまりと意地悪な笑みを浮かべる。だが、ルーゼリアの答えは既に決まっていた。

 なぜなら、このリミアこそ。

 彼女を除く1513人の研究者・技術者をして間違いなく『天才』と言わしめるだけの才能と頭脳を持った女性なのだから。

 

 

 

 リミア・ブライディージェ。

 名実ともにエネルギー工学研究の第一人者であり、またわずか7歳でこの国立特別技術開発局に入局したという異例の経歴を持つ。

 入局以来25年間、彼女を凌げるだけの研究者は最早片手で足りる程度しかおらず、また彼女の入局以来1人も出ていない。

 いまやリミアはこの開発局の中でも古参の部類に入る。入局2年目になったばかりのルーゼリアからしてみれば大先輩である。

「今は何の研究をしてるの? エネルギー工学って言っても、いろいろあるけど……」

「あたしは欲張りだからな。とりあえず手の届く範囲のものは全てやってみようというのがモットーなんだよ。エンダに言わせれば時間の無駄らしいがね、あたしは

そういう無駄が好きなのさ。だから暇を見てこんなおもちゃも作ってる」

 リミアのラボの一室、彼女の私室ともいうべき部屋で、彼女はルーゼリアに円筒形の物体を放り投げた。

「これって……まさか、ゼンセイバー!?」

 慌てて取りこぼしそうになった物体を、ルーゼリアは両手でしっかりと握り締める。だがそれを見ていたリミアはくっくっと笑い

「いや、確かにゼンセイバーに違いはないが、それはただのおもちゃだ。スイッチの類は最初から付けていないし、何よりトリニウス・クリスタルを外してある」

「お、脅かさないで下さい!!」

 髪を振り乱して声を上げるルーゼリア。リミアは悪かったと言うように手をひらひらさせてから、同じ物をもうひとつ取り出した。

「……これが、あたしとお前の共通点だよ。図らずも今度の第一次接触調査、何人かアーク・トゥエラの面子も参加するらしい。連中が持つゼンセイバーにも、ハールゲインにも

この中に入ってるトリニウス・クリスタルが入ってる。元々はエッダ原産のエネルギー結晶体なんだが、あたしは今こいつを何とかしたいと思ってるのさ」

現在のS.M.A.S.に採用されているTCジェネレーター。これはTC=トリニウス・クリスタルの意味を持たせた頭文字の引用であり、簡易換装ジェネレーターの

補助機関としてトリニウス・クリスタルが採用されていることを意味している。

「実際、アーク・トゥエラの連中に頼まれて展示用のゼンセイバー・ノヴァの基礎設計をしてやったが、あれはあたしとしては駄作だ。カタログスペックでは10倍だ

なんて謳っちゃいるが、あたしの求めたものとはまるで違う。あれじゃ単に電源直付けのハンドライトだよ、長く使えて当たり前。あたしがトリニウス・クリスタルで

作りたいのはもっと上の次元の強さなんだ。だけどそれで何でもかんでも壊して良いわけじゃない。あの結晶が持つ、まだあたしの知らない未知の可能性ってやつを

見てみたいのさ。もともとこの星には化石燃料の類も少ないし、エネルギーと言えば人間(こっち)側で用意しなくちゃならないものばかりだった。だから、ある意味コイツは

この星の有史以来初めて発見された燃料に使える化石資源。なら上手に使ってやろうじゃないか――――少なくともあたしはそう思って今はこいつを研究してる。

なかなか成果が出ないって面じゃ、お前の駄々っ子と同じだがね」

「…………」

 その言葉に、ルーゼリアは考えさせられる。

25年間に渡って多大な成果を挙げてきたリミアでさえ、今は自分と同じ悩みを持っている。いや、研究者というのはいつでもそうで、きっといつまでたってもそんな

思いを抱えて、それでも研究に対しては真摯に、弱音を吐かず、粘り強く向かっていかなければならないのではないだろうか。

「リミア……私、実はひとつだけ考えてることがあるんです」

「ほう?」

 それは彼女の中で芽生えていた小さな芽。何度も繰り返し失敗してきたテストパイロットだからこそ、思い至ったひとつの結論。

 これをほかの開発スタッフに話すのはとても勇気がいるだろう。だが目の前のリミアひとりならば、話してみる価値はある。

 

 そして、ルーゼリア・ライジェンの出した結論は。

 リミア・ブライディージェという強力すぎる助力を得て、ハールゲインを新たな方向へと進化させることになる。

 

 

 これは、ある科学者の物語。

 表舞台に立つ事はなく、幕を見るだけの裏方。

 いずれ舞台に立ち、演目をこなす役者のために、出来ることをしただけの端役。

 されどその力は正しく評価されるだけの力。

 彼女の輝きもまた、天に輝く星々に劣ることはない。

 人の眼には見えぬ、闇に隠れた陰の星。

 

 時は真期1065年、黄緑の月14日のことだった。

 

 




あとがき:

長らくネタに困ったり暇がなかったりでエンストしていましたが、脳の活性化を図って
設定練りとともに一本作ってみました。最後はぼかしていますが、いつかこのTYPE-Y「ハールゲイン」が
舞台に登場することもあるかもしれません。そのときはルーゼリアの頑張りが報われたと思ってください。
絶賛放置中の本編も、会話シーンだけはテロップが脳内で構築されていますので、可能な限り早い段階で
書けるよう私も頑張ります。押忍。


管理人の感想

「It's a Sword of Starlights」の番外編としてお送りしていただきました、今作品。
皆様、いかがでしたでしょ〜?
アンノウンが出現した頃の、ある科学者たちの物語。・・・ちょっとプロジェクトXっぽくてカッコよかったですね(笑)
集められた1513人の研究者・・・その中でも天才と呼ばれるリミアと、若干17歳の若き研究者、ルーゼリア。
TYPE−Yのテストパイロットを体験して、ルーゼリアが思い至った結論とは?
そしてそれがリミアの助言を得て、どのような形になった?
・・・など、いろいろと疑問も残りましたが、そこは本編でもう一度彼女たちが出てくることを期待しましょうか(ぇ

それでは、今回もありがとうございました!!



2007.11.27