「人生とは、死ぬまで勉強と遊びの繰り返しなのよ!」
会長がいつものように小さな胸を張ってなにかの本の受け売りを偉そうに語っていた。
今回の名言は単純なようでいてなかなか深い。会長はそれが分かっているのかどうか、「えへん」といつも以上に小振りな胸を強調している。
とはいってもその行為が、会長の見せたい「生徒会長の威厳」とは真逆の、「幼児体型」をも強調していることに彼女は気付いていないのだろうが。
「・・・ちょっと杉崎。今、かなり失礼なこと考えなかった?」
「イエイエ、ソンナコトナイデスヨー」
おっと、危ない危ない。会長の恨みがましい視線から逃れるように、明後日の方向を向きながら俺は答える。
「「「・・・」」」
ちなみに、次に会長に視線を向けられた他の三人――深夏・真冬ちゃん・知弦さんの三人も、ふいと視線をあちこちに彷徨わせる。どうやらみんな、俺に近しいことは心の中で思っていたらしい。
「むっ――とっ、とにかく! 勉強も大事だけど、時には遊んでメリハリを付けなくちゃいけないの!」
会長は軽く頬を膨らませると、今日の議題と名言の関連性に入ったようだ。時々、議題と名言がまったく関係ないこともあるので、この辺りは俺たちも注意しなくてはならない。
あぁ、でもほっぺたを膨らませている会長も可愛いなぁ。
そういえば、知弦さんが前に会長にしていた「むにむにアカちゃん」――読んで字の通り、会長のほっぺたをひたすら指先でむにむにするという、夢のようなアトラクションである――今度はいつ開演されるんだろう。今度こそは一番乗りを果たさなくては。
「あっ、会長。質問です」
というわけで。
「はい、杉崎」
「アトラクション「むにむにアカちゃん」は、今度いつ開演されるんですか?」
本人に聞いてみた。
「何で私に聞くのよっ!! っていうか、何で開演されること前提なの!?」
「「「「え〜〜〜〜〜?」」」」
「いやいやいや、何で深夏や真冬ちゃんまでがっかりした声を出すのよ!?」
「えーっと・・・会長さんのほっぺたって綺麗ですから、真冬も触れるんなら触ってみたいかなぁと」
「ほら、赤ん坊の肌って無意識に触っていたくなるよな? あれと一緒だとあたしは認識してるんだけど・・・」
「「あ〜〜〜、あるある」」
「ないわよっ! 何で杉崎も知弦も二人の意見に同意してるのよ!!」
「ゼェ、ゼェ・・・」と、もともと体力に乏しい会長が、ツッコミ過ぎで軽い酸欠状態に陥っていた。
「あぁ・・・もしかして、今日は私がアウェーの日なの?」とブツブツと呟き一息ついた後、彼女は復活を宣言するように再び声を張り上げた。
「とにかくっ。今日の議題はコレよ!!」
ようやく本題に入ったようだ。ホワイトボードに向き合い、「くりむ専用」というシールが張られたピンクのマジックで、文字を連ねていく。
背の低い会長に合わせて通常よりも低く設定されたホワイトボードに書かれた、ピンク色の文字は――。
「レクリエーション大会?」
「そう、再来週の水曜日、校内でレクリエーション大会を開催するわよっ!!」
生徒会の一存シリーズ SS
「企画する生徒会」
Written by 雅輝
「・・・そんなの、去年やったっけ?」
「いや、あたしも覚えがないんだけど・・・」
記憶にない行事に、俺と深夏がお互い首を傾げながら確かめる。すると知弦さんが「実はね」と説明を始めてくれた。
何でも、今年からの新しい行事にしようと、会長と知弦さんが原案を学校側に提示していたらしい。そして仮採用ということになり、生徒会で具体的な内容をまとめた後にまた学校側に通し、それで認可が下りれば時間枠が設けられるようだ。
俺も副会長という職業柄、そういった行事に関する学校側との折衝法は知っていたが、会長と知弦さんが行動を起こしていたのには気づいていなかった。
「・・・つまり話をまとめると、俺たちがレクリエーション大会の具体的な内容を決めなくちゃ、学校側も動いてはくれないと」
「ええ、まあそういうことね。ちなみにこの企画の発案者はアカちゃんで、私はちょっと手直しして学校側と交渉しただけよ」
そんな知弦さんの言葉に、会長が誇らしげに「ふふん」と鼻を鳴らす。しかし、おそらく知弦さんの「ちょっと」とは「ほとんど」という意味なのだろう。彼女の微妙に疲れた顔がそう語っていた。
「しっかしアレだな。久しぶりにまともな生徒会の活動って感じがするぜ!」
「真冬も、自分が生徒会役員なんだってことを改めて自覚しました!」
椎名姉妹は揃って言いたい放題である。もちろん、俺自身も激しく同意なので否定はまるで出来ないが。
「それじゃあ、みんなどんどんレクリエーションっぽいことの意見出して〜」
「レクリエーションっぽいことって・・・あっ、でも俺ありますよ」
「じゃあ杉崎」
「むにむにアカちゃん2 〜癒しと快楽の狭間で〜」
「まだソレ引っ張ってるの!? それに何か変な副題付いてるし!」
「歴史に残る行事になることは間違いないかと」
「間違いなく黒歴史だよ! それに私1人だと、時間が全然足りないじゃないっ」
「大丈夫です。生徒会は俺たち4人で8時間しか取りませんし」
「1人2時間!? そんなの全校生徒にされたら、私のほっぺたが千切れちゃうじゃない! 却下却下!!」
「「「「え〜〜〜〜〜?」」」」
「・・・何か時々、生徒会のみんなが敵に見えるわ」
会長が暗い目をしながら、そんなことを呟いていた。いかんいかん、流石にヤンデレになられても困るので、俺が代わりに会議を進行させる。
「え、えー、冗談はさておき・・・深夏、何か無いか?」
「ん〜・・・やっぱりここはオーソドックスなモンがいいと思うんだよなぁ」
「ほう、例えば?」
「そうだなぁ・・・」
「バトルロワイヤルとか?」
「オーソドックスじゃねぇーーーーーーーーー!!」
「今から、皆さんには殺し合いをしてもらいます」
「逃げてぇーーーーー! 碧陽学園のみんな、今すぐ逃げてぇーーーーーーー!!」
「生徒たちに一つずつ与えられるバッグ・・・。鍵のバッグの中には、武器であるボウリングのピンが」
「なんて中途半端な鈍器!」
「そしてあたしが、聖剣・エクス○リバー」
「死亡フラグにしか見えないな」
「最後は、あたしと鍵の一騎打ち!」
「あれ、他の生徒ボウリングのピンに負けたの?」
「まあ結局最後は同士討ちで二人とも死ぬんだけどな」
「俺強っ!! っていうか救いが無ぇよっ!!」
まさかの学園崩壊フラグだった。レクリエーション大会で生徒が一人も居なくなるなんて、洒落にならない。
「頼むから、もっと一般的な意見を言ってくれ・・・」
「ちっ、しゃあねーなぁ。じゃあアレでいいよ。暗黒武闘会で」
「何か妥協案みたいな言い方したけど、それも絶対に通ることないからな?」
「なんだよそれー」と文句を言う深夏をスルーし、次の意見を募ることにする。まあ確かにレクリエーション大会として格闘技系があれば盛り上がるかもしれないが、深夏の意見では命がいくらあっても足りない。
「真冬ちゃんは何かないかい?」
「んー、そうですねぇ。・・・あっ、じゃあゲームの世界を、生徒たちが再現するっていうのはどうでしょう?」
「・・・ゲーム廃人の真冬ちゃんらしいけど、でも確かに面白そうかもしれない。例えばどんなゲーム?」
ゲームの種類にもよるが、「ドラクエ」などのRPGは頑張れば再現可能かもしれない。要は、学園全体を想定した劇のようなものか。
俺の問いかけにまた真冬ちゃんが「う〜〜ん」と可愛らしく迷い始めて数秒後、パァッと顔が明るくなった。どうやら思いついたようだ。
「”ピク○ン”なんてどうでしょう?」
「何か嫌ぁぁぁぁぁああぁああぁぁあぁぁぁあ!!」
「きょうも〜はこぶ〜たたかうふえる〜そして〜たべ〜られ〜る〜♪」
「歌わないでぇーーーーーーーーーー! 切なくなっちゃうから!!」
「そうだぜ、真冬。それなら、大乱闘スマッシュブラ○ーズの方が・・・」
「だから深夏は格闘技系から離れてくれ!!」
「あっ、じゃあモンハンとかどうかな?」
「モンスターなんかいないんですけどっ!?」
「モンハンも捨て難いが、あたし的には龍が○くの方が好きだな」
「別ジャンルな上、再現するのは危険すぎるだろうがぁーーーーーーーーーーー!!」
「う〜ん・・・じゃあ間を取って、バイオハ○ードでどうかな?」
「そうだな、妥当なところか」
「死人が出るからやめてぇーーーーーーーーーーっ!!」
椎名姉妹の猛攻に、もはや俺はダウン寸前だった。ゲームの再現自体はなかなかいいと思ったのに、何故チョイスがそんなに傾くんだ・・・。
流石にこれ以上は危険と判断し、俺は知弦さんへと視線を向ける。彼女は「何も言わなくても分かってるわ」と言わんばかりに、目が合った俺に優しい微笑を返してくれた。あぁ、やっぱり俺が頼れるのは知弦さんしかいないよ。
俺はまだゲーム再現の話で盛り上がっている椎名姉妹を尻目に、進行役として知弦さんに話を促す。
「それじゃあ、知弦さんの意見をお願いします」
「ええ。・・・そうね、まずは全校生徒を大きく二つの組に分けるの」
「なるほど、白組と紅組ってところですか?」
「いいえ、SとMよ」
「やっぱりかぁーーーーーーーーーーーー!!」
「場合によっては、ドS、微S、微M、ドMの4勢力に分けてもいいわ」
「分けて何を始めようと言うんですかっ!!」
「それはまあ、鞭とローソクをS側に持たせれば、自ずと・・・ねぇ?」
「もはやレクリエーションじゃなくなってるし!!」
「あら、次第にみんな楽しくなってくるはずなのだけど・・・」
「完全に地獄絵図ですね」
「初心者には入門編として、私主演のプロモーションビデオを配布するわ」
「下手なSMのAVより過激そうなのは気のせいでしょうか?」
「相手役は、もちろんキー君ね?」
「一生モノのトラウマになりそうなので、全力で辞退しますっ」
「あら、ウチの教頭には好評だったんだけど・・・」
「・・・この学園、大丈夫か?」
知弦さんなら本当に教頭を奴隷にしてそうで怖い。
何気に予想通りだった知弦さんの意見も終わり、後はキラキラと目を輝かせながら自分の番が回って来るのを待っている会長を残すのみとなったわけだが。
「・・・」
「わくわく」
「うっ・・・」
だめだ、これは暴走する気満々だ。確かに俺も自分の意見の時は多少無茶を言ったが、会長のは次元が違うことを予感させる。
とはいえ、振らなかったら間違いなく拗ねてしまう。そんな会長を見るのも楽しいが、まああえて怒らせる必要も無い。
「はぁ・・・。会長、何か意見あります?」
「うん、あのねあのね!」
ため息混じりに訊ねると、すぐに身を乗り出してきた。不覚にもその姿に萌えてしまったのは秘密だ。
「宝探しがいいなっ!!」
「「「「・・・」」」」
会長の意見に、俺たちは皆一様に沈黙した。
彼女は「早くツッコミなさいよ」と薄い胸を張っているが、この意見はむしろ・・・。
「・・・いけるんじゃないでしょうか?」
「えぇっ!?」
「そうね、学園内に宝と称した何かを隠して、それを謎解き形式で追っていけるようにすれば」
「当然、盛り上がるよな!」
「ゲーム性もありますしね」
「ちょ、ちょっとみんな?」
流石は会長だ。普段は天然でボケまくるくせに、こうして狙った発言をすれば実に的を射た意見を出してくれる。
もっとも、本人の意図しないところで、というのがまた良いところなのだが。
「それじゃあ、アカちゃんの意見をベースにもうちょっと案を詰めていきましょう」
「「「はーい」」」
「納得いかないわーーーーーーーーーーーっ!!」
後日、第1回レクリエーション大会として開催された宝探しは、大盛況の内に幕を閉じる。
その時の賞品(=宝)が、知弦さん提供の会長の写真――寝顔シリーズ――だったのは、また別の話。
後書き
勢いに任せてまた書いちゃったZE☆ ってことで雅輝です。生徒会シリーズ2作目をお送りします。
「生徒会の四散」を読んで上がったテンションのまま書いた、今回のSS。やっぱり生徒会は難しいと再認識^^;
今回はあえてギャグ一辺倒にしてみました。というか、シリアスネタが思いつかなかったのが要因ですが。
オチがちょっと弱かったかなぁと反省。会話自体も原作でやり尽くされてる感が否めませんね。
あっ、一応これ500000HIT記念作品です。皆さま、いつもありがとうございますm(__)m
それでは、また「生徒会の五彩」が出て、テンションが上がった時にでもお会いしましょう!
くりむ 「感想とかは、ここに書きこみなさいっ!」