D.C.U SS
「桜色の魔法」
Written
by diary
―――茜色の世界に桜吹雪が舞い落ちていく。
前を見ると大きな枯れた桜の幹,そこに背の低い金髪の女の子が立っている。
(なんだろう,この懐かしい感覚・・・前に見てたいつもの夢みたいな感じだけど,何か違うよな・・・)
金髪の少女は桜の幹に手を触れ――懐かしそうに桜の木を見上げながら――ゆっくりとこちらをふりむいて,何か喋っている。
だが所詮夢の中。声までは正確には聞き取れない。かすかに聞こえてくる音も,桜同様,今にも消えてしまいそうな儚げなもの。
そしてそのまま夢の世界はゆっくりと閉じていった。
「んあ・・・なんだ今の夢」
なんとも眠気がとれない。恐らくあの夢は「他人の夢」だろうと義之は直感した。
義之の魔法の一つ―――『他人の夢を覗くことができる』というもの。文字通り,他人の夢に入り込むことができるが,相手を選べない,意識的に発動できない,何よりも眠気はとれないと,デメリットが大きいものである。
(ダメだ・・・眠いな,もう一眠りするかな・・・)
義之はゆっくりと目覚まし時計をみた。学校まで歩いて行くためにはご飯や着替えをすべて30分でやらないといけない時間だ。走っていくならもう少しゆっくりでも間に合うが,朝から走るのも億劫である。
そんなわけで,義之は眠気を噛み殺しながらベットから離れ,リビングへと向かった。
リビングに着くと,由夢が一人で朝食を摂っていた。
「あ,おはようございます,兄さん」
「おはよう,由夢。これ・・・まさか由夢が作ったのか・・・?」
「兄さん,なんですかその表情は。こんな朝早くからケンカでも売ってます?」
食卓にはご飯,味噌汁,サラダ,焼き魚まで朝にしては割と豪華な食事が並んでいた。
だが義之には由夢がこれを作ったとは思えなかった。かつて由夢が料理したとき,元の食材が何だったか忘れるほど炭化,あるいは奇妙な味付けがされていたためだ。
「どうせ私は料理なんて出来ませんよ!作ったのはお姉ちゃん!」
「もう,弟くん?由夢ちゃんもいつかちゃんと料理できるようになるんだから,そんなこといっちゃダメ。わかった?」
キッチンの奥から音姫が出てきた。手には切った林檎を盛った皿がある。
(いや,だってあの料理のあとじゃなぁ・・・)
と思いつつも,口には出さなかった。このまま由夢の料理の話を続ければいつか由夢が拗ねてしまうのが長年の幼なじみ生活で染み付いているからだ。
だが義之は内心少し寂しく感じていた。数ヶ月前まではこんな騒がしくも楽しい雰囲気を面白そうに眺めている人がいたのだが今はいない。元から放浪癖があるのでいなくなることはよくあったが,さすがに『家族』がいないと寂しいものがある。
「兄さん?人の話聞いてます?」
つい感傷に浸って話をきいていなかった義之は,由夢の機嫌を損ねないためにもとりあえず話題を逸らしてみることにした。
「ところでさ,今日奇妙な夢を見たんだ」
(正確には,見たではなく覗いたんだけどな)と思いつつも,まだ魔法のことはこの二人にも明かしていないためごまかしておいた。
だが,その言葉に由夢はピクリと動いた。しかし義之と音姫はそんな由夢の反応に気付かず,話を続けた。
「どんな夢だったの?」
「何かよくわからないんだけど・・・なんか桜の木の前で女の子がいて,何か言ってたけど聞き取れなくて・・・とにかくよくわからない夢」
「へ,へー。そんな夢を見たんですか」
「・・・どうしたの,由夢ちゃん。調子でも悪いの?」
音姫の言う通り,由夢の様子がどこか変だ。妙に落ち着きがない。
「由夢大丈夫か・・・無理するなよ」
「そうだよ,由夢ちゃん。無理すると後でもっとしんどくなるし」
「大丈夫だって,うん,大丈夫だから」
由夢は笑顔で全力で手を横に振りながら否定した。しかし,明らかに無理な笑顔をしているのは二人から見てもすぐにわかった。
「由夢・・・やっぱり我慢するな。行きたいときに行っとかないと毒だぞ?」
「・・・はい?」
「いや,トイレは我慢するもんじゃないぞ。別に家族みたいなもんだから食事中だからって気にすることは・・・」
「―――っ,兄さんのバカ!」
由夢はそう大声で叫ぶとそのまま通学鞄をもって家を出ていってしまった。
「何なんだ一体・・・俺なんか悪いこと言ったか・・・」
「弟くん,ちょっと正座なさい!」
「ええ,なんで!?というかそんなことしてる時間は・・・」
「つべこべ言わずに正座!」
「はいぃ!」
この後,義之は20分に渡り音姉によるデリカシーについての講座を受けることになった。結果としてちゃんと歩いていける時間に起きたはずが,音姫と全力疾走しないと間に合わないという羽目にあった。
―――昼休み
(やっと昼飯か・・・朝は由夢の件で飯もまともに食えずに説教されてたからな。早く学食でも行くか)
「義之,一緒に食堂行かないか?」
いつものように渉が食事を誘って来た。後ろには雪月花の三人とななかがいる。どうやら義之を待っていてくれたようだ。
「ああ,すぐに・・・」
義之は椅子からスッと立ち上がろうとした。だがその瞬間強烈な頭痛が襲った。視界が歪み,手を机に付けて立たないと安定すらできないほど強烈な―――
「義之・・・?どうしたんだ?おい,義之!」
渉の叫び声とともに,後ろにいた4人も慌てて義之のもとへ駆け寄った。
義之は「大丈夫だ」と言いたかったが,まるで声がでない。体が倒れてしまわないように机を持つだけで精一杯だった。
小恋やななかも大声で何か叫んでいるようだが,義之にそれを聞き取るだけの意識の余裕はなかい。
(何だこの頭痛は・・・『夢』のせいで寝不足で朝飯もまともに食えてなかったとはいえ,尋常じゃ・・・)
もう義之の意識は限界だった。段々視界も歪むだけでなくフェードアウトし始めた
―――キテ―――
(・・・何だ,今の声)
もう横で叫んでいる渉達の声すら聞こえないのに,すんなりと頭に届いた女の人の声。
―――並木ノ最奥ノ―――
だがそれも長く聞けることなく ・・・義之は意識を失い崩れ落ちた。
「―――ん,弟くん!」
耳元で大声で叫ばれ,義之は目を覚ました。無機質な白い壁に照らす夕焼けの茜色の眩しさと,慣れない硬さのベッドに違和感を感じたが,すぐにそこが保健室だと認識できた。
「音姉・・・なんで・・・?」
「弟くんが昼休みに倒れたって由夢ちゃんから聞いてね,それで授業終わってすぐに駆け付けたんだよ。由夢ちゃんももうすぐくると思うよ」
「そっか・・・ごめん,心配かけちゃって」
「ごめんね,お姉ちゃんが説教したせいで朝ご飯ちゃんと食べれなかったせいだよね・・・」
「いや,別に音姉のせいじゃなくて,実は―――」
ガラッという扉の開く音が義之の話を遮った。どうやら由夢がHRを終えて来たらしい。
「兄さん・・・もう起きてて大丈夫ですか?」
「うん,なんともない。それより今朝はゴメン。デリカシーのないこと言って・・・」
「や,もうそんなのどうでもいいよ。それより本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だって。というかこれじゃ今朝と逆だな」
「そうですね」
ようやく由夢はクスリと笑った。だがやはりまだ心配そうな表情は晴れていない。
「でも何で倒れたんですか?夜更かしでもしました?」
「あ,そういえば弟くん,さっき何か言おうとしてなかった?朝も何か変な夢がどうとか言って,結局うやむやに終わらされたし」
由夢と音姉が同時に詰め寄ってきた。二人の表情は心の底から義之の心配をしているのがわかるほど真剣な表情をしていた。
(話したほうが・・・いいよな)
あまり他言していいような話ではないが,真剣に自分を心配してくれている二人に黙っていようと考えるのは失礼だと思った。
義之は夢見の魔法のこと,朝の夢の細やかな内容,急激な頭痛のこと,薄れ行く意識の中で聞いた謎の声のこと―――すべて包み隠さずに話した。
音姫と由夢は黙って話を聞いてくれた。義之が話終えてしばしの沈黙のあと,由夢がゆっくりと深呼吸しながら口を開いた。
「その夢,私が見ていた夢だよ。ただ,普通の夢じゃない・・・私は普通の夢は見れないから。私が見る夢はすべて未来に起こる出来事の先見,未来予知みたいなものかな」
「未来予知って・・・じゃあ由夢も・・・」
「うん,兄さんと同じ。・・・魔法だと思う」
義之は由夢の告白に呆気にとられていた。しかし,その横で,音姫は一人怖い表情をしていた。
「由夢ちゃん,その夢の時間ってどれくらいだかわかる?」
「多分夕方かな。夕焼けで染まってたし」
「それと,弟くん,確かさっき”並木の最奥”とかなんとか言ってたよね?」
「うん,それが何か・・・」
「じゃあすぐ行ってみよっか。夕日が沈む前に,最奥の―――魔法の桜へ」
風見学園正門や桜公園など,初音島の要所を繋ぐ桜並木,かつては一年中満開という稀有な存在だったが,数ヶ月前にその現象は消えた。その最深部に島民すらわずかな人間しか知らない普通のものより一際大きな桜の木がある。
その木に向かって先頭を歩く音姫は義之と由夢の方を振り向く事なく話し出した。
「最深部のあの桜は,魔法によって生まれたもの。もともと作ったのは私たちの曾々祖母に当たる人だけど,それは魔力が強すぎて小さな願いすら叶えて害を与えてしまうことからもう50年以上昔にさくらさんが枯らせているの」
「え・・・?でも俺が物心ついたころにはもう桜は常に満開だったはずなんだけど・・・」
義之の指摘に解答する事なく音姫は話を続けた。
「―――十数年前に,アメリカから帰ったさくらさんは,アメリカでの研究で開発した新たな魔法の桜をもって再び桜を満開にさせた。今度こそ負の感情に作用されないよう制御されると信じて・・・けど人々の願いを取り込みすぎた桜はまたしても制御出来なくなった。思い当たる節はあるでしょ?」
「お姉ちゃん,それってもしかして,交通事故とかの・・・」
「そう。あれは『あいつなんて死ねばいい』みたいな突発的なな願いを叶えようとして起こったもの。もっとも,さすがに死を引き起こすだけの力はなかったみたいだけど」
義之にも思い出した話があった。つい数ヶ月前,さくらが消える直前の不可解な事故の数々。あれがそうだとするなら話は繋がる。
「だからさくらさんは自分がとりこまれることで中から力を制御しようとした・・・結局失敗して,最終的に私が枯らしたの。―――正義の魔法遣いとして」
義之と由夢は唖然としていた。自分が魔法を扱えることは自覚していたが,まさかその魔法でさまざまな人が巻き添えをうけ,さらにさくらがそんなことになっていたという事実は衝撃的なものだった。
音姫の話を聞いているうちにようやく最奥の魔法の桜の幹が見えた。だが義之は近づいていくたびに違和感を感じた。
(桜の香り・・・?でも時期的にはありえないはずなんだけど・・・)
一年中咲いていた以前ならまだしも,今は秋。桜の香りが立つには時期が真逆だ。
そして,その違和感は現実として目の前に広がった。
「嘘・・・そんな,なんで・・・?」
音姫は呆然と立ち尽くした。
魔法の桜は満開だった。さらにその周りの桜も蕾を持つものもあればすでに多少開花しているものまである。疑うまでもなく,この桜が周りに影響を及ぼしていることは間違いなかった。
「お姉ちゃん,これって―――」
「由夢ちゃん,弟くん,ちょっとそこで止まってて。もう一度この桜を枯らすから」
その時―――再び義之を激しい頭痛が襲った。
(また・・・なんだこれ・・・)
昼休みと同じ,尋常じゃない頭痛。あまりの痛さに声を出すことさえできずにガクリと膝が折れて倒れてしまった。
「兄さん!?」
「え・・・お,弟くん!?」
由夢の叫び声に音姫も反応した。二人は必死に義之に呼びかけるが,もはや耳に届かないほど意識が飛び掛かっていた。
―――やっと,やっと帰れるんだ
また声が聞こえてきた。今度ははっきりと,そして声の主の正体もわかるほど。
義之は薄弱した意識の中で一言だけ呟いた
「おかえりなさい」
刹那―――強風が三人を通りすぎ,桜吹雪が舞い。視界が桜で一杯になる。桜はまるで雪のように解けて消え,桜の木は以前の通り裸になっていた。
そして次第に視界を満たしていた桜が晴れていくと,一つの人影が見えた。夢で見た通りの―――小柄で,金髪を両側でしばった碧眼の女の子の姿だった
少女は魔法の木に手を触れ,懐かしそうにその木を見上げて少し祈るようにして,義之達の方を向いて大きく叫んだ。
―――ただいま,義之君。
あとがき:
いつぶりだろう,と思えば受験真っ只中に作って以来のdairyです。あの頃の方がよく執筆してたという奇妙な現象が・・・
相変わらずHPを作っていないため,日頃からお世話になっている雅輝様に投稿させていただきました。こんな駄文を載せていただき本当にありがとうございます。
とりあえず本題の方に。
私の名前とD.C.Uという原作を見て「ま た 由 夢 か」と思った方,残念でしたw
今回は珍しく,さくらさんを主軸においた話で展開させました。
このSSを書こうと思ったきっかけは,友人とのチャットでの一コマ。「初代D.C.で音夢派だったからさくらが嫌いだったけど,Uでいい人すぎて感動した」というところから始まって,
最終的に「ちょっと不憫すぎる」ということで,なんとかさくらさんが報われるような話を作りたくなったんで作成しました。
義之がほとんど寝てばっかりだったのと,あまりに挿入できる与太話がなかったので展開がちょっと急になってしまいましたが・・・大体何を書きたかったのかは察してください・・・orz
結果的に満足できるオチにできましたが,上記のとおり展開が速すぎた点と,義之・さくらさん・音姉・由夢以外の次に存在感があったのが渉だった,という点が不満だったり(ぉぃ
とりあえずまたSS書くときはもっとレベルアップしたいと思います。
最後になりましたが,HPでの掲載をしていただいた雅輝様,ならびにここまで読んでいただいた読者の皆様,本当にありがとうございます。
’08年10月16日 by dairy
管理人の感想
diaryさんより頂きました、「桜色の魔法」いかがでしたでしょうか?
これはなかなか新しい展開でしたね。三人とも、全ての事情を知った上で、さくらが帰って来るという・・・。
文章的には短いかもしれませんが、その分話の流れが非常に綺麗で、違和感なく読めました。
描写も的確で、くどいこともなく、とても読みやすい作品だったと思います。
それでは、ありがとうございました〜^^