・あなたが風邪を引いたなら?

 

 

「……なぁ」

 総志くんがあたしを見上げる。

珍しいことに、今日の総志くんは風邪引きさん。

 熱が40度近く出て、大学を休んでるっておばさんに言われたから、あたしも学校から急いで駆けつけたのが、ほんの1時間くらい前。

「なぁにー? 何か食べたい?」

「いや、それは……いいんだけどさ」

 あー、なんとなく言いたいこと分かるなぁ。

 あたしのご飯は、自分で言うのもなんだけど……美味しくないし。

 美味しいのは、総志くんが作るご飯の方。

 中学生くらいからかな? おばさんが留守にすることが多くなって、総志くんがご飯を作り始めて。

 もう、あたしなんか追いつけないくらいお料理上手になって。

うぅー、分かっててもへこむなぁ……。

「なんで、愛はここにいるんだっけ?」

「お見舞いだから。もー、寝すぎて頭ボケちゃった?」

「――――ああ、そっ……か」

 身体を起こして、あたしの顔を見る総志くん。

 今はメガネをしてないから、あたしもベッドの上に座って側に寄る。

「今まで寝てたのか……っつーか、今……何時?」

「もう夕方だよ。そろそろ晩ご飯の時間」

 テーブルの上の目覚まし時計はもうすぐ5時40分。

 でも総志くんはまだ体調が良くないみたい。顔色は悪くないけど、元気が全然ない。

「おかゆ、食べる?」

 あたしがそう言うと、総志くんはすっごく不安そうな顔。

 なんと言うか……分かっててもすっごく傷つくんですけど。

「おばさんが作ってくれたから、大丈夫ですよーだ!」

「え? あ、いや、そういうわけじゃなくて……」

「違うの? だったらあたしがこれから作るおかゆ、食べる?」

「…………すまん」

 ぐすん。そーじくんのばか……。

 嘘でもいいから、おかゆ食べたいって言って欲しかったよぅ……。

「いいよ。あたしのご飯が美味しくないの、総志くんが一番知ってるもんね!」

「は? あ、いや、違う。そーいう意味じゃ、じゃなくてっ」

 熱い手があたしの手を掴む。ヤケドしそうなくらい熱い、総志くんの手。

「え?」

「おふくろのより……愛のおかゆが、食べたいって……手間かけて、ごめんって……意味、だったんだけ、ど……」

 …………あ。嬉し過ぎて泣きそうだ、あたし。

「……わり、なんか……まだ、話すのも、きつくて……」

「ううん……。じゃあ、すぐ作ってくるね? 寂しいからって、泣いちゃダメだよ?」

「バーカ……」

 総志くんの部屋を出て、階段を下りる。

 泣き笑いなんて、あの日の公園以来。

 でも、泣いてなんてられないっ!

 総志くんに美味しいって言ってもらえるくらい美味しいおかゆ、作らなきゃ!!

 

 

 

 

 

 

「…………まずっ」

「うわーんっ! そーじくんのばかーっ!!」

 

 

 

 ちなみにその数日後。

「ぐしゅっ、風邪、感染(うつ)ったぁ……」

「ほれ、おかゆ」

「うん……」

 

…………涙出そうなくらい美味しかったです。ぐじゅっ。

 

 

 おしまい。