・ファーストキスの思い出。
厳密に言えば。
あの春の公園でしたキスは、ファースト・キスじゃない。
俺たちの最初のキスは、俺が8歳で、愛が5歳だった、冬の寒い日のことだ。
例年にない豪雪に見舞われたその日は、愛がたまたま一人で遊びに来てた。
「そーちゃん、雪すっごいよー」
窓にべたーっと張りついて、降りしきる雪を嬉しそうに眺めてた愛。
束ねた髪房が子犬の尻尾みたいにひょこひょこ動いてるのは、外に出たくてうずうずしてるからだと思ってた。
「めぐ、外は寒いんだから、出ちゃダメだぞー」
「炬燵に潜ってるアンタより、めぐちゃんのほうがよっぽどいいと思うけどねぇ」
おふくろの言葉通り俺は首まで炬燵布団を被って、だらしなく携帯ゲームで遊んでた。
「なんでさ。かーさんだって、コタツでみかん食べてるじゃん」
「お母さんは大人だもの。子どもは元気に、外に出て遊ぶものよー? ねー、めぐちゃん?」
「うん! そーちゃん、雪だるまつくろー!」
べりぃっ、とすごい音をさせながら窓から離れて、炬燵に潜り込んだかとおもうと……愛は俺のすぐ隣に顔を出した。
「う、うわぁーーーっ!! め、めぐ、お前、鼻!! 口も!!」
「うあ?」
俺大絶叫。
ていうか首をかしげる愛の顔から血が出てれば、誰だって驚く。
「どうしたの……って、めぐちゃん!!?」
「うー。そーちゃん、めぐ、顔ひりひりするー」
凍った窓にべったり顔をくっつけていたせいで、愛の顔は、なんというかえらい事になってた。
鼻の頭の皮は向けて血が出てるし、唇もボロボロでだらだら出血中。ほっぺたは寒さで霜焼け寸前。
おふくろは慌てて夏樹さんに知らせに家を飛び出した。
「め、めぐ……?」
「いたいよー……うぅ……うぇ……っ」
やっと痛いのを自覚したのか、ボロボロ泣き出す。
でも涙と鼻水とよだれと血が入り混じった愛の顔は、もうなんていうか、直視できないくらいとんでもないことになってます。
「めぐ、大丈夫だから。すぐおばさん来るから」
「そうちゃあぁん、いたいよぉー……」
ぐいぐい俺のセーターに顔を押し付ける。毛糸のセーターはみるみる血まみれ。
でも、泣いてる愛を何とかしてやりたかったから、俺は袖で愛のよだれと鼻水を拭いて拭いて拭きまくった。
けど、なかなか唇からの血は止まらない。
俺が当時知ってた止血の方法はたった一つ。
舐めて止める。
「めぐ、血、止めてやるからな」
「そぅ、ちゃあん……うむ」
キスとは少し違うけど。
それは、俺たちの最初の口づけ(ファースト・キス)。
ちなみにその後。
「何やってんの! 総志!! めぐちゃん!!」
しつこく血止めしてたら、おふくろにグーで殴られました。
……まあ、当然っていやあ当然なんだが。
おしまい。