「暑〜〜〜」

ここはとある遊園地のゲート前。

ボク――衣井 祥(きぬい あきら)は、今日ここで彼女とデートの待ち合わせをしていた。

いや、正確には”彼女達”なのだが・・・。

まあそれはさておき、ボクは先程も確認した腕時計に再度目を落とす。

「12時51分・・・そろそろかな?」

立っているだけで流れ落ちてくる汗を袖で拭いながら、そう呟く。

約束の時間は1時だし、あの”二人”が遅刻なんかするはずはないし・・・。

・・・そう、ボクの彼女は二人いる。

もちろん、二股をしているというわけではない。

ただ相手が双子で、ボクも彼女達もお互い好きになってしまっただけだ。

ボクはこの付き合い方が間違っているとは思わないし、これからも三人で過ごしていくつもりだ。

「あっ、おにいさ〜〜ん♪」

「こらっ、双樹。走ると危ないって・・・」

目の前のバス乗り場から駆けてくる二人の少女――双樹ちゃんと沙羅ちゃんと一緒に・・・。





双恋 SS

      「遊園地に咲く沙羅双樹」

                   Written by 雅輝







「さて、まずどこから周ろうかな?何か希望とかある?」

入場ゲートでもらったパンフレットを二人に渡しつつ、ボクはそう訊いてみた。

「う〜ん、あっ、双樹はコーヒーカップに乗りたいです」

「双樹ちゃんはコーヒーカップだね?沙羅ちゃんは?」

「わ、私は別に・・・」

「おにいさん。沙羅ちゃん、昨日メリーゴーランドに乗りたいって行ってましたよ♪」

「わあぁぁぁぁぁ、双樹!そのことは言わないって・・・」

「クスクス」

「うん、わかったよ。じゃあまずコーヒーカップに乗って、その次にメリーゴーランドに乗ろっか?」

正直、いきなりコーヒーカップとメリーゴーランドのコンボは精神的にきついけど、女子中学生らしい提案に少し微笑ましい気持ちになる。

・・・いや、まあボクも中学生なんだけどね。

「はい、おにいさん☆」

「あ、ああ・・・」

元気よく笑顔で返事をしてくれる双樹ちゃんと、渋々を装いながらも嬉しそうな顔で同意してくれる沙羅ちゃん。

性格がまるっきり反対な二人だけど、そんな二人だからこそ仲がよく、ボクも彼女達を好きになれたのではないかと思う。

「よしっ、行こう!」

ボクはそんな二人の手を取って、コーヒーカップへと足を進めた。





「メリーゴーランド、楽しかったね。沙羅ちゃん」

「う、うん。まあ・・・」

「さてと・・・次はどうしようか?」

楽しそうに会話をしている二人に、パンフレットに載っているこの遊園地の全体図を見せて反応を窺う。

「う〜ん、多すぎて決められない。沙羅ちゃんは?」

「私も・・・」

「あっ、これなんかどう?」

地図を目で追っていたボクは、ある意味彼女との遊園地デートでの定番を指差した。

「あっ、いいですね。面白そうです☆」

「えっ!こ、これは・・・」

ニコニコ顔で乗り気の双樹ちゃんとは対照的に、苦い表情で妙に焦っている沙羅ちゃん。

もしかして・・・。

「沙羅ちゃん、お化け屋敷は苦手なの?」

”かぁぁぁぁぁっ”

という擬音が聞こえてくるくらい、沙羅ちゃんの顔は真っ赤になってしまった。

「そ、そんなわけないじゃないか!!」

「沙羅ちゃん、あまり無理しないほうが・・・」

「う、うるさい!ほらっ、さっさと行くぞ!!」

明らかに無理をしている顔で、ボクと双樹ちゃんの腕を引っ張ってずんずんとお化け屋敷に向かう沙羅ちゃん。

そんな彼女の後ろで、ボクと双樹ちゃんはしょうがないなぁという風に、クスクスと笑い合った。





「はぁ・・・はぁ・・・」

「大丈夫?沙羅ちゃん」

「あんまり無理しないほうが良かったんじゃ・・・」

「う、うるさい!大丈夫だから、気にするな!」

三人で入ったお化け屋敷。

やはり沙羅ちゃんは苦手だったようで、入った瞬間から既に怯えていた。

そこからは案の定、お化けや仕掛けが出てくるたびに悲鳴を上げ、最後の仕掛けでは目に涙を溜めて走り去ってしまった。

当然、ボクと双樹ちゃんは急いで追いかけて、今いる遊園地の中心の噴水広場でようやく追いついた。

『にしても、双樹ちゃんは全然怖がらなかったなぁ』

お化け屋敷に入る前までは、ちょっと失礼かもしれないが双樹ちゃんのほうが怖がると思っていたのに・・・。

「はぁ・・・はぁ・・・・・・ふぅ」

「落ち着いたみたいだね、沙羅ちゃん」

「うん、ありがとう。双樹」

『・・・ま、いっか』

目の前にいる微笑ましい二人の彼女を見ていると、そんなことはどうでもいいように思えてくる。

『よ〜し、ここはしっかりとエスコートをして、二人に格好良いところを見せなくちゃな』

ボクは決意を新たに、意気揚々と二人に声を掛けた。

「さ、次へ行こうか!」







「あれ?もうこんな時間なんですね」

双樹ちゃんが自らの腕時計を見ながら発した言葉に、ボクはすっかりと茜色に染まった空を見上げた。

夏という季節で日が長いこともあり、この明るさでも既に6時を回っているらしい。

「じゃあ、もうそろそろ帰ろっか?」

あんまり遅くなるわけにはいかないので、二人の顔を見てそう言った。

しかし・・・。

「あっ、ちょっと待ってくれないか?」

沙羅ちゃんが珍しくおずおずと話しかけてきた。

「ん?なんだい?」

「えっと・・・最後にあれに乗りたいんだが・・・」

そう言って沙羅ちゃんが指したのは、夕陽の逆光の中に佇む巨大な円。

「わぁ☆おにいさん、双樹も乗りたいです」

沙羅ちゃんに続いて、双樹ちゃんも目をキラキラさせながら希望している。

御両親に心配を掛けるわけにはいかないんだけど・・・まあちょっとくらいならいいかな?

『それに、やっぱり遊園地デートの締めくくりって言ったら、観覧車は外せないもんなぁ』

「いいよ。でもあれで最後だからね?」

ボクのその言葉に、笑顔で頷く二人であった。





しばらく観覧車の列に並んで、もう次がボク達の番となっていた。

「双樹、ちょっと・・・」

その時、沙羅ちゃんが双樹ちゃんを手招きして、何やら耳打ちをし始めた。

『・・・何だろう?』

「―――、―――」

「えっ、そんな!」

驚きの声を上げる双樹ちゃんに、沙羅ちゃんはにっこりと微笑を浮かべると、くるっとボクの方を向き直って・・・。

「祥!私は今からお土産を買いに行くから、双樹と二人で観覧車に乗っててくれないか?」

「え、えっ?」

「じゃ、頼んだぞ!」

そう言い残すと、お土産コーナーの方へと駆けていってしまった。

「ちょ、ちょっと待っ――」

「次の方ー、どうぞ」

後ろから、従業員の声。

どうやらボク達の番が回ってきたようだ。

「お、おにいさん。とにかく乗りましょう!」

双樹ちゃんがボクの手を引いてゴンドラへと乗り込む。

ボクもこの場は素直に従って、双樹ちゃんにわけを聞くことにした。



観覧車はゆっくりと浮上していく。

下にいる人々の姿が徐々に小さくなっていくと同時に、ボクは向かいの席に座っている双樹ちゃんに問いかけた。

「それで、どういうことなのかな?」

「はい・・・さっき沙羅ちゃんが急に耳打ちをしてきた時、こう言われたんです」

「”祥と二人っきりにしてあげるから、しっかり頑張りなよ”って・・・」

「何でそんな事を・・・」

「・・・たぶん、沙羅ちゃんは双樹に遠慮してるんだと思います」

「双樹の方が先におにいさんの事を好きになったのに、沙羅ちゃんもおにいさんと接していく内に好きになってしまった・・・」

「だから、三人ともが恋人同士となった今でも、こういう時には双樹の事を優先してくれるんだと思います」

「・・・」

ゴンドラは徐々に頂上へと向かっていく。

双樹ちゃんの真剣な表情に、そしてその内容に、ボクは何も言葉を発することができなかった。

「沙羅ちゃんは、優しい子だから・・・何でも双樹を優先してしまう」

「その気持ちは嬉しいけど、双樹は何でも二人で分かち合いたいんです」

「沙羅ちゃんは我慢して・・・双樹だけがたくさん得られるなんて、嫌なんです!」

「・・・双樹ちゃん」

目の端に涙を浮かべ、自分の気持ちを精一杯吐き出す双樹ちゃんを、ボクは歩み寄ってそっと抱きしめた。

「えっ、お、おにいさん?」

「分かってるから。沙羅ちゃんが優しい子だって事も、双樹ちゃんのその気持ちも・・・」

「おにいさん・・・」

「ボクは、まだまだ頼りないかもしれないけど・・・でも気持ちは一緒なんだ」

「ボクは沙羅ちゃんと双樹ちゃん・・・君達二人を恋人として選んだ。いつまでも三人一緒でいたいからこそ、選んだんだ」

「だから・・・降りたら二人で沙羅ちゃんに言い聞かせなきゃね?」

双樹ちゃんの隣に座りなおし、彼女の顔を見ながらボクは微笑んだ。

「・・・双樹、おにいさんを好きになって良かったです」

涙に目を潤ませながらそう微笑む双樹ちゃんの顔は、夕陽に照らされ尚のこと可愛く見えた。

「・・・ああ、ボクも。二人を好きになって本当に良かったと思ってるよ」

ボクは彼女の瞳を真っ直ぐ見つめ、目を瞑った彼女の唇に触れるだけのキスを落とした。

「んっ・・・。ふふ、沙羅ちゃんにも後で同じ事をしてあげてくださいね?」

「・・・うん、分かってるよ」

こんな時にでもまだ沙羅ちゃんの事を気に掛けている双樹ちゃんがとても可愛くて・・・。

ゴンドラが再び地上に戻るまでの間、ボクは彼女の温もりを確かめるように抱きしめていた。



end


後書き

ふう、やっと書き上げました。25000HITリクエスト作品。

今回は鷹さんのリクエストで”双恋”にチャレンジしてみたわけですが・・・。

今まで書いてきたSSの中で、一番難しかったと思われます(汗)

その理由として、まず一人称が”ボク”キャラは非常に書きにくいということ。

さらには、双恋というゲーム自体が会話と心理描写だけで展開されていくということ。

出演キャラが中学生ということ。

・・・修行になりました(笑)



で、問題の内容ですが・・・。

後半部分は自分でも結構納得できてたりするんですが、前半がちょっと弱いかなと・・・^^;

もうちょっと、メリーゴーランドやお化け屋敷で話を広げたかったのですが・・・難しいもんです。



それでは、リクエストしてくださった鷹さん、そしてここまで私の拙い文章を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!^^


2006.4.8  雅輝