永遠のストーリー 〜Forever with you~
12月24日――――今日はことりと付き合い始めてから2度目となるクリスマス・イヴ。
今は毎年の恒例行事の一つ、クリスマスパーティーの真っ最中だ。
冬だけあり少々肌寒いといっていい気温なのだが、”祭り”という雰囲気のせいか周りは活気づいていた。
周囲を見渡すと、あちこちに出店が並んでいる。
「よう、朝倉。こんな時にまで『かったりぃ』か?」
「ああ……お前が今、ここに来たことによって、かったるくなったな」
ため息混じりに、そう切り返す。
俺の目の前に現れたのは悪友の杉並だった。
いつものことながら、不敵な笑みを浮かばせている。
おそらく、今回のクリスマスパーティーでも騒ぎを起こすつもりなんだろう。
いや、こいつの場合は断定できるな。
「ふっ、同志である俺を相手に随分と冷たいんじゃないか?」
「……悪いが、お前と同志になった覚えは無いぞ」
確かに、附属時代は俺も色々と騒ぎを起こしてはいたが、本校に入ってからは騒ぎなど起こしてはいない。
大体、附属時代もこいつと同志―――つまり、同じ志を持つ者でなどあったはずがない。
「やっぱ、お前は今回もなんかすんのか?」
一応、訊いてみる。
ま、答えは分かりきっているんだが。
「愚問だな。こんな時こそ暗躍しないで、何が学生生活かっ!」
即座に予想通りの答えが返ってくる。
いや、普通の学生は暗躍などしないだろう。
まあ、この男に常識を求めても無駄なんで、ここは流しておくことにする。
「ところで、朝倉。中庭でひとりボーッと何をしているんだ?」
「別にボーッとなんてしてねえよ。ことりと待ち合わせだ」
「ほう……」
俺の返答を聞くと、杉並は品定めでもしているかのような目でこちらを見てくる。
「なんだ? 俺の顔に何かついてんのか?」
「いや、”愛する女性を待つ男の姿”というものを観察中だ」
「……そういう言い方はするなと、1年前にも言ったはずだが」
「はっはっはっ、照れるな照れるな」
高笑いをする杉並。
こいつがこの状態になってしまっては、もう手が付けられない。
(いかん、頭が痛くなってきた……)
と、俺が頭を抱えたその時だった。
「だ〜れだ」
透き通ったキレイな声と共に、俺の目の前は真っ暗になった。
聞き間違えるはずがない声―――この声の主が誰なのか、俺には分かりきったことだった。
だけど、ただ答えてもつまんねえよな?
「ダーリンでしょ?」
「う〜ん……この場合は、ハニーが正解じゃないかな?」
こういったボケにも乗ってくれるところが、ことりの良いところだ。
以前、ことりとまだ出会ったばかりの頃に、今と似たようなやり取りをしたことがある。
まあ、あの時と今とでは立場が逆なんだが……。
それに、なんといっても、今の俺とことりの関係は恋人同士だ。
「お待たせっ、純一くん♪」
視界を遮っていた手が離され、再び目の前が明るくなった。
後ろを振り向くと、目の前には満面の笑みを浮かばせたことりが立っていた。
「ゴメン。ちょっとクラスの子に捉まっていたんだ」
「いや、俺も今来たところだよ」
「でも、純一くんの手……こんなに冷たいよ」
そう言って、ことりは俺の手を包み込む様に自分の手を添えた。
ことりのこの行動で、自分の頬が徐々に熱くなっていくことを感じる。
握られている手からは、ことりの温もりがひしひしと伝わってくる。
「ことり……」
「純一くん……」
ここが中庭であるということを忘れ、ことりのことを抱きしめようとした時。
「お前たち……、恥ずかしくないか?」
「「うわっ!?」」
杉並の言葉によって、俺たちは現実に引き戻された。
そういえば、いたんだっけ……こいつ。
すっかり忘れてたな。
「あはは……こんちわっす、杉並くん」
顔を赤らめながら、ことりは杉並にそう言った。
一方、杉並はというと、俺たちを見比べながらニヤニヤと笑っている。
「何がおかしいんだ? 杉並」
「な〜に、我が学園一のバカップルを微笑ましく見守っているところだ」
「「……………ッ!?」」
杉並の言葉にふたり仲良く口ごもってしまう。
(バカップル……か)
まあ、否定は出来ないけどな。
しかし、こいつに言われると妙に腹が立つのは何故だろう?
「ところで、白河嬢よ。今年はミスコンには不参加らしいな?」
「ええ。純一くんがヤキモチを妬いてしまうんで」
「なるほどな」
嫌な笑いを浮かばせながら俺の方を見る杉並。
ことり……出来れば言葉を選んで欲しかったぞ。
ま、確かに『ミスコンに出るな』とは言ったけどさ。
「しかし、学園のアイドルである白河嬢が出ないとあっては、ミスコンは紅しょうがの無い牛丼のようなものだな」
「……私は紅しょうがっすか?」
杉並の言葉に複雑な表情をすることり。
まあ、紅しょうがに喩えられて喜ぶ女の子はいないだろう。
(と、そんなことより今はこの邪魔者を排除することが先決だな!)
そう結論に達した俺は、鞄の中からバナナを一房取り出した。
そして、それを無理やり杉並に押し付ける。
準備完了――――これで、後は召喚するだけだ。
そう、最強の鼻を持つわんこ――――天枷 美春を!
「あ〜っ、こんなところにバナナが在るぞ〜っ!!」
「バナナですか〜っ! 美春はバナナのためなら、たとえ火の中水の中〜っ!!」
俺が大声を出したすぐ後、美春は猛ダッシュで中庭にやってきた。
相も変わらずバナナ狂だな……美春は。
だが、今の俺にとっては頼もしい援軍だ。
「朝倉っ! 貴様……」
杉並は即座に状況を理解し身を隠そうとする。
が、その時には既に美春に視認されていた。
「バナナ発見! それに杉並先輩も!! これは、まさに鴨ネギ状態!!!」
ハイテンションの美春。
すでに戦闘準備完了といったところだろうか。
「まあ、せいぜい頑張れよ! 応援しないから」
”親友”の肩をポンと叩き、優しい一言をかけてやる。
「ちぃ……朝倉、この借りは必ず返すぞっ!」
そう言い残すと、杉並は人混みに向かって走り出した。
そして、そのすぐ後を美春と数名の風紀委員が追いかけていく。
ま、これでミッションコンプリートだ。
「くすっ……二人とも相変わらずだね♪」
「まあ、あいつらは変わらないんじゃねえの?」
「うふふ、そうだね」
って、そんなことより――――。
「やっと二人っきりになれたな」
「うん♪」
ことりは笑顔で頷き、腕を絡ませてくる。
「ことり……ここは中庭だぞ?」
「うふふ、照れない照れない」
「ったく、かったるいな」
「もう、じゃあ今から桜公園に行こうか?」
『何で?』と俺は疑問符を浮かべた表情をことりに向けた。
すると、ことりは恥ずかしそうにうつむいて言った。
「二人っきりになりたいから……ね」
場所が変わって桜公園―――とは言っても今、桜は咲いていない。
2年前のクリスマス・イヴには当たり前のように咲いていた初音島の桜。
しかし、それはもう過去のことだった。
(そういえば、ことりと出会ったのは2年前の今日だったな)
2年前に開かれた附属最後のクリスマスパーティー。
そこで俺とことりは初めて出会った。
出会いは偶然だった。
でも、俺たちにとっては必然だったのかもしれない。
運命―――などという言葉を信じる気はないのだが、もしそんなものがあるのなら
あれは、運命の出会いだったんだろう。
少なくても俺はそう思っている。
(あの時の”名乗るほどの者じゃない”が、今はことりの恋人だしな)
ついつい、顔が緩んでしまう。
そこで、肩を寄せ合っていることりが言った。
「どうしたの? 純一くん、なんかうれしそうだね」
「ああ、ことりと恋人同士なのがうれしくてさ」
率直に思っていることを言う。
俺たちは、お互い素直な気持ちを言うことにしている。
「うん、私も純一くんが彼氏さんでうれしいよ」
そう言って、ことりは俺の頬にちゅっと軽くキスをした。
ことりのこの突然の行動に、俺はついつい慌ててしまう。
「こ、ことり!?」
「あははは、隙あり♪」
(ほんと、ことりには敵わないな……)
こういったやり取りの一つ一つに幸せを感じる。
ことりといると、俺は素直な気持ちになることが出来る。
おそらく、それはことりも同じなんだろう。
「くしゅん」
「おいおい、大丈夫か?」
「平気っすよ! 私の白血球はそんなにやわじゃあ……くしゅん」
言葉の途中でくしゃみをすることり。
これじゃあ、説得力は皆無だな。
俺は自分の学生服を脱ぎ、ことりの肩にそっとかけてやる。
「ほら、風邪ひくぞ?」
「でも、それじゃあ純一くんが寒いんじゃないの?」
「このくらい平気だよ。それに今日はクリスマス・イヴ、聖歌隊の出番だろ?」
「う、うん」
「なら万全の状態にしとかなきゃな。ことりの歌、俺も楽しみにしてるんだぞ」
聖歌隊に所属することりは今日、教会で賛美歌を歌うことになっている。
しかも、ことりの場合はソロパートまで任されているから責任重大だ。
こういった体調管理も恋人兼マネージャーである俺の役目だろう。
それに、放っておいたら、ことりはすぐ無茶をするからな。
「うん。ありがと、純一くん」
「じゃあ、そろそろ帰るか……。家まで送りますよ、お姫様」
「私がお姫様なら、純一くんは王子様?」
「王子様って柄じゃないな……俺は。ま、使用人Aってことにしといてくれ」
「う〜……王子様じゃないの?」
分かりやすくぷくぅ〜と頬を膨らませることり。
その様子が可愛らしくて、俺はつい笑ってしまった。
「もう、笑わないでよ」
「悪い悪い。でも、お姫様と使用人Aの道ならぬ恋……ってのも結構いいんじゃないか?」
「まあ、確かにその方がロマンチックかもね」
そう言って、ことりはぴたりと身体をくっつけてくる。
こうして、寄り添っていると寒さがなくなるから、人の温もりというものは不思議だ。
「あったかいね」
「ああ」
ことりの細い肩を優しく抱き寄せる。
並木道を二人並んで、ゆっくりと歩いていく。
もうすっかり二人の世界だった。
「あ〜あ、もう着いちゃったね」
「そうだな」
白河家の門の前に到着。
これで、ことりを送るという任務は完了。
だけど、少々名残惜しいものがあるのは二人とも一緒だった。
「ねえ、純一くん」
「なんだ?」
「最後にギュッと抱きしめてくれないかな?」
「ここでか?」
「うん♪」
満面の笑顔のことり。
この笑顔には勝てないんだよな……俺。
(やれやれ。これも惚れた弱みってヤツだろうか?)
頭の中で、そっと呟く。
ま、俺も名残惜しいと思っていたんで、ちょうどいいが。
俺は腕を伸ばし、ことりの身体を引き寄せる。
「きゃ……いきなりだね」
突然の抱擁に、俺の胸の中で少々戸惑うことり。
その戸惑うことりを強く抱きしめ、俺は彼女の耳元でそっと囁く。
「こういうのは、いきなりじゃないと恥ずかしいんだよ」
「くすっ……変わらないね、純一くん」
俺の背中に手をまわして、ことりは言った。
確かに、このドキドキは付き合い始めた頃から何一つ変わってはいない。
……いや、あの頃よりもっとドキドキしているかもな。
時間に比例して、心臓の鼓動はますます速くなる。
俺の胸の中にいることりがただただ愛おしかった。
無意識にことりを抱きしめている腕に力が入る。
まるでことりのことを繋ぎとめようとするかのように……。
――――そして、二人の唇が重なろうとした時。
「う〜、おっほん」
「いっ!?」
振り返る前から声の主は分かっていた。
「お、お姉ちゃん!?」
「こ、暦先生!?」
そう、ことりの『優しい』お姉さん――――暦先生だ。
ま、今はもう講師じゃないんだが……って、んなこと考えてる場合じゃないよな。
「いやいや。相変わらずお熱いことで……冬でも二人の周りは南国かい?」
ニヤリといやな笑いを浮かべる暦先生。
ちなみに、以前もこんな風に目撃されたことがある。
(もしかして、覗いてんのか……この人?)
「あ、あはははは。じゃあ純一くん、またあとでね」
「―――って、おい! ことり!?」
顔を真っ赤にしながら、そそくさと家の中に避難することり。
唯一の味方に、俺は早々と裏切られてしまった。
(おいおい、これって以前とまったく同じ状況だぞ)
俺はこうなる運命なのか……?
お願いだから誰か答えてくれ。
「いや〜、見てるこっちが照れちゃうね〜」
――――それなら見ないでください。
「ま、若いうちの特権ってところだね」
「……………ッ!」
駄目だ………完全に遊ばれている。
このままじゃ、身体がもたない。
「じぁあ、俺はこれで……。さようなら、暦先生」
「朝倉、あたしはもう講師じゃないんだ。これからは暦お義姉さんと呼びなさい」
「お、お義姉さん!?」
「何だ? 遅かれ早かれ、いずれはそうなるんだろ……何も問題は無いはずだが?
それとも、ことりとは遊びということなのかな?」
「そんなことは断じてないっすよ!」
それだけは断言できる。
が、”口は災いの元”だった。
「なら、暦お義姉さんと呼べるはずだね」
もう話が無茶苦茶だ。
杉並以上に理不尽だよな……この人は。
「それは、またの機会ということで!」
そう言い残し、俺は危険地帯からの脱出を試みる。
が、そんなことが通用する相手ではなかった。
ガシッと首に腕をまわされ、俺は身動きがとれなくなってしまう。
「さっ、ゆーてみ、ゆーてみ」
と、暦先生は手招きしてくる。
くそっ、言うしかねえのかよ。
仕方なく、俺は覚悟を決めた。
「……こ、暦お義姉さん……」
「う〜ん……かわいくはなかったが、まあいいとしよう」
そう言うと、暦先生は俺の首を解放した。
「いや〜、やっぱりストレス解消には、朝倉をからかうのが一番だね」
「くっ!!」
……人間が腐っていやがる。
とてもじゃないが、ことりの姉とは思えんな。
本当にどうして姉妹でこうも性格が違うのか不思議でならない。
まあ、俺も音夢とは正反対の性格だけど……。
「じゃあ、また遊び来なよ」
「……はい」
出来ればあなたのいない時にね。
そう心の中で付け足しながら、俺は白河家を後にした。
…………それから数時間後。
「さてと、そろそろ行くかな」
自宅のリビングで一人そう呟く。
時計の針が指し示す時刻は5時前。
そろそろ教会に向かってもいい時間帯だろう。
そう考え、俺は身支度をして家を出た。
「でも、これはちょっと俺のキャラには合ってねえかな……?」
自分の手にあるものを見て、苦笑交じりにそう呟く。
ことりにプレゼントしようと思い買ってきたバラの花束。
『クリスマス・イヴに彼氏さんからバラの花束を貰う――――王道だけど、女の子としては少し憧れちゃうなぁ』
と、以前ことりが言っていたことを思い出す。
二人で見に行った映画のワンシーンを見た後のことりの感想だった。
街中で花束を持ち歩くのは少し気恥ずかしいものがあった。
それでも、ことりの喜ぶ顔が見られるのなら十分耐えるだけの価値がある。
(ほんと、ことりと付き合う前にはこんな気持ちになるなんて思いもしなかった)
時間が経つにつれて、ことりに対する想いは薄れるどころか強まるばかりだった。
人の気持ちは変わるもの――――ということを、今の俺なら完全に否定することが出来る。
「お! 見えてきたな」
あれこれと考えながら歩いているうちに、いつの間にか教会の近くまでやって来た。
教会の前には大きな樅の木があり、そこにはクリスマスの定番ともいえるイルミネーションが丁寧に施されていた。
辺りはもう薄暗く、光り輝くイルミネーションがなんともキレイだった。
(はは……カップルが結構いるな)
道行く中には、人込みにも関わらず二人の世界に入っているカップルたちが多数見られる。
こういったシーンを見て、微笑ましく感じることが出来るのは、自分にも大切な彼女がいるからなんだろうか?
以前は『バカじゃねえか?』とか思ったりしたしな……。
「あっ! 朝倉君じゃないですか」
「あっ! ほんとだぁ〜」
「ん?」
見覚えのある声に後ろを振り向く。
すると、視線の先にはことりの親友であるみっくんとともちゃんの二人が仲良く立っていた。
クリスマス・イヴということもあり、二人の服装は可愛らしいドレス姿だった。
「やあ。二人もことりの歌を聴きに来たの?」
「ええ。朝倉君と一緒です」
「お仲間さんです」
俺の問いに二人の答えが返ってくる。
(本当に仲がいいよな……三人は)
みっくんとともちゃんの二人は、友達が多いことりが最も親しくしている友達。
幼馴染でもあり、そして親友だ。
『私が本当の意味で素直になれる相手なんだ……あの二人は♪』
と、以前ことりが言っていたように、本当に仲がいい。
この三人を見ていると、『女の子の友情は脆い』というのは迷信なのだと確信することができる。
「朝倉君、その手に持っている花束は、ことりへのプレゼントですか?」
不意に、ともちゃんが訊いてくる。
「まあ……ね。柄じゃないんだけどさ」
照れくさくなり、かゆくも無い頬をぽりぽりとかく。
そんな俺を見て、二人は楽しそうに笑っている。
「ことり、喜びますよ」
「うんうん。あ〜あ、うらやましいな二人はラブラブで」
「はは……」
笑うしかねえよな……この状況は。
どうやら、今日はとことんからかわれる日のようだ。
でも、それが妙に心地よかったりもする。
「朝倉君、これからもことりのことを大事にしてあげてくださいね」
「ああ。もちろんだよ」
ともちゃんの言葉に、俺は笑顔でそうこたえた。
俺の言葉を聞くと、ともちゃんはホッとしたような笑顔をみせる。
そこで、みっくんが悪戯っぽい笑顔で言った。
「心配ないよ、ともちゃん。朝倉君はことりにゾッコンみたいだからさ」
「ま、そういうこと……でも二人とも、本当にことりのことが好きなんだな」
「「ええ、大好きですよ」」
二人の声が重なった。
こんな風に素直に『大好き』と言ってくれる友達が二人もいることりは幸せ者だな。
(それに比べて俺の友達は……)
ふと脳裏に高笑いを浮かべる『バカ』の顔が思い浮かぶ。
まあ、あいつも根はいいやつなんだけどな。
普段が普段だけに、この二人とのギャップを感じてしまう。
「じゃあ、私たちはそろそろ行きますね」
「ん? 折角だから一緒に聴こうよ」
「遠慮しておきますよ。ね、みっくん」
「うん。ともちゃん」
「なんで?」
正直、意味が分からなかった。
が、次の二人の言葉でその意味が分かる。
「だってクリスマス・イヴは恋人同士の夜ですから」
「うん。お邪魔虫になって、馬に蹴られちゃうのはごめんです」
そう言い残すと、二人はパタパタとその場を離れて教会の中に入っていった。
そんな二人の後ろ姿を、俺は苦笑しながら見送った。
「――――と、俺もそろそろ行かねえとな」
その場を離れ、教会の方に向かう。
大きなドアの前につくと、その中から話し声が聞こえてくる。
クリスマス・イヴだけあって、教会は盛況のようだ。
(さてと、俺も入るかな)
ドアに手をかけて、ゆっくりと開く。
すると、視線の先には聖歌隊の少女たちの姿が見える。
その中には当然、俺の彼女であることりの姿もあった。
(どうやら、そろそろ始まるらしいな)
近くにある椅子に座り、俺は聖歌隊の合唱が始まる時を静かに待つ。
今からことりの歌を聴けると思うと、柄にもなく緊張している自分がいることが分かった。
(ことりのことになると本当に弱いよな……俺)
と、心の中で苦笑したところで、ピアノの綺麗な音色が教会の中に響き渡り演奏が始まった。
♪〜〜〜〜〜〜♪
月並みな言葉だけど、本当にキレイな歌声だ。
才能というのもあるのだろうが、それ以上に練習を積んできたんだろう。
彼女たちの歌声は、音楽に疎い俺でもどれほどのモノなのかがよく分かった。
それと同時に、そんな中でソロパートを任されていることりは本当にすごいんだと改めて実感した。
(そろそろ、そのことりのソロが入る頃だろう)
♪〜〜〜〜〜〜♪
ソプラノのきいた澄んだ声――――ことりの歌声が周りの空間を優しく包み込んだ。
いつ聴いてもキレイなことりの歌声。
本当にことりは大した歌い手だ。
自分の彼女だ――――という贔屓目抜きでも、ことりが特別だということがよく分かる。
♪〜〜〜〜〜〜♪
選ばれた者だけが持つオーラ――――ことりは間違いなくそれを持っているんだろう。
聖歌隊の合唱が終わるまでの間、俺は瞬きをすることも忘れことりの姿に見惚れていた。
………………
…………
……
…
聖歌隊の合唱も終わり、俺は教会の前の樅の木の横に立っていた。
瞼を閉じると、再び先程のことりの歌声が聴こえてくるように感じる。
そんな心地よい余韻を感じながら、俺はことりが来るのを待っていた。
吐く息の白さから、この場の寒さがよく分かる。
だけど、今からことりと会うんだということもあってか、心の中は温かかった。
と、そこで視界にことりの姿が映った。
「お〜い、ことり〜っ!」
「あっ! 純一くん♪」
俺が笑顔で手招きをすると、ことりはうれしそうに俺の方へと走ってきた。
「お疲れ、今まで聴いてきた中で一番よかったぜ! はい、これはご褒美」
そう言って、俺はバラの花束をことりに手渡した。
「わぁ〜、ありがとう」
先程の堂に入った歌いっぷりとは正反対の無邪気な笑顔。
このギャップもことりの魅力の一つだよな。
「でも、恥ずかしかったでしょ?」
「何が?」
「バラの花束を持ち歩くこと」
「まあ……な。でも、それよりことりの笑顔が見たかったからさ。
女の子の憧れなんだろ? クリスマス・イヴに彼氏にバラの花束を貰うことがさ」
「うん。純一くんのおかげで夢が一つ叶ったよ♪」
ことりは本当にうれしそうな笑顔を俺に向けてくる。
こんな風に喜んでいることりを見れるなら、あれ位の恥ずかしさなど全然大したことはない。
「じゃあ、次は私の番だね♪」
そう言って、ことりは鞄の中から何かを取り出した。
それは、手編みのマフラーだった。
「クリスマス・イヴにプレゼント出来るように毎日少しずつ編んでたんだ。
こういうのを編むのは初めてだから、ちょっと形は悪いけどね」
「そんなことないよ。サンキュウ、ことり。大事にするよ」
早速、ことりに貰ったマフラーを首に巻きつける。
ことりの想いもあるせいか、心も身体も温かくなっていくように感じる。
そして、自分だけに向けられていることりの笑顔に、俺は頬の緩みを抑えることが出来なかった。
「純一くん?」
そんな俺の顔を、ことりは不思議そうに覗き込んでくる。
「俺、ことりと出会えて本当によかった」
自然と口に出た言葉。
それは俺の素直な気持ちだった。
俺の心の中にことり以外は入る余地が無いだろう。
「……うん、私も純一くんと出会えて本当によかったよ」
微笑むと、ことりは囁くようにそう言った。
そして、俺の肩に頭をちょこんとのせてくる。
「純一くん、これからもずっと私と一緒にいてくれる?」
「当たり前だろ」
「神様に誓って?」
「ああ」
ことりの質問に力強く頷く。
ずっと一緒にいたいと思っているのは、俺の方も一緒だった。
今までも、そしてこれからも……ずっと一緒に。
「俺は世界中の誰よりもことりのことを愛している」
クリスマス・イヴの教会での一言。
これはことりへの言葉でもあり、神様への誓いの様なものでもあった。
ことりのことをずっと守り続けるという誓い。
俺が自分の手でことりを幸せにするという誓いだ。
「私も純一くんのこと、愛してるよ。この世界中の誰よりも」
そう言って、ことりは弾けるような笑顔で俺の胸に飛び込んでくる。
そんなことりを、俺は包み込むように優しく抱きしめる。
お互いの心臓の鼓動が速くなっていくのが分かる。
いつまで経っても慣れないこの感覚――――でも、今はそれがすごく心地いい。
「ことり……俺、すげえドキドキしてる」
「私もだよ……純一くん」
俺が顔を近づけていくと、ことりはそれを受け入れるかのように瞳を閉じた。
そして、俺たちはゆっくりと唇を重ねる。
今、俺の頭に浮かんでくることは、ことりのことが愛おしいということだけだった。
長いキスが終わり、お互いの唇を離す。
「今回は邪魔が入らなかったな」
「くすっ……そうだね」
昼間は杉並や暦先生に邪魔されたからな。
随分とお預けを食らっていた気分だ。
そんな時、夜空から雪がしんしんと降ってきた。
「キレイ……、ホワイトクリスマスだね」
ことりは雪の降る夜空を見上げながらそう言った。
舞い落ちる雪とあいまって、ことりの顔はいつもよりキレイに見える。
(真っ白い雪はことりの持つイメージにぴったりだな)
そう感じ、俺は不覚にもまたことりに見惚れてしまった。
そんな時――――不意にことりが『くしゅん』とくしゃみをした。
「おいおい、やっぱ風邪か?」
昼間にもことりがくしゃみをしていた事を思い出す。
「う〜ん、微熱……かな」
「寒いだろ? 俺のコートを羽織っとくか?」
「ありがと。でも、平気……純一くんと一緒だから」
「ああ」
ことりを抱き寄せ、お互いの体温を感じ合う。
人を好きになるということには『裏付け』なんてどこにも無い。
未来のことも、俺には何も分からない。
でも、ことりと付き合ってきた今までのこと――――。
喧嘩して、仲直りして、笑い合って、支え合って、そうやって乗り越えてきた沢山のこと――――。
そう、振り返れば確かに道があるんだ。
沢山の想いと共に歩いてきた俺たち二人の道が……。
一人ではまだ半人前かもしれないが、ことりと一緒なら自信を持って歩いていける。
ことりを好きだというこの気持ちが変わらない限り、俺たちの物語もきっと永遠に続くのだから。
=あとがき=
はじめまして、このSSの作者のクロネコです。
この度は『永遠のストーリー 〜Forever with
you〜』を読んでいただき本当にありがとうございます。
このSSは2004年12月にシルビアさんのサイト、『風の妖精』さんの冬コンペに出させていただいた作品です。
ことりファンであるにもかかわらず、ネット上に公開した純一×ことりSSはこれが初だったりしました。
(一番最初に公開したのはオリキャラ×ことりの長編SSだったので)
このSSはことりシナリオのアフターで付き合い始めてから二度目となるクリスマス・イヴが舞台です。
ことりはD.C.W.S.・D.C.S.V.共に喧嘩ネタでしたので、このSSは原作でのバカップルぶりを目指して書いてみました。
(その後に発売されたD.C.F.S.とC.D.C.D.もすれ違いネタですしね)
純一とことり以外のキャストは杉並・みっくん・ともちゃん・暦先生。(美春も少し)
この四人にはもう少し二人の仲をからかわせたかったんですが、当時の自分の実力(今はもっと落ちてそうですが)ではこれが限界でした……精進してきます。
このSSはことりシナリオにおける重要なキーワード”裏付け”の答えがテーマです。
”裏付け”がなく始まった二人の恋愛ですが、付き合ってきた時間が二人にとっての”裏付け”になったというのがこのSSでの結論です。
まあ、純一とことりならこれからも二人仲良くラブラブやっていくんでしょうね(笑)
ことり好きの自分としては、そう願っています。
世間一般ではD.C.Uが発売されてて正史が固定されたようですが、私はプレイしていないので関係なくことりシナリオが正史です(笑)
今度、ゲームやOVAでことりEND版の作品も出るようなので、それにはとりあえず期待もしております。
D.C.S.S.の扱い的に不安の方が大きかったりするんですけどね。
そして『Memories Base』さんには雅輝さんの長編ことりSSが大好評連載中!
クライマックス間近ですがこちらは毎回楽しませてもらってます!! ヒナが出てるのも個人的にはうれしい♪
もうすぐ終わりと思うと寂しいですが、それ以上に結末に期待したいと思います。
あと、同日に投稿しました『二人の願い 〜大切な日常』の方もよろしくお願いします。
こちらは純一×音夢SSなので、音夢ファンの方には是非アドバイスをいただきたいところです。
では、長くなってしまいましたが、この辺で失礼したいと思います。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
―――― 2008年12月23日 クロネコ
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管理人の感想
どうも、雅輝ですっ!クロネコさんに短編を二作ほど投稿して頂きました^^
こちらは純一×ことり。ことり好きな私にとっても、堪らない一作だったわけですが。
いやぁ、ラブラブっすねぇ。もう読んでいるこちらが恥ずかしくなるほどのバカップルぶり。
でも、ことりって基本的に甘えん坊なので、これくらいが自然なのかもしれませんね。純一もゾッコンですし。
まさに永遠の愛を誓う二人。時節も丁度クリスマスということで、良い記念になりました。
それでは、ありがとうございました〜。