2004年に戻る

アフガン零年 / OSAMA
[データ] [感想]
(監督)
(脚本)
(製作年)
(製作国)

(出演)
セディク・バルマク
セディク・バルマク
2003年
アフガニスタン/日本/
アイルランド
マリナ・ゴルバハーリ
モハマド・アリフ・ヘラーティ
ゾベイダ・サハール
ハミダ・レファー

カラー/1h22
 映画を作ることも観ることも禁じていたタリバン政権崩壊後、初めて作られたアフガニスタン映画。2004年のゴールデングローブ賞外国語映画賞、2003年のカンヌ国際映画祭カメラドール特別賞受賞作。日本のNHKが機材などのハード面を中心に全面サポートしている。
 主人公の少女は戦争で父と兄を失い、貧困の中、祖母と母親との3人で暮らしていた。女性が身内の男性を同伴せずに外出することのできないタリバン政権下、母親は少女を少年の姿に変えて働きに出すことを決める。泣きじゃくる少女に祖母は「虹をくぐれば自由になれる」と、アフガンの昔からの言い伝えを語りながら、少女の髪を切る。少年となった少女は知り合いの店で働き始めるが、ある日、街のすべての少年が宗教学校に召集されることになり、少女もそこへ連れて行かれてしまう…。
 監督は、ラストで少女が虹をくぐり自由と希望に向かうシーンを削除した。その代わり、縄跳びを跳び続ける少女のシーンを挿入する。「虹をくぐれば〜」という祖母の言葉を胸に、少女は自分が虹をくぐる姿を夢想しながら、何度も縄を跳び続けている。その姿に何とも言えないやり切れなさを感じた。

呪怨
[データ] [感想]
(監督)
(脚本)
(製作年)
(製作国)
(出演)
清水崇
清水崇
2002年
日本
奥菜恵
伊東美咲
上原美佐
市川由衣
津田寛治

カラー/1h32
 私は和製ホラーに明るくないので知らなかったのだが、どうやらこの作品には“ビデオ版”と“劇場版”があるらしい。今回私はWOWOWで放映されたものを見たわけだが、どうやらこれは“劇場版”だったようだ。後で調べたら、“ビデオ版”と“劇場版”とでは、出演者もスタッフも上映時間も違っていた。監督と脚本だけが同じらしい。どうやら、先に登場した“ビデオ版”がカルト的人気を呼び、その勢いで“劇場版”がリメイクされたようだ。主演は奥菜恵と伊東美咲。ホラー映画にとって、恐怖に怯える美女というのは定石。それにしても、この作品は登場人物がやたら多すぎる。やってることは、呪われた一軒家を舞台に、入れ替わり立ち替わりやってきた人が恐怖体験をするという、ただそれだけ。恐怖演出もなんだかドリフのコント並みだし。白塗りのお化けなんて、今さら怖くねーよ。白塗りの子供とか、這いずりまわるお化けとか出てくるたびに、大笑いしてしまった。もう一つの欠点は、ストーリーが分かりづらいこと。無理にサスペンス風にしようとして、時間を前後させたり、登場人物を交錯させたりしているけれど、上手く整理しきれてなくて、分かりづらいだけ。なんて、いろいろ書いたけど、結局これは、奥菜恵と伊東美咲のファンのための映画なのだから、二人の恐怖に怯えた顔が見られれば、ファンはそれで満足なのだ。

少女〜an adolescent
[データ] [感想]
(監督)
(原作)
(脚本)

(製作年)
(製作国)
(出演)
奥田瑛二
連城三紀彦
成島出
真辺克彦
2001年
日本
奥田瑛二
小沢まゆ
小路晃
夏木マリ
室田日出男

カラー/2h12
 adolescentとは「青年・若者」という意味。一見清らかなタイトルだが、私の脳内変換では「ロリコン」となる。中年男と少女の純愛を描いた連城三紀彦の同名短編小説の映画化。乱暴に言ってしまえば、「若い娘といいことしたいなぁ」という、おやじ(奥田)の夢を具現した作品。奥田瑛二の監督デビュー作で、第17回パリ国際映画祭グランプリ受賞作。ヒロインの少女を演じた小沢まゆも、同映画祭で主演女優賞を受賞している。そもそもパリ国際映画祭自体、かなり怪しげである。
 背中に刺青のある中年警官の友川は片田舎の派出所で退屈な毎日を送っていた。そんなある日、夜勤明けに喫茶店で居眠りをしていると、抜けるような白い肌を持つ魅力的な少女が現れる。誘われるままに少女と関係を持つが、目を覚ますと、お金とメモを残し少女は消えていた。しばらくして友川は少女と再会するが、少女は15歳の中学生だった。関係を深めていくうちに、少女は自分の背中に「比翼の鳥」の刺青を彫ることを決心する。半人前の男と未熟な少女。背中の二羽が重なり合ったとしても、二人は決して一人前になることはない。そこには傷ついた人間の痛ましさがある、というのがこの映画の正しい解釈なのだろうか。別に、中年男と少女の純愛というものがあってもいいと思うけど、惹かれあうにも理由がある。もう少し純愛というところを上手く表現できないと、単なるロリコン映画で終わってしまうよ。

黒猫・白猫 / CHAT NOIR, CHAT BLANC
[データ] [感想]
(監督)
(脚本)
(製作年)
(製作国)
(出演)
エミール・クストリッツァ
ゴルダン・ミヒッチ
1998年
フランス/ドイツ/ユーゴスラビア
バイラム・セヴェルジャン
スルジャン・トドロヴィッチ
ブランカ・カティチ
フロリアン・アイディーニ
ザビット・メフメドフスキー
サリア・イブライモヴァ
サブリー・スレイマーニ

カラー/2h10
 『パパは、出張中!』、『アンダーグラウンド』のエミール・クストリッツァ監督が、ドナウ川のほとりで暮らすジプシーたちの素顔を、軽快な音楽とともに、陽気に描いたドタバタ・コメディ。この作品でエミール・クスロリッツァは、1998年のベネチア国際映画祭、最優秀監督賞を受賞している。ジプシーのマトゥコとザーレの親子は、ある日、ロシアの密輸船から石油を買ったつもりが、騙されて水をつかまされる。挽回とばかりに、一攫千金を狙って列車強盗を企てるが、ヘマを重ねて失敗する。おまけに大金を失い、借金の穴埋めに、息子のザーレが、新興マフィア・ダダンの売れ残りの末妹と結婚させられる羽目になる。結婚式当日、ドサクサに紛れて花嫁が脱出に成功するのだが・・・。
 家畜がそこらじゅうを走り回り、天井裏から死体が転がり落ちたり、手榴弾が爆発したり、肥溜めに落とされたり、とにかくハチャメチャで、最初から最後まで、全速力で突っ走るジェットコースターのようで、振り落とされたら終わりです。でも、メチャクチャやって、話をこじれるだけこじらせておいて、最後はハッピーエンドに全てを丸く収めてしまうあたりが、この監督の凄いところなのかもしれない。

ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔 / THE LORD OF THE LINGS: THE TWO TOWERS
[データ] [感想]
(監督)
(原作)
(脚本)



(衣裳)

(製作年)
(製作国)
(出演)
ピーター・ジャクソン
J・R・R・トールキン
ピーター・ジャクソン
フラン・ウォルシュ
フィリッパ・ボウエン
スティーヴン・シンクレア
ナイラ・ディクソン
リチャード・テイラー
2001年
アメリカ/ニュージーランド
イライジャ・ウッド
イアン・マッケラン
リヴ・タイラー
ヴィゴ・モーテンセン
ショーン・アスティン

カラー/2h59
 『指輪物語』の完全映画化全3部作の第2作目。前作のラストで3つに分かれてしまった「旅の仲間たち」が、それぞれ新たな出会いと別れを経験しながら、指輪を捨てる旅を続けていく。この作品を見るのは2回目。今回の鑑賞もまた、復習のため。前作同様、東劇で公開していた「スペシャル・エクステンデッド・エディション」を見逃してしまったことを後悔していたけれど、良く考えてみたら、このヴァージョンはDVDで出ているので、本当に見たいのならそちらを見ればいい。まぁ、家のテレビじゃ迫力は出ないかもしれないけどね。前回の感想でも書いたかもしれないけど、2作目は物語に大きな展開がないので、ちょっぴり中だるみ気味。そして、相変わらず、「ガンダルフ、出てくるのおせーよ!」と思ってしまう。メリーとピピンはずーっと木の上だし、フロドは始終ぼーっとしているし。確かに、あらゆる総力を結集させて、お金もエキストラもたくさん使って、CGも特殊効果もめいっぱい使って、あれだけの大作を作りあげたのはすごいと思う。でも、この手の世界観に興味が無い私は、最初から手を出すべきではなかったのかもしれない。物語の世界は広過ぎて、話にはついていけないし、登場人物は多いし、上映時間は長いし、正直辛い。マニアが解説本片手に見るような映画であって、冷やかし気分で簡単に見れるような映画ではないのだ。とりあえず、ここまで見ちゃったから、3作目まで見るつもりだけどさ。たぶんそれを見た時点で、私の指輪物語は終わると思う。あー、3作目見に行く前に、背筋きたえておこーっと。ところで、「二つの塔」って何かと思ったら、サルマンの牙城オルサンクと、冥界の王サウロンの要塞バラド=ドゥアの暗黒の塔のことなんだって。そんなこと言われても、よくわからないけど。

シービスケット / SEABISCUIT
[データ] [感想]
(監督)
(原作)
(脚本)
(撮影)
(編集)
(製作年)
(製作国)
(出演)
ゲイリー・ロス
ローラ・ヒレンブランド
ゲイリー・ロス
ジョン・シュワルツマン
ウィリアム・ゴールデンバーグ
2003年
アメリカ
トビー・マグワイア
ジェフ・ブリッジス
クリス・クーパー
エリザベス・バンクス
ウィリアム・H・メイシー
ゲイリー・スティーヴンス
キングストン・デュクール

カラー/2h21
 大恐慌時代のアメリカで、人々に生きる勇気と喜びを与えた一頭の競走馬の奇跡の物語。原作はアメリカのベストセラー実録小説『シービスケット あるアメリカ競走馬の伝説』。私はこの本を途中まで読んで見に行ったので、前半の不親切過ぎるくらい説明不足の場面も、情報を補いながら整理して見ることができた。それでも時々誰が誰なのか分からなくなることもあったから、おそらく原作を読んでいない人はさっぱり分からなかったのではないだろうか。主人公は心に傷を負った3人の男と1頭の馬。家族から引き離され、騎手としてひとり厩舎に残された青年ポラード。愛する者を失い、やがて競馬の世界に傾倒していく馬主のハワード。カウボーイの職を追われ、行き場を失った調教師スミス。そして、優れた血統を持ちながら、気性が荒く、小柄で足が曲がり、すべての調教師から見捨てられた競走馬シービスケット。この3人と1頭が出会い、奇跡の復活劇が始まる。この運命的な出会いとその後の試練を、映画はちょっと簡単に描き過ぎている。なんだか、復活したシービスケットが1着で駆け抜けるシーンを最大のクライマックスとすることに必死になり過ぎたあまり、他にあまり手が回ってないような気がする。隣のおばちゃん連中は、シービスケットが勝ったシーンだけ見て、大喜びだったけど、シービスケットが勝って「めでたし、めでたし。」って言うだけだったら、別に映画にする意味ってないんじゃないかな。厖大なエピソードからなる話だから、すべてを網羅するのは無理な話。でも、もう少し違った視点で描くことができたら、もう少し味わい深い作品に仕上がったんじゃないのかなぁ。

ロード・オブ・ザ・リング / THE LORD OF THE RINGS: THE FELLOWSHIP OF THE RING
[データ] [感想]
(監督)
(原作)
(脚本)


(撮影)
(音楽)
(製作年)
(製作国)
(出演)
ピーター・ジャクソン
J・R・R・トールキン
ピーター・ジャクソン
フラン・ウォルシュ
フィリッパ・ボウエン
アンドリュー・レスニー
ハワード・ショア
2001年
アメリカ/ニュージーランド
イライジャ・ウッド
イアン・マッケラン
リヴ・タイラー
ヴィゴ・モーテンセン

カラー/2h58
 “王の帰還”を見に行く前に、これまでの復習をしておこうと思い、テレビで放映されていたものを録画して見た。本当は、正月明けに東劇で上映されていた“スペシャル・エクステンデッド・エディション”を見たかったのだけれど、すごく混んでいるという噂を聞いて、あきらめてしまった。追加された30分の劇場未公開シーンはすごく魅力的だったけど、3時間半という上映時間にちょっと尻込みしていたこともあり、結局見に行かないまま終わってしまった。まぁ、これに耐えられないということは、3時間23分の“王の帰還”にも耐えられないということなんだけど。当初、私自身としては“剣と魔法の物語”というものに、それほど興味を持っていたわけではなく、2年前初めてこの作品を見たとき、正直言って、話について行けてなかった。この作品を見る上での大前提である“各種族の特色”さえも知らずに見ていた。ホビットが平和を愛する小さな種族だということも知らず、ガンダルフとサルマンの区別もつかず(…これはもう致命的!)、指輪の流れにもついて行けずに見ていた。とにかく出てきたものをそのまま受け入れるしかなかった。これじゃ、この映画の良さが分からないのも当然だよね。とにかく登場人物の多い作品だから、基本的なことが分かってないと、話についていけない。かといって、あれだけの原作本を読む気力も無いし。今回改めて1部を見て、物語を整理することができ、ようやく話がつながったような気がする。もう一段深い部分で物語を捉えることもできた。そんなわけで、いろいろ分かってきたところでバッサリ行こうと思ったけど、3部揃って1つの作品だから、感想はその後にしようと思う。

戦場にかける橋 / THE BRIDGE ON THE RIVER KWAI
[データ] [感想]
(監督)
(原作)
(脚本)



(撮影)
(音楽)
(製作年)
(製作国)
(出演)
デヴィッド・リーン
ピエール・ブール
ピエール・ブール
カルダー・ウィリンガム
カール・フォアマン
マイケル・ウィルソン
ジャック・ヒルデヤード
マルコム・アーノルド
1957年
アメリカ
アレック・ギネス
ウィリアム・ホールデン
早川雪洲

カラー/2h35
 第30回アカデミー賞で、作品賞、主演男優賞、脚色賞、撮影賞、編集賞、作曲賞、監督賞の7部門を受賞した作品。“面白い映画は長くても疲れない”の典型的な作品で、2時間35分という長尺にもかからわず、緩急自在の監督の手腕により、まったく飽きのこない仕上がりとなっている。舞台は、第二次世界大戦下のタイ・ビルマ国境。日本軍の斉藤大佐を長とする連合軍捕虜収容所に、ニコルソン隊長率いる英軍捕虜が送られてくる。クワイ川にかける鉄橋建設を急ぐ斉藤大佐は、米軍のシアーズとともに建設現場で働くことを彼らに命令。ニコルソンは斉藤大佐に反発しながらも、あくまで自らのプライドをもって事にあたり、やがて橋は完成に近づく。しかし、丁度その頃、同じ英軍の手によって橋の爆破工作が進められていた。
 ここで描かれているものは、異文化の衝突の中で紡ぎ出される人間のプライド・男の友情・使命感など、築き上げてきたすべてのものを自らの手で一瞬のうちに無にしてしまう戦争の愚かしさである。職務遂行に命をかけた男のプライドのぶつかり合いを、優れた人物描写で捉えただけでなく、見ごたえあるスペクタクルによって、完成度の高い作品に仕上げている。ラストで、列車が刻一刻と鉄橋に近づいてくるシーンは緊張感に溢れ、最後の軍医の“Madness!”というセリフも印象的。この作品を見て、やっぱり名作というやつは、見ておかないとダメだなと思った。そして私は、あの「さる〜、ごりら、ちんぱんじ〜」という歌が、実は「クワイ河マーチ」だったということを初めて知るのである。

ニューオーリンズ・トライアル / RUNAWAY JURY
[データ] [感想]
(監督)
(原作)
(脚本)



(製作年)
(製作国)
(出演)
ゲイリー・フレダー
ジョン・グリシャム
ブライアン・コッペルマン
デヴィッド・レヴィーン
マシュー・チャップマン
リック・クリーヴランド
2003年
アメリカ
ジョン・キューザック
ジーン・ハックマン
ダスティン・ホフマン
レイチェル・ワイズ
ブルース・デイヴィソン

カラー/2h08
 原作はジョン・グリシャムの『陪審評決』。原作では“煙草会社”に対する訴訟がテーマとなっているが、ダスティン・ホフマンの要望によって、映画は“銃器製造メーカー”に対する訴訟に変更された。この映画に登場する“陪審コンサルタント”とは、多数の陪審員候補者の中から自陣営に有利な陪審員を調べて選定する専門家のこと。映画のように裏工作まで行って評決の行方をコントロールしてしまうコンサルタントが実在するのかどうかは不明。
 ニューオーリンズで起きた銃乱射事件の裁判をめぐり、原告側の弁護士ローアと陪審コンサルタントのフィッチとの、プライドをかけた戦いが繰り広げられる中、陪審員団に潜り込みフィッチとローアに評決の売買の話を持ちかける謎の男女が入り乱れ、裁判は予想もつかない結末に向かっていく。陪審評決はどちらに転ぶのか、謎の男女の正体は何なのか、この2点を明かさぬまま最後まで観客の緊張感を引っ張っていく。でも最後のタネ明かしの部分は、無理やりまとめ上げたようで、ちょっとずさん。キューザック、ハックマン、ホフマンの三つ巴の演技合戦が素晴らしいだけに残念。
 陪審員の評決がお金で取引されるといった話は、まったくの作り話なのか、ありうる話なのかは分からない。最近日本でも、陪審員制度の導入が検討されているけれど、このような制度の裏をつかれたような映画を見せられると、ちょっと不安になる。そもそも、自己主張より周りとの調和を尊重する日本人の社会風土には合わないと思うよ。

デッドゾーン / THE DEAD ZONE
[データ] [感想]
(監督)
(原作)
(脚本)
(製作年)
(製作国)
(出演)
デヴィッド・クローネンバーグ
スティーヴン・キング
ジェフリー・ボーム
1983年
カナダ
クリストファー・ウォーケン
ブルック・アダムス
マーティン・シーン
ニコラス・キャンベル
トム・スケリット
ハーバート・ロム

カラー/1h45
 スティーヴン・キングの同名ミステリーを、グロテスクな作風で知られるクローネンバーグが映画化。全体の雰囲気は彼特有のホラー調で、タイトルの出しかたも何かを暗示しているようで面白い。長期の昏睡状態から覚めた男が、未来予知能力を身につけたことによって悲劇に巻き込まれていくという、アメリカ人好みのヒロイズムに溢れた物語。原作はとても長く、主人公を取り巻く数多くの人間関係の逸話から成り立っているのだけれど、それらを見事に整理し、1時間45分という長さにまとめ上げた脚本家は素晴らしい。へたをしたら3時間半でも収まらないのではないかと思う。特に、主人公が昏睡から覚めるまでの端折りかたは驚くほど大胆で、“デッドゾーン”というキーワードを示す子供の頃の逸話さえカットしてしまうほど。でも原作を読んだ者としては、少し物足りないような気もする。この物語は、主人公ジョンが、恋人や両親や病院の人々など、彼と関わる多くの人々との間に生じる軋轢を通して、ジョンの苦痛がより鮮明に描き出されるようになっている。さらに、ジョンが人類の救世主としての役割を自覚し、使命を果たす決心を固めていくまでの過程は、様々なエピソード抜きでは語ることはできない。まぁその辺の説明不足は、クリストファー・ウォーケンの見事な演技で、十分に補われているんですけどね。

モロ・ノ・ブラジル / MORO NO BRASIL
[データ] [感想]
(監督)
(脚本)

(製作年)
(製作国)
(出演)
ミカ・カウリスマキ
ミカ・カウリスマキ
ジョージ・モウラ
2002年
ドイツ/フィンランド/ブラジル
セウ・ジョルジ
ミカ・カウリスマキ

カラー/1h45
 アキ・カウリスマキの兄ミカ・カウリスマキが、ブラジル音楽のルーツを辿ったドキュメンタリー。似たような音楽ドキュメンタリーとしては、ライ・クーダーがキューバ音楽のルーツを辿った『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』がある。『ブエナ・ビスタ〜』と同じように、監督自らがカメラ片手にブラジル各地を訪ね歩き、音楽と共に生きる人々の姿を映し出していく。上映中、私は意識を保つのに必死だった。『ブエナ・ビスタ〜』の時は、キューバ音楽の魅力にグイグイ引き込まれていき、決して眠くなることはなかったのに。一体この違いはどこからくるのだろう。やっぱりミュージシャンのレベルの問題かなぁ。『ブエナ・ビスタ〜』のほうは、いくら御老体とはいえ、カーネギー・ホールで演奏するくらいだから、実力もプロ意識も断然上だ。それに比べると、この作品に登場するミュージシャンはなんだか、その辺のあんちゃんが好き勝手にやってるみたいで・・・。まぁ、ラテン音楽のルーツはストリートだからいいけどね。上映中、隣のおばさんが、しきりに音楽に合わせて足でリズムをとっていたけれど、私にはとてもついて行けなかったよ。

ラスト・サムライ / THE LAST SAMURAI
[データ] [感想]
(監督)
(脚本)


(音楽)
(製作年)
(製作国)
(出演)
エドワード・ズウィック
ジョン・ローガン
エドワード・ズウィック
マーシャル・ハースコヴィッツ
ハンス・ジマー
2003年
アメリカ
トム・クルーズ
ティモシー・スポール
渡辺謙
ビリー・コノリー
トニー・ゴールドウィン
真田広之
小雪
小山田シン
池松壮亮
中村七之助
菅田俊

カラー/2h34
 何年か前に、初めてこの作品の企画を聞いた時、悪い冗談としか思えなかった。そもそもタイトルが“ラスト・サムライ”だなんて、“ラスト・エンペラー”じゃあるまいし。しかもハリウッドがつくるサムライ映画なんて、どうせ奇妙な日本人がたくさん出てくるに違いないと、高を括っていた。結局、ここに描かれているものは、アメリカ人が解釈した「分かり易い“ブシドー”精神」。西欧人にも理解できる“名誉”“忠誠”などが主なもので、武士道の究極の精神である“腹切り”の描写は控えめになっている。この映画を見る前に、新渡戸稲造の「武士道」を読んでみたけれど、理解できる部分もあれば、できない部分もある。まぁ、日本人が読んでも難しいのだから、一神教の国の人々には、なかなか理解し難いでしょうね。
 特筆すべきは戦闘シーン。NHK大河のぬるい合戦シーンばかり見ていたので、さすがにこの辺りはハリウッド映画だと思う。要はカネの問題なんだけど。特に真田広之が登場するシーンはかっこいい。これと比べたら、NHKの『新撰組』などは、子供のチャンバラごっこにしか見えない。それから、トムと小雪の“チュー”は余計。武士道にロマンスは不要。あのチューで大和撫子の品位が一気に引き下げられてしまったのは残念。
 そもそもこの映画が描こうとしているものは、明治維新でも武士道精神でもない。それは“ラスト・サムライ”という言葉が、渡辺謙演じる勝元ではなく、トム・クルーズ演じるオールグレン大尉を指していることからも明らかだ。インディアン討伐で魂を失ったオールグレン大尉が、自らを取り戻すまでの様を描くことが物語の主要テーマなのだ。だから、いくら時代考証を完璧にし、戦闘場面に力を入れたところで、オールグレン大尉の心象描写に失敗してしまっては、いまいち焦点の定まらない、ぼやけた印象しか残さない。結局、渡辺謙の顔つきや、戦闘シーンしか印象に残らず、監督が本当に伝えたかったことが伝わらない、残念な結果になっている。

春の日は過ぎゆく / ONE FINE SPRING DAY
[データ] [感想]
(監督)
(脚本)



(音楽)
(製作年)
(製作国)
(出演)
ホ・ジノ
リュウ・ジャンハ
リ・スクヨン
シン・ジュンホ
ホ・ジノ
チョ・ソンウ
2001年
韓国/日本/香港
ユ・ジテ
イ・ヨンエ
ペク・ソンヒ
パク・インファン
シン・シネ
ペク・チョンハク

カラー/1h53
 最近、日本でも話題の人気ドラマ『冬のソナタ』など、純愛物を得意とする韓国からの作品。韓国ドラマやポップス音楽は、各地で「韓流」と呼ばれるブームを巻き起こし、アジアを席巻している。その背景には映画やアニメの振興政策など国を挙げての文化戦略がある。芸術産業を通じて国力を伸ばそうとしているのだ。すでに輸出入の関係では、アジアでの韓国文化の輸出量は圧倒的に多く、日本でも最近では、韓国からの輸入が日本からの輸出を上回っている。“すれっからし”になってしまった日本と比べ、韓国の文化にはまだまだ純朴な部分が残っている。それが他のアジア地域でうけるのは良く分かる。現に、NHKドラマ「おしん」などの地味なドラマは、東南アジア方面でいまだ人気が高い。まぁ、それはともかく、韓国映画がすでに日本映画を超えてしまったことは間違いない。
 主演は『JSA』のイ・ヨンエと、『リベラ・メ』『リメンバー・ミー』のユ・ジテ。ラジオ番組のプロデューサーのウンスと録音技師の青年サンウは、番組の取材旅行をきっかけに恋に落ちる。離婚暦のある年上の女性とうぶな青年との恋は、やがてささいなことからすれ違っていく。不信感から素直になれないウンスはサンウを冷たく突き放す。永遠の愛を心から信じる青年サンウにはウンスの気持ちが良く分からない。傷ついたサンウは、かつてふたりで訪れた川のせせらぎ、終わりゆく夏の波、草原を渡る風など、大切な「今」を音に記憶していく。自分の意思ではどうにもならない心。そういうことをすればそういう結果になるのは分かっている、でもどうすることもできない。カメラはそんなふたりの複雑な心境を、少し離れた場所から冷静に捉えている。最初から最後まで身につまされっぱなしで、痛いです。

バグズ・ライフ(日本語吹替版) / A BUG'S LIFE
[データ] [感想]
(監督)

(製作)

(原案)
(脚本)


(音楽)
(製作年)
(製作国)
ジョン・ラセター
アンドリュー・スタントン
ダーラ・K・アンダーソン
ケヴィン・レハー
ジョン・ラセター
アンドリュー・スタントン
ドナルド・マッケナリー
ボブ・ショウ
ランディ・ニューマン
1998年
アメリカ

カラー/1h34
 年明け1発めはアニメーション。地道なアリの世界を脅かす悪バッタから身を守るために、他所から連れてきた虫たちが、“七人の侍”よろしくアリのために悪バッタを退治するというお話。元ネタは「アリとキリギリス」かな。まぁ、内容は子供向けなのだけれど、物語の展開や演出の匠さは、大人が見ても十分に楽しむことができる。初めてCGアニメを見たときの違和感も、最近ではすっかり無くなった。初めて見たCGアニメは『トイ・ストーリー』なのだが、その時感じたのが、「絵がかわいくない」ということ。人物や風景の描写があまりにもリアルで、本来アニメーションの持つ“親しみ易さ”みたいなものがすっかり抜け落ちてしまっていた。『モンスターズ・インク』では、登場するモンスターの毛並み一本一本までCGでリアルに再現していて、その技術力の高さには驚かされたけど、そんな細かいところに注意を払って見ている子供が果たしてどれほどいるのだろうか。そういうのは製作者の自己満足に過ぎないんじゃないだろうか。私は断然日本のセルアニメのほうが好きだ。慣れているというのもあるかもしれないけれど、“本物よりも本物らしく見せるためのデフォルメ”が日本のアニメは上手だと思う。そこには余計な技術など必要ない。そもそもアニメーションなんて子供のためのものなのだから、大人のこだわりを押し付けるのはどうかと思うのだけれど。今回私が見たのは「吹替版」。字幕版では悪バッタのボスの声をケヴィン・スペイシーが担当している。ファンとしては、こちらも少し興味がある。