【柿沼弘子の勝手にシネマ




日本鬼子〈リーベンクイズ〉

日中15年戦争・元皇軍兵士の告白

監督:松井稔
出演:土屋芳雄


20th Feb. 2002


 「これだよ、これ!こういうのを探していたんだ!」というのが、この作品を見た直後に感じたことだった。去年偶然にも小林よしのりの『戦争論2』を読む機会があり、自分があまりにも自国の歴史に無知だということにショックを受けた。そもそも高校で日本史の授業を選択しなかったおかげで、私の日本史の知識は中学レベル止まりだ。おまけに日本の近現代史、特に戦争に関する部分については機械的に淡々と教えられたため、教科書に載っている以外のことは、ほとんど何も知らない。戦争のことについて多くを語ることはタブーとでも言わんばかりに、教師は何も教えてくれなかった。当然、私は興味を持つきっかけさえ失ってしまっていた。こま切れの年号暗記による私の日本史はすっかりその流れを失っていた。本来歴史はそういう性質のものではない。そして『戦争論』は私の中の歴史に対する興味を揺り動かし始めた。いくつかの戦争に関する書物や、戦争を取り扱ったメディアに触れるたびに私の戦争に対する興味はますます貪欲になっていった。とにかく私はいろいろな人の話を聞きたいと思った。できれば戦時中の体験談を聞いてみたいと思った。そこへこの記録映画の話題を耳にした。内容を聞いた途端、これは見ないわけにはいかないと思った。この作品は私がまさに探し求めていたものだったのだ。

 映画は、1931年の満州事変から1945年の敗戦までの間、日本軍が中国各地で行った行為について、元日本軍兵士14人が、被害者ではなく加害者の立場で自らの体験を告白するというもの。彼らはすでに70〜80歳くらいになっているのだが、その記憶は驚くほど鮮明だ。武勇伝さながら興奮した様子で語る者、残虐な行為に声を詰まらせる者、まるで夢の中の事を語るように淡々と話す者など、彼らの語り口は様々だ。しかし共通しているのは、まるで昨日の出来事のように皆とても細かい事まで良く覚えているということ。映像のほとんどは語る老人の顔を映したものだが、我々観客はその老人の口調や表情から感じ取ったものをそれぞれの頭の中で映像化して見ることができる。ある意味、彼らの語ったことを誰かの主観的な感情で映像化してしまったとしたら、おそらくつまらないB級の作品になってしまったかも知れない。

 私はこの作品を見ることで、過去の戦争を否定したり、彼らのやったことを非難するようなことはしたくない。起きた事は起きた事としてストレートに受け止めたい。日本人が中国人をどれほどの残虐な方法で何人殺したとか、南京大虐殺では犠牲者の数が中国と日本とのあいだでかなり食い違いがあるとか、いろいろな話があるけれど、殺し方とか死体の数を問題にしたところで、そこで起きた事態の本質が大きく変わるものではない。出演した老人の何人かは中国人のことを「ちゃんころ」と呼んでいた。おそらく「いし(石)ころ」とか「いぬ(犬)っころ」という感覚なのだろう。そして若い娘を「クーニャン」、捕虜の労働夫を「クーリー(苦力)」と中国語で呼ぶことで、日本人との差別化をはかり、そうすることで(=つまり彼らを人間と思わないような思考回路を作り上げることで)、強姦したり重労働をさせたり殺すことから罪の意識を排除させていた。そして彼らはお国のために、天皇陛下のために、そして上官の命令だから人を殺した。彼らにとって、お上の命令は「絶対」であり、それに逆らうという選択肢は考えもつかないことだった。なんだかどこかの倫理観のない会社みたいで悲しくなる。

 私はこの作品に5つ星をつけたけれど、「映画」としてはまったく評価していない。「映画」とさえ思っていない。それにもかからわず5点満点にしたのは、この作品を制作した事自体を評価したからだ。この作品を映画と呼ぶにはあまりにも生々しすぎる。自分の声を録音したことがある人はわかると思うけど、まるで何のエフェクトもかけないボーカルのように生々しい。ドキュメンタリー映画というものは制作者の主観によって、ある程度デコレートされることが多いけれど、この作品は全くの「生」だ。逆に、この「生っぽさ」が作り手のねらいなのかも知れない。東京ではもう見られなくなってしまって残念だけれど、また何かの機会に上映してもらいたい。もっと多くの人に見てもらいたい。テレビで放映したっていいと思うんだけどなぁ。★★★★★