【柿沼弘子の勝手にシネマ



アメリ

監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:オドレイ・トトゥ、マチュー・カソヴィッツ

23rd Jan. 2002

 割引日の最終回。開演までまだ1時間もあるというのに、劇場へ向かうエレベーターは人でごった返していた。劇場に入るとすでに長蛇の列ができていて、会場案内のスタッフは立ち見の可能性があることを告げていた。並んでいるのは9割9分女性。しかもほとんどが20代のOL風。はっきり言って、この作品は圧倒的に女性に人気が高い。公開されてからすでに12週も経とうとしているのに、単館系観客動員数ランキングでは、依然1位をキープしている。おまけに配給会社は、先々週あたりから上映館の拡大まで行っている。なぜこの作品はここまで女性の観客を惹きつけるのだろうか?監督の少女趣味の映像センスが女性の観客を惹きつけたというのもあるのだろうが、一番の要因は主人公のアメリという女の子のキャラクターにあるのだと思う。おそらくこの作品を観た女性のほとんどが、アメリに自分自身を重ね合わせ、アメリの行動ひとつひとつに共感したはずだ。アメリが「クレーム・ブリュレのカリカリの表面をスプーンで割る瞬間って大好き!」と言えば、それを観た女性たちは「そうそう。そうなのよねぇ〜。」と共感する。無垢な心で自分の気持ちに素直に行動するアメリに、半ば憧れのような気持ちと、自分の中に潜在的に存在するそのような部分を重ねあわせることで、その共感はさらにパワーを増していく。そして共感は感動へと変化していく。映画は観客を共感させてしまえばこっちのもの。女性たちの心をがっちりと掴んでしまった今、この作品に恐いものはない。

 アメリは潔癖症の母親と内向的な父親によって育てられた。おまけに父親の勘違いで子供のころ学校に通わせてもらえなかったおかげで、同年代の友達と遊んだ経験がない。おかげで他人との接触を避け、ひとり空想に耽るのが好きな女性に成長してしまった。(にもかかわらず、男性経験があり子供を中絶した経験まであるというのは、現代的というかよく分からないところだが…)普通そういう人間は、暗くて精神的に病んだ大人に成長してしまいそうだが、アメリはそうはならなかった。とてもピュアな心を持った女性に成長したのだ。ある日、アメリは偶然ある人のために良いことをする。そしてその人が喜ぶ姿を見たアメリは、他人のために何かをすると心がすがすがしくなることを発見する。それをきっかけにアメリは少しずつ外の世界に心を開いていこうとする。そんなアメリは、ある日突然恋に落ちる。その男性に思いを打ち明けること。それは常に現実逃避して生きてきたアメリが、初めてぶち当たった現実の壁だった。

 以上がこの作品のストーリーだが、いかにも女の子受けしそうな話だ。これを観た男性の方は一体どのような感想を持ったのだろうか、尋ねてみたいところである。正直言って年齢のせいか、私はあまり共感できなかった。2時間がとても長く感じられた。きっとあと10歳若かったらすごく感動できたんだろうな。きっと私は精神的に健全じゃないか、徹底的におばさんの領域に入ってしまったか、それとも男性化してしまったのか、どれかなのだろう。どちらにしても悲しいことだ。予告編の時はすごく良さそうな映画にみえたんだけどなぁ…。どうやら軍配は製作側にあがってしまったようだ。★★★