【柿沼弘子の勝手にシネマ



JSA


監督:パク・チャヌク
出演:ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、イ・ヨンエ

21st Nov. 2001

 韓国と北朝鮮。アメリカとソ連のエゴによって南北に分断されてしまったこの2つの国は、日本にとっては近くて遠い国。特に国交のない北朝鮮に関して言えば、まったく謎めいた国だ。数少ないニュースから知っていることといえば、神様のように祭り仰がれた金正日という男が国の最高指導者であるということだけ。数ヶ月前テレビで、北朝鮮が情報化社会にむけて、パソコン教育を推し進めているというニュースを見た時のこと。公会堂ではパソコン教育推進の祭りが行われ、ステージでは大きな書き割りのパソコンをバックに子供達が「パソコン音頭」を踊っていた。そして何十台もパソコンが並べられた立派な教室では、マイクを向けられた子供たちが口々に「偉大なる金正日先生からいただいたパソコンで、お国のために一生懸命勉強します。」と言っていた。おそらく彼らは高級幹部の子供に違いない。そんな教育が受けさせてもらえるのは、一部のエリートだけだからだ。そして「偉大なる金正日先生〜」という言葉は優等生である彼らが好んで使う接頭辞だ。彼らにとって金正日とは偉大なる天子なのだ。時々南北統一を望む北朝鮮の声なんていう報道も聞こえてくるけれど、果たしてそれは本物なのだろうか。私には政府がでっち上げたプロパガンダとしか思えない。この国ではアメリカを中心とした資本主義諸国(当然日本も含む)=敵と教えられている。そもそもいつテポドンが飛んでくるかわからないようなこの国を信じられるわけが無い。

 タイトルの“JSA”とは“Joint Security Area(共同警備区域)”の略。つまり板門店のある南北国境のホット・エリアのことで、この地域は現在、国連軍と北朝鮮軍によって共同警備されている。ストーリーは、この地域で起きた殺人事件の真相を探るうちに、そこで起きたとんでもない事実にたどり着くというもの。はっきり言ってこの作品は、韓国の描いた夢物語だ。物語としては良く出来ているし、十分人々の感動を呼べる作品に仕上がっているのに、見終えた後に何とも言えない空虚感が漂う。製作サイドの「こうあればいいな」「こういう人物がいたらいいな」という希望と、朝鮮半島における現実を考えた時、感動は空しさに変わってしまうのだ。そもそもソン・ガンホが演じていた北朝鮮軍士官オ・ギョンピルのような人物が北朝鮮にいるはずがない。たとえいたとしても、おそらく党の手によって抹殺されてしまうだろう。

 今回、映画の感想というよりは、日頃思っていることを書いてしまった。私自身、北朝鮮に対して何の恨みも無いし、本当の所は分からないまま、かなりの偏見を持って書いてしまった。北朝鮮関係者が見たら拉致されてしまいそうな内容だけど、私の見解もそれほどはずれてもいないのではないだろうか。まあいろいろ書いたけれど、登場人物の証言や回想をもとに、真実に向かって時間が溯っていく手法はサスペンスとして良く出来ているし、ヒューマンドラマとしても良く出来ていると思う。(欲を言えば衝撃の真実に、もうひとひねり欲しいところだけど。)いつのまにか国際的に通用する作品を作れるようになった韓国に、日本映画は完璧に先を越されてしまったのではないだろうか。★★★★