【柿沼弘子の勝手にシネマ



メメント

監督:クリストファー・ノーラン
出演:ガイ・ピアース、キャリー=アン・モス

30th Nov. 2001


 愛する妻を目の前で殺されたショックから、10分しか記憶を保てない“前向性健忘”という記憶障害になってしまった主人公レナード。犯人への復讐を遂げるため、レナードは自ら調査を開始する。“記憶”の代わりとして、出会った人のポラロイド写真を撮り、そこに情報を書き込んでいく。重要な事実は自分の体に刺青を彫ることで“記録”する。レナードは10分後の記憶を失った自分に伝えるため、知り得た情報(それは果たして真実なのか?:ここがポイント)をひとつひとつ記録していく。果たして“記録”は“記憶”の代わりになり得るのだろうか。そしてレナードは犯人に辿り着くことができるのだろうか…。

 衝撃的なラストシーンから始まり、事件の核心に向かって時間が巻き戻されていくという構成は、今までに無い斬新なアイデア。私たち観客も、記憶障害者レナードと同じ主観的立場で事件の真相を探ることで、記憶喪失の疑似体験を味わうことができる。この斬新なアイデアを考えついた監督・脚本のクリストファー・ノーランはイギリス生まれの31歳。現在、彼の長編デビュー作『フォロウィング』がシネ・アミューズで公開中だ。主人公レナードを演じるのは、『L.A.コンフィデンシャル』、『英雄の条件』のガイ・ピアース。『英雄の条件』では、トミー・リー・ジョーンズとサミュエル・L・ジャクソンの熱演の陰に隠れてしまったガイ・ピアースだが、今回は記憶障害という難しい役どころを、持ち味の“ドクロ顔”で見事に演じている。

 『ブレアウィッチ・プロジェクト』の時もそうだったけど、この手の作品は、内容はともかく、その斬新性だけで、十分観客を引き付ける力を持っている。しかし、この作品はそれだけではなく、主人公レナードの行動の中に逆説的な恐ろしいメッセージが隠されている。記憶を失ってしまった男は、復讐することが生きることの目的となる。そしてその目的を達成するために、レナードは思いもよらない行動をとる。物語の真実を知った瞬間、誰もが「人間って恐ろしい」と考えさせられてしまうだろう。それから、この作品は公開前のマスコミ試写では、映画ライターの間で凄い評判になっていた。おかげで私はすっかり期待していたのだけれど、その割りにはそこそこというのが私の率直な感想。まあ、期待が大きければ大きいほど裏切られた時の落胆は大きくなる訳で、何も情報を与えられずに見ていたとしたら、もう少し見方は変わっていたかもしれない。

 私は上映前は、まったく眠くなかったのに、映画が始まった途端に恐ろしい睡魔に襲われた。主人公の“記憶”がなくなる前に、私の“意識”がなくなりそうだった。まあ“映画”というより、良く出来た“頭脳ゲーム”といったところで、頭の悪い私にはつらく、眠気を誘う一本となってしまった。おそらくほとんどの人は一度見ただけでは良く分からないと思う。話の真相を探るために、もう一度見ようというリピーターがたくさん出るだろう。事実、アメリカではリピーター続出で大ヒットだったらしい。私も結局ぼんやりとしか真実はつかめなかったけれど、1800円払ってもう一度見ることはたぶんないと思う。★★★