【柿沼弘子の勝手にシネマ



オー・ブラザー!

監督:ジョエル・コーエン
出演:ジョージ・クルーニー、ジョン・タトゥーロ、ティム・ブレイク・ネルソン

21st Nov. 2001

 凡人には理解しがたいような斬新な映像を撮ることが“スタイリッシュ”だと思っている人たちがいるが、私はそうは思わない。“俺達の感覚についてこれない奴は相手にしない”的な作品が、最近の邦画には多いような気がする。“かっこ良さ”というものを勘違いしてるんだよね。“映像で魅せる”とは、まさしくコーエン兄弟作品のこと。彼らのピカイチの映像センスは、どの瞬間を切り取っても美しい絵になる。ちなみにコーエン兄弟は、ティム・バートン、クエンティン・タランティーノに並び、私の大好きな監督のひとり(ふたり?)だ。こう見ると、私はオタクで妙なこだわりを持った監督が好みなのかもしれない。
 ギリシャの詩人ホメロスの古典叙事詩『オデュッセイア』をもとに、舞台を1930年代のアメリカ、ミシシッピー州の片田舎に移し、コーエン流のアレンジで映画化したこの作品。物語の中心となるのは3人の脱獄囚。理屈っぽい伊達男のエヴェレット(ジョージ・クルーニー)、いつも文句ばかり言っているピート(ジョン・タトゥーロ)、トロくてお人好しのデルマー(ティム・ブレイク・ネルソン)。いずれも強烈な個性の持ち主だ。エヴェレット率いる3人の囚人は、ダムに沈む町に眠るお宝を手に入れるため、鎖につながれたまま脱獄する。そういえば昔、男二人が手錠につながれたまま逃亡する映画(シドニー・ポワチエが出ていた)があったなぁ。あれは社会派のかなり固いドラマだったけど、それに比べるとこちらはだいぶポップだ。逃亡の途中、偶然出会った盲目の老人から「お前たちは宝を手にする。それはお前たちが求めていた宝とは違う。」というお告げを受ける。そして始まった3人の旅は、ハプニングの連続。おまけに出会う人々は曲者ばかり。小遣い稼ぎにたまたま歌った歌が思いがけず大ヒットしたり、成り行きで銀行強盗の手伝いをさせられたり、金を騙し取られたりで、散々な目に会いながらもお宝目指して旅を続ける。
 物語の終盤、黒人の墓堀り人が霊歌を歌うと、大水が出てきて危うく難を逃れるというシーンがある(詳しくは劇場で)。物語の設定上、あれはダムの放水ということだと思うのだが、私はあれはミシシッピ川の大洪水だと勝手に解釈している。ミュージシャン的に、そう思いたい。それから、ロバート・ジョンソンを彷彿させるような、悪魔に魂を売ってギターが上手くなった黒人をクロスロードで車に乗せるくだりには笑った。作品中使われている音楽は、30年代のカントリー・ブルース中心。人種差別を面白おかしく皮肉っているところもコーエン兄弟らしい。「なるほど、そういうことね。」とうなずけるラストシーンも面白い。こう見るとコーエン兄弟のユーモアって、けっこうベタかもしれない。でも私、こういうの好きなのよね〜。ひとつ残念なのは、「ズブ濡れボーイズ」で歌うジョージ・クルーニーの歌声が、実は吹き替えだったということ。絶対本人が歌っていると思ってたのに…。期待を裏切られてちょっぴり残念。余談だけど、コーエン兄弟の次回作『トゥ・ザ・ホワイト・シー』の撮影が、来年1月から日本で始まるそうだ。主演がブラッド・ピットというのが少々気にかかるけど、まあこの二人のことだから、ブラピもうまく料理してくれるでしょう。今から楽しみです。★★★★★