【柿沼弘子の勝手にシネマ】
トラフィック
監督:スティーブン・ソダーバーグ
出演:マイケル・ダグラス、ベニチオ・デル・トロ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ
25th Oct. 2001
日本での封切りは今年の5月。それから約半年ほど遅れての、いわゆる二番館での上映。劇場は新橋の文化ロマン。入り口からして、ちょっと妖しい。ポルノのポスターなんかが貼ってあったりして、女性にはちょっと入りづらい雰囲気。昔はこのような、二番館、三番館と呼ばれる劇場がたくさんあった。しかしビデオ市場の出現によって、このような劇場は衰退の一途をたどっている。自宅でくつろぎながら見るのもいいけれど、やっぱり良い映画は劇場の大きなスクリーンで見たいものだ。そんな訳で、この劇場の設備は恐ろしくひどいものだった。(でもワースト1は銀座のシネパトスだと思う。あそこは嫌な臭いがするから。)まず第一に、なぜか妙に混んでいる。平日の昼間だというのにリーマン率が異常に高いのだ。後で気付いたのだが、ここは営業サラリーマンたちの仮眠室となっていた。おまけに鉄道の高架下にあるので電車の音がうるさい。それからなぜかスクリーンの脇にトイレがあって、上映中に入られるととても気になる。それに暑いし、椅子は硬くて痒いし…。文句を言えばきりがない。
この作品は今年度のアカデミー賞で、最優秀監督賞を含め、4部門を受賞した。日本人には馴染みの薄いドラッグ・ムービーだ。ドラッグ・ムービーと言えば、先週私はアメリカの麻薬王を描いた『ブロウ』を見たが、こちらとはだいぶ趣の変わった作品に仕上がっている。監督は1989年、『セックスと嘘とビデオテープ』で若干26歳にして史上最年少でカンヌ映画祭のグランプリを獲得したスティーブン・ソダーバーグ。現在38歳。今年度のアカデミー賞では、『トラフィック』と『エリン・ブロコビッチ』で史上初の作品賞、監督賞で同時ダブル・ノミネートという快挙を成し遂げた。
元ネタは、ロンドンで1980年代に放映されていたテレビシリーズ『Traffic』。これを見て巨大麻薬ルートの存在を知ったプロデューサー、ローラ・ビックフォードがソダーバーグに監督を依頼して作った作品。アメリカとメキシコを結ぶ巨大な麻薬コネクション“トラフィック”をめぐって、様々な欲望や陰謀に満ちた事件が繰り広げられる中、麻薬を巡る様々な人間たちを交差させながら描いた衝撃ドラマ。3つのオムニバスが「麻薬戦争」というテーマで絶妙に絡み合いながら進行している。アカデミー助演男優賞を受賞したベニチオ・デル・トロをはじめ、3つのオムニバスのそれぞれの主人公を演じたマイケル・ダグラス、キャサリン・ゼタ=ジョーンズの迫真の演技がこの作品にさらなる完璧さを与えている。
まるでドキュメンタリー・フィルムを見ているような、全編手持ちカメラによる映像は迫力があり、シーンによって色味を変えた映像も効果的。この映画は2時間半という長さをまったく感じさせない。ただ、日本人にはあまり馴染みの無いテーマなので、日本でヒットするかどうかは難しい問題。実際それほど話題にもならなかった。仕方のないことだけれど、実感として麻薬戦争の現実を感じられないという点で★ひとつマイナス。あとはどれを取っても完璧な作品。★★★★