【柿沼弘子の勝手にシネマ】
ターン
監督:平山秀幸
出演:牧瀬里穂、中村勘太郎、倍賞美津子
5th Oct. 2001
久し振りの試写会。会場はワーナー・マイカル・シネマズみなとみらい。先般、経営破綻してしまったマイカル・グループだけど、映画館のほうはこの先どうなるのだろう。私の家の近所にもマイカルのシネコンがあって、良く利用するけれど、無くなってしまったら困るなぁ。監督は『愛を乞うひと』でモントリオール映画祭国際批評家連盟賞を受賞した平山秀幸。原作は北村薫の同名小説「ターン」。主人公の真希を『つぐみ』、『顔』などで、最近ますます演技に磨きのかかっている牧瀬里穂が演じている。真希の母には『うなぎ』、『東京夜曲』の倍賞美津子、真希を助ける若手デザイナー、洋平には映画初出演の中村勘太郎が、その他、北村一樹、柄本明、松金よね子など、バラエティ溢れる役者陣が顔を揃えている。
母親と二人で暮らす27歳の銅版画家、真希は、版画教室に向かう途中、交通事故に遭う。ところが次の瞬間、真希は自宅の居間にいた。それから毎日、事故に遭った午後2時15分を過ぎると、その日の同時刻にターンしてしまう。しかも、その世界には真希以外の人間は誰も存在しない。そんな時、突然真希に電話がかかってくる。その電話の主は若手デザイナーの洋平という青年。たまたま真希の作品を目にした彼が電話をかけてきたのだ。そして、この電話が、唯一、真希が取り残された世界と、通常の世界とを結ぶラインとなる。果たして真希はこの「時の牢獄」から抜け出すことができるのか…。初めてこのストーリーを聞いた時、私はビル・マーレー主演のコメディ『恋はデジャ・ヴ』を思い出した。ある天気予報のレポーターが、何度も同じ一日に囚われてしまう、という「ターン派」の作品だ。一日を繰り返すのに絶望して、死のうとしても目覚めると同じ朝がやってくる。次第に前向きに生きていこうとする主人公の行動の変化が面白い作品だ。『ターン』の場合、通常の世界には意識不明で眠っている真希がいる。そして2つの世界が絶妙に絡み合いながら同時進行しているところが面白い。
同じ1日が何度も繰り返されていることに気付いた真希は、今自分がいつを生きているのかを忘れないように、手にマジックで日にちを書きつけ、それを確認することで、自分の存在をしっかり位置づけようとする。そして、自分が自分であるために、今までと同じ生活を続ける努力をする。自分以外誰もいない世界で、ショッピングに出かけたり、料理を作ったり、洋平の個展を見に行ったり、買い物をすればちゃんとお金も払ってくる。「同じ1日の繰り返しでも、やりたい事があれば、ちゃんと明日になるんだ。」という真希の一言が印象的で、現代の無気力な若者に是非聞かせたいセリフだった。つまり裏を返せば、毎日は確実に過ぎていくけれど、何もやりたいことがなければ、同じ日を繰り返しているのと同じ。何もやりたいことがないということほどつまらないことはない。真希のように、毎日をターンしている人ってけっこう多いのではないのかな。
正直言って、私は最初、全くこの作品に期待していなかった。でも、その分良いほうへ裏切られたような気がする。実は私はけっこうこの手のファンタジー系の作品は好きだ。まあ、欲を言えば最期にもう一演出欲しかったところだけど。牧瀬里穂の凛とした演技を見ていたら、なんだか元気になってきたよ。★★★