【柿沼弘子の勝手にシネマ】
焼け石に水
監督:フランソワ・オゾン
出演:ベルナール・ジロドー、マリック・ジディ
28th Sep. 2001
ああ、何という事か。またしてもゲイ映画を見てしまった。ゲイ映画はウォン・カーウェイの『ブエノスアイレス』で懲りていたはずなのに…。何も知らずに人に薦められるがままに見たら、ゲイ映画だったのだ。やられた。そもそも監督がフランソワ・オゾンというところから、疑ってかかるべきだったのだ。後で知った話だけど、このフランソワ・オゾンという監督は、悪趣味とゲイ嗜好で有名だった。オゾン監督はこれまでタブー視されていたものを、次から次へと映像化し、『海をみる』という作品では「便器に浮かぶ大便」をスクリーンいっぱいに映し出して物議を醸した。まあ、そんなおぞましさにくらべたら、今回の作品はかわいいものだ。そんな監督が、これまたゲイ嗜好のライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの戯曲を映画化したのがこの作品で、全編にわたって二人のゲイ・テイストが存分に発揮されている。というわけで、ノーマルの私にとっては、実にトホホな作品だったわけである。ゲイは先鋭の芸(ゲイ)術であり、そういう観点で見れば、この作品は超芸(ゲイ)術作品ということになるのかもしれない。ちなみにこの作品は2000年のベルリン映画祭で、最も優れたゲイ&レズビアン映画に贈られる、テディ賞を受賞している。
作品としては、人間同士の会話を中心に物語をすすめるドラマ形式。4幕からなる室内劇で、カメラは一切主人公の部屋から出ない。閉塞された部屋のなかで、人々の奇妙な行動が描かれるだけだ。登場人物はたったの4人。19歳の美少年フランツ(マリック・ジディ)と、その婚約者アナ(リュディヴィーヌ・サニエ)、不思議な魅力を持つ中年男レオポルド(ベルナール・ジロドー)と、そのかつての恋人ヴェラ(アンナ・トムソン)。ヴェラは元は男だったのだが、愛するレオポルドのために性転換して女になった。ヴェラ役のアンナ・トムソンは『ファストフード・ファストウーマン』で30過ぎの独身女性を魅力たっぷりに演じていたのに、まさかこの作品で「ミスター・レディ」にされてしまうなんてオゾン監督もひどすぎる。
フランツは婚約者がいるにも関わらず、レオポルドに魅了され同棲を始める。レオポルドと会話を交わすうちにフランツの中に潜んでいたある種の感覚が呼び覚まされたのだ。そして二人はベッドイン。フランツはレオポルドの情夫となる。時が経つにつれてレオポルドはフランツをわずらわしく思うようになる。しかしフランツはレオポルドの性的魅力から、もはや離れることができない。フランツ役のマリック・ジディがあまりにもゲイ好みの細面の美少年だったので、私はトーマス・マンの『ベニスに死す』を思い出したが、そんなプラトニックな物語ではなかった。
作品中、ゲイの皆さんには目の保養になると思われるシーンが満載だった。美少年フランツが水色のぴっちりブリーフで股間を際立たせながら部屋の中を歩きまわるシーンや、フランツとレオポルドが激しく絡み合うシーンは、目に痛かった。ジロドー自身ゲイなので、絡みがまじなのも恐い。私個人としては苦手なジャンルということで評価が辛くなっているけれど、作品の出来としては良くできているほうだと思う。★★