【柿沼弘子の勝手にシネマ



ギター弾きの恋

監督:ウディ・アレン
出演:ショーン・ペン、サマンサ・モートン、ユマ・サーマン

th Jun. 2001

 ジャズを心から愛し、映画製作のかたわら、自身もジャズ・バンドでクラリネットを演奏するウディ・アレンの放つ、大人のラブ・ストーリー。1930年代に活躍した架空の天才ギタリスト、エメット・レイの恋とジャズ・メンとしての活動を描いた物語。一見伝記映画のように作られているが、実はすべてアレン原作のフィクション。エメット・レイなるジャズ・ギタリストは実際には存在しない。エメット・レイを演じるのはショーン・ペン。エメットに献身的な愛を捧げる口の不自由な娘ハッティに、イギリス出身の個性派若手女優サマンサ・モートン。エメットの妻ブランチにユマ・サーマン。ストーリー・テイラーとしてウディ・アレン本人が登場しているほか、『ピンク・フラミンゴ』や『I love ペッカー』でおなじみの、ジョン・ウォーターズがクラブのオーナー役でカメオ出演している。
 ぱっとしない邦題がつけられているけれど、原題は『Sweet & Lowdown』。アレンの大のお気に入りのジョージ・ガーシュインが作曲し、兄のアイラが作詞して、ミュージカル「Tip-toe」に挿入された有名なスタンダード・ナンバーだ。また作品中、エメットが世界最高のギタリストと賞賛するジャンゴ・ラインハルトのCDにも同名のアルバムが存在する。オープニングに流れるのは、1937年4月22日にジャンゴがフランス・ホット・クラブ五重奏団で、フランスのパテに録音したレコード「When Day Is Done」で、ジャンゴのバイブレーションを伴った哀感にあふれたギター・ソロとステファンヌ・グラッペリのヴァイオリンが聴ける。
 1930年代、シカゴ。派手で目立ちたがり屋のエメット・レイは、才能に恵まれたジプシー・ジャズのギタリスト。ジャンゴ・ラインハルトを世界最高のギターリストとして尊敬し、自分は世界で2番目のギターリストだと思っている。しかし、その演奏の素晴らしさとは裏腹に、エメットは自堕落な生活を送っていた。ある日エメットは口のきけない娘ハッティと出会う。彼女の純粋な心に触れるうちに、二人は徐々にお互いを理解していくが、エメットの生活は一向に直らない。しかし、そんな彼をハッティは暖かく、献身的な愛で包み込んでいた。そしてふたりが同居生活を始めてから1年。失業していた彼は、上流階級出身の美しい女、ブランチと知り合うと、ハッティと別れブランチと衝動的に結婚してしまう。しかし、派手好きなふたりの夫婦関係はいつもギクシャクしていた。ついにエメットは、ブランチがジャズ・クラブの用心棒と不倫をしていることを知る。失意の中で空虚な毎日をおくるエメットは、やっと本心に目覚め、自分に本当に必要だったハッティを求めて、再びニュージャージーを訪ねる…。
 作品中、ショーン・ペンがギターを弾くシーンはすべて、アメリカの有名なギタリスト、ハワード・アルデンが吹替えをしている。かなり手元を映すシーンが多いので、ごまかしはきかないので、撮影にあたって、ショーン・ペンはギターの猛特訓をしたらしい。実際、かなり弾けるようになったという。しかし、吹替えを感じさせない指使いはたいしたもの。ギターのシーンだけでも充分見る価値はある。結局この作品の主役は音楽自身。普通と逆だけど、ラブ・ストーリーのほうが音楽を引き立てるための付属品になっている。おそらくアレンはストーリーよりも何よりも、音楽を紹介したくてこの作品を作ったのだろう。★★★★