【柿沼弘子の勝手にシネマ



エド・ウッド

監督:ティム・バートン
出演:ジョニー・デップ、マーティン・ランドー

th May 2001

 公開は1994年。ティム・バートンとジョニー・デップが組んだ作品は、この他に『シザー・ハンズ』『スリーピー・ホロウ』と全部で3作あるけれど、これはそのうちの2作目。変わり者を敬愛する監督と、変わり者の役を演じる事の多い俳優との必然の組み合わせということなのだろう。いきなり冒頭の墓場に表れたタイトル・クレッジットの出し方に驚く。チープでいかにも作り物、といった感じだけれど、バートンらしさが溢れていてなかなか面白い演出だ。これから何が始まるのだろうと自然と気分もわくわくする。
 この作品はハリウッドで史上最低の監督と言われたエドワード・デイヴィッド・ジュニア(通称エド・ウッド)の伝記映画である。エドは不思議な感性を持ち、凡人には理解し難い作品ばかりを作り、オーソン・ウェルズのような偉大な映画監督になることを夢見ていた。しかし、その如何ともしがたい感性とは裏腹に、エドの映画製作にかける情熱は人一倍強かった。その情熱ゆえに、これと決めたら周りが見えなくなる性格で、周りの人間を始終振り回してばかりいた。おまけに女装癖があり、恋人のアンゴラのセーターを着込んでは、周りの者を当惑させていた。エドにとってアンゴラの優しい肌触りは、何にも増して心を癒すのであった。エドは自分で企画した「性転換した男」の物語を映画会社に売り込むが、馬鹿扱いされて追い返されてしまう。その帰り道、往年の怪奇スター、ベラ・ルゴシと運命的な出会いをしたエドは、ベラを出演させるという条件で、監督となる。そして、恋人や友人の協力で資金を集め、ようやく撮影を開始する。出来上がった作品の評判は最悪だったが、エドはそれでも満足だった。再び撮影に取り組んだエドは、ついに自分の納得のいく作品を完成させる。
 この作品の面白さは、やはりエド・ウッドを演じたジョニー・デップと、ベラ・ルゴシを演じてアカデミー助演男優賞を受賞したマーティン・ランドーの妙演につきるだろう。ジョニーは作品ごとに髪型や顔の表情を変え、周りに漂う空気までも変えることのできる素晴らしい役者だ。余談だが作品の中で、ほんの一瞬だけジョニーが煙草を吸うシーンがある。私はジョニーのくわえ煙草顔が大好きだ。この人ほどくわえ煙草が似合う人はいないと思う。最初にそれを思ったのはテリー・ギリアム監督の『ラスベガスをやっつけろ!』を見た時だ。とにかく煙草をくわえた「への字口」がたまらなくセクシーなのだ。
 おそらくティム・バートンは、エド・ウッドの生き方に自分を重ねて見ていたのだろう。そうでなければ、このどうしようも無いエド・ウッドという男を、ここまで愛情たっぷりと描くことは出来なかったであろう。それにしても、この極めて個人趣味的な作品を、商業主義的なハリウッドのメジャーがよく作ったものだと感心する。ところで今年7月、エド・ウッド本人の遺作脚本を若手のアイリス・イリオプロスが監督した『クレイジー・ナッツ/早く起きてよ』が公開された。私は見ていないが、もちろん評判はあまり良くないらしい。彼の感性を理解するのは、凡人にはあまりにも難しいようだ。★★★★