【柿沼弘子の勝手にシネマ】
PLANET OF THE APES/猿の惑星
監督:ティム・バートン
出演:マーク・ウォルバーグ、ティム・ロス、ヘレナ・ボナム=カーター
3rd Aug. 2001
1968年にフランクリン・J・シャフナー監督によって作られた『猿の惑星』をティム・バートンの新解釈によってリメイクした作品。バートン本人は「リメイク」ではなく「リ・イマジネーション(再創造)」と言っている。もともとラストのどんでん返しが印象的な作品であるだけに、リメイクするのは非情に困難を要したと思われるが、バートンは「オリジナルからインスパイアされたものは、言葉を話す猿と、その猿に支配される人間の逆転の構図だけ。」と言っている。もともとモンスターやマイノリティーに対する偏愛を持つバートンにとって、この企画は彼の才能を思う存分発揮するための願っても無いチャンスだったのかもしれない。この作品におけるマイノリティーは、紛れも無い「猿」である。しかし、猿の支配する惑星では「人間」のほうがマイノリティーなのである。バートンは一応主眼を人間のほうに置いて作っているが、その割りには人間の描写が薄っぺらになっている。そして、この曖昧さが、この作品からシャープさを奪い取ってしまっている。
バートンは大作というプレッシャーに多少押され気味だったのではないだろうか。彼が初めて大作『バットマン』を監督した時のように、自分の思うように作れなかったのではないだろうか。細部に目を向ければ、特殊メイクはリック・ベイカー、音楽はダニー・エルフマン、衣装デザインはコリーン・アトウッドと、チーム・バートンを結集させただけあってバートンらしさがにじみ出ているが、バートンファンとしては、もう少し違う何かを期待していた。なんだか猿のキャラクター作りに専念し過ぎて(なんと500種類もの猿の顔を作ったそうだ!)、肝心の脚本をおろそかにしてしまったのではないだろうか。人々の評価にしても、メイク・アップのことばかりに話題が集中していて、物語自体の出来については、たいした話題になっていない。
猿のキャスティングにはティム・ロスなど、わりと気の利いた俳優を使っている。猿のメイク・アップは演技による顔の表情が良く出るような素材を使ったということだけれど、やっぱり猿は猿。表情には限界がある。だからなぜティム・ロスなどの性格俳優を使ったのか不思議だ。私は最後のクレッジットが出てくるまで、どの猿がティム・ロスだったのか分からなかった。それから妙に色っぽいメス猿(ヘレナ・ポナム=カーター)が気持ち悪過ぎ。猿のくせに化粧してるし、おまけに宇宙飛行士レオ(マーク・ウォルバーグ)とキスまでしちゃうし(冷静に考えるとちょっとやばいんじゃないの)。そう言えば、レオはラストでデイナという人間の美女(エステラ・ウォーレン)とも別れのキスをしていた。別にこの二人、そんなに親しい仲には見えなかったのだけれど。きっと観客に対するサービス・カットなのだろう。いずれにしても脚本的に不満足。一回見ただけではこの作品の良さがあまり分からなかったので、後日もらったチケットでもう一回見たけれど、抱いた感想に発展無し。私のみならず、この作品をティム・バートンだから見たという人は多いはず。果たして他の人達はどれだけ満足したのだろう。私にとって、この夏一番の期待作だっただけに残念。★★★