【柿沼弘子の勝手にシネマ



U−571

監督:ジョナサン・モストウ
出演:マシュー・マコノヒー、ビル・パクストン、ハーベイ・カイテル

nd May 2001

 私は戦争映画はそれほど好きではないのだが、戦争映画好きの相棒がこのビデオを借りてきたので、一緒に見ることにした。戦争映画の中でも今回の作品は潜水艦ものだ。ちょうどトム・クランシーの『レッド・オクトーバーを追え』を読み終わったところで、頭の中が潜水艦モードになっていたので、タイムリーだった。U−571とは大戦中に活躍したドイツ軍の小型の攻撃型潜水艦のこと。私は潜水艦の上部がU字型をしているのでUボートと呼ばれていたのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。Uボートとは、ドイツ語の「ウンターゼーボート(Untersee boot=潜水艦)」を略したものだそうだ。このUボートには解読困難と言われていたナチスのエニグマ暗号機が積まれていた。エニグマは第二次世界大戦でドイツ軍が使用した暗号システムで、簡単な暗号機で極めて複雑な暗号を作ることができたので、 ドイツ軍の無線通信に使用され、大戦初期の快進撃に貢献した。この作品は、そのUボートからエニグマを勇敢にもアメリカ軍が奪い取る作戦が描かれている。実際は、最初にエニグマを奪取したのはイギリス軍なのだが、ここでは英雄はアメリカ軍になっている。
 1942年4月、第二次世界大戦下の北大西洋上。連合軍艦隊はドイツ軍のUボートにより、壊滅的な打撃を受けていた。そんな折、アメリカ軍は事故を起こしたUボート(U−571)が漂流しているという情報を入手する。そして、軍の極秘任務として、ドイツ軍の救助隊を装いU−571に近づき、エニグマ暗号機を奪取する作戦が開始された。そして、第一次世界大戦で活躍した旧式の巡洋潜水艦S−33をUボートそっくりに改造し、乗組員にドイツの軍服を着せ、ドイツ語を話せる水兵を乗せ、U−571へ近づいていった。潜水艦を指揮する艦長、マイク・ダルグレン大佐には、ジェームズ・キャメロン作品常連のビル・パクストン。彼の下で実力がありながら認められないことに苦しんでいた副艦長、アンドリュー・タイラー大尉を『評決のとき』のマシュー・マコノヒー、ピート・エメット大尉を「ボンジョビ」のリードヴォーカルのジョン・ボン・ジョヴィ、タイラーを始終補佐するベテランのクロフ軍曹を実力派ハーベイ・カイテルが演じている。
 ドイツの軍服を着ているということは、作戦が失敗してドイツ軍に捕まれば、戦争規程違反のスパイ容疑で銃殺は免れないということ。乗組員の運命は艦長の手に握られていた。しかし艦長の急死によって、急きょ、副艦長のタイラー大尉が艦長役を務めることになる。タイラー大尉は優しく思いやりのある男で、部下から慕われていたが、優しさよりも決断力を求められる軍隊においては、その優しさが仇となり、なかなか艦長へ昇進することができないでいた。責任者である艦長には部下の命を使い捨てにする非情さが必要なのだ。この物語は、そんなタイラー大尉がこの作戦の遂行を通じて力強く成長していく姿を描いている。でも、もう少しタイラー大尉の心の葛藤をうまく描けたら、物語にもっと深みがでたんじゃないかなと思う。役者たちの演技が真に迫っていただけに、惜しい。★★★