【柿沼弘子の勝手にシネマ】
Stereo Future
監督:中野裕之
出演:永瀬正敏、桃生亜希子、竹中直人、麻生久美子
19th May 2001
監督は『SFサムライフィクション』の中野裕之。中野監督が知人の水星捜索家、木内鶴彦氏を世の中に紹介しようとして作った作品ということだ。作品中、木内氏自身が登場し、自然について語る場面がある。私は映画の内容よりも、試写の前に行われた中野監督と木内氏のトークショーの方が興味を持てた。この木内氏という人は、毎日12時間も星を眺めているのだそうだ。嵐や雨の日以外は、ほとんど毎日星を観察していて、睡眠時間は毎日2、3時間だという。木内氏の話の中で特に興味を持ったのが、「惑星間の距離」の話。太陽が直径14センチのボールだとすると、地球はわずか1.3ミリ(ほとんど仁丹)くらいの大きさになるらしい。さらに月は0.3ミリということだ。そして、その比率での太陽と地球との距離は16メートル。太陽系の最も外側を回っている冥王星に関して言えば、その距離はなんと600メートルにもなるのだそうだ。私は今までこのような捉え方をした事がなかったので、木内氏の発言はとても新鮮だった。他にも、太陽系は少しずつなんとか座のなんとかという星(忘れた)に近づいているとか、そのような難しい、というか普段あまり考えないようなことをいろいろ話してくれた。こんな風にあらためて人類の存在を見つめ直してみると、とても不思議な気分になる。宇宙はどんどん膨らんでいるというけれど、その外側には一体何があるのだろうか。あくまでも相対性理論上の話ではあるけれど。人間なんて本当にちっぽけな存在なのだ。それから数年前、木内氏の探査グループが地球に衝突する可能性のある巨大水星を発見して、その軌道を修正するための費用がアメリカで予算化されたそうだ。そしてこの話を聞きつけたブラッカイマーが映画『アルマゲドン』を製作したのだそうだ。と、まあ映画の主旨からはだいぶそれてしまったけれど、中野監督が言っていた、「木内氏を紹介する」という目的は映画の中ではどうやら失敗に終わっているようだった。
この作品の一番の欠点は筋がつまらないということ。資料には「4つの“SF”をキーワードにしたエピソードが交差する」とある。4つのSFとは4つのサイエンス・フィクションということではなく、“Samurai Fighter”、“Silent Female”、“Sound Funky”、“Stereo Future”ということらしいのだが、どうもよく理解できない。まあ、それぞれのキーワードに絡んだ事象は出てくるけれど、ちょっと無理矢理っぽい。それぞれ別の場所で進行している関係ないような4つのエピソードが、少しずつ何らかの関わりを持って繋がっているのだが、繋ぎ方が上手くなくて、雑多にいろいろなシーンが組み合わされているだけで特に目新しくもない。主演は永瀬正敏で、なかなか芽の出ない役者の役。売れっ子女優に見初められて、時代劇「幽霊サムライ(だったかお化けサムライだったか忘れた)」に出演することになるが、毎日毎日、竹中直人扮する幽霊サムライに切られてばかりいる。竹中の怪演が人々の笑いを誘っていたが、それが終わってしまうとポカン、としてしまう。本当なら一つも星は付けたくない作品だけど、木内氏の話と竹中直人の怪演に免じて★というところ。