【柿沼弘子の勝手にシネマ



クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲

監督:原恵一
声:矢島晶子、ならはしみき、藤原啓治

29th Apr. 2001

 知り合いが良いと薦めてくれたので、子供向けのアニメではあるけれど、見に行く事にした。見に行くのはかなり勇気のいることだった。私の相棒はなかなか首を縦に振ってはくれなかった。当たり前だけど、周りはすべて子供連ればかり。後ろの席の子供に「何だこいつら、大人のくせに。」という目つきで見られた。非常に肩身の狭い思いをした。それでも私はくじけなかった。大人同士で見ていたのはおそらく私たちだけだったのではないだろうか。
 冒頭は、1970年に開催された大阪万国博覧会の場面から始まる。私の生まれた年だ。岡本太郎作「太陽の塔」がそびえたつ。もちろん私はリアルタイムで見たわけではなく、後年のテレビで見たわけだが、だいたいのことは知っている。でも今の子供たちには何のことやらさっぱりわからなかっただろう。そして、なぜかその中にしんちゃん親子がいるのだ。おや?と思って見ていると、そこは「20世紀博」というテーマパークの中だということがわかる。その中では、昔のオモチャを売っていたり、昔の懐かしい遊びを体験することができ、テレビは懐かしい番組を放送している(コント55号とかが出てくるような…、私は知らん)。そしてその中で大人達は子供をほったらかしにして、懐かしさに我を忘れ、童心にかえって遊びふけるのである。しかし、実はそのテーマパークは、21世紀から未来を奪おうとするオトナ帝国のリーダー、ケンちゃんとチャコちゃんの恐るべき陰謀だったのだ。大人達がどんどん子供化していく様子に危機感を抱いたしんちゃんは、仲間と「かすかべ防衛隊」を結成し、「20世紀博」の秘密へと迫るのだ。20世紀博で作りあげられているのはおそらく1960年代生まれの人が見ると、すごく懐かしいと思うような世界だ。つまり、クレヨンしんちゃんを見るような子供がいる親の世代の心の琴線に触れる世界なのだ。子供だけでなく親までもターゲットにしたというのは、実に上手い作戦だ。
 この作品は、どちらかというと、子供よりも親の方にうったえているところがある。「家族っていいな」とか、お父さんには「仕事は大変だけど、家族のために頑張ろう」と思わせるところがある。家族の絆を深める力を持っている。私は途中何度か泣きそうになった。しんちゃんの両親(ミサエとヒロシ)がヒロシの足の臭い匂いを嗅ぐことで、意識を現実に引き戻しながら、懐かしい世界に引きずられそうになるのを必死にこらえる姿は、ばかばかしいけど、涙を誘う。最後に戦いでボロボロになったしんちゃんが、倒れながら「家族で一緒にいたいんだ…」とぽろっと言うシーンで、子供に隠れて涙を拭いたお父さんお母さんは多かったのではないだろうか。おそらくこの作品を見て、明日から頑張ろうと思ったお父さんはいっぱいいるはずだ。大切なモノのために一生懸命頑張る姿は感動的だ。★★★★