【柿沼弘子の勝手にシネマ



ハンニバル

監督:リドリー・スコット
出演:アンソニー・ホプキンス、ジュリアン・ムーア

15th Jun. 2001

 タイトルは変わっているが、1991年公開の『羊たちの沈黙』(ジョナサン・デミ監督)の後日談と言える作品。精神科医であり凶悪犯罪者であるハンニバル・レクター博士には、前作に引き続きアンソニー・ホプキンス。FBI捜査官クラリス・スターリングはジョディ・フォスターからジュリアン・ムーアに変わった。ジョディからジュリアンへの変更は二人のキャタクターが、かぶっているので違和感なし。ジョディのほうが良かったという意見もあるが、それは好みの問題だ。
 レクター事件の被害者で、唯一の生き残りである大富豪メイスン・ヴァージャーは、レクターに不自由で醜い姿にされてしまったことを逆恨みしていた。そして金の力で、お蔵入りしていたレクターをFBIファイルの超極悪犯罪者リストに復活させてしまう。クラリスは指揮を任された麻薬捜査でミスを犯し、その責任を追及されていたところを、かつてのレクター事件での功績を理由に、レクター捜査を再び命じられる。復活のさせかたが、いまいちひねりがなくて面白くない。そしてクラリスは再びレクターを追いかけることになる。前作ではレクター博士とクラリスとの会話の中に、見ている人をずるずると引き込んで、精神的に追いつめていくようなところがあった。血とか内臓とかをあまり見せなくても、シチュエーションだけで十分恐がらせることができた。それに比べると、今回はかなり視覚的にエグく迫っている。内臓を垂らしながら宙吊りになったり、イノシシに人肉食べさせたり、頭蓋を割って脳みそをフライパンで炒めて食べたり、サイコ・サスペンスというよりホラーみたいだ。前回はレクターとクラリスの間にもう少し知的なものを感じたのだけれど、今回はそれがない。レクターもメイスンの一味に簡単に捕まってしまったし。『羊〜』のレクター博士はそんなチンピラに簡単に捕まるほど、あさはかではないのだ。最後も油断して、クラリスに簡単に手錠をはめられてしまったし。とにかく今回のレクターは隙が多い。
 この作品は、クラリスとレクターの愛の物語だという人がいる。確かにレクターからクラリスへの愛情は感じられる。しかし、クラリスが何を考えているのかさっぱりわからない。少なくともレクターへの愛情は感じられない。クラリスの感情がまったく描写されていないからだ。確かにクラリスは優秀なFBI捜査官だから、そう簡単に感情を表に出してはいけないのかもしれない。でも、これじゃ見ている人に何も伝わってこないじゃないか。クラリスはレクターをどうしたいのか。捕まえたいのか、逃がしたいのか、もう少し説明入れて欲しかった。最後、結局レクターは逃げちゃったけど、(ネタばれだけど、そんなラストは容易に想像できるからいいよね)、この続きがまた作られるのだろうか。でも片手切っちゃったのは失敗だったんじゃないかな。だって、レクターは強くて完璧だから恐怖なのであって、片手の無い痛々しいレクターはキャラ的に少し弱いんじゃないだろうか、と勝手に心配している。それとも、手がまた生えてたり、シザー・ハンズみたいにはさみが付いていたり、ロボコップみたいにマシンガンが付いていたりしたら笑えるな。★★★★