【柿沼弘子の勝手にシネマ



天使のくれた時間

監督:ブレット・ラトナー
出演:ニコラス・ケイジ、ティア・レオーニ、ドン・チードル

29th Mar. 2001

 今回は東京プリンスホテルでの試写。監督は『ラッシュアワー』でブレイクしたブレット・ラトナー。主人公ジャック・キャンベルには、最近パチンコ屋のCMで恥ずかしい演技を見せているニコラス・ケイジ。その恋人ケイトを『ディープ・インパクト』のティア・レオーニが演じている。
 1987年、ジャック・キャンベルは恋人ケイトの不安をよそに、ウォール街での成功を夢見てロンドンでの研修に向かった。別れ際に空港で「僕たちの愛は100年経っても変わらないよ。」と言い残したジャックだったが、結局二人は離れ離れになってしまう。そして13年後、ジャックは希望どおり、大手金融会社の社長となる。欲しいものはすべて手に入れ、マンハッタンの億ションのペントハウスに住み、フェラーリを乗り回し、優雅な独身生活を満喫していた。しかし、クリスマス・イブの夜、スーパーで偶然出会った謎の黒人青年に「これから起こる出来事は自分が招いたことだ」と言われる。そして、翌朝目覚めると、そこは郊外の一軒家で、隣にはかつての恋人ケイトが眠っていた。そして、「13年前、夢をあきらめてケイトのところへ戻っていたら…。」という世界がジャックの目の前にいきなり繰り広げられる。ケイトと結婚したジャックは、冴えないタイヤ会社の販売員で、NYの郊外にささやかな一戸建てを持ち、子供2人と暮らしていた。最初はそんな平凡な生活に苛立ちを感じるジャックも子供達と心を通わせるうちに、こんな生活もいいなと思うようになる。
 独身貴族の夢のような生活に、ふっとよぎる寂しさと孤独。その心の隙間に突然現れた天使が見せてくれたものは、今の生活とはまるで対照的な、平凡だが温かみのある家庭。私はこのままジャックが現実の世界に戻らずに、あるいはこの世界に住みつくことを決意して、ここで一生を終えるのかと思っていたら、また突然もとのアッパーなNYの生活に戻ってしまった。そしてなんとも都合のいいことに、ケイトに会いに行ってしまうのだ。ここでケイトに走ったところで、天使の見せてくれた「温かい家庭」があるわけでもない。なぜならケイトは今、ばりばりキャリア・ウーマンだからだ。この先あるのは「アッパーな暮らし+美しい妻」だけだ。そこにプラス「子供」と「温かい家庭」があると思うのは錯覚だ。悲しいかな両者は同時には成立しないのだ。ジャックがやろうとしているように、すべて自分の都合のいいように手に入れることができるとしたら、この物語自体意味をなさなくなってしまう。なんとも疑問の多い作品である。
 果たしてこの脚本家は男か女か?途中までは男の意見、途中から女の意見、最後はごちゃ混ぜで良く分からない。おそらくこの作品に対する感じ方は、見る人が男性であるか女性であるか、働いているか働いていないか、既婚か未婚かによってずいぶん違ったものになるだろう。私はジャックの気持ちもケイトの気持ちも両方理解できたが、ラストシーンだけはどうも納得できなかった。なんだかテスト試写で決めてしまったような、どっちつかずでビシッと来るものがない。それとも、この続きは皆さんそれぞれ好きなように考えてください、ということなのだろうか。★★