【柿沼弘子の勝手にシネマ


スターリングラード

監督:ジャン=ジャック・アノー
出演:ジュード・ロウ、ジョセフ・ファインズ、レイチェル・ワイズ、エド・ハリス

23rd Mar. 2001

 今回は新橋ヤクルトホールでの試写。1993年にまったく同名の映画が公開されているが、その時のものはスターリングラードの攻防戦をドイツ側の視点で描いているのに対し、今回はソ連のスナイパーに焦点を当てて描いている。ソ連の凄腕スナイパー、ヴァシリ・ザイツェフには、このところ人気急上昇のジュード・ロウ。前作『リプリー』の金持ち放蕩息子役より、今回の役の方がはまっている。そして、ソ連の若き共産党エリート将校イワン・ダニロフには『恋におちたシェイクスピア』のジョセフ・ファインズが配されている。
 舞台は第二次世界大戦におけるヨーロッパ戦線の中で、最も悲惨な末路を辿ったスターリングラードの攻防戦。ヒトラー率いるナチス・ドイツはさらに支配を広げようと、26万人の精鋭部隊を送り込んで一挙にソ連征服をもくろんでいた。このスターリングラードにおける戦いはソ連にとって、重要な意味を持っていた。共産党主席スターリンの名前を冠したスターリングラードという土地は、いかなることがあっても守り抜かねばならなかった。しかし、ヴァシリの部隊が応援に駆けつけた時、街はすでに壊滅寸前だった。冒頭15分間は『プライベートライアン』のノルマンディ上陸作戦のシーンを思わせるような迫力で、ボルガ河を船で渡る兵士たちに降り注ぐ爆弾、飛び散る肉体、流れる血などは、兵士の視点に迫った映像で迫力がある。ヴァシリは幼い頃から羊飼いの祖父によって射撃を仕込まれた天才的なスナイパーで、その腕はやがて国民の志気を高めるためのプロパガンダとして利用されるようになる。自分の意志とは裏腹に、煽られるまま敵を撃つうちに、敵の識別票を集める事に快感さえ覚えるようになる。しかし、ドイツ側にヴァシリの噂が伝わると、ベルリンからヴァシリを狙うため、名狙撃手ケーニッヒ少佐(エド・ハリス)が送りこまれてくる。このエド・ハリスの圧倒的な存在感がドラマをぐっと引き締めている。罠を張り巡らす戦略家のケーニッヒ少佐とヴァシリの対決シーンは、息詰まるほどの緊張感がある。
 結局、ヴァシリにしてもケーニッヒ少佐にしても、自国の首脳によっていいように利用されたわけだ。かわいそうなのが、ヴァシリに憧れるが故、大人の身勝手で犠牲になった少年だ。この作品に描かれている敵はドイツでもソ連でもない。本当の敵は国民を扇動する国家にある。そう考えると戦場も会社も同じだなと思う。結局犠牲になるのは下っ端ばかりで、戦場を知らずに私腹を肥やす役員連中にとっては痛くも痒くもないのだ。それにしても、映画や小説などでアメリカ人の描くドイツ人は、あまり良く描かれていないことが多い。ソ連とは実際に殺し合いをやったわけではないから(黒幕ではあるが)、国民感情から言えば、ロシア人よりもドイツ人とか日本人の方が嫌いなのだろう。それにしても、この作品は見ていてほんと疲れる。最初から最後までテンションが落ちないので、体が硬直しているせいで肩が凝る。でもそれだけ集中させられるということはある意味すごい事だ。2時間以上の時間を、飽きさせることなく見せられるのは脚本がしっかりしている証拠だ。まあ多少、センチメンタルに流れ過ぎる部分もあるけれど、女性客にも見てもらうためには仕方ないのかもしれない。★★★