【柿沼弘子の勝手にシネマ】
ファストフード・ファストウーマン
監督:アモス・コレック
出演:アンナ・トムソン、ジェイミー・ハリス、ルイーズ・ラッサー
7th Feb. 2001
毎月第一水曜日は東京都の「映画サービス・デー」だ。イエーイ!今日も千円で映画が見られるぜぃ、と思い渋谷シネクィントに行ったら、な、なんと、ここの劇場だけサービスデーが変わっていた。しかも3・6・9・12月の第一水曜日だけという、非常になめた設定だ。なんで日数減らすんだ?シネクィント、死ねクイント!私はあまりの怒りに、ここで見る予定だった『ギャラクシー・クエスト』を捨て、隣のシネマライズへと吸い込まれて行った。でも結果的に良い作品に巡り合えたのでラッキーだった。
主人公ベラを演じるのは、元ストリッパーの経歴を持つアンナ・トムソン。メジャーではないけれど、キュートで個性的なアメリカの女優だ。おまけにスタイルもいい。物語はベラを中心に、ベラの働くレストランの常連客である3人のおじいちゃん(「おじいちゃん」という呼び方が相応しい)、ベラの友人の娼婦などを絡めてアンサンブル形式で進行する。ベラはもうじき35歳の誕生日をむかえる独身女性。親から見合いを勧められているが、妻子ある男性と不倫中で10年以上も煮詰まった関係を捨て切れない。登場人物たちに共通して言えることは、それぞれ人生のターニングポイントに立っていて、将来に対して多少なりとも不安を感じているということ。体裁を気にしたり、年齢的なことを考えて、変化に対していまひとつ踏み切れないままでいるのだ。守りに入っているというか、臆病なのだ。この映画では、ほとんど棺桶に片足を突っ込んでいるようなおじいちゃんたちが、なぜだか妙に発情期で、そんなキュートなおじいちゃんたちが物語に活気を与えている。友人の色話に刺激を受けてやる気を起こしたり、隣に住む若い娘の下着姿を偶然見かけて興奮して眠れなくなったり、覗き部屋の踊り子に真剣に恋をしてしまったり、新聞の恋人募集欄で見つけた66歳のおばあちゃんと純粋な恋をしたりと、お盛んなのだ。そんなエピソードの中、年老いた自分の体に自身を持てず、バストにシリコンを入れようかと真剣に悩むおばあちゃんの姿がほほえましかった。おじいちゃんとおばあちゃんがドキドキしながら、何もせずに二人でベッドに横たわっているシーンがあるのだけれど、そのくせ心の中では手を出そうかどうしようかと悩んでいて、可愛らしいというか、とにかくほほえましかった。そして、自分の気持ちに素直に行動を起こした時、はじめてベラにもおじいちゃんたちにも幸せが訪れるのだ。
「近頃は、会ったその日にファックするのよ。」というおばあちゃん同士の会話や、見合いをするベラに「決して子供が好きだなんて言っちゃだめよ。」と忠告する中年女性など、人々のたわいない会話やおせっかいなアドバイスが所々に散りばめられていて面白い。この作品を見ていると、人間って、なんてつまらないことに振り回されて悩んでいるんだろうと思う。つまらないことでくよくよ悩んでいるのが、馬鹿らしく思えてくる。そして、愛すべき人間たちがたくさん描かれていて、「人間って、複雑だけどちょっぴりかわいい」と思えてしまう。この作品は人々の営みを冷静に客観的に見せているところがあって、そうやって見せられると、「世の中、そう悪い人達ばかりでもないな」と思えるのである。恋愛面でのアドバイスだけでなく、楽しい人生を送るためのお手本となるような良い映画だと思う。★★★★