【柿沼弘子の勝手にシネマ


ダンサー・イン・ザ・ダーク

監督:ラース・フォン・トリアー 
出演:ビョーク、カトリーヌ・ドヌーブ、デビッド・モース、ピーター・ストーメア

24th Jan. 2001

 2000年カンヌ国際映画祭パルムドール賞、同主演女優賞(ビョーク)受賞作品。デンマーク映画。後天性の盲目という遺伝病を持った女性が、殺人の罪を着せられ絞首刑に処せられてしまうという、なんとも切なく悲しい物語。盲目の主人公セルマをアイスランドの歌姫、ビョークが演じている。ビョークのイメージや顔立ちから、子持ちの母親役というのは多少無理があるように感じられる。あらためてビョークの顔を見ると、彼女の顔がとても東洋的に見える。勝手な想像だけど、アイスランド出身なので、エスキモーの血が混ざっているのかもしれない。オープニングの3分半、スクリーンには何も映されず、真っ暗な中音楽だけが流れる。盲目の主人公セルマと同じ気持ちを観客にも体験させようという演出なのであろうか。
 チェコの移民セルマは遺伝性の病気で盲目になることが避けられない運命。息子ジーンには自分と同じ思いはさせたくないとの思いから、医療技術の発達したアメリカに渡ってきた。貧しいながらも懸命に働き手術代を稼ぐセルマ。彼女の唯一の心の安らぎは大好きなミュージカルだった。しかしある日セルマがこつこつと貯めていたお金が隣人の警察官に盗まれてしまう。盗まれたお金を取り戻そうとするセルマは、逆に強盗殺人の罪を着せられ、裁判で死刑を命じられてしまう。裁判で死刑の判決が出るまでの経緯があまりにも短すぎる感はあるが、問題はそんな事ではない。この作品は所々がミュージカル仕立てになっていて、セルマが何か危機を察知したり不安を感じたりすると突然ミュージカルのシーンが現れる。これはセルマが作り出した現実逃避の世界で、盲目のセルマにとってはミュージカルの世界に逃げ込むことは、辛い人生を生き抜く為に自然に身に付けた手段なのだ。私にはこのギャップがどうしても理解できなかった。ラストシーンでは特にそれを感じた。精神に異常を来しているとしか思えなかった。そのことが余計セルマを不憫に思う気持ちを強めた。希望を持って念じれば、暗闇の中にも何かが見えてくると言いたいのだろうが、決して現実は変わらないのだ。
 刑務所に入れられたセルマと、友人キャシー(カトリーヌ・ドヌーブ)の面会の場面での二人の会話で「息子にとって一番大事なのは母親であるあなたなのよ。」というキャシーに対しセルマが「違うわ。目よ。」と答える場面がある。健常者のキャシーと障害を持つセルマとの意識の違いがはっきりと表れる場面だ。自身が盲目であり、息子に同じ辛さを味わせたくないセルマにとって、目が見えることは、他の何より大事なことなのだ。 自分の命と引き換えに、息子の視力を取り戻したセルマ。衝撃的なラストシーンの中に、一筋の希望の光が見える。全体に流れる悲壮感のため、賛否両論分かれるところだろう。ビョークの歌は良かったし、作品としての完成度も高いのだけれど、あまりにも暗すぎるし、後味が悪すぎる。映画はもっと楽しいほうがいいなあ。見終わった後、周りには泣いている人がたくさんいたけど、私はあまりの不憫さにショックで涙さえでなかった。★★★