【柿沼弘子の勝手にシネマ】

ライフ・イズ・ビューティフル

監督:ロベルト・ベニーニ
出演:ロベルト・ベニーニ、ニコレッタ・ブラスキ、ジョルジオ・カンタリーニ


24th Aug. 1999


 ここ最近の私は、サラリーマンとしてはかなりのハイペースで劇場に足を運んでいる。週に1〜2本

は見ているだろうか。というのも、夏場は比較的仕事が落ち着いているので、会社帰りに映画を見に

行くことができるのだ。でもやはり今は夏休みということもあって、場所によっては平日の最終回とい

えども立ち見になる可能性がある。シネスイッチは銀座和光の裏ということもあって、いつも混んでい

るというイメージがあるが、その日はたまたますいていた。(まあ、公開から20週も経てば当然か…)

 実はこの作品、2回も見てしまった。同じものを2回も見に行ったことなんて今まで一度も無いのに

(ビデオで見ることはあっても)。この作品だけはどうしても、もう一度劇場で見ておきたかった。それ

程までに感動してしまったのだ。それでも期待は裏切られることなく、2回目もちゃんと感動できた。ス

トーリーが頭の中に入っていたので、1回目の感動を1シーン1シーン確認しながら丁寧に見ることが

できた。やはりいい映画は何度見てもいい。                                  

 舞台は、第二次大戦中のイタリア。熱烈な求愛の末、ドーラ(ニコレッタ・ブラスキ)と結ばれたユダ

ヤ人のグイド(ベニーニ)。息子にも恵まれ順風満帆な生活がはじまる。しかしそんな喜びもつかの間、

ナチスの強制収容所に送られてしまう。自分たちを待ち受ける過酷な運命を息子に告げることができ

ない父は、収容所の生活をゲームに例えることを思いつく。「泣いたり、おやつを欲しがると負け。でも

、いい子にして得点を稼げば、戦車がもらえる」と息子を言いくるめる。強制労働やガス室での処刑を

息子の目に触れさせまいと、おどけて振る舞う涙ぐましい努力に笑いながらも胸を打たれる。      

 この作品の中で、一番感動したのはグイドとドーラがお互いの生存を確認しあう場面。グイドが誰も

いない放送室に忍び込み、マイクに向かってこの作品のキーワードである「こんにちは、お姫様!」と叫

ぶ。これは二人が出会った時、グイドがドーラに向かって言った言葉だ。ドーラはその声を聞き、楽しか

った昔を思い出すと同時に、夫と息子の無事を確認し、生きる希望を与えられる。グイドの声の後ろか

ら聞こえる息子の「ママー」と叫ぶ声に、きゅっと胸をしめつけられる思いがした。             

 一つだけ監督の意図が伝わらなかった場面があった。それはかつての知り合いであったドイツ人の

医師が夕食会の席で給仕するグイドに「話がある」と言ってしばらくひっぱった末に「友達の医師から出

題されたなぞなぞが解けなくて夜も眠れず困っている」と打ち明ける場面。この場面だけは感情がさまよ

ってしまった。悲しんでいいのか、喜んでいいのか、それともグイドが助かることを期待していた観客をが

っかりさせるためのものだったのか。演技が下手なのか演出が悪いのかわからないけど、観客を落とす

つもりならば、落し方が中途半端で、この場面だけ宙ぶらりんになってしまった。まあ、そんなことはどう

でもいい。とにかくこの作品はすばらしいのだ。                                  

 この作品は戦争を題材にしたコメディーで、強制収容所の有様を茶化していると、一部批判の声もあ

ったみたいだ。しかし、これは戦争映画ではないのだ。一人の男の愛の物語なのだ。それからこの作品

の素晴らしいところは、1つも無駄な場面がないところだ。2時間弱という最近の映画にしてはめずらしく

短い時間の中に、生きることの美しさや素晴らしさがぎゅうっと凝縮されている。1つ1つのシーンは絶妙

に絡み合いながら展開し、最後まで見るものを飽きさせない。                         

 この作品を見て私は「泣きながら笑える」という、今までにはない経験を味わった。今までにないタイプ

プの映画だと思った。、普段ならエンディングではさっさと帰ってしまう私も、最後は涙でぐしゃぐしゃにな

ってしまい、なかなか席を立つことができなかった。★★★★★でも足りないくらい素晴らしい映画だった。

ここ数年見た中ではナンバーワンだ。しばらくしたらまた見ようと思う。                  


 
【※】ちなみに★は5点満点だよ。