【柿沼弘子の勝手にシネマ】
サイコ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:アンソニー・パーキンス、ジャネット・リー、ジョン・ギャビン
27th Dec. 2000
サスペンスの巨匠ヒッチコックの最高傑作ともいえる、異常心理を題材としたスリラー。公開は1960年。原作はロバート・ブロックの同名小説『サイコ』。アメリカ、ウィスコンシン州で実際に起きた中年男性の殺人事件がモデルになっている。ヒッチコックは主人公をマリオンではなくノーマン・ベイツとし、ベイツ役に繊細な二枚目俳優を使うなど、原作を大幅に変更した。さらにヒッチコック自身の指示で、劇場公開時には最後の30分間の途中入場が禁止され話題を呼んだ。この作品の製作に入った1959年、ヒッチコックはすでに有名な監督となっていた。そしてパラマウント映画の絶頂期の作品を数多く生み出し、豪華なカラー大作監督としての地位を築いていた。しかし『裏窓』や『北北西に進路を取れ』など、芸術性と娯楽性を両立させた完成度の高い作品群に突然終止符を打ち、それまでとは全く異なるスタイル、奇怪な題材、低予算の白黒映画、意外な物語展開の作品として作り上げたのが今回の『サイコ』だった。後に彼は『鳥』、『マーニー』など、次々に新しい恐怖に挑戦していくことになる。
不動産会社に勤めるマリオン(ジャネット・リー)は、金に困った婚約者のために、ある日、会社の4万ドルを持って逃げてしまう。さびれたモーテルに転がり込んだ彼女は、そこの経営者ノーマン・ベイツ(アンソニー・パーキンス)と話すうちに罪の意識に目覚め、金を返す決心をする。ところが、そんな彼女に信じられない悲劇が訪れる。この作品で描かれる恐怖の対象は、もはや吸血鬼や気が狂った博士が作り出す人造人間ではない。怪物はどこにでもいる普通の人間の中に巣くっているのだ。つまり繊細な好青年の心の中、または母親の子供へ向ける愛の中にいるのだということを示している。
その後『サイコ』は、83年に『サイコ2』、86年に『サイコ3』、90年に『サイコ4』とシリーズ化されている(監督は別人)。さらに1998年に『グッド・ウィル・ハンティング』のガス・ヴァン・サント監督によってリメイクされている。このリメイク版は基本的にはオリジナル・ショットを尊重した作りになっていて、白黒からカラーに変わった点を除けば、台詞から画面構成、カット割りまで、ほとんどオリジナルと同じになっている。予告編で見たけど、マリオンがバスルームで襲われるシーンでは、役者の表情までそっくりなのには驚いた。こういうのって「リメイク」じゃなくて「コピー」っていうんじゃないのかな。著作権の問題はどうなっているのだろう。
当時、一部の批評家はこの作品を残酷で不快な映画と評していた。しかし30年たった今でも最も人気のある映画のひとつであり、ヒッチコックの作品の中でも、最高の商業的成功を収めた作品のひとつなっている。余談であるが、この作品に登場するベイツ・モーテルと丘の上の家は現在、ロサンゼルスのユニヴァーサル・スタジオで見ることができる。この家はベイツが家の前に立った時、彼の姿が大きく見えるように、原寸より少し小さめに造ってあるということだが、機会があれば是非見てみたいと思う。★★★★★