【柿沼弘子の勝手にシネマ】
ラストタンゴ・イン・パリ
監督・脚本:ベルナルド・ベルトルッチ
出演:マーロン・ブランド、マリア・シュナイダー、ジャン=ピエール・レオ
20th Dec. 2000
久し振りのビデオによる名作鑑賞。ということで、今回は1972年に公開された『ラストタンゴ・イン・パリ』です。この作品は公開当時、過激な性描写によって世界中で一大センセーションを巻き起こし、各国で上映禁止や検閲が行われました。ベルトルッチの故国イタリアでは公開4日目で上映禁止処分となり、1987年まで上映が禁止されました。さらに主演のブランドとシュナイダーは、イタリアのポルノ裁判なるものにかけられて、有罪判決を受けたりもしています。ビデオではR指定とアンカット成人指定の2つのバージョンがあり、私が借りてきたものは(カバーに特に何も書いてなかったけど)、ぼかしが入っていたりいくつかのシーンがカットされていました。まあ、今見ると、性描写そのものはたいしたものではないですね。おそらく一昔前の日活ロマンポルノといったところでしょうか(見たことないけど…)。でも公開当時の1970年代にしてみれば、とんでもないわいせつ映画だったのでしょう。確かこの作品は、去年の年明けに「無修正完全版」が渋谷のシネ・アミューズで公開されていました。この時は、客層を考えて劇場から足が遠のきました。というのも、数年前、川島なお美主演の『鍵』という映画を見に行った時、まわりがおやじばっかりで居心地悪かったということがあったからです。今考えると、なんであんなもの見に行ったのか不思議です。
「表現の自由」についての論争は、このような作品にはいつの時代にもついてまわるものですが、つい最近も、暴力描写をめぐって『バトルロワイヤル』という作品が物議を醸していましたね。文部省まで騒いで、映倫も慌てて15Rにしていたけれど、そんなことより問題は他にあるだろうって思いました。おそらく深作監督は今の無気力な子供達にむけて、何かメッセージを発信しようとしたみたいだけど、肝心の子供達がR指定で見られないんじゃ意味ないよね。
ストーリーは次のとおり。ある冬の朝、パリのアパートの空き部屋で、中年男のポール(マーロン・ブランド)は若い娘ジャンヌ(マリア・シュナイダー)と偶然出会った。2人は互いに素知らぬ様子で室内を点検していたが、突然かかってきた間違い電話のみだらな声に刺激されたポールが、無理矢理ジャンヌを犯した。行為の後、2人は何事もなかったように別れるが、ジャンヌは憑かれたように再びアパートを訪れる。抱き合うことでしか自分の存在を確認することのできない、都会の中のゴミのような男と女。おそらくベルトルッチは、ひたすら抱き合う二人の姿に、都会の中に漂う虚無感みたいなものを表現したかったのでしょう。私が女性だからというのもあるかもしれないけど、残念ながら私にはこの作品が特に芸術性が高いとは思えませんでした。ブランドの中年男の肉体を見せられても困ってしまうし、場面のほとんどが二人の絡みのシーンだからです。後になってこの作品が高い評価を受けたのは、レーティングシステムを根本から覆したという、おじさまたちにはうれしい映画史上における貢献度の高さによるものではないでしょうか。★★