【柿沼弘子の勝手にシネマ】
エクソシスト ディレクターズ・カット版
監督:ウィリアム・フリードキン
出演:リンダ・ブレア、マックス・フォン・シドー、エレン・バースティン
13th Dec. 2000
この作品が公開された1973年当時、監督のウィリアム・フリードキンは弱冠34歳だった。派手なカー・アクションが観客の度肝を抜いた『フレンチ・コネクション』で一躍スターダムに駆け上がったフリードキンだが、2作目も、これまた観客の意表をつくホラー映画だった。そして、特殊効果の素晴らしいこの作品は、その後のハリウッドにホラー映画ブームを巻き起こした。公開時に異常な社会現象を巻き起こし、伝説となったこの作品は、現在まで恐怖映画の王座に君臨し続けている。
今回ようやく「ディレクターズ・カット版」での公開に至ったわけであるが、ハリウッドでは、ほとんどの場合、監督には編集権が与えられていないため、公開用に編集されたフィルムが監督の満足のいく出来でない場合が多い。そのために後になって、監督が再び編集し直した「ディレクターズ・カット版」、「特別編」、「最終版」などと呼ばれるものが登場する。私たちが普段何気なく見ている映画は、同じ作品でも、劇場用、ビデオ用、テレビ放映用などによってそれぞれ編集の仕方が違うのだ。極端な話、公開される国によって使われる音楽が違っていたり、ラストシーンが違うなんてこともある。そんなわけで、この『エクソシスト』も、オリジナルのイメージを壊さずに、随所に最新のデジタル処理された映像を取り入れ、サウンドもデジタル・リミックスされ、さらに「禁断の15分」と呼ばれる未公開映像を再編集して、新たに生まれ変わったのだ。悪魔に取り憑かれた少女リーガンが、ブリッジの姿勢で階段を下り、口から血を吐くシーン(マニアの間では「スパイダーウォーク」と呼ばれている)などもしっかりと再編集されている。
「エクソシスト」とは古代から伝わる「悪魔祓い師」のこと。舞台は首都ワシントン。映画撮影のために長期滞在中の女優(エレン・バースティン)の12歳の娘リーガン(リンダ・ブレア)は、ある日突然、奇怪な言動を繰り返すようになり、それは次第にエスカレートしていく。現代医学ではどうにも解明できず、悪魔に取り憑かれたらしいということで、悪魔払いの経験のあるメリン神父が呼ばれる。そしてついに悪魔との激しい戦いが始まる。
長い間、人々の魂の奥底に押し込められてきた不安と恐怖を、初めて目に見える形に表現した作品で、30年近くも前に作られたというのに、今見ても充分楽しめる。遺跡発掘シーンに始まるドキュメンタリー・タッチの導入部や、全編にすぐれた音響効果を配することで、荘厳なオカルト・サスペンスに仕上がり、単なるホラー映画に終わっていない。360度回転する首や、宙に浮いた体、口から吐き出す緑色の液体など、今のCG技術から考えると、原始的で笑っちゃうほどの子供だましなのだが、そんな技術に頼らなくても、充分観客にショックを与えている。最後に作品の内容とは関係ないけれど、メリン神父の助手のカラス神父はシルヴェスター・スタローンそっくりだ。ランニング姿(なぜか体を鍛える神父)は、まるでロッキー・バルボア。笑っちゃいます。★★★★★