【柿沼弘子の勝手にシネマ


遠い空の向こうに

監督:ジョー・ジョンストン
出演:ジェイク・ギレンホール、クリス・クーパー、ローラ・ダーン

28th Nov. 2000

 原題は『OCTOBER SKY』。この作品の背景となるのは1957年10月、ソ連が人類初の人工衛星スプートニクの打ち上げに成功した年だ。当時、宇宙開発においては、ソ連がアメリカを若干ではあるが上回っていた。まさにソ連とアメリカの2大国が、宇宙開発においてしのぎを削っていた時代だ。そして、これから12年後の1969年、アメリカがアポロ11号による人類初の月面着陸に成功する。この作品はNASAのエンジニアとして活躍した、ホーマー・ヒッカム・ジュニアの自伝小説『ロケット・ボーイズ』を映画化したものだ。
 舞台はアメリカのウェスト・ヴァージニア州コールウッド。アメリカのエネルギーを支えてきた炭坑の町だ。当時はまだ石炭が有力資源であり、炭坑町は活気付いていた。そしてこの小さな町では、ほとんどの男が炭坑夫であり、その息子たちも将来は炭坑夫となることがあたりまえだった。それ以外の知識はまったく必要とされていなかった。ごく希にアメフトの選手として奨学金を得て大学へ進む者もいた。しかし大多数の者は炭坑夫になるしかなかった。すすにまみれて肺を病み、運が悪ければ落盤事故の犠牲になって死んでいくという悲しい現実がこの町にはあった。
 そんな町で、ごく普通の高校生ホーマー・ヒッカムは、1957年10月、ソ連のスプートニク1号が星空にひときわ美しく軌跡を描いて飛んで行く姿を見て、ロケットの虜になる。そして自分もロケットを打ち上げたいと思うようになる。そして3人の仲間と手製ロケットを作り始める。彼らのロケットは改良に改良を重ねて飛行距離を伸ばしていくが、炭坑夫である頑固者の父親ジョンと幾度となく対立する。しかし、彼らの夢は次第に大きくなり、インディアナポリスで開かれる「科学フェア」に自分たちのロケットを出展しようと決心する。「科学フェア」で優勝すれば大学へ進学するための奨学金を受けることができる。そうすればこんな小さな炭坑町から脱出することができるのだ。最初は彼らの行動を馬鹿にしていた町の人々も、次第に彼らに協力的になっていく。そして彼らのロケットは夢に向かって少しずつ進んでいった。
 この作品は、4人のロケット・ボーイズの、単なるサクセスストーリーに終わっていない。少年達の友情や、淡い恋心などが切なく描かれたその裏側には、父親と息子の対立という大きなテーマがあった。息子の前では常に気難しい父親を演じながらも、息子の将来を一番案じていたのは父親だった。ホーマーのロケット作りを否定しながら、さりげなく工場から材料を工面する父親の姿に、ふと目頭が熱くなった。未来を見つめる息子と、過去の栄光に生きる父親。そして愛する息子の為に何かをしてあげたいが、何もすることのできない現実との間で葛藤する父親。これを演じたクリス・クーパーの演技は見事でした。そして、エンディングで4人のロケット・ボーイズが、将来それぞれどんな職業についたのかが、実際の写真と共に紹介されるのですが、これは本当に感動的でした。★★★★★