【柿沼弘子の勝手にシネマ】
クッキー・フォーチュン
監督:ロバート・アルトマン
出演:グレン・クローズ、ジュリアン・ムーア、リヴ・タイラー、クリス・オドネル
15th Nov. 2000
鬼才ロバート・アルトマンが描く、ユーモラスな群像劇。『M★A★S★H』や『ザ・プレイヤー』に見られるように、過激なブラック・ユーモアにメッセージを包み込んだ彼の作品はどれも独創的で、肯定的にせよ否定的にせよ、いつも大きな反響を巻き起こしてきた。痛烈な風刺の精神を第一に考える彼の作品は、まず、混乱状況にある群集を撮り、その後で人々の動きの原因となっているものを画面に映し出す、といった手法がよく使われている。今回の作品では、今までの手法に人間の温かみを加え、軽快なコメディータッチに仕上げている。
舞台はミシシッピー州の田舎町。年老いたクッキー(パトリシア・ニール)は夫に先立たれ、一人寂しく暮らしていた。そして早く天国の夫のもとへ行きたいと願っていた。そんなある日、クッキーは突然ピストルで自殺してしまう。そこへ姪のカミール(グレン・クローズ)とコーラ(ジュリアン・ムーア)が現れる。狂信的クリスチャンで「自殺は一家の恥」と考えるカミールは、クッキーの死を殺人に見せかけるため、わざと部屋を荒らし、ピストルを草むらへ捨ててしまう。そして、クッキーの世話をしていた黒人ウィリス(チャールズ・S・ダットン)が容疑をかけられてしまう。一人の人間の身勝手な行動で、平和な町は大騒ぎとなる。
この作品の面白さはなんといっても登場人物のキャラクターでしょう。特に強烈なのがカミールで、クッキーの遺産が一番の近親者である自分のところに転がり込んでくると信じ、警察の現場検証も終わらぬうちに「立入禁止」のテープをはがし、勝手に部屋の模様替えを始めてしまう。そんなカミールを演じたグレン・クローズのエキセントリックな演技は見物です。そして、ウィリスに同情し、自分たちも一緒になって檻の中でボードゲームを始める、のほほんとした警察官たち。それから、カミールと一緒に強盗殺人をでっち上げるコーラも曲者で、最後のどんでん返しに一役買います。それにしても、エマ(リヴ・タイラー)が久し振りに町に戻ってきた恋人という設定だったので仕方ないとは思うけど、下っ端警官(クリス・オドネル)とのむやみやたらなラブシーンは勘弁して欲しかった。保安官事務所で任務中にもかかわらず制服着たまま…というのはどうもねぇ。でも、この作品のために長かった髪をばっさりショートにしたリヴ・タイラーは、キュートでかわいかった。リヴって顔は小さいのに、体はけっこう骨太でガッチリしてるのね。おまけに「エアロ・スミス」のスティーブン・タイラーの娘(隠し子)だし。(私は最近知った。)不思議な魅力を持っている娘です。
フォーチュン・クッキーとはアメリカのおみくじ入りクッキーのことで中華街あたりで良く見かけます。このクッキーがクッキーおばさんと、どのように結び付くのかは、結局分からなかったけど、「人の数だけ秘密がある」というコピーどおり、プライベートなんてまったく無いように見えるオープンな田舎町でさえ、実はそれぞれの秘密があったのだ。ほのぼのとした中にも皮肉をたっぷり織り交ぜた健康的で明るいサスペンスです。お薦めです。★★★★