【柿沼弘子の勝手にシネマ


奇人たちの晩餐会

監督:フランシス・ヴェヴェール 
出演:ジャック・ヴィルレ、ティエリー・レルミット、フランシス・ユステール 

13th Nov. 2000

 フランスをはじめヨーロッパ各地で記録的な大ヒットとなったシニカル・コメディ。ハリウッドではスピルバーグがリメイク権を獲得したということだが、1年以上経つ今、リメイクされたという話は聞いていない。日本では1999年の暮れに公開されたが、あまりヒットしなかったようだ。ドリフのようなドタバタ喜劇は日本ではもう流行らないのだろうか。でも吉本が人気の関西地区ではうけるかもしれない。
 雑誌の編集者ピエールは毎週水曜日に街で見つけた風変わりな人を家に招いては友人らと晩餐会を開き、そのオバカぶりを競うという悪い趣味を持っていた。ここで言う馬鹿とは「頭が悪い」というのではなく、ある種のことに異常なまでのこだわりをもって生きている人々のこと。タイトルでは「奇人」という言葉を使っているけど、私は別にこのような人々を「奇人」だとは思わない。しかしこの作品の主人公のようなスノッブの目には「変わり者」という風に映るらしい。つまり考え方の違いなのだ。日本でも「おたく」とか「マニア」とかいう馬鹿にした言い方あるよね。自分と違う趣向を持った人を白い目で見るような風潮とかね。ある日ピエールは列車の中で偶然向かいの席に座ったピニョンという男から、マッチ棒で作った金門橋やエッフェル塔などの写真を見せられ、延々と話を聞かされる。そしてピニョンの話を聞くうちに「こいつは極めつけの大馬鹿者に違いない」と思ったピエールは、ピニョンを晩餐会に招待することにする。しかし晩餐会直前になってピエールはぎっくり腰でダウンしてしまう。おまけにそんな悪趣味の晩餐会を開くような夫に愛想を尽かせた妻が家を出て行ってしまった。そして晩餐会当日、ピニョンが現れると、そこにはぎっくり腰で動けず、おまけに妻に逃げられた哀れなピエールの姿があった。ピエールはピニョンをうまく利用して妻の居所を捜そうとするが、頭の弱いピニョンのおかげで事態はますます泥沼にはまっていく。しまいにはピニョンが誤って呼んでしまった税務査察官に脱税の容疑までかけられる始末。
 作品中には晩餐会の場面は現れず、ピエールとピニョンが妻を呼び戻そうと奔走する姿がコミカルに描かれていている。オバカなピニョン役のジャック・ヴィルレは『クリクリのいた夏』でも頭の弱い父親役で出ていたので、この俳優は本当に頭悪いんじゃないだろうかと思えてしまう。だって顔つきから頭悪そ〜な感じなんだもん。頭禿げてて、耳に鉛筆さして、競馬新聞を脇にかかえているおやじみたいな感じ。(すごい偏見だけど…)でもきっとこの人は優秀な俳優さんなのだろう。だって、普通人間って馬鹿でも頭いいぶるものだから、馬鹿を演じることができる人って本当は頭良いのだと思う。ラストは馬鹿と主人公の立場が逆転しそうで、なかなかそうならないところがじれったくて良い。登場人物は主人公を含め、全部で10人も出てこないだろう。場面もほとんどが主人公の部屋の中という非常に限られた空間で描かれている。馬鹿を笑うスノッブが馬鹿なのか。本当の馬鹿は一体誰なのであろうか。★★★